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自転車ひとり旅★

自転車大好きなTVディレクター日記。

うつわ。

2016年05月03日 02時24分42秒 | おしごと日記



また新しい相棒がやってきた。


祖母の家にあった備前の花瓶。

「これは人間国宝の花瓶。
 もし好きなら、私が死んだら持って行きなさい」

祖母が亡くなって6年、
故あって、私のもとへとやって来た。
共箱がないので、本当に人間国宝の作なのか、
誰の作かすら分からないのだが、
たいへん良い景色だ。
備前でこの景色を生み出せる人は、そうそういない気がする。


祖父を支え続けて、祖父が出世して、
家にこうした焼き物がやってきた。
それは祖母にとって、誇りだったのかもしれない。







私が茶器を集めだしたのは、高校時代。
初めて買ったのは、修学旅行先の奈良で出会ったこの茶碗。
一目惚れして、持ってた小遣いをはたいて買った。
友人たちに「なぜ修学旅行で茶碗?」と笑われた。




大学生になって全国の陶器の里を訪ね歩き、
その旅の中で知り合ったおばさまに、
「若いのに珍しいわね」と喜んでいただき、
さらに茶碗を頂いた。





常滑焼。
いただいた当時、私にはこの美しさが分からなかった。
「地味な茶碗だなあ。くれるならもらっておくか」
ぐらいの感じだった。
しかし、今はよく分かる。
光にかざすと浮き上がる、鈍色。
極薄手で均整のとれた作りは、
作者の腕の素晴らしさを物語っている。


頂いてから10年して、
ようやく良さがわかるようになったころ、
そのおばさまが亡くなったことを聞いた。


おばさまに、私の感じた良さを伝えておきたかった。
そんな後悔が、鈍色の模様に滲んでくる。



茶碗は、長生きだ。
ときどき茶碗が静謐に見えるのは、
長きにわたって、いろんな人の気持ちを
汲み取って来たからなのかもしれない。