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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「食物アレルギー診療ガイドライン2016」のポイント

2017年01月21日 07時42分33秒 | 食物アレルギー
 食物アレルギーガイドラインが改定されました。
 小児アレルギー疾患の中でも食物アレルギーの分野は日進月歩なので、10年前の常識が今や非常識・・・目が離せません。
 紹介記事「安易な食物除去はNG、湿疹の管理も忘れずに」(日経メディカル:2017.1.17)からポイントを抜粋させていただきます。

 開業医の視点からすると、開業医でも可能な食物負荷試験のルールがようやく設定された、という印象です。
 今までのガイドラインはアナフィラキシーを起こす重症者の死亡事故を防ぐという点が重視されたため、病院レベルでしか実施できない食物負荷試験方法のみ記載されてきましたので。

 思い起こせば、喘息のガイドラインも当初は理念が先走って実際の診療と解離した内容でしたが、改定を重ねてようやく臨床現場に沿ったものになってきた経緯があり、似てますね(^^;)。

 問題として残るのは、食物アレルギーの原因食物を食べられるようになった状態には「耐性獲得」と「脱感作」の2種類が存在することの理解・指導の徹底化です。
 「耐性獲得」とは、「治った」状態。
 「脱感作」とは、負荷試験で義務的に食べて続けていると症状が出なくなるけど、食べるのをやめてしばらくするとまた症状が出る状態。
 患者さんや、非専門医にはわかりにくい病態です。
 これをどう区別して管理・指導していくのか・・・。

NIH(アメリカ国立衛生研究所)がピーナツアレルギー予防に指針、なんと「食べさせて予防」!

2017年01月15日 08時52分49秒 | 食物アレルギー
 ピーナッツ・アレルギーはアメリカで毎年数十人の死亡者を出す、危険な食物アレルギーです。
 日本で言えばソバアレルギーのイメージが近いですね。

 さて、そのピーナッツ・アレルギー予防にアメリカ政府が指針を出しました。
 なんと従来行われてきた除去と真逆の「乳児早期からの摂取を推奨」というコペルニクス的展開で、さらにすでに湿疹や卵アレルギーのあるハイリスク患者さんも含むという大胆なもの(ただし専門医の管理下でという条件付)。
 これは、卵アレルギー予防に早期摂取が有効、という流れと同じですね。

■ ピーナツアレルギー予防に指針、NIH 〜発症予防に早期からのピーナツ摂取を推奨
2017.01.06:Medical Tribune
 米国立衛生研究所(NIH)は1月5日、小児科医や家庭医などの医療従事者を対象としたピーナツアレルギー予防に関する臨床ガイドライン(GL)をJ Allergy Clin Immunol(2017; 139: 29-44)などに発表した。ピーナツアレルギーの発症を予防するために、高リスク児を含む乳児に対し、早期にピーナツが含まれる食品を与えることを推奨している。同GLは2010年に発行された米国の食物アレルギー診断・管理GLのピーナツアレルギー予防に関する追補版としてまとめられたもの。昨年(2016年)3月に公表された草案(関連記事)に対するパブリックコメントが反映された最終版となる。

◇ 「重度の湿疹+卵アレルギー」の高リスク児にも検査の上で摂取を推奨
 同GLは、2015年2月に報告されたLEAP試験(関連記事)の結果を受けて策定された。生後4~11カ月の高リスク乳児約600例を対象とした同試験では、ピーナツの早期摂取によって5歳までにピーナツアレルギーを発症するリスクが81%減少することが示された。
 GLでは、ピーナツアレルギーを発症するリスクの高さを、
① 重度の湿疹、卵アレルギーのいずれか、または両方がある乳幼児
② 軽度~中等度の湿疹がある乳幼児
③ 湿疹または食物アレルギーのない乳幼児
―の3段階に分類。
最もリスクが高い①に対しても、特異的血中IgE検査(sIgE)および/または皮膚プリックテストを実施し、必要に応じて食物経口負荷試験を実施した上で、生後4~6カ月にピーナツが含まれる食品を与えることを推奨している。また、②に対しては生後6カ月前後に、③に対しては各家庭の希望や文化、習慣に応じて適切な時期に、ピーナツが含まれる食品を与えることが推奨されている。
 なお、草案では①の高リスク児に対する検査アルゴリズムにおいて、皮膚プリックテストで膨疹の直径が大きくピーナツアレルギーの可能性が高い乳児には「ピーナツの摂取を回避すべき」とされていたが、最終版のアルゴリズムでは「専門医による評価と管理を継続すべき」と変更されるなど、推奨内容の一部が変更されている。
 米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)アレルギー・免疫・移植部門のDaniel Rotrosen氏は「LEAP試験によって明らかにされた(ピーナツの早期摂取による)ベネフィットは極めて大きく、科学的な信頼性も高かったことから、ピーナツアレルギー予防に関する指針を策定することで同試験から得られた知見を活かす必要性に迫られた」と、今回のGL策定の背景について説明している。
 同GLの草案は昨年3月に公表され、その後45日間に104件のパブリックコメントが寄せられたという。今回発表された最終版にはその一部が反映されたとしている。


「卵アレルギーを予防するために卵を食べさせる」時代が到来。

2016年12月10日 07時30分43秒 | 食物アレルギー
 食物アレルギーの治療の進化から目が離せません。
 10年前までの治療方針は、

食べさせないで予防し、発症したら治るまで食べさせない

 でした。
 しかし2008年、イギリスの研究者から「二重抗原曝露仮説」(アレルゲンが皮膚から入ると感作されるが、口から入ると免疫寛容を誘導する)が発表され、エビデンスが集積してから方針が180度転換しました;

発症して治らない例は、食べさせて治す

 と、まず発症例の「治療」に応用され、成果を上げつつあります。
 しかし、症状が出る例が多く重症なアナフィラキシーも想定されるので、まだ一般的な治療として認められていません。
 もちろん患者さんが自己判断で自宅で試すのはたいへん危険ですのでやめてください。

 そしてその試みは「予防」領域にも導入されつつあります。

アレルゲンを食べさせてアレルギー発症を予防する

 紹介する記事は国立成育医療センターからの報告です;

■ <卵アレルギー>逆転の発想? 乳児期に食べて発症予防
毎日新聞 2016/12/9
◇ごく少量のゆで卵継続、発症を8割減
 乳児期にごく少量のゆで卵を食べ続けることによって、1歳時点での卵アレルギーの発症を8割減らせたとの結果を、国立成育医療研究センターアレルギー科の大矢幸弘医長らのグループが9日の英医学誌ランセットに発表した。
 卵アレルギーは、子どもの食物アレルギーの中で最も多い。
 グループは、生後4カ月までにアトピー性皮膚炎を発症し、食物アレルギーになる可能性が高い乳児121人を対象に、卵を食べる影響を調べた。60人は生後6カ月から固ゆで卵の粉末50ミリグラム(ゆで卵0.2グラムに相当)を毎日食べ、9カ月からは250ミリグラムに増やして1歳まで食べた。残りの61人は、生後6カ月から卵の入っていないカボチャ粉末を食べた。
 その結果、1歳の時点で、卵の粉末を食べていない子どものうち23人(38%)が卵アレルギーを発症したが、食べた子どもで発症したのは5人(8%)にとどまり、発症率を8割減らすことができた。少量を食べ続けることで体が慣れ、多く食べられるようになったとみられる。アトピー性皮膚炎のない乳児に同様の効果があるかは分からないという。
 英国でも昨年、同様の研究結果が出ているが、開始直後からアレルギーが出て続けられない子どももいた。今回の結果で、より少量から始めることで、安全に食べ続けられることが分かったという。
 大矢医長は「すでに卵アレルギーを発症している場合はまねをしないでほしい。卵を十分加熱していない場合もアレルギーを起こしやすいため危険があり、必ず専門医に相談してほしい」と話す。


 多くの文献を集めて解析した論文も「生後4か月から6か月という早い時期から卵を食べさせることが、卵アレルギーの減少と関連する」と結論づけています;

■ 卵とピーナッツは早めに食べさせるとアレルギーになりにくい 〜文献の調査から
(2016年10月24日 JAMA)
 卵やピーナッツはアレルギーを起こしやすい食品です。赤ちゃんに食べさせるのは心配になりますが、積極的に食べさせるとむしろアレルギーを防げるのではないかという説もあります。これまでに報告されている研究結果がまとめられました。

◇ 卵とピーナッツを早くから食べさせることでアレルギーを予防する効果の研究
 ここで紹介する研究は、文献を集める方法で、乳児にアレルギーを起こしやすい食品を食べさせる時期とアレルギーの関係を調べています。
 これまでに赤ちゃんに実際に食べさせて効果を見た研究と、家庭に任せて統計的に調べた研究の報告を集めました。

◇ 卵とピーナッツは0歳児に食べさせるとアレルギーが減っていた
 見つかった研究報告を統合し、次の結果が得られました。

生後4か月から6か月という早い時期から卵を食べさせることが、卵アレルギーの減少と関連する(リスク比0.56、95%信頼区間0.36-0.87、I2=36%、P=0.009)という、中等度の確かさの証拠が5件の試験(参加者1,915人)から得られた。
・生後4か月から11か月の早い時期にピーナッツを食べさせることがピーナッツアレルギーの減少に関連する(リスク比0.29、95%信頼区間0.11-0.74、I2=66%、P=0.009)という中等度の確かさの証拠が2件の試験(1,550人の参加者)から得られた。

 卵を生後4か月から6か月の間にはじめて食べさせた子どもで、卵アレルギーが少なくなっていると見られました。
 ピーナッツを生後4か月から11か月の間にはじめて食べさせた子どもで、ピーナッツアレルギーが少なくなっていると見られました。

◇ アレルギーにどう備える?
 アレルギーをただ怖がるよりも、卵とピーナッツは早めに試してみてもいいのかもしれません。
 ただし、予防効果があるかどうかにかかわらず、卵とピーナッツはもともとアレルギーを起こしやすい食べ物です。はじめて食べさせるときは体の様子をよく観察する、もし何かあればすぐ小児科に行けるようにしておく、蕁麻疹(じんましん)などアレルギーの症状が現れたら急いで相談に行くなどの対処は必要です。特に、ピーナッツはのどに詰まりやすいので、3歳ぐらいまではナッツの形のまま与えるのはおすすめできません。
 アレルギーのリスクとうまく付き合いながら、子どもが食べるものを豊かにしてあげてください。


◆参照文献
Timing of Allergenic Food Introduction to the Infant Diet and Risk of Allergic or Autoimmune Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2016 Sep 20.

「第33回日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会」見聞記。

2016年07月18日 07時50分10秒 | 食物アレルギー
2016.7.16/17に仙台市で開催された学会へ参加してきましたので体験記を少々。

この学会は「小児アレルギーエデュケーター(PAE)制度」の母体であり、小児科医だけでなくメディカルスタッフ(看護師/薬剤師/管理栄養士など)の参加も多いことが特徴です。

会場では群馬大学小児科アレルギーグループの先輩後輩にお会いし、大学時代の同級生と旧交を温め、電子カルテで知り合ったDr.とも再会しました。
みんな勉強熱心で偉いなあ。
今年PAEの資格を取得した当院スタッフも、若い友人が何人もできてうれしそうです(^^)。

PAEを取り巻く問題点も耳にしました。
PAEは合格率30%とハードルの高い資格であり、取得後も研修などでお金がかかりますが、診療報酬にまったく反映されません。
当院ではアトピー性皮膚炎のスキンケア指導/チェックにひとり1回数十分かけています。
が、報酬は風邪と同じなので赤字になります(T_T)。

医師と異なり看護師さんは専門性が低いのでいろいろな科を経験します。
大病院ではPAEの資格をせっかく取得したのに他の病棟に移動させられてしまうという事例があります。
ある病院では脳神経外科にPAEが2人いるけど、小児科にはいないという困った現象も。
それから医師も人事異動がありますので、PAEを目指して勉強していたメディカルスタッフが突然指導医を失い、資格取得を断念せざるを得ないという事例もありました。

ハードルの高い資格であればあるほど、それを守る環境整備の必要性も感じました。

前置きはこのくらいにして、学会内容について。

<7/16(土)>
■ シンポジウム1「災害時のアレルギー患者への支援活動を考える〜東日本大震災と熊本地震での経験から」
 非常に興味深い内容でした。
 まず災害時の超急性期に問題になるのは食物アレルギー。食べられるものが手に入らず、避難所で「○○は食べられません」と言うと「こんな非常時に何を言ってるんだ」「わがまま」と認識される傾向があり、つらい思いをして自宅にとどまるか車中泊を選択する傾向あり。
 医療者側も、患者さんがどこにいるのか把握ができないという大きなハードルに支援が阻まれます。
 連絡網がないのです。
 支援物質があっても配れないというジレンマ。

 東日本大震災の時は、避難所を個別訪問するしかありませんでした。
 熊本地震では、津波がなかったので道路が生きており、拠点病院に支援物質を集積し、それをメディアで広報して取りに来てもらう体制を取りました。
 
 災害時に活躍したのは「患者の会」でした。横のつながりを利用してどこにいるのか把握しピンポイントで支援物質を配達することができました。
 行政や医療者もアレルギー専門ではないので、超急性期は「救命」にエネルギーを集中せざるを得ません。やはり当事者間が自分を守る術をふだんから用意しておくことの重要性が再認識されました。
 ふだん特定の食物を除去している場合でも「重症度がどの程度か」知っておくことも大切です。「食べたことがないけど検査で陽性だから除去している」のと「負荷試験をしてこれくらいの量でこの程度の症状が出ることがわかっている」のでは、災害時極限状況に置かれた際、雲泥の差があります。

 講演を聴いていて「患者さんをあらかじめ登録して災害時に生かせないものだろうか?」とずっと考えていました。
 すると、次の午後のシンポジウム2にそのヒントがありました。

■ シンポジウム2「教育機関におけるアナフィラキシー対応を考える」
 この十数年の間に食物アレルギーの医学は日進月歩ですが、行政が追いついてこない。
 とくに学校関係の文部科学省の腰が重いことを各講演から感じました。
 ガイドラインを作成しても普及しないことが関連学会の悩みでもあります。

 その要因は、現場の医師にも責任の一端が。
 「アレルギー科」を標榜している開業医院のうち、アレルギー専門医(アレルギー学会に所属し試験を受けて合格した医師)は3割にとどまるのです。ほかは・・・経営・集客目的で標榜されている傾向がなきにしもあらず。
 一応専門医の私でも、毎回学会に参加し、関連書籍を読む努力を怠ると知識・常識が遅れてしまうことを実感しています。数年前に秋のアレルギー学会は「アレルギー講習会」と名前を変え、トレーニングに特化したほどです。
 でも、アレルギー学会の会員でもなく、研修も受けず、資格もない医師が「アレルギー科」を標榜しているのです。その診療内容に歴然の差はあって当然でしょう。

 複数の演者が「アレルギー疾患生活管理指導表」を取り上げ、問題点を指摘したことが印象に残りました。
 この書類は、患者を把握し誤食事故を起こさないことが第一の目的ですが、除去食の必要性を検証する目的もあります。
□ 【入園・入学前に知っておきたい! 子どものアレルギー対策(4)】園や学校との情報共有には「生活管理指導表」を活用(2015.3.10:日本経済新聞

 食物アレルギーは実際に食べて症状が出る食物を除去するのが基本です。
 しかし中には、検査で陽性だからずっと除去を指導する医師はまだいますし、兄弟が食物アレルギーだからこの子も何となく除去しているというお母さんもいるのが現状です。
 それらについて「本当に除去が必要なのか?」とふるいにかけるのです。

 講演を聴いていて、ふと頭に浮かびました。
 「この管理指導表を災害時に使うことはできないだろうか?」 
 と。

 管理指導表には、食べられない食材と連絡先が記されており、この情報を一元管理すれば、災害時に効率的にアレルギー対応食品を配布できるのではないか。
 書類の最後に「この指導表を災害時の基礎資料として活用することに同意します」という一分をもうけてサインしていただく。
 そうすれば、医療者側も、患者側もメリットだらけ。

 ・・・というアイディアを、相模原の海老澤先生にお話ししておきました。

■ シンポジウム4「アレルギー発症予防への挑戦」
 書き切れないほどのたくさんの情報があり消化不良状態です。
 中でも印象に残ったのは「感染症と喘息」というテーマ。

 RSウイルス感染症に罹り喘鳴(ゼーゼー)+呼吸困難で入院した患者さんが、その後喘息を発症する傾向があることは周知の事実です。
 しかし、アレルギー体質だからRSウイルス感染症が重症化したのか、RSウイルス感染症に罹ったから喘息になりやすいのか、以前から“卵と鶏論争”が続いてきました。
 最新の報告では「ウイルスの種類に関係なく、ウイルス感染の回数が喘息発症と相関する」とのこと。
 RSウイルスに限らず他のウイルスも含めて、風邪を引いてゼーゼーを繰り返すことが喘息発症を近づけるというのです!
 それから、ライノウイルスは秋に喘息発作を誘発することで有名ですが、これは気道上皮細胞がインターフェロンを産生できずに(健常者は産生できる)、気道上皮が壊死に陥り剥がれてしまうためであると説明されました。
 つまり、気道上皮細胞のインターフェロン産生能力が低下している人ほど喘息になりやすいということ。

 それから、「ダニ対策を喘息発症前に行っても予防にならない」という報告にはショックを受けました。
 アレルギー検査をしてダニ特異的IgE抗体陽性者にはダニ・ほこり対策を指導してきたのにそれが否定されてしまうなんて・・・。

■ イブニングシンポジウム1「より良いアトピー性皮膚炎診療を目指して〜TARCの有用性〜」
 「アトピー性皮膚炎と間違えやすい皮膚病」の講演者に「これらの皮膚病にステロイド外用薬を塗ると効くのですか?」と質問したところ「赤みは減るけどアトピー性皮膚炎ほど手応えはないでしょう」とのお答え。「ではステロイド外用薬の反応が乏しい湿疹では皮膚科専門医に紹介・誘導した方がいいのですね」と追加質問すると「その通り、よろしくお願いします。」とのお答えでした。
 ほかはちょっとゆるい講演でした(^^;)。


<7/17(日)>
■ 一般演題「気管支喘息(吸入指導)」
 門前薬局のPAE有資格者の薬剤師さんの発表が印象的でした。
 当院では看護師が指導している内容を、そのまま院外薬剤師が担当していることに驚きました。
 そういう展開もあったか!?
 たしかに、医院ではいくら指導しても収入に反映されませんが、薬剤師はもともと「薬剤指導料」という項目でお金を徴収している事実を思い出し、本来は薬剤師が説明することなんだ、と改めて認識した次第です。
 でも現実は・・・指導できる能力・時間がある薬局は多くないと思われ、演者もそれを認識しており「これから広めていきたい」旨を質疑応答でコメントしていました。

■ 教育講演3「よくわかる小児への免疫療法〜皮下と舌下免疫療法を中心に〜」
 免疫療法を俯瞰し、どうあるべきかを解説した学会ご意見番のお話にただただ頷くばかり。
 いろいろ質問したいことがあったけど、時間切れで次の会場に向かわざるを得なかったことが残念です。

■ 教育セミナー4「臨床現場でのスキンケア指導〜患者さんとのコミュニケーション〜」
 講演者のキャラが興味深い(^^;)。
 すました顔してキツいことをさらっと言うタイプで、一見おとなしそうですが肝の据わった女医さんでした。
 重症アトピー性皮膚炎は親が元気なうちは何とかよくしようとドクターショッピングして治療に積極的ですが、親が年老いて行動が制限されるようになると、患者自身は「引きこもり」状態に陥りやすいという厳しい現状を話されました。
 たいていそのような患者・家族は「医療不信」「ステロイド忌避症」状態となり、民間療法に手を出すももっとひどくなって人生をあきらめてしまうという悪循環に陥りがち。 
 そういう患者さんを診療している医師からの言葉には重みがありました。


 私にしては珍しく、缶詰状態でアレルギーの勉強をした2日間でした。
 充実感とともに帰路についた矢先、トラブルに遭遇。
 東北自動車道に乗り福島県を抜けるところで車が故障し、JAFのお世話になるとは・・・いろんな意味で忘れられない学会出張となりました(^^;)。

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎、どっちが先?

2016年03月15日 06時17分12秒 | 食物アレルギー
 食物アレルギーとアトピー性皮膚炎はどちらが先に発症するのかという議論が盛んです。
 従来は胎盤・母乳による食物感作後にアトピー性皮膚炎が発症するとされてきましたが、近年、「経皮感作」という概念が注目され、いや、アトピー性皮膚炎が先なのではないか、と言われるようになりました。
 その関連論文です;

■ アトピーが食物アレルギーの要因にも?
ケアネット:2016/03/15
 アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは、因果関係が示唆されているものの完全には明らかになっていない。このことが予防と治療に重大な影響を及ぼしている。英国のキングス・カレッジ・ロンドンのTeresa Tsakok氏らは、システマティックレビューの結果、アトピー性皮膚炎、食物感作および食物アレルギーとの間には強くかつ用量依存的な関連があることを確認したという。著者は、「重症度および慢性度が高いアトピー性皮膚炎は、とくに食物アレルギーと関連しており、アトピー性皮膚炎が食物感作および食物アレルギーの発現に先行するエビデンスもある」と述べている。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌オンライン版2016年2月18日号の掲載報告。
 研究グループは、アトピー性皮膚炎の重症度・慢性度・発症年齢に対する食物アレルギーの影響、および両者の時間的関係について調べる検討を行った。MEDLINEおよびEmbaseを用い、2014年11月までに発表されたアトピー性皮膚炎と食物アレルギーに関する研究論文を検索し、調査した。
 主な結果は以下のとおり。

・66件の研究をレビューに組み込んだ。
・住民ベース研究が18件、高リスクコホートが用いられた研究は8件で、残りはアトピー性皮膚炎または食物アレルギーと診断された患者を対象としていた。
・住民ベース研究の分析の結果、生後3ヵ月時の食物感作の可能性が、健常児に比べアトピー性皮膚炎患児で6倍高かった(オッズ比:6.18、95%信頼区間:2.94~12.98、p<0.001)。
・また、他の住民ベース研究を分析した結果、アトピー性皮膚炎を有する参加者の53%が食物に感作しており、最大で15%が負荷試験において食物アレルギーの徴候を示したことが報告されていた。
・アトピー性皮膚炎確定患者を対象とした研究の分析では、食物感作の割合は66%に達し、負荷試験で食物アレルギーを呈した患者の割合は81%にものぼった。
・16件の研究が、食物アレルギーは重症アトピー性皮膚炎と関連していることを示唆した。
・6件の研究は、早期発症または持続性のアトピー性皮膚炎が、とくに食物アレルギーと関連していることを示した。
・1件の研究は、アトピー性皮膚炎が食物アレルギーの発症に先行したことを明らかにした。

<原著論文>
Tsakok T, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016 Feb 18.


 最後の一文、「アトピー性皮膚炎が食物アレルギーの発症に先行したことを明らかにした」の論文を読んでみたい・・・。

第16回食物アレルギー研究会へ参加してきました。

2016年02月15日 05時52分08秒 | 食物アレルギー
2016.2.14に昭和大学上條講堂で開催された件名の研究会に参加し、まる1日、食物アレルギーにどっぷりつかってきました。

今回は「学校給食におけるアレルギー対応の現状と課題」がメインテーマ。
上記について、医師・学校・教育委員会・文部科学省の各立場から講演がありました。

食物アレルギーの診断をするのは医師ですが、それを患者である子どもの日常生活にどう反映させるか・・・QOLを落とさず、かつ安全を確保する方法がいかに難しく、現在も手探り状態であることを浮き彫りにしたシンポジウムでした。

例えば、重症食物アレルギー児が入学し、彼は給食時間は他の生徒から離され、先生の隣で食べます。誤食事故を防ぐためです。
しかし、安全を期するあまり、学校はボランティアを雇用して彼が誤食しないように見張り、給食時間以外でも彼の机を離しはじめました。
彼はみんなでわいわい楽しいはずの給食時間も、ふだんの学校生活も失ってしまったのです。
確かに以前より安全は確保されたものの、学校生活のQOLは下がりました。

こんな感じです。

一般演題を挟んで、午後は現在改訂中の食物アレルギーガイドラインの中間報告。
診断に関しては、プロバビリティ・カーブの多様性やアレルゲン・コンポーネントによる進歩が紹介されました。
治療に関しては、経口免疫療法の位置づけについては「臨床研究」にとどめ、「一般的な治療」と認められないことが再確認されました。
一時期ブームとなった「食べさせて治す」という方法が、その危険性により時期尚早として沈静化した感があります。

ただ、経口免疫療法~経口負荷試験の間にグレーゾーンがあることを、私を含めて疑問に思っている医師が多いことも無視できません。

経口負荷試験は、毎日食べさせて脱感作状態を作り、それを維持することで治癒を期待する方法。
一方、経口負荷試験は本来は「食べて症状が出るか出ないかの確認」という検査目的ですが、それを定期的に行うことにより、経口負荷試験の緩徐法に近づいてくるのです。
それがどこまで検査で、どこから治療なのか・・・今のところ誰にもわかりません。
今後の臨床研究の大きな課題です。

上記研究会とは別に、前日の2/13に「第54回台東区小児科医会」にも参加しました。
テーマは「食物アレルギー~クリニック外来での食物負荷試験と最近のトピックス」(福岡圭介先生)です。
臨床現場で食物負荷試験を実践されている講師の豊富なノウハウを伝授していただきました。
各食品交換表の使い方や、食品中のアレルゲン量の複雑さに舌を巻きました。

講師に「先生の行われている経口負荷試験は検査ですか、それとも治療の要素を含んでいますか?」と質問したところ、「治療のつもりでやっています。急速減感作ではなく緩徐法に近いという意味で」との返答でした。

この辺がもう少し整理されると、小児科開業医でも経口負荷試験がより安全にできるようになると思います。
それにしても、食物アレルギーの知見は広く深い・・・アレルギー専門医でも日々の研修とアップデートが欠かせない分野です。


<参考HP>
・「食物アレルギー診療の手引き2014」(厚生労働科学研究班)
・「ぜんそく予防のためのよくわかる食物アレルギーの知識&食物アレルギーを正しく知ろう」(2010年、環境再生保全機構)
・「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(H20年、文部科学省)
・「学校給食における食物アレルギー対応について」(文部科学省)
・「学校における食物アレルギー対応指針」(H27年、文部科学省)
・「学校給食における食物アレルギー対応の手引き」(H22年度版、愛知県)
 → 2/16に「学校における食物アレルギー対応の手引き」と名前を変えてアップされる予定
・「学校給食会」(各県に設置)
・「よこはま学校食育財団」・・・ネット上で献立の食品の原材料がわかります。
・「栃木市教育委員会の取り組み
 → 有事の際に利用する「アクションカード」の提案と実践

米国学会推奨のアナフィラキシー診療

2015年10月08日 06時57分30秒 | 食物アレルギー
 アナフィラキシーの際に使用する薬剤はエピネフリン。
 これは蘇生に使う薬でもあり、医師でも使用を躊躇するもの。
 しかし、重症化するまで待つと予後が悪くなる可能性もあり、天秤にかけて「エピネフリンが必要であるにもかかわらず投与されなかった場合のアウトカムの方が,不要かもしれないが投与された場合のアウトカムよりも深刻であることが考慮された」として早期使用が選択されるべきだという推奨です。

■ 確診できなくてもアナフィラキシー疑えばエピネフリン投与を
 米の専門学会が合意に基づく推奨
2015.08.13:メディカル・トリビューン

 米国のアレルギー・喘息・免疫を専門とする学会であるAmerican College of Allergy, Asthma and Immunology(ACAAI)は8月6日,救急外来(ED)に搬送されたアナフィラキシーが疑われる患者に対しては,確診できない場合でもエピネフリンを投与すべきとする同学会専門家委員会の合意に基づく推奨をAnn Allergy Asthma Immunol(2015年8月6日オンライン版)で公表した。

□ NIAIDなどの基準満たさなくても投与を推奨
 アナフィラキシーは全身性かつ致死性のアレルギー反応で,救急医療スタッフが対応に苦慮することの多い病態である。そこでACAAIは2014年11月,アレルギーおよび救急医療の専門家から成る委員会を招集。最新文献のレビューを行い,EDでのアナフィラキシー治療における問題と治療改善のための対策について議論した。
 その結果,
①迅速かつ正確な診断が難しい
②初期対応でエピネフリンが使用される頻度が低い
③フォローアップが適切に行われていない
-ことなどが重要な問題として挙げられた。また,これらの問題を踏まえ,EDに搬送された患者でアナフィラキシーが疑われる場合には,米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)/食物アレルギー・アナフィラキシーネットワーク(FAAN)が示す診断基準※を完全に満たさなくてもエピネフリンを投与すべきとの推奨が示された。
 この推奨を示した背景について,専門家委員会は「(アナフィラキシーと診断された場合だけでなく)重症のアレルギー反応やアナフィラキシーに急速に進行する可能性がある場合でもエピネフリン投与の適応となる。したがって,エピネフリンを投与すべき全ての患者がNIAID/FAANの診断基準を満たすことにはならない」と説明している。

□ 軽症でも一部の患者には投与を推奨
 また,アナフィラキシーでは当初は症状が軽症でも多臓器にわたる症状を伴う重篤な病態に急速に進行する可能性があるが,ほとんどのGLでアナフィラキシーに進行する可能性のあるアレルギー反応の重症度が明確に示されていないことを専門家委員会は指摘。このことが,軽症から中等症のアレルギー症状に対する治療選択を難しくさせているとして,「症状が軽症であっても,過去に経験した重篤なアレルギー反応の誘因となった物質に曝露した場合には,ファーストライン治療としてエピネフリンを投与すべき」との推奨も示された。
 さらにEDでアナフィラキシーの治療を受けた患者は,その後アレルギー専門医に紹介し,経過観察を継続して行うべきとの推奨も示された。
 専門家委員会委員長で米・Emory UniversityのStanley M. Fineman氏は「EDの医師から『ガイドラインの診断基準を満たさない患者にはエピネフリンの投与を躊躇してしまう』という悩みを聞いたことがある」と自身の経験を紹介。今回の推奨では「エピネフリンが必要であるにもかかわらず投与されなかった場合のアウトカムの方が,不要かもしれないが投与された場合のアウトカムよりも深刻であることが考慮された」と説明している。
(岬 りり子)

※ NIAID/FAANのアナフィラキシー診断基準では,①「皮膚あるいは粘膜における急性症状」と「呼吸困難,低血圧または末梢器官における障害」②アレルゲンである可能性が高い物質への曝露後に以下のうち2つ以上の症状が急速に発現した場合;皮膚あるいは粘膜における症状,呼吸困難,低血圧またはそれに関連した症状,消化管症状③アレルゲンと判明している物質への曝露後(数分~数時間後)に血圧が低下-のいずれかを満たした場合に「アナフィラキシーである可能性が極めて高い」と判断される。

「新アレルギー治療 ~鍵を握る免疫細胞~」(NHKスペシャル)

2015年04月14日 18時42分30秒 | 食物アレルギー
 NHKスペシャルでアレルギーを扱った番組を放送してました。
 録画して2回も見てしまいました(笑)。

 アレルギーの主役となるヒトの細胞の変遷を思い出します。
 私が小児科医になった四半世紀前は、IgE抗体とそれを産生するBリンパ球でした。
 しかし、IgEがなくてもアレルギー炎症が惹起されることが証明され、主役は好酸球へ。
 そして今、制御性T細胞(Tレグ)に取って代わられたのでした。



■ 新アレルギー治療~鍵を握る免疫細胞~
(2015年4月5日:NHK)
 まだまだ花粉症のつらい季節が続きます。他にも、食物アレルギーや、動物アレルギー、ぜんそくなど、先進国では実に3人に1人が、何らかのアレルギーに苦しんでいると言われています。アレルギーは、これまで完全に治すのは不可能だと言われてきました。ところが、ある発見によって完治への可能性が見え始めています。
 鍵になるのが、“制御性T細胞(Tレグ)”。発見した大阪大学の坂口志文さんは、その業績によって先日「ガードナー国際賞」の受賞者に選ばれました。“Tレグ”は免疫の過剰な攻撃を押さえ込む役割を持っています。最先端の研究現場では“Tレグ”のコントロールによってアレルギーが完治するケースが出始めています。
 番組では、“Tレグ”とアレルギーの関係性について詳しくご紹介し、今研究が進められている新たな治療の、具体的な可能性についてお伝えします。


 IgEを発見した石坂公成先生はノーベル賞には届かなかったけれど、Tレグ発見者の坂口志文先生は可能性がありそうですね。

ピーナッツを食べさせるとピーナッツアレルギー予防になる?

2015年04月14日 18時28分46秒 | 食物アレルギー
 時代は変わりました。
 食物アレルギーの予防は「食べさせないこと」ではなく「食べさせること」へ180度方向転換したのです。

 先日のNHKスペシャル「新アレルギー治療~鍵を握る免疫細胞~」にも登場した医師(King's College London教授のGideon Lack氏)の論文を扱った記事です;

■ 乳幼児期の抗原摂取でピーナツアレルギー発症リスクが低下~英国のランダム化比較試験で明らかに
(2015.2.24:MTPro)
 乳幼児の食事からピーナツなどのアレルギー性食品を除去することは,臨床ガイドラインや小児科医,アレルギー専門医により,長年の間推奨されてきたが,こうした除去食によるアレルギー予防効果が認められないことが徐々に報告されるようになり,英米のガイドラインでは除去食に関する推奨は2008年に削除されている。英・King's College London教授のGideon Lack氏らは,乳幼児600児以上を生後11カ月以内にピーナツ蛋白質を頻繁に摂取し始める群と除去し始める群にランダム化して追跡した結果,5歳時点でのピーナツアレルギー発症率は,摂取群で有意に低かったことをN Engl J Med(2015年2月23日オンライン版)で報告した。アレルギー性食品の摂取がアレルギー予防に有効な方法であることを示したランダム化比較試験(RCT)は今回のものが初めてである。

◇増えるピーナツアレルギー,英米では過去10年で2倍に
 食物アレルギーの発症頻度は,過去数十年間に上昇している。特に,英国と北米におけるピーナツアレルギーの発症頻度は過去10年間に2倍以上になっており,英国では就学年齢の小児の50人に1人で見られ,西欧や米国,オーストラリアでも小児人口の1~3%を占めている。さらに,アフリカやアジア諸国においてもピーナツは主要なアレルギー食品となっている。ピーナツアレルギーは幼児期に発症し,成長して治癒することはまれである。現在のところ治癒的治療法はなく,患者や家族にとっては大きな負担で,QOL低下の原因となっている。
 今回報告されたLEAP※試験では,英国のEvelina London Children's Hospitalにおいて,生後4~11カ月の児で,重度の湿疹か卵アレルギーの既往があることからピーナツアレルギーが高リスクと考えられる640児を登録し,ピーナツ摂取群とピーナツ除去群にランダム化割り付けし,5歳時点でのアレルギー発症率を比較した。ピーナツ摂取群には週3回以上ピーナツ蛋白質を含む食品を摂取させ,ピーナツ除去群には5歳になるまでピーナツを含む食品を摂取させなかった。アドヒアランスの評価は,食品摂取頻度に関する定期的な質問表調査により行い,さらに一部の家庭ではハウスダスト中に検出されるピーナツ蛋白質の量を測定した。

◇摂取群でリスクが70~80%低下
 Intention to treat(ITT)解析において,ランダム化前の皮膚プリックテスト(SPT)で陰性だった集団(530児)では,5歳時点のピーナツアレルギー発症率は,ピーナツ除去群が13.7%であったのに対し,ピーナツ摂取群では1.9%であった(P<0.001)。SPT陽性であった集団(98児)でも結果は同等で,ピーナツ除去群とピーナツ摂取群のアレルギー発症率は,それぞれ35.3%と10.6%(P=0.004)であった。
 重篤な有害事象の発生頻度にピーナツ摂取群とピーナツ除去群で差はなかった。ピーナツ特異的IgG4抗体の上昇は主にピーナツ摂取群で認められ,ピーナツ特異的IgE抗体の上昇が認められた児はピーナツ除去群に多かったSPTにおける膨疹径の大きさとピーナツ特異的IgG4/IgE比低値は,ともにピーナツアレルギーと関連していた。ランダム化された児の98.4%が最終評価まで試験を継続した。このことは,ピーナツ含有食品の早期導入は安全かつ忍容性が高いことを示している。

◇新規推奨の前に適切な摂取量や期間を特定する必要あり
 研究責任者のLack氏は「今回の知見は,臨床上の重要な進歩であり,従来のガイドラインと対立するもので,ピーナツアレルギーの発症率を低下させるには新たなガイドラインが必要であることを示している」と指摘している。ただし,今回の試験では,スクリーニングされた児の約10%がSPTでピーナツアレルギーの強い徴候(4mm超の膨疹)を示し,ランダム化から除外されている。同氏も「こうした児における早期ピーナツ摂取の安全性と有効性は不明であり,さらなる研究が必要である。湿疹や卵アレルギーの既往がある乳幼児の親は,ピーナツ含有食品を摂取させる前に,アレルギー専門医や小児科医,かかりつけ医に相談すべきである」と述べている。
 米・University of Texas Southwestern Medical CenterのRebecca S. Gruchalla氏らは,同誌の付随論評(2015年2月23日オンライン版)で「今回のRCTは,乳幼児期のピーナツ蛋白質摂取がピーナツアレルギーのリスクを劇的に低下させることを明白に示している」と認めた上で,これを基に新規のガイドラインを作成する前に,適切なピーナツ蛋白質の摂取量・摂取頻度・摂取期間などを見極め,摂取を長期間中断した場合に保護効果が維持されるのか否かも確認する必要があると指摘している。このうち中断後の保護効果については,今回の試験の延長追跡であるLEAP-On研究で検討される予定である。

「食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009」(日本小児アレルギー学会作成)

2015年03月07日 06時33分24秒 | 食物アレルギー
 乳児期発症の食物アレルギーは一生モノではなく、成長過程で治っていくことが圧倒的に多い病態です。
 ですから、タイミングをはかって除去していたアレルゲン食物を解除する作業が必要となります。
 じんま疹などの皮膚症状のみの場合は家庭でも可、しかしアナフィラキシーなど重症化の可能性がある患者さんは医師の監督下に医療機関で行わなければなりません。
 当院は入院施設のない開業医なので、皮膚症状のみの軽症者で家庭で試すのが不安な方には外来待合室で食べていただき、30分様子を見て問題なければ帰宅していただいていました。
 一方、皮膚症状だけでなく咳込み(呼吸器症状)や嘔吐(消化器症状)を伴う患者さんは入院施設のある総合病院小児科へ紹介していました。

 悩ましいのが「離乳食開始前にアレルギー検査をして陽性に出たので除去を指示され、食べたことがない」患者さん。
 「何が起こるのか予測がつかない」のです。

 そこで、件名の本を確認の意味で通読してみました。
 この本は、それまで医療機関ごとにバラバラだった食物経口負荷試験の標準化を期して学会主導で作成されたガイドラインです。

 ムムム・・・重症者中心の記載であり、入院しての食物負荷試験が基本。
 外来での食物負荷試験に関する記述は乏しく、それでも抽出すると「1~2時間かけて摂取、最終摂取後2時間程度観察してから帰宅させる」と病院の外来では可能だけど、開業医では施行困難な設定になっていました。
 それに、私が行っていた「待合室で一度食べてみて30分様子を見て問題なければ帰宅」という単回摂取は「食物負荷試験とは呼ばない」と明言しています。
 あっ、そう。
 なんだか、「入院施設のない開業医レベルでは食物負荷試験はやるべきではない」と言われているような・・・(苦笑)。

 当初の疑問である、「何が起こるのか予測がつかない」患者さんは「すぐに救急医療体勢に移行できる状態」で行うべき、と読めます。
 開業医で行う場合は近隣にアクセスのよい救急搬送可能な病院が必要。
 しかし当地域の基幹病院は小児病棟を閉鎖してしまい、市外の総合病院へ搬送しなければなりません。以前は5分で救急車搬送できたのに、現在は30分かかってしまいます。
 これではアナフィラキシーショック発生時に救急搬送しても、結果が悪ければ「不十分な体制で危険な医療行為を行った」と非難される可能性があります。
 でも考えてみると、毎日10人以上に行っている予防接種もアナフィラキシーショックの発生の可能性がある医療行為です。
 この矛盾をどう考えるべきか?

 というわけで、このガイドラインを読む限り、残念ながら当院では「離乳食開始前にアレルギー検査をして陽性に出たので除去を指示され、食べたことがない」患者さんの食物負荷試験はできない/行うべきではない、と判断せざるを得ませんでした。


*****************<メモ>***************
 自分自身のための備忘録。

■ 経口負荷試験の保険適応
・2006年:一定の基準を満たした施設において入院で行われる経口負荷試験が健康保険で認可された。
・2008年:外来での負荷試験が保険適応

■ 感作されているが直接的には未摂取の食品の経口負荷試験
・母乳を介する食物除去負荷試験が陽性の場合、その食物アレルゲンを直接摂取するとより強いアレルギー症状が誘発される可能性があるため、初回投与時には感作の程度を参考にして適応を決定し、適応がある場合にも負荷試験に準じて慎重に行う必要がある。
・感作が証明されているが摂取歴のない食品は、原則として1歳を過ぎてから、慎重に負荷試験を行う。

■ アレルゲンの種類と負荷試験の適応
・鶏卵、牛乳、小麦、大豆は、最終の誘発歴から1年経過したら負荷試験の実施を検討する。
・ピーナッツ、木の実、甲殻類、ソバで誘発症状の既往があるものは、原則として負荷試験は行わない。
・コメ、野菜、大豆、イモ、肉類はIgE高値でも無症状であることが多く、これらの食品は乳児でも比較的安全に負荷試験を行うことができる。

■ 特異的IgE抗体の捉え方
・即時型反応を反映するが、非即時型反応には適応できない
・測定法はImmunoCAP®(ファディア株式会社)がもっとも広く使用されており、国際的にも食物特異的IgE抗体価の臨床的な評価がなされているのはこの測定法しかない。
・プロバビリティーカーブ(probability curve)で評価されているのは ImmunoCAP®に基づいたデータだけである。カットオフ値が設定されているのは卵、牛乳、ピーナッツ、クルミ、魚など。

■ 陽性適中率(検査陽性の場合に負荷試験陽性の確率)
・鶏卵、牛乳:プロバビリティーカーブ参照
・小麦:100U/mLでも陽性的中率は75%程度にとどまる。
・大豆:65U/mLで陽性適中率86%という報告もあるが、相関は弱い。
・魚:20U/mLで陽性適中率100%という報告もあるが十分には追試されていない。
・ピーナッツは13U/mL、クルミは18.5U/mLで陽性適中率99%
・アーモンドやゴマは100U/mLでも陽性適中率70%台

■ 非即時型アレルギー反応の検査
・アトピー性皮膚炎の原因診断として、食物抗原を皮膚に貼付するアトピーパッチテスト(atopy patch test, APT)が非即時型反応の推定に有用とする報告もあるが、今のところコンセンサスが得られていない。

■ 耐性獲得後に再発する可能性
・ピーナッツアレルギーでも、乳児期発症例の一部はアウトグローすることがある。しかし、その後の摂取に伴って再発する可能性も同時に指摘されている。
・一度耐性獲得した牛乳アレルギーが、食物依存性運動誘発アナフィラキシーとして再燃した報告もある。
・一度耐性獲得した食品でも、しばらく完全除去をすると反応性が再発する場合もあり、耐性獲得と真の寛解(治癒)との違いは、現時点ではほとんど解明されていない

■ 診療所で負荷試験を行うには
・診療所で実施する場合は、ただちに入院治療に移行できる条件を整えておく。
・他の感染症患者との接触を避け、衛生的に食品を摂取できる場所や時間の工夫が重要である。

■ 負荷食品の具体例
ゆで卵:沸騰してから20分ゆでる(一般の固ゆで卵は煮沸12分程度)。卵黄はゆであがったらすぐに取り出す。時間が経つと卵白オボムコイドが卵黄部分に移行するため。味付けとして、塩(ケチャップでもよい)を用意してもらう。
牛乳:加熱によるアレルゲン性の変化は少ないため、生牛乳で行う。ヨーグルトはアレルゲン性も牛乳と同程度で利用可能。
うどん:ゆでたうどんを50g持参。原材料が小麦粉、水、塩分だけのため負荷食品として使いやすい。めんつゆは、ふだん使っているものを、別の器に入れて持ってきてもらう。

■ 負荷試験のプロトコール
・総負荷量の1/32、1/16、1/8、1/4、1/2を目安に、3~6回程度に分割して漸増摂取する。
・摂取間隔は、15~30分間隔程度を標準とする。総負荷量を1~2時間程度で摂取させる。
・最終摂取後2時間程度は病院内で観察する。
・観察時間内に、口周囲の軽度の発赤や小さい膨疹、わずかな咳など、誘発症状の始まりとも思われる軽微な所見を認めた場合は、適宜観察時間を延長するか、次の摂取量を減らすなど、状況に応じて判断を行う。
・摂取後24時間以上経過してから出現した症状を陽性と判断するには、再現性を証明することが必要である。

■ 負荷試験前に中止すべき薬剤
・抗ヒスタミン薬・・・ 72時間
・β-刺激薬・・・ 12時間
・テオフィリン・・・ 12時間
・経口DSCG・・・ 12時間
・Th2サイトカイン阻害薬・・・ 12時間
・ロイコトリエン受容体拮抗薬・・・ 24時間
・経口ステロイド薬・・・ 1ヶ月程度

■ 負荷試験当日のチェックポイント
・感冒や下痢など急性疾患の場合、治癒後1週間程度までは負荷試験を延期する。
・ウイルス感染症などの伝染性疾患との明らかな接触があった場合も延期する。

■ 負荷試験の開始量
 タンパク質量として、卵で1~500mg、ミルクで0.6~165mg、魚で5~500mg。

■ オプションとしての加工食品
<鶏卵関連>
・卵黄:固ゆで卵(前述)の卵黄を使用。卵黄のつなぎも微量の卵白混入がある。こうしたわずかな卵白の混入を前提として、卵黄負荷試験を行う場合もある。
※ ゆで卵が嫌いな子どもには・・・
・卵ボーロ、クッキー、カステラ、卵白入り練り製品(かまぼこなど):卵の含有量が明確でない点が欠点。
・スクランブルエッグや卵をつなぎに使用したハンバーグ:均一な調理法や摂取量の調整について注意すべし。
・マヨネーズ:卵黄が主であるが、卵白を少量含有する。アレルゲン性は卵白より低いが、加熱処理が行われていないので、生卵に準じて扱う方が安全である。
<牛乳関連食品>
・加熱牛乳、乳クッキー、ミルクパン:カゼイン以外のタンパク質成分の加熱変性を期待して用いられる。
<魚関連食品>
・缶詰(ツナ缶など)高圧下での高温処理のため、タンパク質の変性が起きており、アレルゲン性の低下が生じている。多種の魚に対するアレルギーがあっても摂取できることが多い。

■ 食物アレルギーを有するアトピー性皮膚炎における即時型反応と非即時型反応
 食物負荷試験での報告が二つ;
・即時型:70%、遅発型:25%、混合型:5%(Niggemann)
・即時型:70.4%、非即時型:3.7%、両者陽性:25.9%(森田)

■ アナフィラキシーに対する0.1%アドレナリンの使用法
・0.01mL/kg、0.3~0.5mLを極量とする。
・効果は1~2分から出現し、15~20分で消失する。効果不十分、
あるいは一度軽快した症状が再燃してきた場合には、15~20分後に反復投与する。

■ ガイドラインでは正式に取り扱わない方法
口唇塗布試験(labial food challenge, LFC)
 重症者に対する食物負荷試験の初回摂取時に、負荷食品を下口唇の口内縁部に微量付着させ、塗布局所および全身反応を判定する方法。

経母乳摂取
 母乳中には、母親が摂取した微量(数十ng/mL程度)の食物アレルゲンが分泌される。それが授乳中の患児に誘発症状を引き起こすかどうかを確認するために、母親がアレルゲンと疑われる食品を摂取した後に授乳をして、児の症状出現を観察する。

非即時型反応診断のための連日摂取
 疑われる食品を3~7日間連続摂取して、湿疹など誘発症状の出現を観察する。