DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake60.七色香

2019年06月28日 | 星玉帳-Star Flakes-
【七色香】


夢に降る雨の中では


虹が強く香ることがあった。


それは遠い日


彼方の星へ旅立った人の


佇まいと共にあった香りに似ていた。


明け方を失った空洞の空に


虹を探しては


祈りの言葉を埋めようと足がもつれ


夢現に気づくのだ。


やがて雨の夢は


浮遊の郷となり


七色に香る濡れた墓石となるだろうと。



#60『七色香』


@hoshidamastory




flake59.時空の星

2019年06月25日 | 星玉帳-Star Flakes-
【時空の星】


渡る川には銀色に光る欠片が流れていた。


河原の番人に挨拶をすると


教えてくれた。


欠片は時空の流れを纏ったものであり


その一つ一つが重力の断片なのだと。


時に一欠片の重さのために


身は硬直し神経は麻痺し


息が絶えそうになることがある。


川を幾度も渡ることだという。


時空の星を往くには



flake59『時空の星』

@hoshidamastory






flake58.夏至の夜

2019年06月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夏至の夜】


出航する船を見送っていると


風に乗って歌が聞えてきた。


ああ、


あれは懐かしい「夏の歌」だ。


見送り人の誰かがが口ずさんでいるのだ。


船影が沖に消えると歌は止み


やがて港には誰もいなくなった。


星灯りを映す無人の世界が見せるのは


往く人の幻だ。


果てない夢に連なる幻影は強く、儚い。





flake58『夏至の夜』



flake57.弦

2019年06月15日 | 星玉帳-Star Flakes-
【弦】


海の星に雨が降る日。


窓に寄りかかり耳を澄ませていると


雨の音に混じり仄かな旋律が聞こえてくることがある。


波の上に漂う魚が水の弦をつま弾いているのだ。


音は雨をくぐり


窓を、壁を、空気を、


叩き震わせる。


弦が奏でる震えに寄り添えば


魚の見た夢をまたここで見ることが出来るだろう。



flake57『弦』

flake56.雲の道

2019年06月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雲の道】


めったに人の行き交わない雲の道で


腕に包帯を巻いた旅人と出会い


同じ宿を目指した。


旅人はかつて詩人であったという。


あなたにもと包帯を分けてくれ


胸に巻いてくれた。


あれから包帯は何度も傷に巻き直した。


傷を負ったものは永い沈黙の術を持つのだと


雲の道を往くたび詩人の言葉を思う。



flake56『雲の道』

flake55.雨音

2019年06月07日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雨音】


長く続く雨だった。


机に向かい手紙を


と便箋を広げペンをとる。





雨音に聞き入り進まない。


この星の雨音は時の流れを消す。


遠い星の人と別れて幾時か


この雨に出会って幾時か


時の流れは音に紛れ分からなくなってしまった。


ただこの音に包まれて


届くあてのない幾通もの手紙の事を思うのだ。



flake55『雨音』






flake54.水の惑星

2019年06月06日 | 星玉帳-Star Flakes-
【水の惑星】


海風の吹く丘の見晴らし台で


よく魚と出会った。


肩を並べてベンチに座ると


魚は水の惑星にある海の話をしてくれた。


懐かしそうに楽しそうに


少しやり切れなさそうに。


何度同じ話を聞いても飽きることはなく


その話は行ったことのない星を見せてくれた。


魚に会えなくなった今も。


あの海は。




flake54『水の惑星』


flake53.透明

2019年06月05日 | 星玉帳-Star Flakes-
【透明】


手を伸ばし触れようとしても


そこに感触はない。


青の惑星で空気と水を分け合った


土星の人は形を無くし


光も影もない透明になってしまった。


遠い日


わたしたちには形が在り


体を重ね合うことができた。


その事実も記憶も


まるで波のように高く低く


現れては消え去る幻覚で


今は透明だけが手元に残った。



flake53『透明』