小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

開業医で行うアトピー性皮膚炎診療〜ステロイド外用薬にサヨナラする方法〜

2024年05月06日 21時31分45秒 | アトピー性皮膚炎
本日(2024.5.6)、「総合診療医が診るアトピー性皮膚炎」というテーマのWEBセミナーを視聴しました。
いつもは皮膚科医や小児科医の講師ばかりですが、
「総合診療医という視点からどんな話が出てくるのだろう」
という素朴な疑問と興味から聞きました。

考えてみると、小児科医は「小児の総合診療医」という性質があります。
病気の種類にかかわらず「子どもならすべてOK」というスタンス。

先日、休日当番医を担当しましたが、
風邪症状以外にも、皮膚とか目とか耳とかの症状を訴えて受診する患者さんの多いこと多いこと。
地域では内科系・小児科系の他に外科系当番医も指定されています。
皮膚科・眼科・耳鼻科は本来“外科系”ですので、
小児科より外科系当番医を受診するのが筋なのですが・・・。

総合診療医によるアトピー性皮膚炎レクチャーの内容は“斬新”でした。
「フムフムそうだよなあ」
と頷くことしばしば、また、
「そういう見方があったか!?」
と感心する箇所もありました。

メモ書きと私のコメントを備忘録として残しておきます。

■ (演者が)皮膚科研修で感じたこと(抜粋)
・一人当たりの診察時間がものすごく短い
・皮膚しか診ない
・生活指導や予防についてあまり聞かされていない

大いに頷きました。
当院に流れ着くアトピー性皮膚炎患者さんは大抵、
「コレ塗って良くなったらやめて」
と外用薬を処方されるだけといいます。
「塗るとよくなるけどやめるとまた悪化する、
 先が見えないのでこちらに来ました」
と訴えます。

総合診療医がアトピー性皮膚炎を診るべき理由(抜粋)
・アトピー性皮膚炎は診断が簡単
・アトピー性皮膚炎は処方も簡単(薬の選択肢が少ない)
・アトピー性皮膚炎の「治療」は「生活指導+薬の説明」

こちらにも大いに頷きました。
かゆい湿疹が半年以上続き、他の皮膚病が除外できればアトピー性皮膚炎です。
ステロイド外用薬を処方すれば一旦は良くなります。

が、それでは解決しないのがアトピー性皮膚炎。
薬の塗り方、どれだけ続けるか、どのようにやめていくかを説明しないと、
良い状態が保てないのです。
この点が皮膚科医には欠けているため、
皮膚科から小児科に患者が流れてくるのでしょう。

アレルギーに関連する社会的問題(抜粋)
・血液検査ですべてわかるという誤解
・誤ったスキンケア指導
・妊婦への誤った食事指導
・ステロイドフォビア(ステロイド忌避)
・アトピービジネス

血液検査はあくまでも参考です。
食物アレルギーは乳児期では検査結果と症状がリンクしますが、
幼児期以降は一致率がどんどん低下します。
しかし毎年検査を繰り返して陰性化するまで食事制限している医師が今でもいるのは残念です。

ステロイドはその効果と副作用を理解してうまく使うととても良い薬です。
医師はもちろんのこと、患者さんにも理解・納得してもらう必要があります。

しかし効果よりも副作用ばかりがメディアでクローズアップされ、
ステロイドフォビア(=ステロイド忌避)を生み、
一部の医師もどれに同調する始末、これも残念なこと。

医師の努力の結晶はガイドラインに反映されます。
少数の副作用をクローズアップして不安を煽るより、
何十万人〜何百万人の治療経験の蓄積であるガイドラインを遵守することがサイエンスです。

そして「よくならない病気」には、
それを食い物にするビジネスがはびこります。
正しい方法はあるのだけど、
なかなか実行できないことを扱うハウツー本は売れる、
という常識が出版界にはあるそうです。
アトピー性皮膚炎しかり、ダイエットしかり・・・。

 アトピー性皮膚炎の治療薬(外用薬だけ抜粋)
〜1999年:ステロイドのみ
1999年:タクロリムス軟膏発売
2020年:コレクチム®軟膏発売(JAK阻害薬)
2022年:モイゼルト®軟膏発売(PDE-4阻害薬)

タクロリムスはよい薬ですが使い方にコツがあり、
それを知らないと使いこなせません。
かゆいところに塗るとピリピリ刺激感が半端ないのです。
十分な説明と理解がなく、これを経験した患者さんは、
「とんでもない薬を処方された!」
と信頼関係が崩れ、その後の治療がうまくいかなくなります。
タクロリムスは「ステロイド外用薬で湿疹を治してから塗る薬」です。
そう、「治すのではなく悪くしないために塗る薬」なのです。

コレクチムもモイゼルトも治す力(抗炎症効果)はステロイドより弱く、
かゆいところに塗ってもなかなか治りません。
ステロイド外用薬を塗ると数日で効果が実感できますが、
この2剤は効果が出始めるまでに1週間、
十分な効果を期待するには1ヶ月を要します。
つまり、これらの薬もステロイドで治したあとに悪化予防として塗る薬なのです。

つまりステロイド以外の塗り薬は、
「ステロイド外用薬で湿疹を治した後に使う薬」
「ステロイドをやめるための薬」
ということ。

レクチャーでは内服薬・注射薬の説明もありましたが省略します。
注射薬の一部は免疫よく最高かが強いため、
使用中は生ワクチンを接種できません。
これは「免疫不全状態」に適用されるルールであり、
他の感染症のリスクも増えるため、
それらを管理できるかどうかが医師に問われ、
クリニックレベルで扱うのは難しいのではないか、
とコメントしていました。

アトピー性皮膚炎のたった一つのシンプルな治療法
 reactive療法  →  proactive療法
 ステロイドのみ   ステロイド
           タクロリムス
           コレクチム
           モイゼルト

注)
・reactive(リアクティブ)療法:湿疹が出たら塗り、治ったら止める方法
・proactive(プロアクティブ)療法:湿疹が出たら塗り、治ってもすぐに止めないで漸減して湿疹が出ないようにする方法

この文言には目からウロコが落ちました。
私は以前からステロイド外用薬によるプロアクティブ療法を導入してきました。
患者さんの8割はこれでコントロールできるようになりますが、
残りの1割はステロイド外用薬減量課程で再燃を繰り返します。
そのような患者さんには近年登場したコレクチムとモイゼルトを導入し、
ステロイド外用薬を止めていけそうな手応えを感じています。
とくに生後3ヶ月から使用可能で、使用量制限のないモイゼルトは小児にも使いやすい薬です。

しかし演者の医師は、最初の寛解導入のみステロイド外用薬を使い、
炎症が完全に治まるまで使い切り、
その後はステロイド外用薬漸減ではなく、
新薬に切り替えることにより、
ステロイド外用薬を永遠にやめてしまおう!
と提唱しているのでした。

私も薄々「もしかしたら可能かもしれない」と考えていたことですが、
実行している医師の話を聞き、
背中を押されたようで自信が湧いてきました。

proactive療法で使用する3種の外用薬

      (抗炎症作用)(免疫抑制作用)
タクロリムス   +    +++++
コレクチム    ++     +
モイゼルト    ー      —

抗炎症作用とは「湿疹をよくする作用」と理解してください。
ちなみにステロイド外用薬はタクロリムスより抗炎症作用が強く、
免疫抑制作用が弱い薬です。

はて、モイゼルトには抗炎症作用(湿疹をよくする作用)がない?
・・・でも私はこの比較表を見ると、ますますモイゼルトを選択したくなります。
免疫抑制作用がないという点に注目!
免疫抑制作用があるということは、
実臨床では「皮膚感染症の副作用リスクがある」ということです。
とびひ、ニキビ、ヘルペス・・・

ステロイド外用薬で湿疹を治し、
その後はモイゼルトに切り替えてゆっくりやめていく方法が、
これからの小児アトピー性皮膚炎治療のスタンダードになりそうな気がしてきました。
実際に一部の患者さん(ステロイド外用薬減量中に再燃を繰り返す)に使い始めていますが、手応えは十分あります。

外用薬は指導がすべて(抜粋)
・説明なしで適切に使えることは絶対にない
・proactive療法の指導は難易度がかなり高い

そうなんです。
指導には知識と時間が必要です。
当院では5年以上前(2017年)にプロアクティブ療法を導入しましたが、
看護師スタッフを教育し、軟膏の塗り方指導を担当してもらいました。
当院にはPAE(小児アレルギーエデュケーター)資格取得者の群馬県第1号も在籍しています。

そして軟膏塗布方法から生活指導まで、一人の患者に30分以上かけてアドバイスしていました。
・・・本気で取り組まないと実行できません。
現在はスタッフ数減少のため、残念ながらそこまで手が回らなくなってしまいました。

講師が最後に行った言葉がすばらしい;
「ステロイド外用薬を処方しますね、
 でもこれが人生最後のステロイドです!」



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アトピー性皮膚炎の全身療法、アップデート2023

2023年05月21日 21時04分35秒 | アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎の全身療法と言えば、
従来は抗アレルギー薬内服しか選択肢がありませんでした。
あ、一部では“ステロイド注射”という禁断の一手もありました。

しかし近年、注射薬・内服薬とも新薬が続々と登場し、
重症アトピー性皮膚炎の治療が激変しています。

残念ながら小児適応がある薬剤は少ない(※)ため、
乳幼児中心に診療している小児科開業医では導入しにくいのですが、
ここで一度、整理しておきたいと思います。

(※)小児適応のある新薬;
リンヴォック®:12歳以上かつ体重30kg以上
サイバインコ®:12歳以上
ミチーガ®:13歳以上

2018年以降に登場したアトピー性皮膚炎の全身療法薬は以下の通り、
(2018年1月)デュピルマブ(デュピクセント®)シリンジ
(2020年9月)デュピルマブ(デュピクセント®)ペン(自己注射)
(2020年12月)バリシチニブ(オルミエント®)
(2021年8月)ウパダシチニブ(リンヴォック®)
(2021年9月)アブロシチニブ(サイバインコ®)
(2022年3月)ネモリズマブ(ミチーガ®)



ただ、これらの薬剤は医者なら誰でも使用できるわけではなく、
許可制(施設基準を満たす必要あり)になっています。
そのため、使用経験は病院医師>開業医師、が現状です。

実際の使用に当たっては、
重症度や症状の強さを判定するスコアの点数、
体表面積に占めるアトピー性皮膚炎病変の割合、
などのデータを集める必要があります。

使用経験のある医師からは、以下のような声が聞こえてきます;

「これまでの外用療法ではコントロールできなかった重症例でも、全身療法導入により寛解状態に持って行けることがある」

「重症例だけでなく、中等症患者でも、毎日外用薬を塗るのが負担になっており、夜にかゆみで起きてしまう、見た目を過剰に気にして引きこもり状態になるなど、症状によりQOLが大きく低下している患者さんには、全身療法を提案し、アトピー性皮膚炎の悩みから解放される生活を一度経験させてあげても良いのではないか」

そして学会でよく質問されることは、
・どのくらい続ければいいのか
・いつやめるべきか
という「やめ時がわからない」という医師の迷いです。
全身療法は有効ですが、中止すると再燃することがあり、
また現時点では、一生続ける治療とは考えられていません。

これからも手探りしつつ、
一番効果的な使用法を確立していく必要がありそうです。

これらの薬剤の欠点の一つは、
新規外用薬の項目でも書きましたが、
「高価であること」(1日4000〜5000円)ですね。


<参考>
▢ 選択肢広がるアトピー性皮膚炎の全身療法「患者に伝えておきたいアトピー治療の選択肢
(2022/10/06:日経メディカル)

▢ 抗IL-31受容体抗体ネモリズマブが登場「アトピーの“かゆみ”を抗体医薬で狙い撃ち
(2022/10/05:日経メディカル)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アトピー性皮膚炎外用薬、アップデート2023

2023年05月21日 20時13分51秒 | アトピー性皮膚炎
近年、ステロイド外用薬以外の外用薬がいくつも登場しました。
それらにはいわゆる“ステロイドの副作用”はありません。
つまり“ステロイド忌避患者”にも受け入れられそう。
今まで“脱ステロイド治療”を選択して皮膚がボロボロになった患者さんは、
怪しい民間療法に走る必要がなくなり、
保険診療で“脱ステロイド”ができるようになったのです。

私は小児科医で、乳幼児のアトピー性皮膚炎中心に診療してきました。
新しい外用薬は総じて「2歳未満には使えない」ため、
治療の選択肢に入りにくかったのですが、
2023年1月にコレクチム®軟膏が「生後6ヶ月から使用可能」となったため、
俄然興味が湧いてきました。

ここで一度、整理しておきたいと思います。

モイゼルト®のWEBレクチャーを何回か視聴しました。
その特徴のポイントは、
・タクロリムスのような刺激性(ヒリヒリ)はない。
塗布量・塗布範囲の制限がない
・1%製剤と0.3%製剤があるが、小児でも1%を選択してよい。
・2歳未満には使用できない。
・抗炎症作用の強さは、ステロイド外用薬のクラスIII(strong)程度。

コレクチム®のWEBセミナーも視聴しました。
その特徴のポイントは、
生後6ヶ月から使用可能(2023年1月から)。
・使用量制限あり。
・抗炎症作用の強さは、ステロイド外用薬のクラスIII(strong)程度。

「軟膏の強さ」に関しては、
質問しても演者は(メーカーお抱えセミナーのため)ゴニョゴニョと答えにくそうで、
使ってみないとわかりません。

ただ、初期の寛解導入にはオススメしていないので、
強さはそこそこのようです。

実際の使い方として、
・適切な強さのステロイド外用薬で寛解導入
・プロアクティブ療法(ゆっくり減量する維持療法)でステロイド外用薬離脱を図る
・減量過程で再燃を繰り返す例にはモイゼルトあるいはコレクチムを導入
・寛解導入はステロイド外用薬で行い、その減量過程でモイゼルトあるいはコレクチムへ変更していく。
・モイゼルトあるいはコレクチムはステロイド外用薬の副作用(皮膚萎縮、皮膚菲薄化、毛細血管拡張)がないので、それ以外の副作用に注意しながら長期使用が可能。

・・・といったところ。

モイゼルト®の「使用量制限なし」
コレクチム®の「生後6ヶ月から使用可能」
が魅力的です。

欠点は「薬価が高いこと」でしょうか。

私はとりあえず、乳児にも使えるコレクチム軟膏を導入しています。
生後6ヶ月以降で再燃を反復する例に、
ステロイド外用薬減量過程でコレクチム軟膏に置き換える手法、
つまり寛解導入ではなく維持療法に使用しています。

<参考>
アトピー第4の外用薬、PDE4阻害薬の位置付けは?

ジファミラスト】(商品名:モイゼルト®
[概要]
・安全性が高く、皮膚の透過も良いことから、部位を選ばず全身に使用できる。
[作用機序]
・PDE4阻害薬:PDE4の酵素活性を選択的に阻害することで抗炎症作用を示す。
・PDE4は多くの免疫細胞に存在し、サイトカインの産生を負に調節するcAMPを特異的に分解する酵素で、アトピー性皮膚炎ではこのPDE4活性が上昇する。
・ジファミラストはPDE4の働きを阻害し、炎症細胞や上皮細胞のcAMP濃度を高め、サイトカインやケモカインの産生を制御することでアトピー性皮膚炎の症状を改善する。
[製剤]
・1%製剤(152.1円/g)と0.3%製剤(142円/g)があり、成人には1%製剤を、小児には0.3%製剤を1日2回、患部に適量塗布する。 
・小児では症状に応じて1%製剤を使用することもできる。
・タクロリムスやデルゴシチニブと異なり、1回当たりの塗布量や塗布範囲の制限がないのが特徴。
※ PDE4阻害薬は、先に経口薬であるアブレミラスト(商品名:オテズラ®)が
認可され尋常性乾癬などの治療に用いられている。
[副作用]
・色素沈着(1.1%)、掻痒症(0.5%以上)、毛包炎(0.5%以上)、ざ瘡(0.5%未満)
・タクロリムスのような塗布部位への刺激性(ひりつきやほてり)は報告されていない。

タクロリムス】(商品名:プロトピック®
・分子量が比較的大きく(MW:822.03)、正常な皮膚からは吸収されにくい。
・初期に塗布部位の刺激感が表れることを十分説明する必要がある。
・皮膚の厚い体幹や四肢では治療効果が得られにくい。
・皮膚の薄い顔面・頚部にタクロリムス(1回5gまで)、それ以外はステロイド外用薬という部位別塗り分けが行われている。

デルゴシチニブ】(商品名:コレクチム®
・刺激感が少なく使いやすい。
・分子量が小さく(310.35)、過剰に塗布すると経皮吸収が増加し、全身性副作用が生じる可能性があるため、1回当たりの塗布量は上限5g、塗布面積は体表面積の30%までという制限が設けられている。


<参考>

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「コレクチム軟膏が生後6ヶ月から使用可能になりました」のインパクト。

2023年03月04日 17時20分22秒 | アトピー性皮膚炎
と書かれても一般の方はピンときませんよね。

実は小児アレルギー科医にとって、
ものすごく大きな進歩なのです。

私は小児科・アレルギー科を標榜しているので、
湿疹の赤ちゃんが多く受診されます。

他の皮膚科・小児科を何件か渡り歩いて(ドクターショッピング)、
なかなかよくならずにたどり着く方も少なくありません。

そんな患者さんに対して、
当院では「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に従って、
「プロアクティブ療法」を行っています。

といっても特殊な薬を使う治療ではありません。
ステロイド軟膏の塗り方と減らし方を丁寧に指導する方法です。

生後数ヶ月の顔を真っ赤にした赤ちゃんが受診されます。
よくみると、カサカサしていている場所、ジクジクしている場所が混在。
お母さんに聞くと、抱っこすると顔をお母さんの服になすりつけてくるとのこと。
これは、お母さんの服を使って掻いているのと同じです。
つまり、この赤ちゃんの顔の湿疹は痒いのです。

この状態を「痒みを伴う乳児湿疹」と呼びます。
良くなったり悪くなったりを繰り返し、
2ヶ月以上続くと「乳児アトピー性皮膚炎」という診断になります。

初めて治療を受ける場合は、非ステロイド軟膏から始めます。
それでよくなればOK。
上手く治らなければステロイド軟膏の出番です。
赤ちゃんの顔の皮膚は薄いので、
弱いステロイド軟膏で十分効きます。

最初は軟膏をベタベタたっぷり塗ってもらいます。
ステロイド軟膏と聞くと、
皆さん腰が引けて少ししか使ってくれないので、
ここはしっかり指導します。

湿疹がある場所を触るとザラザラしていますよね。
それを拡大してイメージすると、
皮膚の表面が凸凹しています。

少量の軟膏をその場所にすり込むように塗ると、
凹の場所に残りますが、
凸の場所には軟膏が残りません。

そして炎症が強いのは凸の場所です。

つまり、少量の軟膏をすり込むように塗ると、
薬が効かないのです。

すり込むように塗るのが有効な場合は、
筋肉痛や関節痛です。

皮膚の病気は、
表面にのせるつもりで、
一枚膜を張るつもりでたっぷり塗ると、
薬の効きが全然違います。

赤みと痒みが完全に消えるまで、
1日2回たっぷり塗り続けます。

1週間以内に再度受診していただき、
塗れているかどうか、
順調に改善しているかどうかを確認しています。

赤みと痒みが完全に消えたことを確認できたら、
ステロイド軟膏を一旦中止するか、
それとも継続してゆっくりやめていくか考えます。

初めての治療で、湿疹が軽度なら、
ステロイド軟膏をやめて保湿ケアへの移行を提案します。

何回も改善と悪化を繰り返している患者さんには、
ゆっくりやめている方法を提案します。

具体的には、
1日2回を1日1回塗りとし、
1週間後に再度受診してもらい、
悪化していないかどうか確認します。
順調なら、ゆっくりと塗る回数を減らしていきます。
(例)
 1日おき1回を1-2週間
 → 2日おき1回を1-2週間
 → 3日おき1回を4-8週間

途中で再度悪化したら、振り出しに戻ります。

この治療法(プロアクティブ療法)で、
「痒みを伴う乳児湿疹(≒乳児アトピー性皮膚炎)」
の8-9割はよくなり、いずれステロイド軟膏をやめられます。

しかし、ステロイド軟膏を必要十分使っても、
残りの1-2割はうまくいきません。
当院は皮膚科より弱いステロイド軟膏を使っているため、
その1-2割の患者さんは皮膚科に紹介してきました。
強い軟膏は副作用もあるので、
皮膚科専門医の診療が必要と考えます。

小児科医がガイドライン通りに治療をしても、
残念ながら全員が治るとは限らないのが現状です。

実は、アトピー性皮膚炎に対するステロイド軟膏以外のぬり薬もあります。

20年前に登場したプロトピック軟膏。
これは動物実験でガンが発生するとか(現在は否定されています)、
目の周りに塗るとヒリヒリしていたいとか、
2歳未満には使用できないとか
使用量制限があるとかの理由で、
簡単には使いづらくあまり普及していません。

さらに2020年以降、続々と新しい作用機序の軟膏が登場してきました。
具体的にはコレクチム軟膏とモイゼルト軟膏。
ステロイドと異なるので、
ステロイドで心配される副作用がありません。

しかしこの二つの薬も「2歳以上」という縛りがありました。
さらにコレクチム軟膏は「1回5gまで」という使用量制限があります。

結局、2歳未満のアトピー性皮膚炎患者さんは、
ステロイド軟膏しか使えないのです。

新型コロナワクチンもそうでしたが、
新しい医薬品が開発されても、
いつも子どもは置いてきぼり、後回しですね。

そんなところに、2023年1月、
コレクチム軟膏が「生後6ヶ月から使用可能」になったことを知りました。

これは朗報です。

ステロイド軟膏でコントロールできない乳児アトピー性皮膚炎に対して、
使える軟膏が登場したのです。

これで皮膚科に紹介せざるを得なかった乳児アトピー性皮膚炎患者さんを、
減らせる可能性が出てきました。

私がイメージするコレクチム軟膏を使う対象は、
ステロイド軟膏の減量過程で再燃・再発を繰り返す患者さんです。

ステロイド軟膏で湿疹の炎症を沈静化させたタイミングで、
減量に入るのではなく、コレクチム軟膏に変更します。
安定期を確認後、プロアクティブ療法に準じてゆっくり減量中止していくのです。

もしかしたら、赤ちゃんの湿疹〜乳児アトピー性皮膚炎を、
当院ですべて治療完結できるかも・・・
私自身、ワクワクしています。

欲を言えば、
・コレクチム軟膏の使用量制限の撤廃
・モイゼルト軟膏の2歳未満への使用の解禁
を実現して欲しいです。

すると、痒い湿疹で悩む赤ちゃんがいなくなるかもしれませんね。


<参考>
アトピー性皮膚炎診療ガイドラインからコレクチム軟膏の記述を抜粋;

「デルゴシチニブ軟膏は,細胞内シグナル伝達(JAK)を抑制する薬剤である.2020 年にコレクチムⓇ軟膏 0.5%が世界で初めて日本で承認・発売された.・・・アトピー性皮膚炎の炎症に対しては速やかに,かつ確実に鎮静させることが重要であり,そのためにステロイド外用薬とタクロリムス軟膏とデルゴシ チニブ軟膏をいかに選択し組み合わせるかが治療の基本である.その際,視診と触診を参考に炎症の部位を適切に把握し,これらの薬剤を十分な範囲に外用する.」

「デルコシチニブは,種々のサイトカインのシグナル 伝達に重要なヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬で,JAK ファミリーのキナーゼ(JAK1,JAK2,JAK3 および tyrosine kinase 2)をすべて阻害し,免疫細胞の活性化を抑制する.中等症以上の成人アトピー性皮膚炎患者を対象とした臨床試験で,デルゴシチニブ0.5%軟膏群では基剤群に比べて皮疹スコアの有意な改善がみられ,かゆみ NRS スコアも外用開始後すみやかな軽減がみられた.外用局所の副作用として,毛包炎や痤瘡,カポジ水痘様発疹症,単純疱疹,接触皮膚炎が報告されている。過量投与すると経皮吸収量増加により全身性に影響を来す可能性があるため,デルコシチニブ軟膏の使用は「1 日 2 回,1 回の塗布量は 5 g まで」という用法・ 用量を超えないようにする.また明らかなびらん面や粘膜への外用,密封療法や亜鉛華(単)軟膏を伸ばしたリント布の貼付などは経皮吸収を増加させるため, 行わないようにする.デルコシチニブ軟膏は免疫抑制作用を有することから,皮膚感染症部位には塗布しないよう細心の注意を払い,投与中は毛包炎やざ瘡,カポジ水痘様発疹症をはじめとしたヘルペスウイルス感 染症等の皮膚感染症に十分注意し,発現した場合,当該部位への本剤塗布を中止し,適切な感染症治療を行うことが必要である.デルコシチニブ軟膏の安全性や本剤と他の治療法との併用に関する情報は,「デルゴシチニブ軟膏(コレクチムⓇ軟膏 0.5%)安全使用マニュ アル」 を参考にされたい。」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ステロイド外用薬のランク付け、日米比較。

2022年01月16日 08時07分19秒 | アトピー性皮膚炎
ステロイド外用薬を処方する際、私は「強さのランク」について説明しています。

・ステロイド外用薬はその強さにより5つのランクに分けられ、当院で処方する軟膏類は以下のランクに入る;
 I群(最強)
 II群(とても強い)
 III群(強い):リンデロンV、メサデルム、リドメックス(IIIとIVの間?)
 IV群(中くらい):ロコイド
 Ⅴ群(弱い)
・小児科医は臆病者なのでIII群までしか使わないが、皮膚科ではもっと強い軟膏類が処方される
・皮膚の厚さにより吸収率が異なるため、塗る部位により複数の軟膏類を使い分ける必要がある

等々。

実はこの「5ランク分類」は日本独自の物で、外国では別の分類法が存在します。
例えばアメリカでは5ランクではなく7ランクに分類され、さらに同じステロイド外用薬でも、その性状(軟膏、クリーム、ローション)によりランクが異なることがあります。

I.Very High Potency:
II.High Potency:
III-IV.Medium Potency:リンデロンV(軟膏・クリーム・フォーム・ローション)
Ⅴ.Lower-Medium Potency:ロコイド(軟膏・クリーム・ローション)
Ⅵ.Low Potency:
VII.Lowest Potency:

当院採用の外用薬はその性状によりランクが異なるものはありませんが、
種類によっては別ランクになるものも存在します。

例)フルメタ:軟膏はII群、クリームはIII-IV群

外用薬の選択の際は、このような背景も確認する必要がありますね。

さて、ドラッグ・ストアで販売されている市販薬にもステロイド含有製品がありますが、
どのランクのモノなのでしょう。

答えは・・・日本分類でIII・IV・Ⅴランクに限定されています。
I群とII群は効果が強い反面、副作用が出やすいため許可されていないのです。

では、III〜Ⅴ群ならどこに塗ってもよいかというと、そうでもありません。

皮膚の薄い部位(顔、首、デリケートゾーン)は基本的にIV群を使用するのは医師の間の常識です。
もしIV群で効きが悪いときは、他の病気を鑑別した後にIII群を使うことがありますが、
これは医師レベルの専門的判断が必要です。

医師の使用する一覧表がネット上で閲覧できました。
安全性の目安として「期間」と「使用量」も記載されているのが特徴です。



この表のように、医師は場所により塗るステロイド外用薬を使い分け、
かつ副作用に気をつけて治療をしています。
軟膏だけもらって自己流で長期塗る行為は危険ですので、ご注意ください。


<参考>
■  ステロイド 外用剤 使い分け/類似薬 皮膚疾患〜同ランク内のステロイド外用剤の強さ
■ 国が変わればステロイドのクラス区分も変わる

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「第4回栃木県アレルギー連携フォーラム2019」に参加してきました。

2019年12月20日 08時06分02秒 | アトピー性皮膚炎
 2019.12.19夜、宇都宮で開催された件名のフォーラムに参加してきました。
 栃木県の獨協医科大学にアレルギーセンターが設置され、アレルギー拠点病院として活動しています。
 その連携確認、成績報告の会という位置づけです。

 センター長の吉原Dr.(獨協医科大学小児科教授)から概要が説明され、その後にアレルギーセンターに属する①総合診療科、②眼科、③麻酔科からの演題、最後に④特別講演として谷口正実Dr.(国立相模原病院臨床研究センター長)から成人喘息についてのレクチャーがありました。
 昨年に引きつづき、当院PAE(小児アレルギーエデュケーター)とともに参加しました。

① 総合診療科(本田優希Dr.)からは、薬疹との鑑別に苦慮した風疹症例の経験を報告。
 上気道炎罹患中に薬を飲んだ後に皮疹が出現すると薬疹を疑いがちですが、臨床所見(耳介後部/後頭部リンパ節腫脹)と皮疹の分布と経過(顔面周囲から始まり体幹四肢へ拡大)から風疹の可能性を疑い血液検査で確認できた患者さんのお話でした。
 小児科医は「耳介後部/後頭部リンパ節腫脹」→ 「風疹ではないか?」とピンとくるのですが、一般内科医は先に薬疹が頭に浮かぶようですね。風疹はCRS(先天性風疹症候群)を引き起こすので、見落としは避けたい感染症です。
 皮膚科の先生から「薬疹は顔面から始まり全身へ拡大するという経過は取らない」との解説があり、勉強になりました。
 また、薬疹の出現時期は、
・初めての薬では、投与開始後4〜2週間かかる。
・既に感作されている薬では1〜3日。

という経過の説明も勉強になりました。
小児科医がよく経験するのは、溶連菌性咽頭炎に対してペニシリン系抗菌薬を10日間投与したときです。だいたい、投与開始後1週間前後で出現する印象を持っていたので、今回の説明と合致します。

② 眼科(鈴木重成Dr.)からはアレルギー性眼疾患の概要説明。
 アトピー性白内障の手術動画はリアルでした。レンズを金属先端でグチャグチャに砕いて吸い取り、そこにレンズをはめ込む手技。なんだか目がムズムズしてきました。
 質疑応答で、乳児のアトピー性眼瞼炎の治療について質問させていただきました。
・どのランクのステロイドを使うべきか。
・安全域(期間・量)はどうか。
 しかし、わかってはいたものの、明確な回答は得られませんでした。やはりデータがないようです。ステロイド外用薬の強さよりも、感染症の管理を考えるべきである、眼圧はトノペンという器械があるので外来でも使用可能、患児の目を押して自分の目の硬さと比較する簡易法も紹介してくれました。
 ちなみに、鈴木Dr.は「乳児アトピー性眼瞼炎のステロイド緑内障治療経験はない」そうです。
 いろいろな講演で、注意喚起ばかり聴くのですが、実際の症例提示を見たことがありません。実態はどうなっているのでしょう。
 実は当院近隣医療圏にある眼科開業医・総合病院眼科に「乳児の眼圧測定はできますか?」と電話で確認したことがあるのですが、すべて「対応できない」というご返事でしたので、やはり大学病院とは事情が異なります。
 講演終了後、鈴木Dr.が私の元に来て「こんな眼圧測定器なら小児科外来でも使えるかもしれません」とスマホ画面で紹介してくれました。
 真面目なよい先生です。

③ 麻酔科(大谷太郎Dr.)からは術後アナフィラキシーの報告がありました。
 麻酔科は蘇生のプロですから、事前の準備は完璧です。ただ、緊急手術の場合は情報が不完全なことがあり、頻度は低いながらもアナフィラキシーを避けることができません。
 フロアの内科医から「局所麻酔薬の皮膚テストでは陰性でも、実際に診療で使う量ではアナフィラキシーが起こることがあるが、どこまで事前に検査すべきか」という質問がありましたが、正解はなさそうでした。

④ 特別講演「成人喘息の病態と最適な治療」は新しい情報満載で、とても勉強になりました。
 アレルギー検査をすると、時々カビ類が陽性に出ます。しかし、それをアレルギー疾患と関連づけて説明することは、小児では従来ありませんでした。
 谷口Dr.の勤務する相模原病院の膨大な患者データを解析すると、重症喘息患者のアレルギー検査にある傾向があることが判明したそうです。それは、
・小児〜青年期ではアルテルナリア
・成人期ではアスペルギルス

 の感作率が高いのです。
 アレルギー体質を持つ患者さんの感作の自然史として、
(ダニ/ペット)→ (アルテルナリア)→ (アスペルギルス)
 という構図が見えてきたのでした。
 しかし最近、ダニやアルテルナリアの感作を飛び越えて、いきなりアスペルギルスが陽性になる成人重症例が目立つことに気づき、解析すると、吸入ステロイド薬であるフルチカゾンを500μg/日以上使用例に感作例が多いことがわかりました。
 重症だから感作されるのか、感作されたから重症化したのか・・・ニワトリと卵のどちらが先かという議論になりそうです。
 とにかく、従来の吸入ステロイド一辺倒の治療では、重症例は解決できないことが見え隠れし始めています。
 現時点でのスタンダードの喘息治療は「シムビコートのスマート療法」であるとのコメント。
 それでもコントロール不良例には抗体医薬を考慮します。
 何を選択するかは、血液検査のパラメーターよりも臨床病型で判断する方がヒット率が高いそうです。
 例えば、アスピリン喘息(アメリカではAERD、EUではN-ERD)にはオマリズマブ(ゾレア®)が著効するそうです。
 いくつも認可され、今後も期待される抗体医薬(TSLP、IL33関連)が目白押し。
 ただ、軽症〜中等症を診療する開業医には縁がありません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アレルギー疾患予防のキーワードは「経湿疹感作」と「経口免疫寛容」

2019年08月30日 15時25分25秒 | アトピー性皮膚炎
 小児のアレルギー疾患は、以下の順番で発症することが昔から観察されてきました;

 (アトピー性皮膚炎)
    ⇩
 (食物アレルギー)
    ⇩
 (気管支喘息)
    ⇩
 (アレルギー性鼻炎/花粉症)

1980年代に、馬場実先生(同愛記念病院)はこの現象を「アレルギーマーチ」と呼びました。
もう40年も前のことです。
しかし当時、そのメカニズムを説明することは誰もできませんでした。
私が小児科医になりアレルギー学会へ顔を出すようになった頃は、カラクリがわからないもどかしさから「説明できないなら、馬場先生はアレルギーマーチ説を撤回すべきではないか」という厳しい雰囲気もありました。

時は流れ、近年このメカニズムを説明できる病態モデルが提唱されました。
それは「二重抗原曝露説」。
抗原(=アレルゲン)が人体に侵入する経路により、免疫系の反応が異なるという学説です。
簡単に云うと、
・口から入ると消化吸収されて栄養となり、免疫反応は起こらない(経口免疫寛容
・湿疹(皮膚の炎症部位)から侵入すると、過剰な免疫反応が起こる(経皮感作/経湿疹感作
となります。

なるほど、これにならうといろんな現象が説明しやすくなります。
しかし本当なのか? と疑問をぬぐいきれない雰囲気もありました。

そんなタイミングで、これを証明する事件が発生しました。
それは「“茶のしずく石けん”事件」です。
ある地域で、大人の女性の小麦アレルギーの多発が観察されました。
ふつう、小麦アレルギーは乳児期に発症する病気ですが、大人、それも女性だけに発症するのは不思議な現象です。
もちろん、それまで小麦を食べても無症状だった人たちに発症したのですから、担当医師は頭を悩ませました。
症状の特徴として、顔が赤く腫れ上がることが観察されました。

いろいろ調べた結果、患者さんの共通事項として“茶のしずく石けん”の使用が浮上しました。
この石けんの成分分析により、泡立ちをよくするために小麦成分が添加されていることが判明しました。
つまり、石けんの小麦成分が皮膚から微量体内に侵入し、過剰な免疫反応を惹起し、小麦アレルギーを造ったのです。
そして、石けん使用を中止することにより、症状が軽快する例がたくさん観察されました。

この事件は、はからずも二重抗原曝露説を証明することになりました。

さて、
「アトピー性皮膚炎と食物アレルギーはどちらが先なのか?」
という疑問が昔から皮膚科と小児科の間で議論されてきましたが、二重抗原曝露説はこれも解決してくれました。
つまり、アトピー性皮膚炎が先で、経湿疹感作により食物アレルギーを発症するというメカニズム。

今や、二重抗原曝露説は揺るぎない理論となっています。
さて、この学説を臨床応用する番です。

経湿疹感作 → 湿疹を完璧にコントロールし、
経口免疫寛容→ 皮膚から浸入する前に経口投与を始めれば(=離乳食早期開始)、
 ⇩
食物アレルギーの発症を予防できるかもしれない!

と誰もが考えました。
現在、これを証明すべく、いろんな臨床研究が行われています。

その現況をまとめた論文を先日届いたばかりの小児アレルギー学会誌(Vol.33, No.3 2019)に見つけました。
2019年9月時点でわかっていること、わかっていないことを整理するのに役立ちます。

<ポイント>
経皮/経湿疹感作
Q. アトピー性皮膚炎、食物アレルギーは予防可能か?
A. 新生児期から保湿剤を積極的に定期塗布することにより、予防できる可能性がある(複数の報告あり)。

Q. 抗炎症薬(=ステロイド外用薬、免疫抑制剤外用薬)の早期開始は食物感作を予防可能か?
A. 現在検討中(成育医療センターのPACIスタディ)。ランダム化比較試験の報告は乏しい。

PACIスタディ:そう痒のある皮疹出現から28日以内の生後7〜13週のアトピー性皮膚炎乳児650人に対し、プロアクティブに抗炎症薬を使用する群と標準療法行う群にランダム化して鶏卵アレルギーの発症率を評価する計画。

経口免疫寛容/離乳食早期開始
Q. アレルゲンになりやすい食物を乳児早期に接種開始することによりピーナッツ・アレルギーは予防可能か?
A. 予防可能(LEAPスタディ:Du Toit, 2015)。

Q. アレルゲンになりやすい食物を乳児早期に接種開始することにより卵アレルギーは予防可能か?
A. まだ報告が一定していない(失敗例:STARスタディ、HEAPスタディ、BEATスタディ、STEPスタディ、成功:PETITスタディ)。
 メタアナリシスによると、卵の量と加熱状態がポイントになる(Al-Saud, 2017)。
 臨床研究の失敗例では、①“生”卵粉末を摂取していた、②初期量が多かった、③スキンケアに関して特別な介入を行わなかった、ことから、ゆで卵による導入と湿疹治療の同時介入を要すると考えられるようになった(Matsumoto K, et al. Are both early egg introduction and eczema treatment necessary for primary prevention of eggg allergy? J Allergy Clin Immunol 2018; 141: 1997-2001)。



スキンケア・アトピー性皮膚炎管理とアレルギー疾患発症予防
 堀向健太:東京慈恵会医科大学小児科(日小ア誌 2019;33:316-325)

気になった箇所をメモしておきます;

アトピー性皮膚炎が皮膚バリア破壊からの感作を通じてアレルギー疾患の発症リスクを上げる、いわゆる「アトピーマーチ」の起点となるという報告が増えている(Roduit C, et al. Phenotypes of Atopic Dermatitis Depending on the Timing of Onset and Progression in Childhood. JAMA Pediatr 2017;171:655-662)。そのため、皮膚がアトピーマーチ予防のターゲットかもしれないと考えられるようになった(Lowe AJ, et al. The skin as a target for prevention of the atopic march. Ann Allergy Asthma Immunol 2018:120:145-151)。

アレルギー疾患の遺伝性
 両親のうち1人にアレルギー疾患歴がある場合、児のアトピー性皮膚炎発症率は37.9%、両親ともにある場合は50.5%(Bohme M. et al. Family history and risk of atopic dermatitis in children up to 4 years. Clin Exp Allergy 2003;33:1226-1231)。

妊娠中・授乳中の食物除去やダニ抗原回避というアプローチでは、アトピー性皮膚炎は予防できないというメタアナリシスがすでに発表されている。ビタミンD仮説や衛生仮説も実現可能な予防策にはなり得ていない。そこで注目されるのが皮膚バリア機能の保護から介入する方法である。

ポストフィラグリン時代
 2006年に発表されたフィラグリン遺伝子変異(Palmer CN, et al. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis. Nat Gent 2006;38:441-446)は、バリア機能からのアトピー性皮膚炎予防に注目させるようになったが、しかし最近、Netherton症候群でみられるSPINK5遺伝子多型や角質細胞同士を接着する細胞接着蛋白であるコルネオデスモシンをコードしている遺伝子もバリア機能低下をきたし、フィラグリンだけでは説明できないことも判明してきた。

皮膚バリア機能を反映する経皮水分蒸散量(transepidermal water loss: TEWL)が高値はアトピー性皮膚炎発症を予測するという結果が複数報告されている。
→ 新生児期から皮膚バリアを積極的に補強する保湿剤定期塗布をするという手法により、アトピー性皮膚炎発症を予防できるのではないか?

保湿剤塗布によるアトピー性皮膚炎予防(2014年)
 両親もしくは兄弟にアトピー性皮膚炎の既往がある生後1週間いないのハイリスク新生児118名を、介入群59名(乳液タイプの保湿剤を毎日全全身に1日1界以上塗布)と、対照群59名(悪化部位のみワセリンを塗布)にランダム割り付けし、主要評価項目を生後32週までのアトピー性皮膚炎累積発症率とした。結果として、介入群においてアトピー性皮膚炎発症率は32%有意に低下した。しかし、副次的評価項目として検討した生後32週事典での卵白・オボムコイド感作率は、介入群と対照群に有意差を認めていない。しかし、アトピー性皮膚炎発症群と非発症群で比較すると、発症群では卵白感作率が有意に高いという結果だった(オッズ比2.86:95%信頼区間[confidence interval:CI]1.22-6.73)。
Horimukai K, et al. Application of moisturizer to nenates prevents development of atopicc dermatitis. J Allergy Clin Immunol 2014;134:824-830

新生児期からの保湿剤定期使用は食物感作を減少させる(PEBBLESスタディ:Phase2、2018)
 オーストラリアでの臨床研究。生後3週間のハイリスク新生児80人を保湿剤1日2回使用する群と対照群にランダム化し生後6ヶ月まで経過を観察した上で、生後12ヶ月でのアトピー性皮膚炎発症率と食物感作率を検討し、生後12ヶ月時のアトピー性皮膚炎発症率と食物感作率が低下する傾向が認められ(有意差なし)、さらに週当たり5日以上の保湿剤使用を受けた乳児のみで解析すると、保湿剤塗布群における12ヶ月時の食物感作率の有意な減少を認めた(21人中0人[0%] vs 36人中7人[19%])
Lowe A, et al. A randomised trial of a barrier lipid replacement strategy for the prevention of atopic dermatitis and allergic sensitisation: The PEBBLES Pilot Study. Br J Dermatol 2018;178:e19-e21

ピーナッツアレルギーは予防可能(LEAPスタディ、2015年)
 生後4ヶ月〜11ヶ月未満で(重症の)湿疹または卵アレルギーのあるハイリスク乳児640人に対し、ピーナッツ摂取群・ピーナッツ除去群にランダム化し、5歳まで観察したところ、ピーナッツ摂取群は有意にピーナッツアレルギー発症が少なかった(試験開始時に皮膚プリックテスト陰性の530人において、摂取群1.9%、除去群13.7%;p<0.001)
Du Toit G, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med 2015; 372: 803-813.)

卵アレルギーの予防に成功(PETITスタディ、2017年)
 アトピー性皮膚炎を発症している生後4〜5ヶ月の乳児121人を対象に、スキンケアに加え皮膚炎の状態に応じたプロアクティブ療法を行い、卵摂取群と卵除去群にランダムに割り付け、卵摂取群は生後6ヶ月から加熱卵粉末を卵として0.2g相当で継続摂取し、1歳で卵1/2個の負荷試験を実施、卵摂取群は卵除去群と比較して、卵アレルギーの発症リスクが約1/5になった。
Natsume O, et al. Two-step egg introduction for prvention of egg allergy in high-risk infants with eczema(PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2017; 389: 276-286

卵早期開始により卵アレルギー予防を試みたランダム化比較試験6件(計3032人)に対するメタアナラシス(Al-Saud, 2017)
 卵の早期導入の卵アレルギー発症予防に対する相対リスク(relative risk:RR)は0.60(95%CI 0.44-0.82)、予防効果は卵蛋白質の摂取量が4000mg/週以下の法が、それより炉奥摂取するよりも予防効果が大きかった。
Al-Saud B, Sigurdardottir ST. Early Introduction of Egg and the Development of Egg Allergy in Children: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int Arch Allergy Immunol 2018; 177: 350-359



 当院では約3年前からPACIスタディと同じようなプロトコールで診療してきました。
 乳児早期(生後1〜2ヶ月)に湿疹を主訴に受診された患者さんに対して、痒みのない場合はアズノール®や亜鉛華軟膏で様子観察し、痒みを伴う場合は積極的にステロイド外用薬を導入、湿疹を完璧にコントロールしながらステロイド外用薬を減量(間隔を開けていく)する方法です。
 開始後、半年くらいで卒業(ステロイド外用薬を中止)できる例がほとんどです。
 すると確かに、以前より卵アレルギーが減少してきた印象があります。
 ただ、ゼロにはなりません。
 おそらく、より効果的に予防するには一旦湿疹が発症してからの対応では遅いのではないかと思われ、新生児期にTEWL(transepidermal water loss)を測定してハイリスク児には湿疹の発症前から保湿ケアを始めるべきであると感じています。
 今後、以下の臨床研究が二本柱で行われ、アトピー性皮膚炎/食物アレルギー〜アレルギーマーチ予防が現実味を帯びてくる時代が来ることでしょう。
① 新生児期にTEWL高値のハイリスク児に対して保湿剤定期使用によるアトピー性皮膚炎予防と発症例は厳格に治療管理。
② アレルゲンになりやすい食物は遅らせることなく離乳食開始。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小児アトピー性皮膚炎の目の周りの治療について

2019年08月16日 16時17分57秒 | アトピー性皮膚炎
 当院では乳児アトピー性皮膚炎の診療を積極的にしています。
 そのため、日々「小児科開業医がアトピー性皮膚炎の診療を安全に行う方法」を模索してきました。

 赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を治療していると、気になるのが目の周りの湿疹です。
 ほかの部位同様、ステロイド軟膏で治療するのですが、その安全性に関するデータが十分とは言えません。

 眼は脳神経が唯一むき出しになっている器官であり、ステロイド外用薬の過剰な使用は眼圧上昇(〜緑内障)のリスクがあると昔から教科書に記述されています。
 しかし、
・どのランクのステロイド外用薬をどのくらいの量、どのくらいの期間使用すると危険なのか?
逆に、
・どのランクのステロイド外用薬をどのくらいの量、どのくらいの期間使用する分には安全なのか?
をはっきり書いてある本を見たことがありません。

 2018年に改訂された、皮膚科&アレルギー科統一「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」の「眼への副作用」の項目には、

“ステロイド外用治療後の緑内障の症例は多数報告されており、緑内障のリスクを高める可能性は十分にあるが、弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低いと考えられる。眼周囲や眼瞼皮膚にステロイド外用薬(特に強いランクのもの)を使用する際は,外用量や使用期間に注意する必要があるが、十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要であり,タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである。また、これらの眼合併症が懸念される場合は、眼科との連携が重要である。”

と玉虫色の表現で記載されています。
このどっちつかずの文章に、フツフツと怒り・・・ではなく疑問が湧いてきます。

弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低い
→ 弱いランクとはどれを指しているのか? 少量とは標準とされるFTU(Finger tip unit)より少ないという意味か?

強いランクのステロイド外用薬を使用する際は、外用量や使用期間に注意する必要がある
→ 強いランクとはどれを指しているのか? 具体的な外用量や使用期間の安全域がなぜ書かれていないのか? 

十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要
→ ステロイド外用薬の安全域を示さずに「目の周りのステロイド外用薬は弱いランクを少し使って治療してください、強いランクは危険なので自己責任で」では、無責任きわまりない。

タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである
→ タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック®軟膏)の適応は2歳以上なので、乳児には使用できません!

実は、このガイドラインの作成責任者である加藤則人先生(京都府立医科大学皮膚科教授)に講演会で直接質問したことがあります。

Q. 「乳児アトピー性皮膚炎の目の周りに安全に使用できるステロイド外用薬のランクと塗布量、塗布期間を教えてください」
A. 「乳児アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用薬と副作用としての眼圧上昇のデータはありません」

・・・これが現状です。安全性を担保できずに勧めるなんて、日本政府の原発政策と同じではありませんか。
さらに、

A. 「近年、小児の眼圧が簡単に測定できる器械が登場しましたので、近隣眼科医と連携して診療してください」

とアドバイスをいただきました。

「えっ、眼圧検査が開業眼科医でも可能になったんだ!?」
と明るい光が射すのを感じました。
早速近隣の眼科開業医&総合病院眼科に片っ端から電話で確認しました。
結果は・・・全滅です。
その機械を導入している眼科は皆無で、某眼科医から「大学病院レベルの検査ですよ」と諭されました。
そう、加藤先生は大学病院勤務なのでした。

ムムム・・・小児科開業医がアトピー性皮膚炎の診療を安全に行うことはできないのだろうか?
この疑問を持ちつつ、「目の周りに安全にステロイド外用薬を使用する方法」に関する情報を、日々アンテナを張って集めています。

さて今回、商業系医学雑誌の小児科診療2019年8月号「特集:子どものあたま、かお、くびの病気〜コンサルのタイミング」(診断と治療社)に「眼囲のアトピー性皮膚炎」(味木 幸 先生著)という項目を見つけ、購入して読んでみました。

今までの参考書と異なるところは、アトピー性皮膚炎の眼周囲湿疹にはアレルギー(あるいはアトピー性)性結膜炎を伴うことが多いので、点眼薬を併用すべし、との記載です。
あとは、従来の情報と何ら変わりはありませんでした。

執筆者は眼科医なので、当然ながら眼科との連携を勧めています。
しかし文中でも触れていますが、一般眼科医は一番弱いランクのステロイド外用薬を処方することが多く、しかもそれは抗生物質との合剤なので、長期に使用しているとかぶれ(接触皮膚炎)を起こしやすい、だから眼科医へ紹介すると悪化すると小児科医の間では囁かれています。
・・・困ったものです。

さらに「弱いステロイドを漫然と長期に使うよりは比較的強いステロイド軟膏でしっかり治療」とも書いてあるので、やはり眼圧を検査&管理できる眼科医に任せた方がよいのか・・・悩ましい。
でも、「眼軟膏でない場合は、目に入らないように気をつけなければならない」を赤ちゃんに対して言っても、無理ですね。

筆者は「眼周囲のアトピー性皮膚炎は小児科医でも初期治療を行える場合が多い」と書かれています。
結局、眼圧測定ができない小児科医は、そのスタンスで診療するしかなさそうです。


<メモ>

・眼囲の症状が強い場合には眼科専門医との連携が必要である。

・眼科的検査は小児、非協力的な患者には行うことが難しい。

・眼圧検査は必須である。眼圧測定にはいろいろな機種の器械があり、アトピー性皮膚炎合併の眼瞼は固く、まつ毛が邪魔をして制下飼うに計れないこともあるので、専門性の高い検査である。

・精密眼底検査、光干渉断層撮影、視野検査の3つの結果が一致することで緑内障と診断していく。

ステロイド緑内障の場合、たった数週間で眼圧が急上昇し、重症緑内障になってしまい、失明に至る例があり、早めにご紹介いただきたい

・治療は、①点眼治療、②ステロイド眼軟膏
 まず点眼治療である。眼瞼炎だから軟膏塗布が基本と考えがちだが、その症状の元が眼瞼皮膚のみよりも、眼瞼結膜にもあることが多いからである。眼瞼結膜に所見がある場合は、まず、点眼を第一選択として用いる。抗アレルギー点眼液が無効な場合は、ステロイド点眼液、免疫抑制薬点眼液(タリムス®、パピロックミニ®)を追加する。
 眼瞼に対してはステロイドの眼軟膏を用いる。眼軟膏は、強度でいうと(非常に弱い〜弱い)のカテゴリーに入るものが多いので、それにて効果がなく、漫然と長期的に使用する場合には中止すべきである。むしろ、皮膚科で用いている比較的強いステロイド軟膏でしっかりと治療し、落ち着かせた方がよい場合もある。眼軟膏でない場合は、目に入らないように気をつけなければならない。
 また、眼軟膏の中で、抗菌薬のフラジオマイシン硫酸塩っとステロイドの合剤(ネオメドロールEE®)が多用されているが、フラジオマイシンは頻度の高い接触アレルゲンであるため注意が必要である。

・ステロイド外用薬の使用には、眼圧の上昇に気をつけるべきである。眼瞼皮膚は薄いため、軟膏でも眼圧上昇する場合がある。

・眼周囲のアトピー性皮膚炎には、小児科医でも抗アレルギー薬の点眼薬や内服、ステロイドやタクロリムス軟膏により、初期治療を行える場合が多い。しかしながら、・・・ステロイド性緑内障などにより、失明に至るケースもあるため、眼科との連携が安全と考える。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アレルギーマーチは阻止できるのか?

2019年05月08日 06時55分01秒 | アトピー性皮膚炎
 近年小児アレルギー分野で話題になっている「アトピー性皮膚炎の良好なコントロールが食物アレルギーやそれに続く気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症の予防になり得るのか」に関する論考を学会誌に見つけたので読んでみました。

 現在、食物アレルギーの主因は経皮感作と考えられています。
 これは、アレルゲンと食物をたくさん食べる“ばっかり食べ”が食物アレルギーの原因ではなく、“湿疹部位から侵入した食物アレルゲンが異常反応を引き起こし食物アレルギー体質を作る”というもの。
 実際に、湿疹を治療してアレルゲンになり得る食物を微量から早期にはじめた方が食物アレルギーになりにくいというデータが集積しつつあります。

 この論考は、最新の論文を集めたものです。
 著者は PACI Study を主導している施設の医師です。

★ PACI Study(Prevention of Allergy via Cutaneous Intervention study):
 アトピー性皮膚炎に対する早期治療介入により、その後のアレルギー感作、食物アレルギー、気管支喘息などのアレルギー疾患の発症を抑制することができるかを検証するため、多施設共同で行う乳児アトピー性皮膚炎への早期介入による食物アレルギー発症予防研究/多施設共同評価者盲検ランダム化介入並行群間比較試験。


 当院でも生後数ヶ月の
 “非ステロイド系外用薬が効かない乳児湿疹”
 “良くなったり悪くなったりを繰り返す乳児湿疹”
 “かゆみを伴う乳児湿疹”
に対して、数年前から積極的に治療(プロアクティブ療法)を行っています。
 その結果、食物アレルギー検査をする頻度が激減しました。
 かゆい湿疹が続けば「食物アレルギーが悪化因子になっているかどうか調べてみましょう」となりますが、積極的治療により湿疹がない状態が続くと、その言葉が出てこないからです。
 そして気がつくと、食物アレルギーに縁がなく治療終了してしまう例が多い(もちろん、全例ではありません)。
 つまり、乳児アトピー性皮膚炎を積極的治療により良好にコントロールすると食物アレルギーの頻度を低下させることを実感しています。

 下記論考を読んでみて気になったところは、次の2点;

・生後3ヶ月までに強いステロイド外用剤使用していた乳児が、生後1歳時に最も食物アレルギーの有病率が高い(オーストラリアの研究)。
・生後4ヶ月までにプロアクティブ療法を開始したアトピー性皮膚炎乳児は、生後5ヶ月以降に開始した乳児と比較して卵アレルギー罹患率が低かった(9.1% vs. 24.2%)。


 これは、乳児アトピー性皮膚炎でも重症であればあるほど食物アレルギーのリスクが高いこと、積極的治療を早期に開始しても食物アレルギーはゼロにはならないこと(1/2〜1/3に減る)を示しています。
 つまり、乳児アトピー性皮膚炎を完璧に治療しても食物アレルギーをゼロにはできない、ということ。

 実際に、乳児期発症の食物アレルギーのうち、1/3は湿疹がない例です。
 こちらに関しても、経口免疫療法の考え方から「アレルゲンとなる食物を微量&早期からはじめる」ことで減らすことができるのではないか、と現在検討されています。

 私が小児科医になって30年、アレルギー専門医になって25年、アレルギー疾患に関してこれまでにない大きな変化が起きていることを感じる今日この頃です。


「アレルギーマーチの源流としてのアトピー性皮膚炎」
(山本貴和子、国立成育医療研究センターアレルギーセンター)
日本小児アレルギー学会誌 Vol.33, No.1 2019

アトピー性皮膚炎には4つのフェノタイプが存在する
1.持続型(乳児期から学童期まで持続):10.1%
2.乳児期発症一過性型:17.6%
3.遅発型:9.5%
4.?

気管支喘息の経過には5つのフェノタイプが存在する
1.持続型:9.2%
2.初期限定出現型:32.3%
3.小児期発症&寛解型:8.6%
4.学童期出現型:6.2%
5.?

アトピー性皮膚炎と湿疹(eczema)、皮膚炎(dermatitis)の違い
・海外では eczema と dermatitis は同義。
・infantile eczema = 乳児アトピー性皮膚炎
・日本では、本来アトピー性皮膚炎と診断されるべき乳児に「乳児湿疹」と説明することが多い。診断基準を満たせばアトピー性皮膚炎と診断し説明しなければならないが、いつか治るからほっとけばよいという指導が多くなされているのが現状である。

“乳児湿疹”とは
 生後2〜3週頃から数ヶ月までの乳児では様々な湿疹・皮膚炎を生じやすく、“総称”として“乳児湿疹”と呼んでいる。
 その中身は、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎(かぶれ)などの疾患を含んでいる。

アトピー性皮膚炎の診断基準:日本と海外
・日本の基準(日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン)では、慢性・反復性経過が定義の一つとされており、乳児では2ヶ月以上を慢性としている。
・海外で一番よく使われている診断基準は、イギリスのUKWP(The U. K. Working Party, Wiliamsらによる)によるもので、これには「2ヶ月以上」という項目がないため、乳児期早期においてもアトピー性皮膚炎と診断可能である。

乳児アトピー性皮膚炎とほかのアレルギー疾患の関係早期にアトピー性皮膚炎を発症するほど食物アレルギーの発症リスクが高くなる
・(日本の研究)食物アレルギーに対するリスク比は、
①生後1〜2ヶ月時の湿疹発症が最もリスクが高い(aOR, adjusted odds ratio: 6.61)
②生後3〜4ヶ月がこれに次ぐ(aOR: 4.69)
・(オーストラリアの研究)生後3ヶ月までに強いステロイド外用剤使用していた乳児が、生後1歳時に最も食物アレルギーの有病率が高い
・(ヨーロッパの研究)乳児期発症のアトピー性皮膚炎は、持続型でも一過性型でも6歳時の食物アレルギーのリスクが高く、特に、持続型は6歳時の気管支喘息、アレルギー性鼻炎、吸入抗原への感作のリスクが有意に高い。
・(カナダの研究)1歳時に感作のない小児アトピー性皮膚炎においては気管支喘息や食物アレルギーのリスクを上げないが、感作があると3歳時の気管支喘息リスクが7倍、食物アレルギーのリスクが17倍になる。

乳児期の皮膚保湿がアレルギーを予防する可能性
 生まれてから生後6ヶ月までにセラミド入りの保湿剤を1日2回たっぷり塗ると、アトピー性皮膚炎や食物アレルゲン感作のリスクを下げられる可能性を示唆した報告が増えている。

アトピー性皮膚炎発症後にプロアクティブ療法を施行すると食物アレルギー(感作・発症)のリスクが減る
・プロアクティブ療法はリアクティブ療法と比較して総IgE抗体価・卵白IgE・牛乳特異的IgE抗体が低下した。
生後4ヶ月までにプロアクティブ療法を開始したアトピー性皮膚炎乳児は、生後5ヶ月以降に開始した乳児と比較して卵アレルギー罹患率が低かった(9.1% vs. 24.2%)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎(相原雄幸Dr.)

2019年03月11日 06時47分29秒 | アトピー性皮膚炎
 前項と同じく、「小児科」2019年2月号(Vol.60 No.2)特集「クリニックで診る小児アトピー性皮膚炎のプライマリ・ケア」より。
6.食物アレルギーとアトピー性皮膚炎(相原雄幸Dr.)

 食物アレルギーとアトピー性皮膚炎・・・長らく皮膚科医と小児科医で意見が食い違い、患者のみならず医師も混乱してきた問題ですが、この10年でデータが揃い、皮膚科医・小児科医共に納得できる結論が出ました。
 それは「アトピー性皮膚炎は食物アレルギーの原因になり得る」ということ。
 食べ物は消化管から吸収されると栄養分になりますが、皮膚(湿疹病変)から微量でも体に入り込むことにより、アレルギー体質を作ってしまうことがわかったのです。

 そして、食物アレルギー診療も変わってきました。
 まず湿疹があればその治療をしっかりして、皮膚から食物アレルゲンが侵入することを阻止すること。
 さらに、食物アレルゲンになりやすい食材を、症状が出ないレベルで早期から少量はじめること。
 この2つの方法を導入することにより、もしかしたら食物アレルギー発症を予防できるのではないか、というところまで来ました。
 ただし、食物アレルギー患者さんの1/3は湿疹とは無縁の乳児期を過ごしており、これですべて解決するわけではありません。

 相原先生はアトピー性皮膚炎に対する軟膏治療の反応が悪い例にはアレルギー検査を行い、低年齢では6ヶ月間隔で、3歳以上では1年毎に再検査を繰り返しているようです。
 私も昔は乳児湿疹が改善を悪化を繰り返す例には、離乳食開始頃にアレルギー検査を行ってきました。しかしプロアクティブ療法を導入してからその頻度が激減しました。なぜかというと、湿疹がみんなよくなってしまうからです。もし、ステロイド外用薬を2週間しっかり塗布しても改善しない湿疹は、アトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患がかくれている可能性がありますので、食物アレルギーのチェックより皮膚科専門医の診察を優先しています。食物アレルギーに関しては、経過中に即時型食物アレルギー症状(〇〇を食べると蕁麻疹が出る等)を経験してはじめてアレルギー検査を行っています。
 この辺は、どちらが正しいかという問題ではなく、小児科医/アレルギー科医のスタンスや、診療対象の重症度により異なる点ですね。


<メモ>

湿疹患者の問診
・発症時期
・症状の詳細:部位、皮膚所見、その他
・これまでの経過:他院での治療状況
・栄養法:母乳/人工乳、離乳食
・発育状況
・家族のアレルギー歴:食物アレルギー、気管支喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、口腔アレルギー症候群など
・動物飼育歴

湿疹患者に食物アレルギー合併を疑うとき
(軽症)スキンケア/軟膏塗布が適切であっても皮疹の改善が不十分な場合には血液検査を実施し、抗アレルギー薬内服を追加して1週間後に再診。
(中等症/重症)初診時に血液検査を実施し抗アレルギー薬内服を開始し1週間後に再診。
(最重症)病院小児科に紹介入院

アレルギー血液検査
・内容:末梢血、白血球分画(好酸球数)、総IgE、特異的IgE抗体3大抗原(卵白、ミルク、小麦)/ペット
・結果判定:
(好酸球増加)+(特異的IgE抗体陽性)→ アレルギー検査陽性
(好酸球増加)+(特異的IgE抗体陰性)→ アレルギー検査陽性(好酸球性炎症あり)→ 治療への反応が良好なら正常化、反応不良で皮疹の改善が不十分で好酸球数が低下しない場合は再検査で特異的IgE抗体が陽性になることがある。
(好酸球正常)+(特異的IgE抗体陰性)→ 食物アレルギーの関与は否定的
(特異的IgE抗体弱陽性)→ アレルギーありと判断して対応
・検査間隔;
(3歳まで)6ヶ月間隔
(3歳以降)1年間隔
・検査項目;2回目以降は1回目の検査で陽性項目の経過判定と、利用可能なアレルギーコンポーネントを追加。生後6ヶ月以降ではダニ、1歳以降であればスギも追加。ただし、食物アレルギーの症例で食物制限が解除された場合には、抗体が陽性であってもそれ以降の検査は必ずしも必要ではない

原因食物除去
・特異的IgE抗体陽性で単品であれば除去試験(母親も完全除去)を行い判定する。陽性例では除去を段階的に解除していく(母親→ 患児)。
・複数項目陽性では、抗体高値の食物を完全除去とし、その後単品ずつ負荷をしていく。この場合、皮疹の改善した状況で食品解除を実施しなければ判定は難しい

アトピー性皮膚炎治療の問題点
・小児科医の使用するステロイド外用薬は不十分で、低ランクのものを長期に漫然と使用する傾向があり、薬剤の選択が適切とは言えない状況も多い。
・皮膚科医によっては乳児の顔面にはステロイド外用薬を控えるなど、統一されていない状況もある。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする