撮影中、道を走っているときは、
旅人(自転車)+ロケ車(通訳&AD)+私(自転車)
という体制で走っていることが多い。
旅人をロケ車の車載カメラでADアキヒロくんが撮影し(RECボタンを押すだけ)、
自転車から撮りたい場合は、そのロケ車の前に私がスッと入って行って
旅人に並走して撮影しているのだ。
その日は、まずスタートから車載カメラで撮影していたので、
私はロケ車の後ろをぴったりくっついて、カメラを背負って走っていた。
道はアスファルトのガタガタ道。
常時電気アンマ状態。
背負ったカメラが暴れて背骨が痛い。
すると!
何かが落ちて、ホイールに激しく当たり、飛んでいった。
(振動でライトが落ちたのだと後で判明&紛失)
そしてホイールは曲がり、走行不能。
あたふたしながら、助けを求めてロケ車を見ると、そんな私には気付かず
ブ~ン………と走って行ってしまった。
「後ろに私の姿が見えなくなったら、トラブルだから停まるように!」
と言っておいたので、
そのうち気付いて停まるだろう。
とりあえずホイールを直しにかかる。
スポークが曲がってしまったので、かなりのフレが出てしまった。
曲がったスポークを押し戻したり、反対側のスポークを曲げてみたり、
いろいろやったら、どうにか走れるくらいになったので、
やれやれ、と思いつつ、ロケ隊を追いかける。
しかし。
行けども行けども、ロケ車が見えてこない。
気温35度の乾燥地帯。ボトルを持っていなかったので、水分ゼロ。
所持金は…小銭程度。
携帯…電波なし。
このままはぐれたら大変だ。
ひょっとしたら何十キロも
補給無しで走ることになるかもしれない。
なるべく汗をかかないように、省エネモードに切り替える。
電気アンマはおさまること無く、手と尻がかな~りツラい。
なぜか道路のど真ん中だけはアスファルトの油分が多く、滑らかなので、
真ん中のテカテカした部分に沿って走る。
そして車が来るたび、電気アンマに退避し、
またセンターに戻って走る。
…バカ野郎、いったいどこまで行きやがったんだ?
15km走って、ようやく村を発見。
ロケ車の姿は……ナシ。
途方に暮れていると、村人たちがわらわらと集まって来た。
外国人なんて絶対来ない村。
みんな珍しそうに私を眺める。
笑顔を向けると、はじける笑顔がかえって来る。
お店に駆け込み「水ある? コーラある?」と言うと、
水ならあるよ、と村人たちが全員で、
ワッショイワッショイ盛り上がりながら、汚れたペットボトルを洗って
水瓶の水を入れようとしてくれる。
嬉しいけど、その水を飲んだら一発でアウトだ。
なんとかジェスチャーで「その水飲んだらお腹グルグル~」を伝える。
みんなすぐに分かったみたいで、笑いが起こる。
そして全員で、ワッショイワッショイ、私が来た方向を指し示した。
「ひとつ前の村になら飲み物売ってるよ」と言ってるらしい。
普通は次の村を目指すのだけれど、
こうなっちまったら、彼らの親切をムダには出来ない。
彼らに全力でお礼を言って、前の村に戻ることにした。
5kmほど戻った村の一角で、無事ジュースをゲット。
400チャット(40円)。
ミャンマーの物価は日本の10分の1。高級ドリンクだ。
ここでも村人たちが大注目している。
できるかぎり旨そうに飲んで見せる。
それだけでワッと盛り上がる。
ほんとうは2本飲みたかったが、
高級ドリンクをガバガバ飲むのも嫌味な気がしたので、
1本でガマン。
大丈夫、これであと20kmは走れそうだ。
お店にいた犬が、私に優しげな視線を投げかけて、
尻尾を振ってくれた。
そうだよね、走らないと始まらない。
ふたたび省エネモードで走り出す。
20km。
カーブを曲がるごとに、
小さな村を過ぎるごとに、
ロケ車が停まっているのではないかと淡い期待を膨らませるのだが、
影も形もない。
そのたびに怒りが湧き出て来るのだけれど、
沿道の村人たちの笑顔の応援が、すべてを忘れさせてくれる。
笑顔とは、すごいエネルギーだ。
こちらも、全力の笑顔で手を振りかえす。
27km。
何かの収穫に沸き立つ女性たちがいた。
形からすると、胡麻の収穫だろうか。
枯れ枝の先についている実を、女性たちが笑いながら
バサバサ振るい落としている。
ここに旅人がいたら、すばらしい取材が出来るのに!
私1人しかいな無力さを噛み締めながら通り過ぎると、
女性たちがワーッと手を振ってくれた。
このままここで暮らして行こうかと、錯覚するじゃないのさ☆
34km。
梅の実を売っている女性が、まぶしいくらいの笑顔で
走る私を追いかけて駆け寄り、実を手渡してくれた。
車載カメラでもそんな瞬間が撮れていることを願いながら、
女性に山ほどの投げキッスをする。
遠ざかる後方から男女の沸き立つ声が聞こえた。
トラブルから1時間半。
41km地点(走行は51km)でロケ車を発見した。
みんな昼食をすっかり済ませて、まったりしていた。
おかしいなあ、と思いつつ、
大丈夫だろう、と思って来ちゃったらしい。
大丈夫にしても、40キロもディレクターを放ったらかして先に行くもんかいな??
だっふんだ。
脱力。
ステキな体験をさせていただいたことに、ただ感謝することにしよう……。
番組には絶対出て来ない(そりゃそうだ、撮ってないんだもん)、
ある日のできごとでした★