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田舎道特有の細い車道は、くねくねと幾重にも曲がるカーブはその先の見えない不安と混乱する微かな期待を予感させて、ゆるい坂道は何度も繰り返しのぼる、やがて、見覚えのある風景が私の目の前を通り過ぎて行く、ハンドルを握る私に否応なく、迫り来る記憶、まばたきをした一瞬に、いつの日か、遠い昔に体験した苦い記憶も呼び覚ます・・・
メリーゴーランドに乗って、回転して行く、優しく揺れながら、移り変わって行く、風の波に泳ぐ世界で、夢の中のけしきが揺れて動くように、錯覚さえしてしまう、ぐるぐるとまわりながら、私の視界の中で、不思議な感覚が通り過ぎて行った!
柔らかい風と車窓から受ける少しだけつよい風が重なり合う感覚に、私は夢の中でドライブするような気持ちで楽しんだ、道の両側から色とりどりのコスモスの花が、今を盛りに初秋の光をうけ咲き誇る、美しい花の波を描き輝きながら、揺れて波打つ、かぜ色の悪戯!
走らせる車はゆっくりとした速度や震動が、とても気持ちよく、わたしの体につたわり来る!
「キラキラと輝く虹のように」
淡い帯状の薄絹をなびかせる風の仕草が美しい風景を絶え間なくつくり、ゆっくりと、通り過ぎて行く六十五年の私の生きた日々は、確かな鼓動として私に命を伝えてきた、今、久美子の心は、いい知れぬ切なさと共に自己満足感なのだろうか、ここで命が終わってもいいとさへ思える自分に気づく!
「突然の熱い想いと感情」
「ああ~なんて美しい」
この胸が一瞬、苦しいほど、キュンとなり、目頭が熱くなった!
曲がりくねった坂道を車はゆっくりと走しる、小さな台地に、久美子は車を止めて、昔の我が家があった場所を眺めてみた、幼かった頃、私はいつも母のそばを離れなかった、母はつねに忙しく働き、体を動かしていた人だった。
その母の後をついてまわり、私は母を困らせていたのかも知れない!
やがて、私がひとりで過ごせる頃には、母はこの世からいなくなった。
蒼ざめた気の弱い不安を隠して、私の顔は、見えないゆがみと似合わない大人げた眼差しをみせて、微笑む!
その寂しさを慰めてくれた場所があった!
いつ、どんな時に、その場所を知ったのか、誰かに、おしえられたのか、どうかも、忘れてしまったが、私には生涯、心の中で大切にしている風景がある!
『秘密の花園』
あの場所に行く、私は、夢の世界で、特別に母に会える気がしていた、確かに、母の姿は、見えないけれど、あの花園では、心に囁く母がそばにいて、話しかけてくれた!
長く、暗い冬がすぎて春、雪解けと共に、花園は、美しいピンク色の世界に変わって行く、子供だった私には、そのピンク色の花の名前は知らなかったけれど、大人になってから知った。
「桜草の花」
香しい匂いが母のにおいに感じて、雪解けを待ちかねて、私は、あの特別な場所「秘密の花園」へかけて行った!
十八歳になって、この地を離れる時まで、誰にも知られずに、久美子は通い続けた、久美子が夢見る世界、魂を自由に出来た、母の思い出と共に大切で忘れられない風景・・・
「秘密の花園」
夏は、真っ赤に熟れたグミの実をたべて、時を忘れて、過ごした、楽しい場所だった。
秋は、色いろどりの木の葉が、私に美しい絵の世界を描かせてくれた。
私が育った頃は、誰もみんなが忙しく働いていた、あの、私の父以外の人は、頑張って働かなくては、生きて行けない時代だった!
仕事の選り好みなどしていられない、貧しくて、ひもじさを満たすために、みんなが必死で働いていた、そんな中で、私の父だけは、異質な人だったから、子供ながらにも、父の姿に、戸惑いと嫌悪感を持って成長した!
六十五歳の今、私は別の世界へ旅立とうとしている、そして少しだけ先に行ってしまった、あの人に、出会えるのだろうか?
残忍なまでに、あの頃に立ち戻る、あの、くすんだ暗く古い粗末な建物が、私の感情を占領した、思い出したくもない!
「子供から大人へ導いた日々を!」
「やはりここは私の故郷なのですね!」
けれど、決して、懐かしさからの感情ではないと、久美子は心の中で否定してみた、長い時間をへて、この風景を観て、なぜ、こんな思いになるのだろうか、この地は、母との思い出と共に私の大切な場所だった!
「秘密の花園」は、もう、とうの昔に消えてしまった。
久美子が思い描いていた、所には、近代的で、洋風な邸宅が建ち、小さな公園が見えている、そして、見渡す限りに広がる、田んぼや畑に変わってしまったのでしょうか。
つづく
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相変わらず、眼が痛い、どうすらぁ~いいのよの私的日々ですが、更新が出来たから、ちょっとうれしい!
時の間違いや、疑問に思う事もあるかも、ですが、お許しください。