DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake52.夢室

2019年05月27日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夢室】


宿の床下には夢を見る室があった。


そこで長い夢を見ていた。


どのくらいの時を経てか目を覚ました。


いや目を覚ましたことなど確かな事ではない。


不確かな空間の中で


夢の多くは記憶に刻まれ


刻まれた途端


不規則に薄れていった。


記憶は刻々薄れてゆくのに


室では時空のない思い出だけが育つ。




flake52『夢室』





flake51.草原

2019年05月23日 | 星玉帳-Star Flakes-
【草原】


草原の星では日々編み物をした。


編み上がったものは何重にも首や体に巻き


厳しい雨風をしのいだ。


一つの季節が終われば


雨風の強さも向きも感触も変わる。


編んだ物の質感や形も変わり


そこで過ごした記憶の濃淡も変わる。


星を去る時それらは全て燃やすのだ。


灰は風に乗り草原に降るだろう。



flake51『草原』





flake50.白濁星

2019年05月14日 | 星玉帳-Star Flakes-
【白濁星】


明け方の霧は音もなく過ぎた夜を沈めてゆく。


ただ霧の底を見つめれば


一夜の幻も容易く水の一粒になるでしょう、


と霧の森に棲む白栗鼠は言う。


そうして標ない、霧かかる道の果てを、


彼は示す。


音のないこの森に深く身を任せることは


永遠の白濁なのですよ、


と飛び交う霧の粒を体に浴びながら。




flake50『白濁星』




flake49.空

2019年05月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【空】


青の星で過ごした時は


空を見る時間が殆どだった。


青の絵の具師と共に空の青を見ては


色味を写す仕事をしていたのだ。


今ではあの星で見た景色や出会った人の記憶は


一面の青になってしまった。


時を経るにつれ青の濃さは増し


目の前には幾度も


あの星の絵の具師が愛でた空が広がるのだった。



flake49『空』




flake48.夢夜

2019年05月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夢夜】


夜が続く星で


夜の道を往き


宿に着いた。


ベッドに横たわると


すぐに夢を見た。


夜が長いと夢も長い。


夢の中で出会った鳥が


広げた羽でわたしを包み


鳴いた。


わたしも泣いた。


夢から覚めることは恐怖に違いなかった。


夜が終わりになっても


わたしたちは泣き声のことを


覚えていられるだろうか。



flake48『夢夜』




flake47.幻影屋

2019年05月07日 | 星玉帳-Star Flakes-
【幻影屋】


その小さな看板には「幻影屋」と書かれていた。


溜まりすぎた幻はここに持ってくるのだ。


幻を取り置きする方法は店主から教わった。


春を過ごした彼の星では幻をよく見た。


ここでは幻を色とりどりの淡い影に変えてくれる。


店主は言う。


此の時も彼の時もこの場も彼の場もまた過ぎる影になるのだと。




flake47『幻影屋』




flake46.星狐

2019年05月01日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星狐】


丘を上る途中


「旗」を作る星狐のすみかあった。


丘に咲く草花で布を織り


落ちた木枝で棒を作って


それらを旗にするのだ。


星狐は入り口の隙間から


宙を往く星船を見上げては


別れたものたちのことを思い


旗を作り続けた。


仕上がった旗は穴の入り口に立てておく。


船に乗った彼らがせめて気づくように。




flake46『星狐』