DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake100.星夜航

2020年02月05日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星夜航】


旅人を乗せた船は星の水平線へ向かう。


星を旅する間ずっとペンを握っていた。


物語りを閉じる言葉をさがしあぐねて。


目を上げると星が流れた。


いつかの明け方に見た夢に降る雨のように。


ペンを置く。


ノートを閉じる。


星を数えよう。


流れる星夜は美しいままに。


さまざまの夢になるよう。



flake100『星夜航』



flake99.霧中

2020年02月02日 | 星玉帳-Star Flakes-
【霧中】


すれ違ったのは小さな兎だった。


星船に乗り青の星から来たという。


この星は霧ばかりではぐれてしまいましたあなたはどうですかと尋ねられたが


答えは出ず青の星に青はまだありますかなどと訊いてみる。


兎は答えず北の方角で霧笛が、


と言い鳴き鳴き跳ねて霧の森に消えた。


ああもう海が近いのだ。



flake99『霧中』


flake98.星樹

2020年02月01日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星樹】


土星の旅人と道を分かち宿を出た。


迷いながら歩き星樹の森に辿り着いた。


樹に小さな光る実がなっている。


月の光を反射して光っているのだ。


実は固くてとてつもなく苦い。


かつて噛んだことがある。


霧が出てきた。


月も隠れた。


霧の向こう。


何処へ。


虚と情を歌う詩を携えていたはずなのだ。


何処へ。




flake98『星樹』


flake97.夜曲

2020年01月25日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夜曲】


一夜。


星の宿で土星の旅人と過ごした。


惑星の森へ帰る鳥の鳴き声を聞き


静寂の底に墜ちた。


どこからなのか森の奥か宙の彼方か。


淡い旋律が聞こえた。


あれは夜曲と土星の人は呟いた。


一度だけの曲になった。


旅の途中繰り返し記憶の曲は奏でられる。


あの夜の深さに墜ちる時。


遙かなセレナーデは。



flake97『夜曲』





flake96.ロマンス

2020年01月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【ロマンス】


もうずっと唯ひとつのロマンスを描いているのですよ


と星の森で出会った兎は言った。


かつて宙に見かけた星があり、


青く輝く星だというそれは


永く兎が追い求めるものなのだと。


描いたものはとたずねると、


もうどこにもないのですと言う。


それを描いては壊しまたそれを描いては壊すのだと。




flake96.『ロマンス』



flake95.花繋

2020年01月16日 | 星玉帳-Star Flakes-
【花繋】


花片の降る星だった。


拾ってはノートに貼った。


繋ぎ合わせれば文字になり言葉になり詩になった。


誰に見せるでなく


誰にも読めない文字と詩を作った。


一度だけ花片の星で出会った旅人にこれを見せた。


旅の道ですれ違っただけの人に。


別れ際に一枚だけ


彼の花片を貰った。


花片は今も。


降る。



flake95.『花繋』



flake94.古城

2020年01月13日 | 星玉帳-Star Flakes-
【古城】


城跡には朽ちた壁や柱や階段の残骸が散らばっていた。


腰を下ろし目を閉じた。


眠っていたわけではないのに。


時は随分過ぎたようだった。


目を開けると空に星が流れていた。


いつ来たのかウサギが膝の上で丸まっている。


ここに永く棲み星群れを見ては赤目に焼き付け


夢見の城に赴くのが務めという。




flake94.『古城』



flake93.湖水

2020年01月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【湖水】


氷雨の中。


湖の畔に辿り着く。


氷粒は水面を打ち


湖は自らの波紋を静寂の中に広げ続ける。


湖の鳥たちは冷たい水を糧にしているようだ。


氷雨や湖水をついばんでは鳴き飛び。


その姿を湖水に落としては鳴き飛び。


鳴き方に愛しさを覚える頃になると


ここで過ごした時はすっかり消えてしまうのだった。




flake93『湖水』



flake92.星夜夢

2019年12月25日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星夜夢】


十字星の夜。


目覚めても目覚めても。


時空は永い夢だから。


星降る夜の沈黙に行き先のない夜を充て。


夢みる人を抱きながら喪失へ向かうことを祝おう。



星夜の空虚に閉じ込められた彼もわたしも


静寂を愛するならば。


十字星は夢だけを奏でるだろうか。


静かに深く溺れるようにと奏でるだろうか。





flake92.『星夜夢』



flake91.夜鳥

2019年12月21日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夜鳥】



夜深く。


星樹の巣に棲む鳥は鳴く。


星の夜も雨の夜も雪の夜も。


遠く森の奥から聞こえる声は


遙かの星に吹き荒んだ激しい風の記憶を揺り戻す。


耳を澄ませる。


声を抱きしめる。


夜に墜ちる。


長い暗夜の夢中。


夢を知り夢を壊し。


目覚めた時空こそ夢幻なのだと


目覚める度に鳥は鳴く。



flake91.『夜鳥』







flake90.星影

2019年12月14日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星影】


零下の星夜。


金星塔の螺旋階段を昇る。


途中小窓から見える星灯りの瞬きの中に


かつてすれ違った旅人の面影を見つけ、


ああそれは幻ですよ零下の星影は幻を見せるのですよ、


と塔の番人の言葉を思い出す。


塔の螺旋では見つかるはずのないものも見えることがあるのだから


星影に溺れてしまうのだと。





flake90『星影』



flake89.零下

2019年12月09日 | 星玉帳-Star Flakes-
【零下】


毛羽だった毛布を宿の寝台に広げる。


今宵出航する金星号に乗る人と共に


零下の夜を忍んだ毛布だった。


船の出る時刻。


毛布を身体に巻き付け


窓を開ける。


星の見えない漆黒の宙。


ひと筋の光の尾が遠い宙を横切った。


最後の会話が思い出せず


言葉を交わしたのかさえ思い出せず。


冷気が布を貫き。





flake89『零下』



flake88.星獣

2019年12月06日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星獣】


遙かの星で夜を共にした星獣は


しきりに鳴いていた。


時を探してはならないと。


今宵星夜過去も未来も失せ


星獣に抱かれ静かに沈む狭間なのだと知り。


抱かれた刹那に銀河の向こうから聞こえた


美しくおぼろげな旋律は


しばしば鮮明に繰り返される。


星夜が去り


遠く別れ別れになった今も


ずっと。




flake88『星獣』




flake87.青星

2019年11月29日 | 星玉帳-Star Flakes-
【青星】


森の奥で拾った星の欠片に青を塗る。


しばらくすると色あせてくる。


青を重ねる。


もともとは青い星なのだ。


あなたの持つ欠片は哀しみなのか安らぎなのかと


森に棲む黒キツネの絵描きが問いかける。


答えられず手のひらに星を乗せる。


悲哀の魂。


魂は青く。


欠片になり。


握りしめてはまた青く。



flake87『青星』




flake86.浪漫

2019年11月20日 | 星玉帳-Star Flakes-
【浪漫】


中身は雫なのだと


火にあたりながら旅人は小瓶を見せてくれた。


濃色の不透明な瓶。


過ぎた浪漫の雫なのです


と彼は瓶の蓋を開け


炎に数滴雫を垂らした。


炎は膨らみ紅から青へ


また紅へと揺らめく。


願わくば


と彼は瓶を砕く。


雫も浪漫も炎もあなたも私もこの惑星が見せる永い幻影になるようにと。




flake86『浪漫』