この田岡の行為はあまりにも不自然であり、自分勝手に思えることは多くの人が述べている。お前たちで若頭を選べと言っておきながら、選ばれた山本広を無理やり山本健一に変えさせてしまったのだ。それなら最初から山本健一を若頭にすればよかったはずである。なぜそうしなかったのか。山本健一には重大な欠点があったのだ。彼は山口組幹部たちに人望が無さすぎたらしい。彼は誰より親分に忠誠を尽くしたし、すべてを投げ打って組のために働いたという。しかし好き嫌いが激しくて、たとえ先輩であろうとヤクザとして尊敬できない相手にはそれを態度に出したという。年の若い後輩であっても竹中正久や細田利明のようにヤクザとして認めた相手なら「健ちゃん」と呼ばれてもニコニコして「よう、姫路の」と愛想よく答えるが、そうでない相手には取り付く島もなかったらしい。そして山本広がまさにそうであった。山本健一は山本広を忌み嫌っていた。そんな山本健一が幹部たちから疎まれて、自分を入れて二人しか支持されなかったのも無理はないだろう。他の幹部たちは山本広を支持したのだ。山本健一が親分から最も可愛がられていたのも皆知っていたから、それへの妬みもあったのかもしれない。
田岡一雄は山本健一と幹部たちのそんな関係を知っていたのは明らかである。だからいくら可愛いからといって、支持されていない男を若頭に指名しなかったのだ。田岡は山本健一に「好き嫌いを面に出していたらトップには立てんぞ」と説教するつもりだったのかもしれない。山本広の下で雑巾がけをさせて器を大きくしてから若頭にしようと思っていたのだろう。ところが山本健一が思いもよらぬ態度にでた。若頭補佐を辞めたいと言い出したのだ。田岡は困ったはずである。まさか山本広をそれほど嫌っているとは思わなかっただろう。本来なら田岡は山本健一を叱りつけるべきだった。「お前は誰のために補佐をやっているんだ、わしか山広か?」と一喝すれば山本健一は恐縮して詫びをいれただろう。だが田岡はそうしなかった。山本健一が可愛くてわがままを許してしまった。そうなると山本広に若頭を諦めさせるしかない。だから無理やり引きずり下ろしたのだ。こうして最初は子分たちに気を使って指名しなかったはずの若頭人事が、強引なワンマン体制になってしまったのだろう。
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