DayDreamNote by星玉

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#75.歌

2018年04月30日 | 星玉帳-Blue Letters-
【歌】


森の奥



リスはいつも歌を歌っていた。



リスは長いこと一匹で暮らし



寂しさと退屈をもてあまして



歌を作っては繰り返し歌っていた。



歌声はとても小さく細やかだった。




耳のよい鳥だけがリスの歌を聞き取れた。




鳥は時々わたしにリスの歌を教えてくれる。



この鳥もまたさみしがりなのだと



リスは歌う。





#74.階段

2018年04月29日 | 星玉帳-Blue Letters-
【階段】


地から空へ伸びる階段は不意に現れる。



それは空に溶け込む色をした果てなく長い階段で



空専門の階段職人が作ると聞く。



宵闇、街はずれの空に階段を見た。



上る影がある。



見覚えのある影だ。



名を叫んだ。



影は気づかないようですらすらと上って行く。



後を追いかけようとしたのだが



夜に紛れ見失ってしまった。




#73.蝋燭

2018年04月28日 | 星玉帳-Blue Letters-
【蝋燭】


満月の晩だけ開く店があった。



キツネが作る蝋燭を売る店だ。




その蝋燭は月の光を光源にして火が点るという。




満月の夜



店主はあるだけの蝋燭を



窓辺に並べる。



月の光を吸った蝋燭は



次の満月まで燃え続ける。



灯りが点る窓は夜を揺らし



静かに熱く往来のものたちを迎えるのだった。








#72.旋律

2018年04月27日 | 星玉帳-Blue Letters-
【旋律】


隣室の弦楽士は



夕陽の刻になると弦を奏でる。



その音階は韻律のように



何度もわたしの部屋の窓を叩く。



目を凝らすと音が見える。



音は色を帯び、軽やかな大小の玉になり



宙を飛ぶ。



幾つも幾つも音数を超えて彼方へ。



遠く飛んだ旋律は



宙に迷う星を流星に変えて窓辺に呼び寄せるのだと



弦楽士は言う。






#71.結晶

2018年04月26日 | 星玉帳-Blue Letters-
【結晶】



季節の終わりに降る結晶を



集めていた。




過ぎた季節は確かにあったことを



結晶たちはおそらく知っている。なので


ずっと握っていた。




今でもあの星に季節の結晶は降っているだろうか、と



尋ねるわたしに




星の渡り鳥は答えず




降る結晶をついばみ




欠片になったそれを空に散らすのだった。







#70.雲

2018年04月25日 | 星玉帳-Blue Letters-
【雲】


雲の上にある道だった。



見えるのは雲しかなかった。



途中



出会った旅人が



淡い色の雲を一欠片くれた。



雲ばかり渡っているという旅人だった。




確か彼は魔術師だったのだ。



雲には術がかけられていて



わたしは旅人との記憶をほとんどなくしてしまい




出来た空洞に別の雲を埋めることは出来なくなった。










#69.穴

2018年04月24日 | 星玉帳-Blue Letters-
【穴】


丘に登る途中



穴に落ちた。



しばらく膝を抱いて頭上の空を眺めていると



キツネが落ちてきた。




キツネは木の実をたくさん持っていて分けてくれた。




甘酸っぱい実を食べると



急に空が眩しくなったので目を閉じた。




眠い。




眠りと穴と恋は似ている。



物語はいつも



落ちて始まり落ちて終わるのだ。





#68.白雪

2018年04月23日 | 星玉帳-Blue Letters-
【白雪】


冬の森へ向かう。



途中過ぎた時を彩った小枝や落葉を集め鞄につめた。




鞄の中がいっぱいになった頃、



息は凍りつき手足は白雪に埋もれた。



氷になった過去は削れて足元に落ち、



過去は今になり未来になり



重なる過去に戻り森へ吹雪く。



すれ違う旅人から、



吹雪の先、地は繰り返し白く染まるのだと聞いた。







#67.流夢

2018年04月22日 | 星玉帳-Blue Letters-
【流夢】


時も人も元の場所に戻すことはできないことをよく知るには



星を何周すればと渡る鳥に尋ねるのだが、



夢を見ていることだけ知らされた。




何度も目覚めたはずなのに




気がつくと抱きしめているものを



夢と呼ぶのだと。




道行き集めた星が



夢の中の夢のように流れる空で、



夢を呼んでいいのだと。






#66.綿星

2018年04月21日 | 星玉帳-Blue Letters-
【綿星】



綿星に咲く真白草は根茎葉花すべて白い。




花が枯れた後にできる実を



綿星の人はすり潰して粉にし綿のような菓子を作る。




それをぎゅっと握ってはいけないと、わかってはいた。



が、体は言うことをきかず



いつも握りしめてしまう。




するとそれはあっけなく壊れる。




激しい苦さと甘さが



そのたび体に入ってくるというのに。









#65.七色

2018年04月20日 | 星玉帳-Blue Letters-
【七色】


虹の星で過ごした季節



何通かの便りを土星の人に送った。



それらは一通も届くことはなく、戻ってきた。




便りの束を握り



虹橋のたもとで幾度も足を止め、途方にくれた。




ただ一滴の




虹の雫を求め



七色をなぞった。




虹は溶け、夕陽に焼け、夜に消え、




土星の人の行方は知れず




なのでわたしは



今でも七色の雫を歌う。






#64.風

2018年04月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【風】



風の星では絶え間なく風が吹く。



部屋の中にも風は入る。



窓壁扉寝台衣服本……




朝昼晩何もかもが風に揺れる。




よくよく耳をすませば



風の中に風守の歌が聞こえてくる。




歌を聞き取ろうと



ペンを取る。




それを書き記すことができたならと思うのだが




文字はたちまち風に飛ばされ何も残らない。







#63.詩

2018年04月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【詩】


通りで青いうさぎに声をかけられた。



「詩集はいかが」



と本を手渡される。



深い海色の糸で閉じられた青い表紙の本。



なつかしい惑星の色。



礼を言って受け取りページをめくった。




かつて青の惑星で



共に過ごした人と口ずさんだ詩がそこにあった。




青い詩を口ずさみ海へ向かう。



うさぎの乗る船を見送ろう。






#62.毒

2018年04月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【毒】


蠍の星人から絡まった糸と熟した酒をもらった。



ほぐしながら飲んでください、と。



糸も酒も艶やかでとても美しかった。



持ち帰り糸をほぐしたが簡単ではない。



幾晩かけてもほどけそうになく



ほどけないことが分かっていても



毎夜、糸をほぐして熟した艶を味わう。



「それらは毒のせいですよ」



星人の言葉をなぞりながら。







#61.蠍

2018年04月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【蠍】


この時期、蠍の星の港には赤い雨が降る。



知り合いになった星の人はわたしの言葉を好んでくれた。



が、どんなに好んだものでもすぐに忘れてしまうのだと言う。



明日には忘れる話でも、と蠍は物語を抱きしめ泣く。



その赤い涙はひとすじ光り海に漂い



わたしたちを打ち濡らす雨になる。