DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

走る

2015年03月26日 | 創作帳
男は、走っている。

どこを?

道だ。

そこにある道だ。

そこにある道を、男は、ひたすら、走っている。

誰に走れと、言われたわけではない。


いつから、走っているのか?

正確な記憶は、ない。

おそらく、男の歴史が始まってから、ずっと、走っている。

走る途中で、おおかたのものは、置いてきた。

住んだ家、乗った車、使った手帳、書いた手紙、着たコート、履いた靴、吸った煙草、飲んだ酒、友、親、女……

捨てたわけではない。
忘れたわけではない。

ただ、

置いてきた。

走るために

置いてきた。

走る道すがら、出会うものたち。

走りながらなので、
すれ違いざまの、瞬間だ。

瞬間の、出会いと別れ

その繰り返し。


ゴールは、あるのか?

知らない。
わからない。
考えたこともない。

ただ、時間が、あまり残されていないことだけは、本能で察している。

走るために、
道の中途に「置いて」きた、
たくさんのものたちを

男は、

振り返ったり、取りに戻ったりは、
しない。


すでに、もう、おそろしく時間が、ないのだ。


走るのは
なんのためか?

考えるのは、むだだ。
意味など、ないに等しい。

あるとしたら

走るのは

走るため、それのみだ。

走るためだけに、

男は、走る。走っている。




(写真提供は「写真AC」スーパーパパさんより。ありがとうございます。)