DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

drop11.哀煙

2020年10月28日 | 星玉帳-Deep Drops
【哀煙】


手紙回収屋の栗鼠が部屋を訪ねてきたので


書き溜めた手紙を渡した


彼は宛名のない手紙を預かり燃すことを生業としている


今宵から明け方にかけて森の奥のまた奥にある作業所で燃すという


深夜


細い煙が森の天井に上がるのを眺めた


ああそうだ


哀しみは煙になるのだな


夜空にひと筋


煙に



drop11『哀煙』



drop10.風音

2020年10月21日 | 星玉帳-Deep Drops
【風音】


日はすっかり暮れていた


森の奥


冬を待つ部屋が一部屋あるだけの宿に着いた


すきま風の入る部屋で毛布を巻き付け休んでいると


窓や壁をこつこつと鳴らす音が聞こえてきた


煌めく季節が過ぎたころ


澄んだ音色の風音が聞こえるという


この風と共に


心砕き思い募らせた言の葉は舞うのだと




drop10.『風音』


drop9.地下

2020年10月12日 | 星玉帳-Deep Drops
【地下】


廃墟の家々が並ぶ一角にその古びた扉はあった


扉には「地下へ」と書かれた小さな板が打ち付けられていた


ひとめ見てああこれは以前旅人から伝え聞いたあの扉だとわかった


愛が過ぎたとき私たちは地下へ向かうのですよ


と彼は言っていた


先に「海」があるというのだ


溺れるための海がそこに






drop9.『地下』




drop8.残像

2020年10月03日 | 星玉帳-Deep Drops
【残像】


ひとつまたひとつ


灯りのない夜を過ごすたび


残像を見る


像は旅の途中


文字にして紙に記し


トランクに詰めたというのに


鍵は三つかけたはずなのだ





何処を閉じても


「それ」はここに訪れる


ならばせめて灯りをと


小さく灯す


あなたとわたしが


思う彼方の夢に沈むまで


せめて



drop8.『残像』