DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake74.深夜航路

2019年09月21日 | 星玉帳-Star Flakes-
【深夜航路】


夜の海を往く船はまるで月に吸い込まれていくようだった。


実際吸い込まれたのかもしれなかった。


深夜航路の船上に過ぎるのは自身のかなしみと誰かが落としたかなしみと。


それらを海に映しては溺愛の術を思う。


夜空を愛で続けるには海はあまりに暗く。


愛でもない海で溺れそうになるのだった。




flake74『深夜航路』


flake73.暮色

2019年09月17日 | 星玉帳-Star Flakes-
【暮色】


海沿い通りに「暮色屋」はあった。


夕暮色に染めた布を売っているのだ。


様々な色があった。


染め上がりの色は日によってとても違うのですよ、


と店主は幾枚か布を広げてくれた。


あの星の道で見た夕暮れの色を見つけた。


首に巻き窓に掛けよう。


世界は暮色に染まり遠い星の歌を思い出すだろうから。




flake73『暮色』




flake72.風の鐘

2019年09月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【風の鐘】


夜の風に乗って聞こえてくるのは鐘の音だ。


大きく小さく星の空気を震わせる。


土星の人と過ごした夜


あの鐘は鳴り止まなかった。


嵐は夜明けまで続いた。


不協和音のようにわたしたちは絡み夜が終わり鐘も終わり私たちの和音も散った。


この星に響く不協の鐘はただ吹く風だけが覚えていることだ。




flake72『風の鐘』



flake71.祈

2019年09月07日 | 星玉帳-Star Flakes-
【祈】


床下にある階段を下りると小部屋があった。


光の届かない場所


祈りの部屋だ。


星へ往く船を見送ったばかりだった。


過ごした日々を忘れようとすることは床下の闇に墜ちてゆくようなものですよと


あの船乗りは言っていた。


手探りでキャンドルに火を点し跪く。


祈りと闇がこの小さな灯火に包まれるよう。




flake71『祈』