DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#5.鍵

2018年01月29日 | 星玉帳-Blue Letters-
【鍵】

本が送られてきた。


本を開くには鍵が要るようだが


鍵は見当たらなかった。



眠る時


胸に抱いて眠るにはちょうどよい寸法なのだが。


開かない本の文字たちが


夜更けに胸の上で騒ぐようならば


抱きしめ方を緩めるように、と


書物家の助言が書かれたメモが


貼り付けられていた。


#4.木星便

2018年01月27日 | 星玉帳-Blue Letters-
【木星便】

午前4時。


雫木の樹液をあたためてスープを作った。


作り方を教えてくれた庭師は

五十年に一度だけ出航する木星便に乗り込んだのだった。


カーテンを開けて木星便の光が次第に小さくなるのを見た。


鳥が光の道を追って飛ぶ。



分かれの道筋を飛ぶのが仕事なのだと


鳥から聞いたことがある。



#3.星玉工場

2018年01月26日 | 星玉帳-Blue Letters-
【星玉工場】

ビルの谷間に降る雪の匂いで、この街に星玉工場があると知った。


工場長に案内されて建物に入った。


揚げ星玉を選び、持ち帰って


宿のベッドの上に座ってかじった。


甘い粉が散った。



こちらを向きながら去ってしまうのはすべて流星の仕業なのですよ、



と星玉工場長は何度も言っていた。



#2.海底

2018年01月25日 | 星玉帳-Blue Letters-
【海底】

青い魚は21の宿所をあとにした。


残されたわたしはベッドの下にある段を下りた。



呼び声が繰り返され、幾千幾万の泡になる頃、



海の底に着く。



青い魚と交わった証に、胸は青いうろこで覆われた。


肺に藻の花が咲く。



上空の水脈で渡船の汽笛が泣き



わたしは祈りの言葉を知った。


#1.旅立

2018年01月23日 | 星玉帳-Blue Letters-
【旅立】


白いベッドのシーツを裂き



四角い部屋を出た。



扉の向こう



仄かに流れる歌言葉をさがし



音をたずね



かすみの街を泳ぎ



星の宿所を渡り



わたしはわたしと分かれ



石化した星の森に墓標のストールを巻く。



遙かに北の方角からラッパの音が聞こえる。



あれは約束の旋律なのだと



星の渡り鳥は鳴く。