小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

NHKスペシャル「生命大躍進」

2018年04月22日 19時15分11秒 | いのち
NHKスペシャル「生命大躍進」(2015年放送)
第1集 「そして"目"が生まれた
第2集 「こうして"母の愛"が生まれた
第3集 「ついに"知性"が生まれた



 3年前に録画してあった番組を見てみました。

第1集「そして“目”が生まれた」
 地球上の生物の歴史は40億年と途方もない年月ですが、光を感じる“目”を持ったのは5億年前のことだそうです。
 もともと光を感じる遺伝子(ロドプシン遺伝子)は、植物性プランクトンが有していました。

 ロドプシン遺伝子をなぜ動物が持つようになったのか?

 番組では、動物が食べた植物性プランクトンがたまたま生殖細胞に侵入し、遺伝子DNAの中に光を感じる遺伝子が組み込まれた、と説明していました。
 昆虫(節足動物)の目は“複眼”で、輪郭がぼんやりとしか見えません。
 一方、動物(脊椎動物)の目は“カメラ眼”と呼ばれ、くっきりハッキリ見えます。

 カメラ眼はどうしてできたのか?

 ここも、遺伝子の突然変異で説明されていました。
 ふつう、生殖細胞の遺伝子数は、体細胞の半分で、精子と卵子が結合してもとの数に戻ります。
 しかし、たまたま体細胞と同じ遺伝子数をもつ精子と卵子が発生し、それが結合して奇跡的に生を受け成長すると・・・ここまででもあり得ない確率ですが・・・細胞数が2倍のスーパー個体が発生します。さらに長い歴史の中で、同じ奇跡がもう一度起こり、4倍体の遺伝子数を持つウルトラスーパー個体が発生した。
 4倍数の遺伝子をもつと、複雑に進化することが可能となり、その一つがカメラ眼であると説明されました。

 奇跡に次ぐ奇跡、ホントかなあ?

 ただ、環境に適応して変化すると長らく考えられてきた“進化”のとらえ方が変わっていることに気づきました。
 遺伝子変異は常に発生しており、ほとんどが淘汰されてしまいますが、ごくまれに環境に有利かつ生体に有利なモノが発生するとそれが選択的に残される、というカラクリです。

 これは、抗菌薬に対する耐性菌の発生と似ています。
 抗菌薬の使いすぎで耐性菌が発生すると考えがちですが、そう単純ではありません。
 細菌でも遺伝子変異は常に発生しており、その中のあるモノが抗菌薬投与中にたまたま生き残ると「耐性菌」と呼ばれるモノになるだけです(やはり単純か)。

第2集 こうして"母の愛"が生まれた
 今から2億5000年前、初期の哺乳類は卵を産んでいたそうです。
 卵を細菌感染から守るため、母親はリゾチームという殺菌物質を含む汗のような体液を皮膚から分泌してそれを卵に塗って保護していました。
 あるとき、偶然の遺伝子変異で「αラクトアルブミン」というタンパク質が作れるようになりました。これは少し甘い栄養分。実はリゾチームと立体構造が酷似しています。
 すると生まれた子ども達は、リゾチームとαラクトアルブミンを含んだ母の汗を舐めるようになりました。
 これが母乳の始まりです。
 私が驚いたのは、「リゾチーム」と「αラクトアルブミン」。
 これは現在の人間の母乳にも含まれる物質であり、とくにアレルギーの原因になるコンポーネントとしても有名です。こんなに長い歴史があったとは・・・。

 それから、卵として産み落としていたシステムを、体内に取り込み胎盤を介して育てるシステムへ変換しました。
 これは、敵に襲われたときに一緒に逃げやすい利点があります。

 どのようにしてほ乳類は胎盤を手に入れたのか?

 意外なことに、これはウイルスから入手しました。
 別の働きをするレトロウイルス由来の遺伝子が、哺乳類の祖先に感染した際、生殖細胞に進入して代々受け継がれ、それが発効したときに胎盤を造ることになった、という夢のような話。

 ウイルス感染が遺伝子を修飾して人類を進化させてきたことは有名です。
 ミトコンドリアもウイルス由来と言われているし、人間の遺伝子の9割はウイルス遺伝子の残骸と呼んだこともあります。

 進化は奇跡の積み重ねから造られてきたのですね。

第3集 ついに"知性"が生まれた
 ここでもやはり、遺伝子の突然変異やトラブルが偶然(というか奇跡的に)人類の進化に貢献したらしい、とのこと。
 ネアンデルタール人は、人類の祖先(ホモ・サピエンス)ではなく、絶滅した特殊な霊長類と説明されていました。
 彼らはホモ・サピエンスより脳の重量が1割多かったことが骨の分析から判明しています。
 つまり、ホモ・サピエンスよりも知能が発達していた可能性があるということ。
 それから、体格ががっしりしていて、腕力はホモ・サピエンスの2倍!
 しかし彼らは進化の歴史から消え去りました。

 なぜネアンデルタール人は絶滅したのか?

 いろんな分析を統合すると、彼らは言語を持たなかった可能性が推測されています。
 そのため、進化から取り残されてしまった。
 ネアンデルタール人と人類の祖先であるホモサピエンスは、言語に関する40万の遺伝子情報のうち1つだけ異なるそうです。
 それが言葉の発達に影響を与え、片や絶滅し、片や進化の頂点に君臨することになった、というファンタジー。
 この分野ではまだまだ未解明の事がたくさんあり、研究は現在進行中。

<内容紹介>

第1集 そして"目"が生まれた
 40億年前の地球最初の生命から私たち人間まで、一度も途切れることなく繋がっている命の記録、DNA。その中には私たちの祖先に当たる古代生物たちの“痕跡”が残されている。信じがたい幸運や、想像を絶する大絶滅といった波乱万丈のドラマの末、進化の大躍進を成し遂げてきた“私たちの物語”とは?「生命大躍進」では、遙かな時を超えた壮大な進化のドラマを3回シリーズで描く。
第1集は「目の誕生」の物語。今からおよそ5億年前、それまで目を持たなかった祖先が、突如として精巧な目を持つようになった。いったいなぜ、急に目を持つように進化できたのか?私たちの「目の誕生」に秘められた驚きのドラマに迫る。

(放送を終えて)
 「遺伝子は時に、異なる種の間を移動し、それをもらった生き物は突然、“パワーアップ”できる。動物の目はそうして生まれた器官の一つ」3年前、国内のあるDNA研究者からこの話を伺い、ビックリ仰天したことこそ、「生命大躍進」シリーズの誕生の瞬間でした。なぜなら普通、「進化は親から子へ世代交代する過程で起こる」と考えられているからです。
 DNA研究が示す「種を越えた遺伝子の移動」という進化メカニズムは、従来の進化論を根底から覆すような話でした。「ひょっとして自分もカニを食べたら、カニの遺伝子が移ってカラができるかも。葉っぱを食べたらその遺伝子で光合成ができるかも・・・(人ではさすがに起きません)」などと妄想しながら、その日、興奮して帰路についたことを鮮明に思い出します。
 この取材のおかげで「DNA研究を取材すれば、過去の化石研究を軸とした生命シリーズと違う、全く新しい生命進化の番組ができる!」と確信することができました。
 第1集では、その話をしてくれたDNA研究者を徹底的に取材し、研究者の脳内だけにあった「目誕生の物語」のビジュアル化に挑みました。実はDNA研究では肝心の「遺伝子をもらって大躍進をした祖先の姿形が分からない」という難題がありましたが、そこは化石研究者の助言を受け、当時の祖先の姿を科学的に推定することで乗り越えました。
 こうして、DNA研究者が思い描く、眼誕生の瞬間を描きました。また、難解なDNAの話をどうかみ砕いて伝えるか、という点にも苦労しました。議論の末、新垣結衣さんに「進化に詳しい姉」と「あまり興味のない“ふつうの”妹」の二役に扮して頂き、二人の軽やかな会話の中でDNAの本質を伝えていく、という演出にたどり着きました。
 この番組では、時にCGで再現した古代の生物たちが、新垣さんや研究者たちがいる現代の世界へと飛び出します。遊び心にあふれたこのシリーズを通じ、人がいまここにいるようになった理由である「太古からの命の物語」に、子供から大人まで、家族みんなで思いをはせて頂ければ、担当者として幸いです。

第2集 こうして"母の愛"が生まれた
 第2集は、我が子を思う「母の愛」の誕生に迫る。今からおよそ2億年前、卵を産んだらそれで終わりだった祖先たちが、突如として献身的な子育てを始めた。それが、人間ならではの深い母子愛にまでつながった裏側には、祖先のDNAに起きた大異変があった!
 俳優の新垣結衣さんが、一人二役で姉妹を演じ、番組をナビゲート。

(放送を終えて)
 「ヒトのDNAの一部はウイルスに由来している」――そんな信じがたい話を研究者から聞かされたのが1年前のこと。しかも、そのウイルス由来のDNAが、ほ乳類の進化にも大いに関係しているというのだから、ますます信じられません。
 しかし、取材を進めていくと、過去のウイルス感染によって生物が進化していった証拠が、次々と見つかっていることがわかり、生物の教科書で学んだ進化論とは全く違う、SFのような新たな進化のイメージにとてもワクワクしたことを思い出します。
 番組では、こうした新しい進化論の中から、お腹で赤ちゃんを育てるための臓器「胎盤」の誕生にウイルスが関わっているという最新トピックと、それが人間ならではの「愛情あふれる子育て」へと繋がった物語をご紹介しました。
 想像に難くないことですが、ウイルス遺伝子が動物のDNAに入り込む時には、深刻な病気を引き起こすことがわかっています。多くの研究者に協力していただき、胎盤誕生の際に起きたであろう、ウイルス大流行の様子をリアルなCGで再現することに挑戦しました。私たちの祖先が絶滅寸前の危機を乗り越え、さらには侵入したウイルスの能力まで取り込んで進化してきた、その「たくましさ」を表現できるように、なんどもCGを練り直しています。
 私自身は、そうした祖先たちの苦闘の積み重ねの上に、自分の命があると想像すると、なんだか前向きに生きる力が湧いてきます。
 この3回のシリーズで紹介する、いくつもの奇跡的な進化の物語から、何かポジティブなメッセージを受け取っていただければと願っています。

第3集 ついに"知性"が生まれた
 最終回の第3回は、私たちの“知性”の誕生の謎に迫る。悠久の生命史の中にあって、文明を持ちうるほど高い“知性”を持った生き物は、私たち人間・ホモサピエンスだけだ。
 どのような進化の物語の末に、私たちはこの“知性”を獲得できたのだろうか?
 最新のDNA研究は、その謎をとく『鍵』ともいえる太古の事件を見いだした。実は、祖先達はおもいもよらぬことで脳を巨大化し、知性を高度化させたのだった・・・その驚きのドラマとは。
 最新研究成果に基づく超リアルCGで、その太古の事件の現場にタイムトラベル!ナビゲーターの新垣結衣さんと一緒に、私たち人間に至る最後の、そして最大の大躍進を目撃する。

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妊娠初期に野菜を食べた妊婦の子、ぜんそく発症率が減少

2018年04月08日 18時17分19秒 | 気管支喘息
 喘息の発症を予防することは可能なのか・・・今までにもいろんな説が出ては消えてきました。
 喘息治療薬である吸入ステロイドを軽症の時から導入すると早く治るのではないかと期待された時期がありましたが、これは否定されました。

 ということで、以下のニュースには目を見張りました。
 妊婦さんが妊娠前期に野菜をたくさん食べることで、子どもの喘息の発症率が下がる、それも数%ではなく40%も!
 ほ、ほんとでしょうか。

■ 妊娠初期に野菜を食べた妊婦の子、ぜんそく発症率が減少
2018年04月07日:朝日新聞デジタル)より
 妊娠初期に野菜を多く食べた妊婦の子どもは、食べる量が少なかった妊婦の子どもに比べ、2歳になった時に息がゼーゼーするなどぜんそく症状の発症率が4割低いことがわかった。国立成育医療研究センターなどの研究チームが6日、発表した。
 妊娠16週までの妊娠初期に野菜の摂取量が最も少なかったグループ(1日当たりの摂取量78グラム)に比べ最も多かったグループ(同286グラム)の子どもは2歳時で、息がゼーゼーしたり胸がヒューヒュー鳴ったりするぜんそく症状の発症率が約4割低かった。
 野菜の中でもとくにホウレンソウや春菊、アスパラガスなど葉酸の多い野菜やブロッコリーやキャベツ、白菜などアブラナ科の野菜でその傾向が強かった。最も多く食べたグループの子どもは最も少ないグループの子どもより、ぜんそく症状の発症率が5割以上低かった。
 妊娠中後期の摂取量はぜんそく症状発生率と関係がみられなかった。

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吃音の研究・対策はこれから

2018年04月08日 15時28分55秒 | 小児医療
 「吃音」(いわゆる“どもり”)というと、吃音ドクター・菊池良和先生が頭に浮かびます。
 自らが吃音であることを公表し、啓蒙書も書いています。
 NHKラジオの「健康ライフ」で彼のお話を聞いたことがあります。

 しかし以下の記事を読むと、吃音に関する研究はまだまだ進んでおらず、対策も“皆無”とは・・・。

■ わが国の吃音有症率が初めて明らかに
2018年03月28日:メディカル・トリビューン)より
 自治医科大学公衆衛生学部門の須藤大輔氏は、幼児吃音症の大規模調査の結果を第28回日本疫学会(2月1~3日)で発表した。吃音症は発達障害支援法に含まれる障害でありながら国レベルの対策が十分に取られておらず、わが国では発症率や治癒率などの基本的なデータもほとんど存在していないのが実情。調査の結果によると、吃音症の有症率は3歳児健診時点で4.7%であり、ほぼ海外と同程度であることが明らかになった。
 日本医療研究開発機構(AMED)の採択事業として「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」(代表:国立障害者リハビリテーションセンター病院第三診療部長・森浩一氏)が2016年に始まっており、今回の調査もその一環として行われた。  
 須藤氏によると、
・吃音症は幼児の100人のうち5~8人に発症、うち8割は自然回復する。
・回復しないと社交不安障害の引き金ともなり、7~12歳の吃音児では社交不安障害のリスクが6倍、成人吃音の22~60%で発症する
ーと報告されている。  
 しかし、吃音症を熟知した専門家が少なく、詳細に診ることができる小児科医や耳鼻咽喉科医も少ない。回復せずに成人になってもフォローする診療科がはっきりしないなど具体的な対応戦略が乏しい状況にある。国レベルでの対策を立てる上で必要となるわが国の疫学データも存在せず、海外のデータに頼っている。そこで、研究事業では吃音症に関する大規模調査を進めている。

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「小児抗菌薬適正使用支援加算」を複雑な思いで見ています。

2018年04月08日 09時33分53秒 | 感染症
 はじめにお断りしておきますが、抗菌薬とは抗生物質のことです。
 この話の基本として「抗菌薬は細菌を退治する薬物であり、ウイルスには効かない」ことをまずご理解ください。
 近年、「抗菌薬適正使用」が叫ばれ、国の施策として実施しています。
 メインの目標は「耐性菌対策」であり、これは世界規模で行われています。

 さて、2018年4月から件名の「小児抗菌薬適正使用支援加算」が発効しました。
 これは、開業医院の小児科担当医が「上気道感染症、急性下痢症には抗菌薬が必要ないことを文書をもって説明」すると計上できる加算です。
 薬を処方して治療すると報酬があるという従来のシステムの真逆で、薬を処方しないことで報酬が得られるという特殊な加算です。

 この話を始めて聞いたとき、私は複雑な思いでした。

 小児科専門医の中では、ずいぶん前から「抗菌薬適正使用」が叫ばれてきました。
 当院でも長らく「かぜの90%はウイルス感染なので抗菌薬が必要なかぜは10%、あなたはこれに該当しない」という説明を重ねてきたので、最近は「抗生物質をください」という患者さんはまれです。
 だからかかりつけ患者でこの加算対象となる患者さんはほとんどいません。
 近隣の小児科専門医も、かぜに抗菌薬をむやみに処方しない方ばかり。

 では、どんな場合に必要なのか?

 それは「今まで抗菌薬を乱用してきた小児科担当医が、適正使用を心がけるようになった」事例でしょう。
 でもそんな小児科専門医は少ないと思います。

 実際に子どもに抗生物質をたくさん処方しているのは、近隣地域では「小児科標榜医」と「耳鼻科専門医」です。
 例えば、元々の専門が小児科以外の医師が当番医を担当すると、たいていかぜの患者さんに抗菌薬が処方されています。
 また、小児の中耳炎や副鼻腔炎を診療する耳鼻科医は、かぜの段階でも予防的に抗菌薬を処方する傾向があると感じています。

 しかし、このような医師には加算できないようなシステムになっており、有効な施策とは思えません。
 条件として「小児かかりつけ診療料」「小児科外来診療料」を採用している必要があるからです。

 当院でも先日、加算第一号が発生しました。
 鼻水が出て耳鼻科を受診し、抗菌薬を含む薬を処方されましたが(中耳炎、副鼻腔炎とは言われていないそうです)、数日後に発熱したので小児科である当院を受診されました。
 診察の結果、特にこじれた所見は認めませんでした。
 治療方針は「かぜ」として対症療法で回復を待ち、現時点では抗菌薬は必要ないことを自作のプリントを渡して説明しました。
 もちろん、経過により今後抗菌薬が必要になる可能性は残っています。

 この加算が抗菌薬適正使用にどれだけの効果があるのか、今後注視していきたいと思います。



 
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花粉症患者は車を運転してはいけない?

2018年04月08日 09時06分14秒 | 花粉症
 花粉症の症状が激しくなると発作的に「くしゃみ」が止まなくなります。
 すると、目の前のことができなくなり、それが車の運転中、事故を起こす可能性が発生します。
 そして事故を起こすと「有罪」になってしまうのです。
 花粉症を甘く見てはいけません・・・。

■ 花粉症ドライバー要注意 くしゃみ・涙…事故の危険
2018/4/5:日本経済新聞)より
 花粉症に悩む車のドライバーにとってくしゃみや鼻水などの症状は事故を招きかねない難題だ。実際、死傷事故を起こし有罪判決を受けたケースもある。スギ花粉だけでなくヒノキ花粉の飛散も本格化するなか、車間距離を確保し、副作用の少ない治療を選択するなど、対策を徹底して安全運転に努めたい。
 「症状が出た以上、速やかに運転を中止しなければならず、過失は軽いとはいえない」。愛媛県今治市の国道で2017年4月、花粉症のくしゃみなどの症状で追突事故を起こし、3人を死傷させた50代の男性に松山地裁今治支部は18年2月、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪で執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。
 男性は花粉症の薬を服用していたが、運転中に目のかゆみや連続するくしゃみなどの症状が激化。前方不注意のまま対向車線にはみ出し、軽乗用車と正面衝突した。
 日本自動車連盟(JAF)も「たかが花粉症と甘く考えるのは禁物」と注意喚起する。JAF東京支部で交通安全講師を務める高木孝さんは「正常な運転ができない状態で事故を起こせば、重い責任を問われる恐れもある」と強調する。
 くしゃみは肋骨骨折の原因になることもあるほど衝撃が大きく、ハンドルの誤操作を招きかねないほか、くしゃみ1回で0.5秒、目をつぶると仮定すると時速60キロで走行中ならその間に車は8メートル進む計算になる。高木さんは「花粉症では2回、3回と連続してくしゃみが出る患者も多い。涙や鼻水などの症状も運転に影響しやすく、大変危険だ」と話す。
 高木さんは車内に花粉を持ち込まない対策として、空調で外気を取り込まないように設定を変更したり、空調のフィルターを定期的に交換したりすることを推奨。「症状がひどい時は運転しないことが最も大事。もし運転する場合も、突然の症状に備えて普段よりも車間距離を広く取り、速度も落とすべきだ」と訴える。
 一方、日本アレルギー学会専門医の池袋大谷クリニック、大谷義夫院長は「花粉症の薬は眠くなったり、集中力が低下したりする副作用にも注意が必要」と指摘する。大谷院長によると、抗アレルギー薬には眠気の副作用があるものが多く、薬の添付文書に「運転などに従事させない」「服用中は車の運転に注意」と明記されているものもある。


 その「運転中の花粉症症状(くしゃみ発作)で交通事故を起こし有罪判決」の記事を紹介します。
 治療していても、激しい症状が出たら車を止めなくてはいけないといいますが、突発的なくしゃみ発作はどうしようもないと思うのですが・・・ゆっくり安全運転するしか対策はないようです。

■ 花粉症状で交通死傷事故、高校教頭に有罪 愛媛・今治
2018/2/3:日本経済新聞
 愛媛県今治市の国道で2017年4月に乗用車を運転中、花粉症による連続したくしゃみなどの症状で事故を起こし、3人を死傷させたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた県立今治北高の教頭、藤沢一仁被告(54)=休職中=に、松山地裁今治支部(満田智彦裁判官)は2日、禁錮3年、執行猶予4年(求刑禁錮3年)の判決を言い渡した。
 満田裁判官は、被告が花粉症による目のかゆみやくしゃみなどの症状が激しくなった際、容易に駐車できる場所もあったのに運転を続けたと指摘。「事前に花粉症対策の薬を服用していたとしても、症状が出てしまった以上、速やかに運転を中止しなければならず、過失は軽いとはいえない」と述べた。
 判決によると、昨年4月23日午後2時35分ごろ、今治市内で乗用車を運転中、花粉症の症状で前方注視が困難になり、対向車線に車をはみ出させ、軽乗用車と正面衝突。軽乗用車に乗っていた同市玉川町の無職の女性(当時61)を死亡させ、同乗の息子2人にも重軽傷を負わせた。
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「こどもの病気 常識のウソ」(松永正訓著)

2018年04月07日 06時46分37秒 | 小児医療
 「こどもの病気 常識のウソ」(松永正訓著)
 中公新書ラクレ、2017年発行



 この本の内容は、読売新聞のWebサイト「YOMIURI ONLINE」の医療コーナー「ヨミドクター」で連載配信されていたエッセイをまとめたものです。
 私は読者の1人でしたが、小児科の臨床現場で感じることがそのまま記されていて感心しました。
 おそらく、中堅小児科医の本音はこんなもの。
 しかし小児科専門医にとっては当たり前すぎて、敢えて発信する内容に思えないことでも、小児外科医から小児科開業医に転身した著者には目新しい事実となり、客観的に記述できたのでしょう。
 
 患者さん向けというスタンスですが、私は「小児科標榜医」にぜひ読んでいただきたいと思います。
 「小児科標榜医」とは、元々の専門は小児科以外(内科、外科、耳鼻科、等々)の専門医が、開業の際に「子どもの患者さんも診ますよ」と小児科も標榜する医師のことです。ぶっちゃけて言えば「小児科は専門外」なので、その医療レベルはピンキリです。
 そのような医師にとってこの本は「小児科医の本音」を知るために格好の教材となると思われます。

 内容について。
 小児外科医しか書けない項目である「胆道閉鎖症」「GER」「盲腸と虫垂炎」「包茎」「重症便秘」「小児がん」「異物誤飲」は大変勉強になりました。
 一方、小児内科関係では大変よく勉強されていることはわかりますが、「?」と思う箇所も無きにしも非ず。

(例1)RSウイルス感染症で、一番やっていけない処方は鼻水止め(抗ヒスタミン薬)である。鼻水止めを飲むと痰が硬くなって呼吸困難が悪化します。咳止めも痰が出せなくなるのでNG。喘息のお子さんのように、気管支拡張剤を吸入してもらったり、内服薬で気管支拡張剤を飲んでもらう

 前半の鼻水止め、咳止めが無効であることは小児科専門医の常識ですが、下線部の「気管支拡張剤で治療する」には疑問があります。気管支拡張剤は気管支平滑筋が収縮して気管支内腔が狭くなった状態を解除する薬です。しかしRSウイルス感染症が重症化しやすい早期乳児では、この気管支平滑筋がまだ発達していません。つまり作用するターゲットがないので、残念ながら効果は期待できません。

(例2)スギ花粉は2月頃から飛び始めて、5月の大型連休を過ぎる頃まで続きます。そこで花粉症が治まるかと思うと、今度はヒノキの花粉の飛散がピークになります。

 一般的に、スギ花粉の飛散は3月がピーク、ヒノキ花粉の飛散ピークは4月とされています。5月のGW以降も症状が続いたり、再燃したりする場合にはイネ科花粉症を疑います。


<備忘録>

・腕のいい外科医とは「失敗しない」医師ではなく「合併症に対して正しい処置が取れる」医師を言う。
・第二世代の抗ヒスタミン薬(ザジテン、アレジオン、アレロック、アレグラ、ザイザル、ジルテック、セルテクトなど)はアレルギーの薬であり、かぜに対して保険適応はない。

・肺炎球菌とインフルエンザ桿菌は鼻の奥に住み着いている常在菌である。そこに存在しているだけなら何の悪さもしない。しかしウイルス感染で鼻の粘膜の炎症が続くと、耳管というトンネルを伝わって中耳(鼓膜の奥のスペース)で繁殖をすることがある。これが化膿性中耳炎である。・・・医学書に膿性鼻汁(黄色や緑色の鼻汁)には抗生物質を使うべきだと書いてあったりするが、この記載は明らかな誤りである。

・抗生物質を使用する場合は「どこの場所に、どんな細菌が感染しているか」を診断する必要がある。

・救急車を呼ぶ際、携帯電話より固定電話が有利である。

・風邪を引いて熱が出たときは、平熱になってその状態を24時間キープできて、はじめて登園させるべきである。

・風邪から肺炎に進行してしまう可能性を考慮して、保護者を納得させるために抗生物質が処方されているが、「かぜの段階で抗生物質を使えば肺炎を予防できる」という考え方は、完全に間違っている。そんなことをしても体内の細菌をゼロにすることはできない。

・寒さの強い日に風邪を引くのは、寒いから引くのではなく、寒いとウイルスが活性化するためである。

・ノロウイルスの検査は3歳未満にしか保険が利かない。

・ロタウイルス胃腸炎患者の下痢便の中には、1gあたり約100億個のウイルスが含まれている。そして、このうちのわずか10個くらいのウイルス粒子だけで感染が成立する。

・白色便はロタウイルスに限らない。どのウイルスでも白くなる。「食物が十二指腸を通過するときに、胆嚢が収縮して胆汁と混じって色が付く」という共調運動がうまくいかなくなるからであり、病気の重症度とは関係ない。

・赤ちゃんは基本的に包茎であり、剥けている場合は尿道下裂(500人にひとりの頻度)の有無を確認する必要がある。

・便秘の治療として、食事療法は大して有効ではない。水分をたくさん取っても「焼け石に水」である。食物線維をたくさんとると有効な例もあり試す価値はあるかもしれないが、高度な便秘は野菜だけでは解決できない。乳酸菌製剤も試す価値はあるかもしれないが、決定的な効果を示すことはない。プルーンや果汁も試してもかまわないが、それで解決するほど慢性便秘は甘くない。

・浣腸や下剤が「クセになる」ことはない。マルツエキス、酸化マグネシウム、ラキソベロンなどを使用してもうまくいかないときはグリセリン浣腸やテレミンソフト座薬を使って便を出す。「薬に頼るのではなく、薬を使いこなす」という発想転換が必要である。便秘治療の極意は「便をすべて出し切って、常に直腸が空っぽな状態をキープする」ことである。

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