ふでばこの中に、ワニを飼っています。
透き通った緑色をした
とても綺麗なからだを持つワニです。
ワニは、たいがい、目をつむり、
ふでばこの中の消しゴムを枕にして、
すやすやと、ねています。
ほんのたまに、目をうっすらと、半分くらいあけます。
ワニが目をあけたとき、わたしは、
「ねえ、散歩にいかない?」
と、さそってみます。
ワニは、目を半びらきのまま、
ゆっくりと、長いお顔とお口を、いやいやと、よこにふります。
一度だけ、ワニを、むりやり、ふでばこから出したことがあります。
あまりに動かないので、
「からだによくないよう。うんどうしようよう」
と、外につれだしたのです。
すると、とたんに、ワニの、からだは、どす黒くかわり、半びらきの目はどんより、からだは汗だらけ、みるみる、ぐったりとしてしまいました。
わたしは、あわてて、家にワニをつれかえり、ふでばこにもどしました。
ふでばこの中にもどったワニは、とても安心したようすで、消しゴムの上にアゴをのせ、すうすうと眠りはじめました。
からだの色ももとの緑色のもどりました。
ぐったりしたワニが、回復するまで、長い時間がかかりました。
とても綺麗な緑色のワニ、みんなにも見てほしいのに。
ワニにも、外の新鮮な空気にふれてほしいのに。
季節で移り変わる景色、花や草や川の流れなど見せてあげたいのに。
そう思いましたが。
外へ出て、具合がわるくなるのでは、しかたありません。
ある日、わたしは、また、きいてしまいました。
万が一、ワニの気分が「ふでばこから出てみようかな」と、気が向くしゅんかんがあるのではと。
「ねえ、ふでばこの中から、少し、出てみない?」
あいかわらず、ワニは、いやいやと、長いお顔とお口を、よこにふりました。
「外は、すっかり春だよ。川辺に桜が咲いてたよ」
ワニの「枕」になっている消しゴムの上に、わたしは、ひろってきた桜の花びらを、しいてあげました。
半びらきの目が、めずらしそうに、じっと、桃色の花びらを見ています。
ワニの目が、少しだけ、ほほえみました。
「消しゴム、だいぶ小さくなったね。今度は、これより大きいの、買うからね」
花びらを見つめていたワニが、こっくりと、うなずきました。
(写真提供は「写真AC」キイロイトリさんより。ありがとうございます。)
透き通った緑色をした
とても綺麗なからだを持つワニです。
ワニは、たいがい、目をつむり、
ふでばこの中の消しゴムを枕にして、
すやすやと、ねています。
ほんのたまに、目をうっすらと、半分くらいあけます。
ワニが目をあけたとき、わたしは、
「ねえ、散歩にいかない?」
と、さそってみます。
ワニは、目を半びらきのまま、
ゆっくりと、長いお顔とお口を、いやいやと、よこにふります。
一度だけ、ワニを、むりやり、ふでばこから出したことがあります。
あまりに動かないので、
「からだによくないよう。うんどうしようよう」
と、外につれだしたのです。
すると、とたんに、ワニの、からだは、どす黒くかわり、半びらきの目はどんより、からだは汗だらけ、みるみる、ぐったりとしてしまいました。
わたしは、あわてて、家にワニをつれかえり、ふでばこにもどしました。
ふでばこの中にもどったワニは、とても安心したようすで、消しゴムの上にアゴをのせ、すうすうと眠りはじめました。
からだの色ももとの緑色のもどりました。
ぐったりしたワニが、回復するまで、長い時間がかかりました。
とても綺麗な緑色のワニ、みんなにも見てほしいのに。
ワニにも、外の新鮮な空気にふれてほしいのに。
季節で移り変わる景色、花や草や川の流れなど見せてあげたいのに。
そう思いましたが。
外へ出て、具合がわるくなるのでは、しかたありません。
ある日、わたしは、また、きいてしまいました。
万が一、ワニの気分が「ふでばこから出てみようかな」と、気が向くしゅんかんがあるのではと。
「ねえ、ふでばこの中から、少し、出てみない?」
あいかわらず、ワニは、いやいやと、長いお顔とお口を、よこにふりました。
「外は、すっかり春だよ。川辺に桜が咲いてたよ」
ワニの「枕」になっている消しゴムの上に、わたしは、ひろってきた桜の花びらを、しいてあげました。
半びらきの目が、めずらしそうに、じっと、桃色の花びらを見ています。
ワニの目が、少しだけ、ほほえみました。
「消しゴム、だいぶ小さくなったね。今度は、これより大きいの、買うからね」
花びらを見つめていたワニが、こっくりと、うなずきました。
(写真提供は「写真AC」キイロイトリさんより。ありがとうございます。)