DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

ふでばこのワニ

2015年03月16日 | 創作帳
ふでばこの中に、ワニを飼っています。

透き通った緑色をした
とても綺麗なからだを持つワニです。

ワニは、たいがい、目をつむり、
ふでばこの中の消しゴムを枕にして、
すやすやと、ねています。

ほんのたまに、目をうっすらと、半分くらいあけます。

ワニが目をあけたとき、わたしは、

「ねえ、散歩にいかない?」

と、さそってみます。

ワニは、目を半びらきのまま、
ゆっくりと、長いお顔とお口を、いやいやと、よこにふります。

一度だけ、ワニを、むりやり、ふでばこから出したことがあります。

あまりに動かないので、

「からだによくないよう。うんどうしようよう」

と、外につれだしたのです。

すると、とたんに、ワニの、からだは、どす黒くかわり、半びらきの目はどんより、からだは汗だらけ、みるみる、ぐったりとしてしまいました。

わたしは、あわてて、家にワニをつれかえり、ふでばこにもどしました。

ふでばこの中にもどったワニは、とても安心したようすで、消しゴムの上にアゴをのせ、すうすうと眠りはじめました。
からだの色ももとの緑色のもどりました。

ぐったりしたワニが、回復するまで、長い時間がかかりました。


とても綺麗な緑色のワニ、みんなにも見てほしいのに。
ワニにも、外の新鮮な空気にふれてほしいのに。
季節で移り変わる景色、花や草や川の流れなど見せてあげたいのに。

そう思いましたが。
外へ出て、具合がわるくなるのでは、しかたありません。



ある日、わたしは、また、きいてしまいました。

万が一、ワニの気分が「ふでばこから出てみようかな」と、気が向くしゅんかんがあるのではと。


「ねえ、ふでばこの中から、少し、出てみない?」


あいかわらず、ワニは、いやいやと、長いお顔とお口を、よこにふりました。


「外は、すっかり春だよ。川辺に桜が咲いてたよ」


ワニの「枕」になっている消しゴムの上に、わたしは、ひろってきた桜の花びらを、しいてあげました。

半びらきの目が、めずらしそうに、じっと、桃色の花びらを見ています。
ワニの目が、少しだけ、ほほえみました。

「消しゴム、だいぶ小さくなったね。今度は、これより大きいの、買うからね」

花びらを見つめていたワニが、こっくりと、うなずきました。






(写真提供は「写真AC」キイロイトリさんより。ありがとうございます。)