DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#100.彼方

2018年05月25日 | 星玉帳-Blue Letters-
【彼方】


船は星の海を往く。



甲板に立ち手紙を風に乗せると



紙片はしばらく海面を舞い、波にのまれた。



見つめる星がひとつふたつ海に流れた。



楽士の旅人が降る星に合わせ、弦を弾く。



流星の彼方をのぞむのはそれぞれの歌があるからだと


星夜の旅人は奏でる。



歌言葉をたずさえ彼方に向かおう。



星の瞬きが永遠になるよう。









#99.霧笛

2018年05月24日 | 星玉帳-Blue Letters-
【霧笛】


海の方角から霧笛が聞こえた。



昨夜書いた手紙は手に握ったまま。



霧の星で過ごした記憶を文字にしたのだ。



が、送る当てはなかった。



霧の星夜は一晩のうちに薄れ消える遠い日々だのに。



遠ざかるほどそばに寄せるものがあることを知ったのは



いつだったか。



あの笛が道行の標だと覚えた時は



いつだったか。








#98.欠片

2018年05月23日 | 星玉帳-Blue Letters-
【欠片】


海に向かい川辺を歩く。



川面には星の欠片が浮いていた。



土星の人との別れ際、欠片を半欠片ずつ分け合った。



それはとても小さく軽く、



ずっと握っていたと思っていたのだが、



いつの間にか手の中にはなかった。



瞬きの間に流れ消えるものたちは



時を経て仄かな星灯りとなるという。



この星のお伽話だ。





#97.晩鐘

2018年05月22日 | 星玉帳-Blue Letters-
【晩鐘】


鐘が鳴る。



あれは星の終わりに鳴る鐘なのですよ、



とこの地の詩人が教えてくれた。



この星は無くなるのですか、



と訊くと詩人は頷き




港へ行き船に乗りなさい出航は間もなくですよ、



と助言をくれた。



詩人はここに残ると言う。



星が消えるまで終わりの鐘を聞き、詩を歌うのだと。










#96.薄荷

2018年05月21日 | 星玉帳-Blue Letters-
【薄荷】


星の最北端岬に



薄荷猫の茶店があるという。



吹雪の中



氷の道を進むと



岬の先端に小さな建物が見えてきた。




強い風に乗って薄荷の香りが漂ってくる。




薄荷猫が作る茶は



泣き声を歌声に変えるのだと岬の鳥に教わった。




凍ってしまった声が溶けて



忘れた歌を思い出すこともまれにあると。







#95.氷歌

2018年05月20日 | 星玉帳-Blue Letters-
【氷歌】


凍った道を歩く。



天からひっきりなしに氷粒が落ちてくる。



震えながら



歌唄いの羊に教わった歌を思う。




羊が暮らす星の季節は殆どが冬だった。



寒風の草原で羊は歌を作り歌う。



生まれたとたん消える歌なのですよ、



と穏やかに笑い。





柔らかな歌は旅人に残り




過ぎた冬が氷粒となって体を打つ。










#94.遙

2018年05月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【遥】


真夜中スープを温めていると


鳥が飛んできた。



どこから部屋に入ったのか。



夢を糧に飛ぶ鳥らしく



今夜の夢を譲ってくださいと言う。




今宵は夢だしこのスープも夢ですよと教えると



鳥はスープをついばみ飛んでいった。




遠くかすれた声に呼ばれた気がして目を覚ます。



あれは夢を食べた鳥の



遥かな叫びなのだろうか。








#93.蜜

2018年05月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【蜜】


飴色の壺を抱えたキツネとすれ違う。



「何が入っているのですか」と問うと



星樹の花からとった蜜だと言う。



「傷みの治療に使います。いかがですか」



と一匙分けてくれた。



蜜から香る花香はどこか懐かしく



傷にひどく染みた。



礼を言う間もなく



「奥で待っている者がいるので」と



キツネは森の奥へ奥へと軽やかに駆けていった。






#92.気泡

2018年05月17日 | 星玉帳-Blue Letters-
【気泡】


港の待合で魚は船を待っていた。



魚は泳げない。



なので船に乗り、海を渡る。



魚が好む気泡水を買い求め



待合の椅子に座って一緒に飲んだ。



待合の窓から見える流星を数え



気泡水を口に含む。



出航の時間、



「泡ひとつ消える間に、おおかたの星は流れて見失われます」



誰にともなく魚はそう言い、船の中に姿を消した。







#91.湖底

2018年05月16日 | 星玉帳-Blue Letters-
【湖底】


記憶が沈むという星の湖を訪ねた。



記憶は糸になるのか。



湖底には様々な色様々な長さ様々な太さの糸が絡み合っていた。



見覚えのある糸がある。



手を伸ばす。



が、



深い底の微かな糸に辿り着くことはできず。



濡れた指が凍え、氷の季節を知った。



この季節もやがて糸となり氷下に沈むことを



湖底の魚たちは各々に説くのだった。










#90.砂丘

2018年05月15日 | 星玉帳-Blue Letters-
【砂丘】


砂と海の星で砂地を歩く。



足を止めるとすぐに埋もれてしまう。



小高い場所に立ち霞んだ海を眺める。



風が強い。



揺らぐ体にしぶきがかかる。




大粒の雫が砂に落ちた。



鳥の涙かあるいは



星の空が見せる虚ろの一滴だろうか。




砂の霧が星を覆う。




風にさらされる祈りの言葉が



遠い星に旅立てるよう



過ぎたものたち埋めよう。










#89.炎

2018年05月14日 | 星玉帳-Blue Letters-
【炎】


星樹の小枝を手に丘を登る。


夜、頂上では星間船を見送る火が焚かれる。



今夜の便は大型船だ。



星の港から大勢が乗り込んだ。




船影が水平線にさしかかると



各々が持ち寄った枝に火を付ける。




連れや友や恋人や思いを寄せる者たちを




送り出す炎は




航跡を追うように



高く高く赤く赤く一晩中。









#88.灰

2018年05月13日 | 星玉帳-Blue Letters-
【灰】



手紙を燃すため



落葉を集めて火を付けた。




銀の星に住む人にあてて何通か書いたのだが



暫く窓のない宿に籠もっていたので



銀の星が流星となり流れたことを知らなかった。





「あてのない手紙は落葉と燃せば宙を舞う銀色の灰になって星に近づきます」





昨夜遠い星に向かった手紙配達屋のヤギにそう教えてもらったのだ。









#87.雨後

2018年05月12日 | 星玉帳-Blue Letters-
【雨後】



菓子屋の甘色猫と森へ入った。



菓子に使う星草を摘むためだ。




ようやく長い雨が止んだ森。



雨後、星草の茎からは一層甘い星糖を抽出できる。



雨が止むのは短い時。




繁った星草を黙々と摘む。




再び茎が出るよう根は残しながら。




摘んだ草の束を抱きしめ




甘色猫は菓子よりも甘い声で鳴くのだった。










#86.星糖

2018年05月11日 | 星玉帳-Blue Letters-
【星糖】



雨の森を抜けてすぐ



星糖菓子の店に立ち寄った。



菓子作りを生業とする甘色猫の店だ。




激しい雨に打たれて濡れた体を拭きながら



菓子をほおばる。




菓子はしっとりとした森の色をしていて



かみしめるほどに甘みが増した。



「森の雨のように強い甘さの菓子です。もっといかが」



甘い声に大きく頷く。