DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

drop27.窓

2021年05月29日 | 星玉帳-Deep Drops
【窓】


星のない夜


闇道をしばらく往くと


あの窓に出会う


窓から漏れる灯り


ガラスに浮かぶ影


影の形は懐かしい人を思い出させた


窓も影も幻だと知るのが怖くて


せめて夜明けの鳥が鳴くまでと


影に影と過ごした日々のことなどを語り続けた


そうして決まって何が幻かと


夜明けに迷い


堕ちてゆくのだ



drop27『窓』



drop26.水晶片

2021年05月26日 | 星玉帳-Deep Drops
【水晶片】


詩をひとつ


欠片屋に持って行くと


引き換えに小さな水晶の欠片をくれる


ためた欠片を時たま取り出しては


光に透かしたり水で洗ったり


居なくなった詩の記憶を数えたりする


詩は鍵のかかった専用の箱に入れられ


店主しか知らない場所に眠っている


手元にはいくつかの透明な欠片だけが残る



drop26『水晶片』


drop25.深淵

2021年05月24日 | 星玉帳-Deep Drops
【深淵】


束の間


霧が晴れて足元が確かになった


谷底にいたつもりがどこをどう辿ったのだろう


崖の上を歩いていた


遙か下に


沼なのか湖なのかあるいは川なのか


透き通った水が見えた


美しい水に吸い寄せられるのは旅人の常なのだと


星の番人の言葉を思い出す


堕ちてもよいなら手を伸ばしなさいと



drop25『深淵』



drop24.手紙色

2021年05月17日 | 星玉帳-Deep Drops
【手紙色】


雨の夜


ペンを走らせる音に雨音が重なる


今夜燃やすための手紙を書く


手紙回収屋の小栗鼠から聞いたことがある


宛のない手紙が作る炎はとても深味のある色になるのだと


明かり取りの蝋燭に紙をかざし


炎を見つめる


彷徨うことなどやめた言の葉はよく燃え


地に溶ける雨音のように


深く沁みる




drop24『手紙色』


drop23.雨宿

2021年05月15日 | 星玉帳-Deep Drops
【雨宿】


流れる欠片を辿っては


幾度となく星の川岸を歩いた


雨の降る夜だけに扉を開いてくれるという宿をさがしながら


欠片を数え続けた


雨足が激しくなり景色は滲む


闇は増し欠片も見えなくなる


流れることは哀しみなのか喜びなのか


感じることさえままならなくなる頃


宿の扉はそこにあるというのに




drop23『雨宿』

drop22.薄明

2021年05月11日 | 星玉帳-Deep Drops
【薄明】


霧の道


薄明かりの中を歩いていると


老いたキツネに出会った


親切なキツネは先の道を案内してくれ


この道には往く者たちの「別れ」が落ちているのですよ


と教えてくれた


多くの別れは欠片となり


それぞれの持つ光を放つという


それは風に吹かれては


どこへともなく散る儚い光なのだと




drop22『薄明』