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男の元に、ひとりの女性から相談が舞い込みました。
「私の嫁いだ先で不幸が立て続けに起きています。
結婚してすぐ優しかったお義父さんが亡くなって、
可愛がってくれた義母方の祖母が亡くなって、
親戚の中で年の近い、仲良しだった女性が意識不明で今も入院中です。
親戚の中で一番本家と親しい家には、
私が嫁ぐ前から寝たりの大ばあちゃんと、やはり寝たきりの小さな子供がいます。
年頃の若い子たちはみんな村を出て行ってしまいました。
私はお義母さんのお世話をしたり本家の家事を手伝っていて、
主人は農作業に興味が無いので、町工場で働いています。」
男は、その女性の住まいを訪ねました。
谷間の小さな村の奥を進むと、突然開ける絵画のように美しい光景。
田畑や水田に囲まれて、あちこちに家が点在しています。
女性が嫁いだ先の、とある一族だけで成っている集落です。
女性が嫁いだのは本家の長男。
しかし長男は長く独身で、そのまま一生結婚しないだろうと思われていた為、
本家には、耳の遠い母親と、姉夫婦が住み、
棟を別にして、長男夫婦が住んでいるとのこと。
見渡す限りの田畑や水田の殆どを運営しているのは、亡くなった本家の主の兄弟と、
耳の遠い母親(亡くなった主の妻)の兄弟。
「義母方の祖母が亡くなってから、夜中に裏の祠(ほこら)から物音がするのです。
泣き声のような時もあるし、誰かが言い争っているような声がすることもあります。
子供の泣き声がすることもあります。」
男は女性の案内で祠へ向かいました。足元に散乱する枯れた花がありました。
「声がする日の翌日は、花が枯れて落ちているのです。」
女性は枯れた花を集め、近くの野花を祠に飾りました。
男は訊きました。
「あの道は?」
「あれは裏の墓地へ続く道です。一族の墓が並んでいます。」
「泣き声や、言い争う声が聞こえたのは何時頃ですか。」
「午前零時から二時くらいの間です。」
「失礼ですが、あなたには、お子さんは・・・?」
「私は産めない体なんです。主人がそれでもいいと言ってくれまして・・・。」
「そうですか。立ち入ってすみませんでした。それと、あの窓のある部屋は?」
男は丁度真ん中に見える、女性宅の二階の窓を指しました。
「あれは空き部屋で、たまにしか使いません。」
「今夜、あなたのご主人とあの部屋でお話したいのですが。
それと、かかり付けの医者に明日この集落を回ってくれるように連絡してください。」
「分かりました。私はどうすればいいですか?」
「あなたは、親戚の大ばあちゃんの傍に居て、ずっと話しかけてください。
手をマッサージしながら。」
「何をですか?」
「結婚への経緯や今の様子など、何でも良いですよ。その時思いついたことを。」
「分かりました。」
「ご主人がお帰りになるまで、あの窓のある部屋で準備をさせていただいて
宜しいですか。」
「分かりました。じゃあ、ちょっと先に行って、簡単に掃除して来ます。」
女性は小走りに家屋へ向かって走り去りました。
男は祠の周辺と墓地への小道を歩くと、紙で出来た十体の人形を立てました。
それからゆっくり部屋へ向かい、御札を数箇所に貼りました。
*
その夜、女性の夫に男は言いました。
「この窓から、あの祠を見ていてください。」
女性の夫は言いました。
「あれ?祠の周りを白いものが回ってるような・・・。モンシロチョウかな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ああっ、大きくなった?!三つが大きくなって、暴れてますよ!」
「あれは誰ですか。あなたの知っている人ですか。」
「ええっ?!あーーーっ。そっ、そんな馬鹿な!」
「もう一度お訊きします。あれは誰ですか。」
「亡くなったウチのばあちゃんと、今も寝たきりの親戚の大ばあちゃんだっ!
真ん中にいるのは、大ばあちゃんとこの、寝たきりの曾孫だ!
これは、どういうことなんですかっ?!どういうことなんだーっ。」
女性の夫は、恐怖と驚きで腰を抜かしてしまいました。
つづく
男の元に、ひとりの女性から相談が舞い込みました。
「私の嫁いだ先で不幸が立て続けに起きています。
結婚してすぐ優しかったお義父さんが亡くなって、
可愛がってくれた義母方の祖母が亡くなって、
親戚の中で年の近い、仲良しだった女性が意識不明で今も入院中です。
親戚の中で一番本家と親しい家には、
私が嫁ぐ前から寝たりの大ばあちゃんと、やはり寝たきりの小さな子供がいます。
年頃の若い子たちはみんな村を出て行ってしまいました。
私はお義母さんのお世話をしたり本家の家事を手伝っていて、
主人は農作業に興味が無いので、町工場で働いています。」
男は、その女性の住まいを訪ねました。
谷間の小さな村の奥を進むと、突然開ける絵画のように美しい光景。
田畑や水田に囲まれて、あちこちに家が点在しています。
女性が嫁いだ先の、とある一族だけで成っている集落です。
女性が嫁いだのは本家の長男。
しかし長男は長く独身で、そのまま一生結婚しないだろうと思われていた為、
本家には、耳の遠い母親と、姉夫婦が住み、
棟を別にして、長男夫婦が住んでいるとのこと。
見渡す限りの田畑や水田の殆どを運営しているのは、亡くなった本家の主の兄弟と、
耳の遠い母親(亡くなった主の妻)の兄弟。
「義母方の祖母が亡くなってから、夜中に裏の祠(ほこら)から物音がするのです。
泣き声のような時もあるし、誰かが言い争っているような声がすることもあります。
子供の泣き声がすることもあります。」
男は女性の案内で祠へ向かいました。足元に散乱する枯れた花がありました。
「声がする日の翌日は、花が枯れて落ちているのです。」
女性は枯れた花を集め、近くの野花を祠に飾りました。
男は訊きました。
「あの道は?」
「あれは裏の墓地へ続く道です。一族の墓が並んでいます。」
「泣き声や、言い争う声が聞こえたのは何時頃ですか。」
「午前零時から二時くらいの間です。」
「失礼ですが、あなたには、お子さんは・・・?」
「私は産めない体なんです。主人がそれでもいいと言ってくれまして・・・。」
「そうですか。立ち入ってすみませんでした。それと、あの窓のある部屋は?」
男は丁度真ん中に見える、女性宅の二階の窓を指しました。
「あれは空き部屋で、たまにしか使いません。」
「今夜、あなたのご主人とあの部屋でお話したいのですが。
それと、かかり付けの医者に明日この集落を回ってくれるように連絡してください。」
「分かりました。私はどうすればいいですか?」
「あなたは、親戚の大ばあちゃんの傍に居て、ずっと話しかけてください。
手をマッサージしながら。」
「何をですか?」
「結婚への経緯や今の様子など、何でも良いですよ。その時思いついたことを。」
「分かりました。」
「ご主人がお帰りになるまで、あの窓のある部屋で準備をさせていただいて
宜しいですか。」
「分かりました。じゃあ、ちょっと先に行って、簡単に掃除して来ます。」
女性は小走りに家屋へ向かって走り去りました。
男は祠の周辺と墓地への小道を歩くと、紙で出来た十体の人形を立てました。
それからゆっくり部屋へ向かい、御札を数箇所に貼りました。
*
その夜、女性の夫に男は言いました。
「この窓から、あの祠を見ていてください。」
女性の夫は言いました。
「あれ?祠の周りを白いものが回ってるような・・・。モンシロチョウかな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ああっ、大きくなった?!三つが大きくなって、暴れてますよ!」
「あれは誰ですか。あなたの知っている人ですか。」
「ええっ?!あーーーっ。そっ、そんな馬鹿な!」
「もう一度お訊きします。あれは誰ですか。」
「亡くなったウチのばあちゃんと、今も寝たきりの親戚の大ばあちゃんだっ!
真ん中にいるのは、大ばあちゃんとこの、寝たきりの曾孫だ!
これは、どういうことなんですかっ?!どういうことなんだーっ。」
女性の夫は、恐怖と驚きで腰を抜かしてしまいました。
つづく