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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「グルテンフリー」は安全か?

2025年06月06日 11時09分55秒 | 糖質制限
時々耳にする「グルテンフリー」。
プロテニスプレーヤーのジョコビッチもその経験談の書籍を出版していましたね。

グルテンは小麦アレルギーの原因物質ですが、
小麦アレルギー患者さんの数は社会問題になるほど多くないはず、
これほど話題になるのは不思議です。
いったい何が問題視されているのでしょう?

そこには“健康食としてのグルテンフリー”という思想があるようです。
しかしその本体は、食品業界のイメージ戦略による“都市伝説”のレベルかと。


■ 人気の「グルテンフリー」の落とし穴、大半の人は避ける根拠なし
顕著な健康上の利益はなく体重増加も、グルテンはなぜ悪者にされたのか
2025.03.06:National Geographic)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 グルテンは小麦や大麦やライ麦に含まれるタンパク質で、パンの骨組みとなり、モチモチした食感を与えている。グルテンはほとんどの人にとって無害であるにもかかわらず、グルテンフリーはトレンドの食事法となり、実践する人が急増している。
 グルテンの摂取を控えると健康になるという主張に後押しされて、グルテンフリー食の人気がこの10年で急上昇している。このトレンドに減速の兆しは見られず、ドイツの調査会社スタティスタによると、世界のグルテンフリー食品市場は2032年までに140億ドル(約2兆1000億円)に達すると予測されている。しかし、グルテンを避けることは本当に健康に良いのだろうか?
 医学的な理由でグルテンを避けなければならない人もいるが、圧倒的に多くの人は明確な理由もなくグルテンフリー食を実践している
 グルテンについて、科学的には何が分かっているのか、ここまで嫌われてしまったのはなぜなのか、グルテンの摂取をやめると体にはどんな影響が出るのかを以下にまとめた。

▶ グルテンとは何か? 避けるべき?
「グルテンは小麦やライ麦や大麦に含まれるタンパク質です」と、米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(BIDMC)のセリアック病センターで栄養コーディネーターを務める登録栄養士のメリンダ・デニス氏は説明する。「グルテンは食品の結合剤としてはたらき、パンの骨組みとなって食感と風味を良くします」
 グルテンの評判は近年よくないものの、本質的には不健康なものではない。事実、グルテンの主な供給源である小麦には、体に良い栄養素が豊富に含まれている。「小麦にはタンパク質、食物繊維、鉄分、ビタミンが詰まっています」とデニス氏は言う。「特に全粒小麦を食べることは心臓に良い影響を及ぼします」(参考記事:「驚くほど体にいい植物性タンパク質、おすすめの食材や食べ方は」)
 ほとんどの人についてはグルテンを避けるべき科学的根拠はないと、BIDMC栄養健康センターの医療ディレクターで胃腸病専門医のキアラン・ケリー氏は言う。ただし、なかにはグルテンを避けなければならない人もいる。
セリアック病という自己免疫疾患をもつ人は、グルテンに対して免疫介在性反応を起こします」とケリー氏は説明する。「セリアック病の人がグルテンを含む食品を摂取すると小腸が損傷されてしまうので、グルテンを完全に避ける厳格なグルテンフリー食を実践しなければいけません」(参考記事:「なぜ女性は自己免疫疾患にかかりやすいのか、新たなしくみを解明」)
 グルテンを摂取することで消化不良を起こすものの、セリアック病と関連する小腸の損傷は見られない非セリアック・グルテン過敏症NCGS)の人もいるとケリー氏は言う。一方、小麦アレルギーのある人は小麦を避けるべきだが、グルテンを含む食品すべてを避ける必要はないという。
 過敏性腸症候群(IBS)をもつ人は、グルテンフリー食によって消化器系の症状が改善する可能性がある。ただし、「多くの場合は、完全ではなく部分的な改善にとどまります」とケリー氏は指摘する。(参考記事:「なぜ女性の方が過敏性腸症候群になりやすいのか、男性の約2倍」)

▶ なぜこれほどまでに悪者にされたのか?
 米食品医薬品局(FDA)は2014年、食品に「グルテンフリー」の表示をする際の基準を定めた。すると突然、ボトル入りの水やポテトチップスなど、もともとグルテンを含んでいない製品がグルテンフリーであることを宣伝しはじめ、グルテンは避けるべきものだという印象を消費者に与えるようになった。
「個人的にも栄養士としても、これは食品マーケティングの副作用だと思います」と、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部バッチ・アンド・テイマー・マヌーキアン消化器学科の登録栄養士で、みずからもセリアック病患者であるジャネル・スミス氏は言う。
 食品のグルテンフリー表示は、グルテンを含んでいないことを示すだけで、健康に良いという意味はない専門家の推定ではセリアック病の患者は世界人口の1%にもかかわらず、食品会社はグルテンフリーが万人にとって有益であるかのように宣伝することで、市場を拡大したのだ。
 メディアの過剰な宣伝も一役買っているとデニス氏は言う。「グルテンフリーを実践する人の全員が間違っていると言いたいわけではありませんが、彼らがメディアの注目を集めすぎて、熱狂的な流行を作ってしまったと思っています」
 2019年に医学誌「Digestive Diseases and Sciences」に掲載されたレビュー論文では、グルテンフリー食によって、関節リウマチなどの他の自己免疫疾患に関連する炎症が軽くなったり、運動能力が向上したりするというエビデンス(根拠)はほとんど得られなかった。
 スミス氏によると、この論文では、グルテン不耐症と自己申告する人のなかには、グルテンではなく小麦に含まれるフルクタンという発酵性炭水化物が消化不良の原因である場合も多いとも指摘されているという。

▶ グルテンを避けたときの悪影響
 健康に良いイメージがあるグルテンフリー食は、必ずしも体に良いわけではなく、むしろ悪影響を及ぼすことも多い。
 2023年に学術誌「Critical Reviews in Food Science and Nutrition」に発表されたレビュー論文では、グルテンフリーのパンは通常のパンよりもタンパク質が少なく、脂肪分が多いことが明らかにされた。2024年12月に学術誌「Plant Foods for Human Nutrition」に発表された研究は、平均するとグルテンフリー製品は砂糖も多く、カロリーも高いことを示した。
 2021年に学術誌「Food & Nutrition Research」に掲載された研究では、多くのグルテンフリー製品は通常の製品よりも食物繊維やタンパク質が少なく、飽和脂肪、炭水化物、塩分が多いと指摘されている。さらに2015年に学術誌「PeerJ」に掲載された研究では、グルテンフリーの包装食品(パン、パスタ、ミックス粉など)に「顕著な健康上の利益はない」と結論付けている。
 とはいえ「状況は確実に改善しており、企業は製品に全粒グルテンフリー穀物や代替穀物を使いはじめています」とデニス氏は言う。「けれどもこれらの製品には、保存性を高め、グルテンを含む製品の口当たりを再現するために、タピオカでんぷんや、馬鈴薯でんぷん、マルトデキストリンなどの増粘剤や増量剤が使われていることが多いのです」(参考記事:「もっと取りたい「体にいい炭水化物」、実は白米も冷やせば大変身」)
 米非営利団体グルテン不耐症グループ(GIG)も、グルテンフリー製品には食物繊維が不足しているため、グルテンフリー食を実践している人は十分な量の食物繊維を摂取できていないことが多いと報告している。「食物繊維は、腸の健康と全身の健康にとって本当に重要です」とスミス氏は言う。(参考記事:「大腸がんのリスクを下げる食物繊維、1日にどのくらい取るべき?」)
 ちなみに、グルテンフリー食品はダイエットには向いていない。「グルテンフリーの加工食品は脂肪分やカロリーが高い傾向にあるからです」とケリー氏は言う。「グルテンフリー食を必要とする患者さんが、望まない体重増加に悩んでしまうケースは珍しくありません」
 デニス氏とスミス氏は、何らかの理由でグルテンフリー食を実践している人に対して、最適な健康状態を維持するために地中海食と組み合わせるよう勧めている。デニス氏は、「抗炎症作用と抗酸化作用のある物質を豊富に含む地中海食以上の食事計画は考えられません」と話す。
「地中海食は食物繊維が豊富で、果物や野菜がたっぷり取れ、良質なタンパク源であり、飽和脂肪の摂取量は最小限に抑えられます」(参考記事:「沖縄の伝統食はなぜ長寿の秘訣なのか、地中海食と並ぶ世界の双璧」)
 では、自分の体調不良の原因はグルテンにあるのではないかと思う人はどうすればよいのだろうか?
 ケリー氏は、グルテンフリー食に走る前に医師に相談すべきだと言う。そうでないと、避ける必要のないものを避けて、求める利益も得られないという状況になるおそれがある。

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嫌がる子どもに薬を飲ませる最終兵器「ねるねるねるね」

2025年05月16日 13時30分15秒 | 糖質制限
10年ほど前に、漢方薬をいかに子どもに飲ませるか?を探求し、
自分たちスタッフで味見をして一覧表を作成したことがありました。
その際、お薬ゼリー系も一通り試したのですが、
味が弱くて漢方の苦味をマスクしきれない印象がありました。

結論としては「ココア」と「高齢者用のとろみ製剤」が勝ち残りました。

というわけで、最近登場した、
お菓子「ねるねるねる」からの進化版「おくすりパクッとねるねる」、
にも興味があります。

その使用体験記が目に留まりましたので紹介します。


▢ お薬専用の「ねるねるねるね」試してみました
松本康弘:薬剤師
2024/11/06:日経DI)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 先日からマイコプラズマの話題をお届けしていますが(関連記事:大流行マイコプラズマ、マクロライド耐性に注意、耐性マイコプラズマ、MINOかTFLXか?)、マイコプラズマといえばマクロライド系抗菌薬、マクロライドといえば苦い薬です。マイコプラズマ感染症の流行でマクロライド系抗菌薬がよく処方されていますが、苦くて子どもが飲めず、「飲めなくて吐いたけど、どうやって飲ませたらいいですか」という問い合わせがよく来ます。マクロライド耐性で効かないのか、薬を飲めないから効かないのか、分からないという事態になりかねません。
 そこで服薬補助食品の登場ですが、以前に本コラムで、お菓子の「ねるねるねるね」を使って薬を服用する秘策をご紹介しました(関連記事:「ねるねるねるね」で薬を飲みやすく!?)。ねるねるねるねは皆さんご存じの通り、粉末に水を加えて練って食べる、1986年発売のロングセラーのお菓子です。虎石顕一先生という薬剤師の方が、約20年前に論文で投稿された方法としてご紹介しましたが、2023年10月、お薬を飲むための専用のねるねるねるねが、服薬補助食品「おくすりパクッとねるねる」として、クラシエから本当に発売されました。
 服薬用の製品には、お菓子の製品に含まれていたカルシウムが含まれておらず、薬剤の作用を阻害しないように工夫されています。
 今回、これを使ってマクロライドを飲んだらどうなるのか、試してみました。
 外観は、冒頭の写真のように、お菓子のねるねると同じようなデザインの文字が飾られています。
 箱の中にはイチゴ味とメロン味がそれぞれ3袋と、付属の専用トレー、スプーンが入っています。
 専用トレーに材料の粉末(今回はイチゴ味を試しました)を入れて、計量カップで水を取り、粉にかけます。
 スプーンでよくかき混ぜると「ねるねる」ができます。
 ここに散剤を入れます。今回はクラリスロマイシンDS小児用10%「タカタ」で試してみました。味見は私を含めた3人で行いました。その結果、みんな「全く苦くない」という感想になりました。
 実はこれ、意外な結果でした。「おくすりパクっとねるねる」は、水を入れるとpH5程度になります(クラシエ・フーズお客様相談室からの回答)。クラリスロマイシンDS「タカタ」は、酸性条件では薬のコーティングがはがれてしまい、苦みを感じやすくなります。ですので、pH5なら苦くなるのではと思っていました。
 なぜ苦くならないのか考えるに、
・ねるねるは重曹によって泡状になるため、舌と薬剤が触れにくくなる、
・薬剤とねるねるの接触機会が限られる、
・pH5なので酸性度が弱くコーティングがはがれるのに時間がかかる(他のフルーツ系服薬補助食品に比べてpHは高め)
などの理由があると推測しました。
 ただ、しばらくすると口の中が徐々に苦くなります。これは、口の中に残ったクラリスロマイシンのコーティングが、時間の経過とともにはがれた結果だと思います。
 後から来る苦みはずっと残りましたので、次に飲むときの妨げになるかもしれません。これを防ぐには、ねるねるを飲み込んだ後にすぐに水を飲んだり、口の中をゆすいだり、服用後すぐにご飯を食べさせたりすることで防止できると思います。
 服薬補助食品は様々な会社が出していますが、子どもが作って楽しむ要素がある「おくすりパクっとねるねる」は、選択肢の一つとなりそうです。

・・・けっこうよさそうですね。
「どうしても飲めません」という患者さんには提案したいと思います。
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大谷翔平選手は「10時間睡眠」!

2025年05月16日 12時27分24秒 | 医療問題
それを聞いたとき、
「10時間も眠れない!」
というのがアラ還おじさんの私の印象です。

待てよ、以前にも「10時間睡眠」の話を聞いたことがあるような・・・
記憶を紐解くと、確かプロテニス選手のマルチナ・ナブラチロワがインタビューでそう話していましたね。
最近ではロジャー・フェデラーや錦織圭選手も10時間睡眠という噂です。

以下の記事を読むと、フムフムなるほど・・・と肯ける箇所がいくつもありました。

<ポイント>
・良い睡眠の条件」である。内村氏は「量(時間)」「質」「リズム」の3要素が確保されていること。
・若いほど体重当たりの消費カロリー量が多く、より多くの睡眠時間が必要になる。そしてヒトは加齢とともに体重当たりの消費カロリー量は減少するため、それと連動して睡眠時間も短くなる。
・科学的には18歳未満の中高生で8~10時間、非高齢者の成人では6~8時間、高齢者では6時間程度の睡眠時間が推奨される。ちなみに加齢とともに体内時計の機能劣化で眠りは浅くなりがちになり「若い時のようにぐっすり長く眠られない」という高齢者の愚痴は病気ではなく自然なこと。
・「ノンレム睡眠」は、睡眠の深さによってN1~N3の3段階に分かれ、最も深いN3は一般的に最初の2サイクルでしか出てこない。このため2サイクルの合計180分、すなわち3時間はきっちり眠ることが重要。
・ヒトが深く眠れると考えられるのが午後10時から午前3時にかけて。
・メラトニンの分泌量が増えだすのは、起床後に日光を浴びた時から14~16時間後、逆算するとヒトは起きてから14~16時間経過しないと眠れない。
・最適な睡眠時間の目安とは「朝にすっきりと目覚めたと自覚し、かつ午前中に眠気を感じない睡眠時間」。かなりの時間眠ったにもかかわらず、午前中に眠気を感じるのは「睡眠時無呼吸症候群」や「ナルコレプシー」のような病気にかかっていなければ、まずない。昼食後の午後2時前後、ヒトは誰でも眠気に襲われる。


▢ だから大谷翔平選手は「10時間睡眠」で成功できた…日本睡眠学会理事長が分析「頂点を極める人」の睡眠の特徴リズムと質の不利を量で補っている
村上 和巳:ジャーナリスト
2025/05/09:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 大谷翔平選手の成功の秘訣として「10時間睡眠」が取り上げられる。最適な睡眠時間とは何時間なのか。日本睡眠学会の内村直尚理事長は「大谷選手の10時間睡眠は『やや寝すぎ』。ただし“いい睡眠”を決めるのは時間の長さだけではない」という。医療ジャーナリストの村上和巳さんが話を聞いた――。

▶ 大谷選手が証明する「10時間睡眠」のすごさ
 2年連続3度目の満票シーズンMVP、1シーズン50本塁打50盗塁(50-50)と米メジャーリーグ史上初の記録を次々に打ち立てるロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。その強さの秘訣としてよく話題にのぼる生活習慣が「10時間睡眠」である。
 一方で日本人については、従来、睡眠時間が短いと言われ、各種データからもこれは明らかである。令和元年の国民健康・栄養調査によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人は男女とも4割前後。経済協力開発機構(OECD)の調査では、先進国も含む世界33カ国の中で日本人の平均睡眠時間462分(7.7時間)は最低値である。
 こうして見ると、眠い目をこすりながら仕事をしている日本人の多くにとって、10時間も睡眠時間を取りながら、億単位の年収を稼ぐ大谷はまさに驚異的存在である。
 むしろ逆説的に「長時間睡眠をとることが大金を稼ぐパフォーマンスを生み出すのではないか?」と思いたくもなるだろう。

▶ 大谷選手の睡眠時間を専門家はどのように評価するのか?
「10時間はやや寝すぎ、ただし…」
「最近は10時間も睡眠を取れば、大谷選手のようになれるのか」と問われることが増えたと苦笑いする日本睡眠学会理事長で久留米大学学長(同大学医学部神経精神医学講座前主任教授)の内村直尚氏は、「大谷選手は10時間睡眠に加え、時には昼寝も2時間程度すると言っていますが、30歳という年齢を考えると、医学的に適切な睡眠は1日7時間前後、昼寝も30分程度。その意味ではやや寝すぎです」と評価する。
 ただ、内村氏によると、大谷選手が置かれた“特殊事情”を考えれば、10時間睡眠もある程度説明がつくという。
 この特殊事情を考えるにあたって知っておかねばならないのが、そもそも「良い睡眠の条件」である。内村氏は「量(時間)」「質」「リズム」の3要素が確保されていることだとする。

【条件1】睡眠の“量”
 まず、量(睡眠時間)は、個人差はあるものの、医学的には体重当たりの消費カロリー量(いわゆる基礎代謝量)によって異なる。もっとも端的に相関するのは年齢で、一般的には若いほど体重当たりの消費カロリー量が多く、より多くの睡眠時間が必要になる。そしてヒトは成長すなわち加齢とともに体重当たりの消費カロリー量は減少するため、それと連動して睡眠時間も短くなる。ちなみに1~2歳児の基礎代謝は、75歳以上の高齢者と比べ、約3倍も高い。
 この結果、科学的には18歳未満の中高生で8~10時間、非高齢者の成人では6~8時間、高齢者では6時間程度の睡眠時間が推奨される。ちなみに加齢とともに体内時計の機能劣化で眠りは浅くなりがちになる。「若い時のようにぐっすり長く眠られない」という高齢者の愚痴は少なくないが、これは病気ではなく自然なことだ。

▶ 「最初の3時間」が質を決める
【条件2】睡眠の“質”
 一方、「質」について内村氏が指摘する主な指標は、
(1)入眠から3時間は中途覚醒しない
(2)午前0時までの入眠
の2つである。
(1)については、ヒトの睡眠のサイクルに由来する。ヒトの睡眠は体が休息しても脳は活動している「レム睡眠」とそこから移行した体も脳も休息する「ノンレム睡眠」の合計90分の1サイクルが睡眠中に繰り返される。
 このうちの「ノンレム睡眠」は、睡眠の深さによってN1~N3の3段階に分かれ、最も深いN3は一般的に最初の2サイクルでしか出てこないこのため2サイクルの合計180分、すなわち3時間はきっちり眠ることが重要になる。
 一方、(2)についてはヒトの体内時計の働きなどから、科学的にヒトが深く眠れると考えられるのが午後10時から午前3時にかけてとわかっているためだ。
 つまり深い睡眠が取れるタイムリミットの午前3時から、より深い睡眠がとれる最初の3時間確保を逆算すると、遅くとも午前0時までに入眠しなければならないのである。

▶ 睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌サイクル
【条件3】睡眠の“リズム”
 3つ目の「リズム」を語る際に欠かせないのが、ヒトの体内時計の働きを調節するホルモン「メラトニン」である。
 メラトニンは起床後に日光を浴びると分泌が抑制され、それとともに人の体温は上昇し、日常活動に適した状態となる。メラトニンの分泌量が増えだすのは、起床後に日光を浴びた時から14~16時間後。これによりヒトの体温は低下し、睡眠に向けたリラックスモードに誘われる。裏を返せば、徹夜をしたなどの特殊事情がない限り、ヒトは起きてから14~16時間経過しないと眠れないことになる。
 具体例で示そう。まず、一般的な非高齢成人が深い睡眠が得られやすい時間帯で最も早い午後10時に眠りにつく場合。メラトニンの分泌サイクルを考慮すれば、遅くともその日の朝8時には起きていなければならない。この設定ならば当然6~8時間という量(睡眠時間)の確保も可能になる。
 内村氏は「リズムが確保できていなければ、必然的に睡眠の質は悪化する」と説明するが、量の確保の観点からもリズムが重要なことはこの点からも明らかだ。

▶ 結論「質・リズムの不利を量で補っている」
 さてそのうえで内村氏は、大谷選手の10時間睡眠を次のように分析する。
「まず、大谷選手の特徴は投手と打者の双方で好成績を出す『二刀流』。それだけに同年代と比較しても体重当たりの消費カロリーは多いと考えられます。しかも、米メジャーリーグの選手は、試合のために東海岸と西海岸の間で3時間も時差があるアメリカ国内を行き来します。ナイトゲームの翌日にデイゲームが行われることもあります。つまりもともと消費カロリーが多いために長い睡眠時間が必要な環境にあるにもかかわらず、時差ボケも含め睡眠リズムの確保が難しく、結果として睡眠の質も低下しやすい状況です。このためリズムと質の不利を量で補っていると解釈するのが妥当です」
・・・
▶ 午前中に眠気を感じたら要注意
 ここで再び「良い睡眠の3条件」を考えると、「質」と「リズム」はある種、万人に通じる法則があることはわかっただろう。ただ、「量」は年齢に応じた目安はあるものの、個々人の消費カロリーの違いに代表されるように個人差が大きい。
 たとえば、一般的な成人の睡眠は6~8時間と言われても、自分にとってそれが6時間なのか7時間なのか8時間なのか、はたまた大谷選手のように消費カロリーが多く、質とリズムが保てないがために9~10時間必要なのか。
 内村氏が語る個々人の最適な睡眠時間の目安とは「朝にすっきりと目覚めたと自覚し、かつ午前中に眠気を感じない睡眠時間」だという。
 一見すると、フワッとした感じだが、まず「午前中」という点が一つのポイント。それは昼食後の午後2時前後、ヒトは誰でも眠気に襲われるからだ。また、かなりの時間眠ったにもかかわらず、午前中に眠気を感じるのは「睡眠時無呼吸症候群」や「ナルコレプシー」のような病気にかかっていなければ、まずないという。

▶ 連休は「正しい睡眠時間」を知るチャンス
 より正確に自分に必要な睡眠時間を知りたい人に対して内村氏が推奨するのは、以下の4条件だ。

▽ 起床時間の制約がない
▽ 起きている時間はなるべく普段と同程度の活動量を確保する
▽ 現時点で明らかな睡眠不足や睡眠障害を疑うような症状(寝付きの悪さや中途・早朝覚醒)はない
▽ 夜に飲酒はしない、あるいは少量にとどめて飲酒後3時間以上経過してから布団に入る

 これらをすべて確保した状態で、部屋を完全に真っ暗にして目覚まし時計をかけない状態で眠ること。
この条件で布団に入ってから最初に目を覚ますまでの時間が自分に必要な概算の睡眠時間だという。連休中などにこれを試す場合は数日間続けてその平均値を算出すれば、より正確な必要睡眠時間を算出できる。あとはこれに合わせて「質」と「リズム」も整えれば良いことになる。
 ちなみに最近増えたという「10時間睡眠で大谷選手のようになれるのか」との取材に内村氏はこのように答えているという。
「十分に睡眠をとることは、どのような人にとっても十分な実力を発揮するために必要な最低限の条件。大谷選手のように頂点を極めるまでは行けなくとも、頂点に近づくことはできます」
 良い睡眠はあなた自身が活躍する領域で大谷選手のような飛びぬけた人間になるかどうかの第一歩というわけだ。


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アトピー性皮膚炎の新しい外用薬の評価2025

2025年05月16日 06時06分28秒 | アトピー性皮膚炎
50年以上前に登場したステロイド外用薬。
抜群の効果を示すものの、長期使用で副作用が出ることが判明し、
次世代の外用薬の登場が待たれました。

そしてとうとうタクロリムスが登場。
しかし刺激感や発がんリスク(※)のため普及しませんでした。

※ 当初動物実験で報告され、ただ実際の使用より大幅に高濃度のデータであり、
その後ふつうの使用レベルでは問題ないことが判明し、
添付文書からも注意喚起が消えました。

2020年代に入り、新薬ラッシュ。
デルゴシチニブ(商品名:コレクチム)(2020年)とジファミラスト(商品名:モイゼルト)(2021年)の登場です。

私は従来、ステロイド外用薬によるプロアクティブ療法(漸減法)をしてきましたが、最近は、
 ステロイド外用薬で寛解導入
 ジファミラストで寛解維持
とシンプルな手法になってきました。

ようやく、小児アトピー性皮膚炎診療のスタンダードが形成されてきた感があります。

デルゴシチニブ、ジファミラスト、タクロリムスを文献上で比較した論文の記事が目に留まりましたので紹介します。

結論から申し上げると、
ジファミラストが一歩リード、という印象ですね。

ただ実際に患者さんに使ってもらう立場から言うと、
今あるひどい湿疹を治す力はステロイドが最強です。

デルゴシチニブとジファミラストは一旦よくなった湿疹を、
再度悪化させない程度の力です。

私がジファミラストを選択している理由は、
副作用はデルゴシチニブ>ジファミラストという点です。


▢ アトピー性皮膚炎への新規外用薬、既存薬と比較~メタ解析
2025/05/16:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 アトピー性皮膚炎に対する治療薬として、2020年1月にデルゴシチニブ、2021年9月にジファミラストが新たに承認された。長崎大学の室田浩之氏らは、これらの薬剤と既存の標準的な外用薬について、臨床的有効性および安全性を評価するためシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施し、結果をDermatology and Therapy誌2025年5月号で報告した。
 Medline、Embase、Cochrane、ならびに医中誌から対象となる文献を選定し、有効性の評価項目として、Eczema Area and Severity Index(EASI)スコアおよびInvestigator Global Assessment(IGA)スコアを使用した。安全性の評価項目には、重篤な有害事象、ざ瘡、および皮膚感染症が含まれた。
 固定効果モデルを用いたベイジアン多重処理ネットワークメタ解析が実施され、アトピー性皮膚炎に対する各種外用薬(プラセボを含む)の転帰を比較するために、オッズ比(OR)および95%信用区間(CrI)が用いられた。
 主な結果は以下のとおり。

・アトピー性皮膚炎の成人患者(重症度は異なる)を対象とした、11件の無作為化比較試験がネットワークメタ解析に組み入れられた。

・システマティックレビューの結果、
 ジファミラスト0.3%および1%
 タクロリムス0.1%
ーにおいてEASIスコアの改善が認められた。

 ジファミラスト1%
 デルゴシチニブ3%
 タクロリムス0.1%
ーでIGAスコアの改善が認められた。

・ネットワークメタ解析の結果、4週時点において、
 ジファミラスト1%(1日2回投与、BID)はプラセボと比較してIGAスコアおよびベースラインからのEASIスコア変化率のいずれにおいても有意な改善を示した。
 一方で、ほかの治療薬との比較においては、点推定値は数値的にはジファミラスト1%に有利であったものの、統計学的な有意差は認められなかった。

・ジファミラスト1%(BID)はデルゴシチニブ0.3%(BID)と比較して、ざ瘡の発生率が有意に低かった。

・重篤な有害事象、ざ瘡、および皮膚感染症の発生率において、プラセボやほかの治療薬との間で統計学的に有意な差は認められなかった。

<原著論文>


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スギとヒノキで花粉症症状は違う?

2025年05月15日 17時23分23秒 | 糖質制限
春の花粉症(スギ、ヒノキ)はGWでほぼ終了し、
現在はイネ科花粉症の患者さんが来院するようになりました。

このタイミングなのでちょっと外してしまっていますが、
「スギ花粉症とヒノキ花粉症では症状が異なる」という、
興味深い昔の記事が目に留まりましたので紹介します。

著者は鍼灸師なので漢方的解説が中心です。
結論から申し上げると、
「スギ花粉症は“鼻の症状”が、ヒノキ花粉症は“目やのど、粘膜の炎症症状”が強く出やすい」
「ヒノキ花粉症は、少量の花粉でも強い咽頭症状が生じる」
「傾向としてスギ花粉は「冷」、ヒノキ花粉は「熱」による症状が多い」
そうです。

これは実際に患者さんを診ていても感じるところです。
2月3月の患者さんの鼻粘膜は蒼白(寒)ですが、
4月の患者さんの鼻粘膜は紅色(熱)ですね。

私は鼻粘膜の色により漢方薬を使い分けています。
蒼白(寒)では温める小青竜湯(19)、
紅色(熱)では冷やす越婢加朮湯(28)、等々。
あ、この記事に同じことが書いてありますね。

一つ注意点として、小青竜湯・越婢加朮湯には麻黄という生薬が入っています。
これは胃弱・虚弱な方には合いません。
胃もたれや動悸が副作用として出ることがあります。
まあ、虚弱な方は花粉症の症状も激しく出ない傾向がありますね。


▢ 実はスギと違う?「ヒノキ花粉症」への漢方的対処目のかゆみや咳がひどい人は一度チェックを
平地 治美 : 薬剤師、鍼灸師。 和光鍼灸治療院・漢方薬局代表
2022/04/15:東洋経済オンライン)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 スギ花粉が2~4月ぐらいに飛散するのに対し、ヒノキ花粉はそこから約1カ月程度遅れて3月末~5月のゴールデンウィーク過ぎぐらいまで飛散します。・・・ちなみに、スギ花粉症の方はヒノキ花粉にも反応する"交差反応性"を示すことも少なくありません。実際、スギ花粉症患者さんの70%がヒノキ花粉でも症状が表れるといいます。

▶ ヒノキ花粉症で表れやすい症状とは?
 どちらの花粉症でも症状の表れ方には個人差があるため、症状だけでスギ花粉症かヒノキ花粉症かを見分けることはそう簡単ではありません。それでも、スギとヒノキでは花粉の構造が違うことから、症状が異なる部分もあります。
 例えば、スギ花粉症は「鼻の症状」が、ヒノキ花粉症は「目やのど、粘膜の炎症症状」が強く出やすいようです。特にヒノキ花粉症は、少量の花粉でも強い咽頭症状が生じるように思います。鼻から入り込んで喉に到達することでのどのかゆみや痛みを覚えたり、咳が出たりします。
 花粉症は現代病の1つなので、1000年以上の歴史がある漢方の古典には花粉症という病名の記載はありません。ただ、病名の記載はなくても、花粉症と思われる症状は古典にも多く載っています。例えば、以下のようなものです。
・鼻鼽(びきゅう) くしゃみ、鼻づまりを伴い、鼻水が出る
・鼻淵(びえん) 水のような鼻水が滝のようにあふれ出る
・膿漏(のうろう) 黄色いドロドロした鼻水が出る
 ここに目のかゆみや皮膚の症状も入れると、花粉症の症状に当てはまる表現はもっと多く、それを私たちのように漢方を学んでいる人は、花粉症の治療に応用しているというわけです。
 花粉症は花粉という異物を追い出すために、体に過剰な防衛反応が起こっている状態ですが、漢方の医学理論について書かれている医学書『黄帝内経』には、「春の病気の原因は冬に作られる」とあります。花粉症はまさにその代表例といえます。
 この「花粉症は冬に作られる」とはどういうことでしょうか。それを解くカギになるのが、漢方治療の治療方針です。
 花粉症に限らず、漢方治療には大きく2つの治療方針があります。1つは今まさに出ている症状を抑える「標治」で、西洋医学の対症療法に近い考え方になります。そしてもう1つは、症状が出やすい体質を改善して病気になりにくい体を作る「本治」です。こちらはまさに漢方の得意とするところでしょう。
 花粉症の場合でみると、鼻水や鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどを治すのが標治、アレルギー体質を改善して花粉症そのものを軽くしていくのが本治になります。
 理想をいえば、花粉症の症状が表れる数カ月前から本治で体調を整えて、症状の出にくい体づくりをし、いざシーズンになったら標治で症状を抑えていきたいところですが、今はすでに花粉症シーズン真っ只中で本治のフェーズではないため、標治を中心に行うことになります。
 では、その標治ではどんな治療をするのでしょう。
 漢方では花粉症の症状である鼻水やくしゃみ、皮膚や目のかゆみは、すべて五臓六腑の1つ「肺」に属する病によって起こると捉えます肺は胃腸との働きと深い関係があるので、症状の原因が冷えによるものであれば温め、熱であれば冷やす治療を用います。例外はありますが、傾向としてスギ花粉は「冷」、ヒノキ花粉は「熱」による症状が多いようです。
 ヒノキ花粉症で多い「熱がこもっているタイプ」の代表的な症状は次の通りで、炎症症状が強く出るのが特徴です。

<熱による症状>
・熱感やほてり、炎症症状が強い
・黄色く濃い痰や鼻水、目やにが出る
・温めると悪化する
・のど、目のかゆみ、耳のかゆみが強い
・のどの奥がイガイガする

 これを見ると、目のかゆみや皮膚の乾燥とかゆみ、喉などの粘膜の炎症が目立ちます。
 話は逸れますが、過去にみた患者さんに尿道の粘膜に花粉症の症状が出て、膀胱炎を起こしていた方がいました。この方は膀胱炎の薬を飲んでも一向に治らなかったのですが、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)という花粉症に効く漢方薬が功を奏し、膀胱炎が治ったのです。
 この方は例外ですが、一般的に熱がこもっているタイプにはこもった熱を冷ます漢方薬を使います。例えば、目のかゆみやむくみには越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)がよく、余分な水分と熱を取ることで目のかゆみをはじめとする炎症症状の改善が期待できます

▶ トウガラシやニンニクなどは控えめに
 養生では、熱による炎症を悪化させる香辛料(トウガラシやニンニクなど)の摂りすぎには気をつけましょう。揚げものや肉、甘いものや味が濃いものも控えたほうがよいです。飲酒も体に熱をこもらせるので控えめに。反対におすすめしたいのは、さっぱりした味付けのもの、春の魚などを中心にした献立です。
 睡眠不足や過労も、熱による炎症症状を悪化させるので注意しましょう。睡眠をしっかりとり、疲れをとるために、ミントのハーブティやアロマオイルを入浴剤として使うのもすすめられます。
 本治でも標治でも使える点鼻薬の作り方を紹介します(省略)。
・・・
 最後に、冷えが原因となるスギ花粉の漢方治療についてもご紹介します。
 一般的に冷えが原因の場合、次のような症状が出ます。

<冷えによる症状>
・薄くて量が多い鼻水
・体、手足などの冷え(寒い日に悪化する)
・むくみ

▶ スギ花粉症では「水毒」が生じやすい
 漢方で薄い鼻水は、体内の水分バランスが崩れた結果で生じる「水毒(すいどく)」によるものと捉えています。水毒とは処理しきれない水が体の特定の部分に溜まった状態をいい、行き場を失った水が鼻水や痰となるのです。鼻づまりも鼻の粘膜に水が溜まって膨張した結果、起こります。
 春は冬には凍っていた病が溶けてあふれ出す季節です。花粉症で顔や足がむくむ人も多く、これらの症状はまさに水毒の表れです。
 水毒に対しては、水分の偏りを解消して水分バランスを整える利水作用のある漢方薬を用います。西洋医学にも利尿剤がありますが、漢方の利水剤のように水の偏在を正す働きをする薬剤はありません。
 利尿作用のある代表的な漢方薬が、小青竜湯です。小青竜湯は、体力が中等度またはやや虚弱で、水のような痰を伴う咳や鼻水を訴える人に使われます。体力がなく冷えが強い人には、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)が使用されます。
 水毒を作らないような養生も大切です。水分を摂りすぎれば新たに水毒ができるため、せっかくの利水剤の効果も薄くなります。このほかにも、砂糖入りの甘いものや冷たいもの、果物の摂りすぎも体に水を溜め込むので、控えたほうがよいでしょう。
 これまで見てきたように、漢方では「花粉症」という病名だけで同じ処方を出すことはありません。同じ花粉症でも、正反対の働きで起こっている場合があるためです。熱がこもったヒノキ花粉症の患者さんが、温める作用のある小青竜湯を服用すれば、逆に症状が悪化してしまいかねません。実際、そのような理由で相談に来られる患者さんもいます。
 スギとヒノキ。同じ花粉症でも漢方では違うものと捉えること、ぜひ覚えておいて、これからの治療、来年の治療に役立ててもらいたいものです。


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インフルエンザ+コロナのmRNA混合ワクチンがいよいよ登場

2025年05月15日 05時19分38秒 | 予防接種
新型コロナで初登場したmRNAワクチン。
高い効果と発熱の副反応で大きなインパクトを残しました。
そしてワクチンによりたくさんの命を救ったことも判明。

単独接種されていた新型コロナワクチンは、
いずれ「年1回接種」に収束し、
インフルエンザワクチンと同時接種、
あるいは混合ワクチン接種の方針にシフトされることが想定されてきました。

そしてとうとう、混合ワクチンが登場し、
その成績が報告されました。
扱った記事を紹介します。

効果・安全性共に問題ないという結果です。
ただし、50歳以上のデータであり、
対象に小児は含まれていません。


▢ インフル・コロナ混合ワクチン、50歳以上への免疫原性・安全性確認/JAMA
2025/05/15:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の混合ワクチン「mRNA-1083」の免疫原性と安全性を、50歳以上の成人を対象に評価した第III相無作為化観察者盲検試験の結果が報告された。開発中のmRNA-1083は、推奨されるインフルエンザワクチン(高用量、標準用量)およびCOVID-19ワクチンと比較して非劣性基準を満たし、4種すべてのインフルエンザ株(50~64歳)、SARS-CoV-2(全年齢)に対して高い免疫応答を誘導したことが実証され、許容可能な忍容性および安全性プロファイルが示された。米国・ModernaのAmanda K. Rudman Spergel氏らが報告した。JAMA誌オンライン版2025年5月7日号掲載の報告。

▶ 4価ワクチン+COVID-19併用接種群と比較
 試験は、2023年10月19日~11月21日に米国146施設で50歳以上の成人を登録して行われた。データ抽出は2024年4月9日に完了した。
 被験者は年齢で2コホート(65歳以上、50~64歳)に分けられ、mRNA-1083+プラセボを接種する群、承認済みの季節性インフルエンザ4価ワクチン(65歳以上:高用量4価不活化インフルエンザワクチン[HD-IIV4]、50~64歳:標準用量IIV4[SD-IIV4])とCOVID-19ワクチン(全年齢:mRNA-1273)を併用接種する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。
 本試験の主要目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する非劣性の検証、mRNA-1083の反応原性および安全性の評価であった。副次目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する優越性の検証などであった。

▶ mRNA-1083の免疫原性の非劣性、高い免疫応答の誘導を確認
 全体で8,015例がワクチンを接種された(65歳以上4,017例、50~64歳3,998例)。年齢中央値は65歳以上のコホート70歳、50~64歳のコホート58歳、女性はそれぞれ54.2%と58.8%、黒人またはアフリカ系は18.4%と26.7%、ヒスパニックまたはラテン系は13.9%と19.3%であった。
 mRNA-1083の免疫原性は、すべてのワクチン適合インフルエンザ株およびSARS-CoV-2株に対して非劣性が検証された。すなわち、幾何平均抗体価比の97.5%信頼区間(CI)下限値は0.667を上回り、セロコンバージョン/血清反応率の差の97.5%CI下限値は-10%超であった。
 mRNA-1083は、4種すべてのインフルエンザ株に対してSD-IIV4(50~64歳に接種)よりも高い免疫応答を誘導し、3種のインフルエンザ株(A/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア)に対してHD-IIV4(65歳以上に接種)よりも高い免疫応答を誘導した。また、SARS-CoV-2(全年齢にmRNA-1273を接種)に関しても高い免疫応答を誘導した。
 mRNA-1083接種後の依頼に基づく非自発的に報告された副反応は、両年齢コホートにおいて対照ワクチン群と比較し、頻度および重症度ともに数値的には高かった。頻度は、65歳以上ではmRNA-1083接種群83.5%、HD-IIV4+mRNA-1273接種群78.1%であり、50~64歳ではmRNA-1083接種群85.2%、SD-IIV4+mRNA-1273接種群81.8%であった。重症度は大半がGrade1または2であり短期間に消失した。以上から、安全性に関する懸念は認められなかった。

<原著論文>

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百日咳で生後1ヶ月の赤ちゃんが死亡

2025年04月30日 09時34分59秒 | 糖質制限
新生児(生後1ヶ月未満)が百日咳にかかると重症化することは小児科医の常識です。
しかし免疫をつけるワクチンは生後2ヶ月からのため、
実質的に新生児は無防備状態です。

母体が免疫を持っていると胎盤を通じて胎児へも移行するため、
感染症では一般に生後半年はその移行抗体で守られるとされています。

しかし守られる期間は感染症の種類により異なり、
百日咳ではほとんど無効です。

このため諸外国では「妊婦にワクチン接種」を推進しています。
また、赤ちゃんの周囲で生活する家族にもワクチンを打つこと(コクーン戦略)を推奨しています。
残念ながらワクチン嫌いの日本ではそのような予防法はされてきませんでした。
最近ようやく学会中心に動きが出てきたところです。

(2025.4.25:日本産科婦人科学会)

今回の百日咳で注目すべきは「薬剤耐性菌」という点です。
従来、百日ぜき菌にはマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)が有効とされ実臨床で用いられてきましたが、これらの抗菌薬が効かないのです。
次の一手は?
8歳以降の年長児ではミノマイシンが用いられますが、
乳幼児では副作用のリスクから使用できません。
下記記事の中で選択されたのはST合剤という、
一般の小児科開業医では用いられない種類です。

咳嗽遷延悪化例で、従来の治療に抵抗する例では、
後手に回ることなく病院での診療に切り替えることが肝要と考えます。

そして、ワクチン接種体制を早急に整備する必要があります。
現在のスケジュールでは不十分です。


▢ マクロライド耐性百日咳菌感染で1カ月女児が死亡、都内で耐性菌拡散も
2025/04/24:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立感染症研究所は2025年4月18日、基礎疾患のない生後1カ月の女児が、マクロライド耐性百日咳菌感染による呼吸不全により死亡していたことを発表した(外部リンク:感染症情報提供サイト)。東京都立小児総合医療センターでは2024年11月~2025年3月末までに、マクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis:MRBP)が分離された症例が5例報告されており、そのうち1例が死亡した。感染研は、5症例の臨床像を紹介。5症例は互いに疫学的な関連を認めず、海外渡航歴もなかったことから、東京都では既にMRBPが拡散していると見られている。
 MRBPは2011年に中国で報告され、その後感染が拡大。2020年時点で中国における百日咳菌の報告の6~9割をMRBPが占めている。日本における百日咳の患者報告数は2024年中盤から増加傾向にあり、MRBPへの感染も相次いで報告され始めている。東京都、大阪府、鳥取県、沖縄県で渡航歴のないMRBPの報告がある(関連記事:百日咳が拡大、日本小児科学会が耐性菌増加に注意喚起)。

 今回、死亡した女児の経過は次の通り。
 1カ月女児。基礎疾患はなく、5種混合ワクチンの定期接種前だった。妊娠中に母に百日咳抗原を含むワクチン接種歴はなく、ワクチン未接種の同胞に咳嗽の症状があった。
 女児は7日前からの咳嗽と呼吸状態の増悪により前医で入院となり、LAMP法で百日咳と診断された。アジスロマイシン(商品名ジスロマック)を静注したものの入院2日目に哺乳困難となり、入院3日目に酸素化不良を来し高流量経鼻酸素療法を行ったものの呼吸不全となった。そのため入院4日目に東京都立小児総合医療センターに転院。気管内挿管による人工呼吸管理を実施した。白血球は4万8090/μL(リンパ球43%)、肺炎像を認め、マクロライド耐性を考慮してST合剤の静注を追加した。挿管時の喀痰塗抹で百日咳菌が分離された。
 転院2日目には白血球が7万5730/μL(リンパ球35%)となり、白血球除去療法を施行。心エコー検査で肺高血圧を認めた。転院3日目に呼吸不全、肺高血圧が進行し、腎不全を来しECMO(体外式膜型人工肺)と持続血液濾過透析による全身管理を行ったが、転院5日目に死亡した。なお、ST合剤開始4日後の喀痰塗抹では百日咳菌は認められなかった。
 MRBPの治療には、感受性のある抗菌薬の使用が必要となり、ST合剤の投与が選択肢の一つとなる。感染研は今回の報告の中で、「ST合剤の新生児への投与は、高ビリルビン血症による核黄疸のリスクがあるため禁忌とされているが、ビリルビン値が低い症例の場合は、他に有効な選択肢がないため救命のための使用は許容されると考えられる」と考察。重症化リスクの高いワクチン未接種の小児の初期治療では、MRBPを考慮してST合剤を含む治療を検討すべきだとしている。
 なお、感染研は2025年4月22日、昨今の流行を受けて百日咳の発生状況(同日時点)をまとめ、ウェブサイトで公開した(外部リンク:感染症情報提供サイト)。


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世界中で花粉症が増えている原因は・・・地球温暖化?

2025年04月13日 07時31分02秒 | 糖質制限
日本ではスギ花粉症が国民病と言われるまでに増え、
全日本人の4〜5割が罹患しています。

海外ではどうでしょうか。
そのことを扱った記事が目に留まりましたので紹介します。

外国でも2割の子どもが花粉症に罹患し、
年々増加傾向にアレルギー性鼻炎とのこと。

そしてその原因は地球温暖化であると説明されています。
う〜ん、それだけかなあ・・・。

日本では従来、公害(自動車排気ガスなど)の影響が指摘されてきました。


▢ 海外にもある花粉症、患者も増加 「大量植樹」ではない原因とは?
2025/4/12:朝日新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・海外にも花粉症はあり、日本のように患者数が増えているという。原因は何なのか。解決策はあるのか。健康問題を研究しているニッセイ基礎研究所(東京)の村松容子主任研究員に話を聞いた。 

■温暖化と花粉症の関係  
――海外にも花粉症はあるのですか。 
 あります。イギリスで1819年に診断されたのが初めてと言われています。原因となる植物は各地で異なり、ヨーロッパではイネ科、アメリカではブタクサなど、オーストラリアではアカシアなどです。  
――日本では花粉症患者が増えているとの調査がありますが、海外での動向は。 
 日本では、全体としても増えているし、特に子どもなど若い人の発症が増えていると言われていますが、海外も同様のようです。世界アレルギー機構の2016年の資料によると、13~14歳の小児における花粉症の有病率は世界全体で約2割で、年平均0.3%増加しているというデータもあります。  
――その理由は。 
 温暖化が指摘されています。花が咲く時期が早まり、かつ、長く咲くようになったため、花粉の総量が増えているというわけです。 

■「どう付き合うか」の議論が主流?  
――どんな対策が議論されていますか。 
 気候変動対策や、医薬品などでアレルギー反応をどう抑え込むか、花粉の予測など、どう花粉とつきあっていくかへの関心が高いように思います。自生している植物が原因だったり、近隣の国から花粉が飛んできたりするため、「発生源を取り除く」のが難しいからだと思います。  
――日本とは違うのですね。 
 日本では高度経済成長期などに植樹されたスギやヒノキが大きな発生源で、植え替えなどで発生源を減らす対策がよく議論され、国も取り組みを進めています。温暖化などと関連づけた議論もないわけではないですが、日本は特殊かもしれません。 
 発生源対策で国はスギの植え替えを進めていますが、30年後にやっと半減するとされています。 
 一方、気候変動は進みます。また、気候変動で、これまで日本になかった植物が増え、新たな花粉の発生源になるかもしれません。植え替えだけでは花粉症の発症はなかなか収まらないのではないでしょうか。世界での議論や研究にも目を向ける価値があります。

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またもや“麻疹”騒動 2025

2025年04月11日 08時16分42秒 | 感染症
麻疹は半定期的に“小流行”を繰り返す感染症です。
ワクチンが極めて有効(1回接種で93%、2回接種で97%発症阻止)なのですが、
諸般の事情で接種率が低下し、
感受性者が一定の比率に達すると、
再度患者が発生して小流行することを反復しています。

諸般の事情とは、
・ワクチン副反応の不安・・・自閉症の原因になる?( → 科学的に否定済み)
・紛争や戦争で保健行政が行き届かなくなる
等々。

さて、なぜ麻疹が発生するとこれほど大騒ぎするのか、
疑問に思う方もいらっしゃるかと思われます。
それは単純に「重症化」するからです。
江戸時代までは、
疱瘡の器量定め、麻疹の命定め
と呼ばれ、天然痘になると顔があばただらけになるので嫌われ、
麻疹は命を落とす病気と恐れられてきました。

私も四半世紀前の勤務医時代に、麻疹流行を経験しました。
熱が下がらず肺炎を合併して入院する子どもが後を絶ちません。
入院病棟では一晩中子どもたちの咳き込む音があちこちから聞こえました。
「こんな感染症を流行らせてはいけない」
とつくづく思ったものです。

患者さんを見たことのない一般の方には、
「麻疹て恐いんですか?」
とピンとこないかもしれません。

ここ数ヶ月、日本でも発生していますが、
アメリカの方が深刻なようです。
それを扱った記事を紹介します。

<ポイント>
・米国は数十年がかりでワクチン接種による集団免疫を達成し、2000年に麻疹の排除(国内伝播がほぼなくなった、根絶に近い状態にすること)に成功した。
・近年、米国は再び麻疹の流行に脅かされている。医学的な理由のない、個人的な理由によるワクチンの接種免除が増えているためだ。
・問題は、ワクチン反対派による組織的なデマに十分対処してこなかった、過去10年間の政策の失敗にある。
・米国では麻疹(はしか)の感染者が増え続けているが、専門家はその原因として、個人的な理由により学校でのワクチン接種義務の免除を受ける子どもが増えていることを挙げている。
・麻疹の感染拡大を防ぐには地域社会の95%が免疫を持っている必要があるが、一部のコミュニティーで接種免除を受ける子どもが増えたことで、感染拡大のリスクが高まっている。
・現在のアメリカでは「接種免除」を拡げる反ワクチン派との戦いが始まっており、トランプ政権がそれに拍車をかけている。

その昔、たくさんの人が命を落とした麻疹ですが、
ワクチンのおかげでそれを一旦は“排除”するまでに至りました。
しかしその痛みも感謝も忘れた人類は、
愚かな行為を繰り返すのです。

・・・まるで“戦争”と同じですね。


▢ はしかの流行が復活中、反ワクチンの台頭と米国の危機
2000年に排除を達成した米国で何が起きているのか
2025.04.08:National Geograhpic)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国では近年にない規模の麻疹(はしか)の集団感染が起きている。テキサス州西部で始まった今回の流行による感染者数は、2025年4月3日時点で全米で607人、すでに2024年の合計である285人を上回っていて、2月と4月初旬にテキサス州で基礎疾患のない6歳と8歳の子どもが死亡するなど深刻な状況にある(編注:日本の国立感染症研究所によると、3月26日時点での2025年の報告数は合計44人で、すでに2024年の45人に迫っている)。
 米保健福祉省(厚生省)のロバート・F・ケネディ・ジュニア長官は、麻疹が健康な人を死なせるのは「難しい」と主張したが、米国小児科学会は、麻疹ワクチンが開発されるまでは、麻疹による死者の大半は健康な子どもだったと指摘していた。
 麻疹ウイルスが引き起こす麻疹は感染力が非常に強く、空気感染するため、感染者が呼吸をしたり、咳やくしゃみをしたり、誰かと会話をしたりするだけで周囲の人を感染させてしまう。麻疹には特効薬がなく、対症療法しかないため、ワクチン接種とが最も安全で効果的な対策となる。
 米国は数十年がかりでワクチン接種による集団免疫を達成し、2000年に麻疹の排除(国内伝播がほぼなくなった、根絶に近い状態にすること)に成功した(編注:厚生労働省によると、日本は2015年に世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局により排除状態が認定された)。しかし近年、米国は再び麻疹の流行に脅かされている。医学的な理由のない、個人的な理由によるワクチンの接種免除が増えているためだ
 テキサス州ではこうした免除が比較的容易に認められているため、歴史的に免除率が非常に高い地域がいくつかできている。今回の流行が始まったゲインズ郡も、そうした地域の1つだった。
 テキサス州保健当局は子どもたちにワクチン接種を受けさせるために最善を尽くしているが、「問題は、ワクチン反対派による組織的なデマに十分対処してこなかった、過去10年間の政策の失敗にあります」と指摘するのは、感染症専門の小児科医で、テキサス小児病院ワクチン開発センターの共同ディレクターであるピーター・ホーテズ氏だ。
「残念ながら、テキサス州は全米で起こっていることの先鋒になっています」(参考記事:「はしかの恐るべき「免疫の記憶喪失」とは、世界で流行が拡大」)
 米国では麻疹(はしか)の感染者が増え続けているが、専門家はその原因として、個人的な理由により学校でのワクチン接種義務の免除を受ける子どもが増えていることを挙げている麻疹の感染拡大を防ぐには地域社会の95%が免疫を持っている必要があるが、一部のコミュニティーで接種免除を受ける子どもが増えたことで、感染拡大のリスクが高まっているのだ。

▶ ワクチン接種が広まるまで
 子を持つ親たちの権利擁護団体Voices for Vaccinesのディレクターであるカレン・アーンスト氏は、個人的な理由による接種免除を申請する親が増えている理由について、「1つは、私たちの多くが麻疹の蔓延を目にしたことがなく、麻疹という病気を忘れていることです。もう1つは、麻疹がいかに急速に広がり、子どもたちをどれほど重篤な状態に陥らせるおそれがあるかを理解していないことです」と言う。
 実際、20世紀初頭には、米国では毎年数千人が麻疹で命を落としていた。医療の進歩により1950年代にはその数は大幅に減ったが、それでも毎年推定400〜500人が命を落とし、麻疹に関連した脳炎により数百人が生涯にわたる脳障害や難聴などを発症していた。
 1960年代に麻疹ワクチンが開発されると、数年以内に全米の麻疹の症例は約90%も減ったが、費用が高額だったため予防接種を受けさせない家庭もあり、麻疹の排除には至らなかった。
 そこで1970年代から、各州に対して、公立学校に通学する子どもに予防接種を義務付けることを求める運動が始まり、1981年までに全50州で小児への予防接種が義務付けられた。
 しかし、義務化後も課題は解消されなかったと、米ニューヨーク大学の感染症専門医であるアダム・ラトナー氏は言う。「政策が変わって予算がつくと予防接種率が上がって麻疹の発生率が低下し、また政策が変わって資金が途絶えると予防接種率が下がって麻疹が増えることの繰り返しでした」

▶ 麻疹の排除を達成
 最大の警告となった出来事は1989年から1991年にかけて発生した麻疹の大流行だった。5万5000人以上の米国人が感染し、123人が死亡したのだ。
 2つのことが明らかになった。麻疹ワクチンの1回接種では93%の効果があるが、これでは不十分なこと。そして、すべての家庭がワクチン接種の費用を賄えるわけではない状態では、何千人もの子どもが苦しみ、あまりに多くの子どもが亡くなるということだ。
 その後、米疾病対策センター(CDC)と米国小児科学会は、効果が97%に上がるワクチンの2回接種を推奨した。また1994年にはビル・クリントン大統領が、貧困家庭の子どもたちがCDCの推奨するすべての予防接種を無料で受けられるようにするプログラムを法制化した。
 こうして米国は集団免疫に必要な95%の予防接種率を達成し、以後は大規模な流行は起こらなくなり、2000年にはついに麻疹を排除した。
 その一方で、2つの新たな脅威が現れた。1つは、MMRワクチン(麻疹・おたふく風邪・風疹ワクチン)と小児の発達障害を関連付けようとする不正な論文が、後に撤回され、科学界から否定されたにもかかわらず、子をもつ親たちを不安にさせたこと。もう1つは、SNSの急速な普及により、誤った情報がかつてないほど速く、簡単に広まるようになったことだ。
 小児科医で元カリフォルニア州議会議員のリチャード・パン氏は、「SNSが火に油を注ぎ」、第1の不正な論文に触発された草の根の反ワクチン運動が、みるみるうちに広まってしまったと説明する。

▶ 個人的な理由による接種免除の問題
 米国のすべての州では、ワクチン成分に対するアレルギーなど、特定の必須ワクチンを安全に接種できない理由がある子どもに対しては、医学的な理由による接種免除が認められている。さらにほとんどの州では個人的な信条に基づく接種免除も認められており、免除の要件は州によって大きく異なっている。
 個人的な信条を理由とする接種免除率の調査によると、全米では2011年の1.75%から2016年の2.25%へと増加していて、個人的な信条と宗教上の理由による接種免除を認めている州では、宗教上の理由による免除しか認めていない州に比べて2倍以上高かった
 全米で0.5ポイントの増加ならたいした変化ではないように思われるかもしれない。だが、米エモリー大学エモリーワクチンセンターの元副所長のウォルター・オレステイン氏は、「全米としては高い割合の人が免疫をもっていても、ワクチン接種を受けていない人々の集団がどこかにあれば、そこで流行するおそれがあるのです」と言う。
 今回のテキサス州での集団感染はメノナイト派というキリスト教徒のコミュニティーが震源地となったが、米フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センターの所長で感染症専門の小児科医であるポール・オフィット医師は、こうした「隔絶された宗教的な」コミュニティーでは、しばしば集団感染が発生していると言う。
 カリフォルニア州の多くのモンテッソーリ学校やシュタイナー学校を含む一部の私立学校も接種免除率が高い。こうした地理的な集中が、2015年にカリフォルニアのディズニーランドから麻疹が急速に広がって147人が感染する原因となった。

▶ 免除問題に新たな戦略
 そのため、集団感染の原因となるワクチン接種免除に対処することが、麻疹との闘いにおける新たな戦略となった。
 2016年、パン氏はカリフォルニア州で医学的な理由以外の接種免除を廃止する法案を提出した。法案が可決された後、全体的な免除率は低下したものの、一部で予想されたことが起こった。過去20年間、割合が安定していた医学的な理由による接種免除が増加しはじめたのだ。
 パン氏によると、一部の学校が「異常に高い」接種免除率を記録し、一握りの医師がほとんどの免除を認めていたという。そこで同州が2019年にさらなる法案を可決し、医学的な理由による接種免除について州が監督することを義務付けると、接種を免除された幼稚園児の割合は2019年の0.95%から2021年の0.27%まで減少した。
「カリフォルニア州の状況は、はるかに良くなったと思います」とパン氏は言う。「麻疹は依然として発生していますが、集団感染は起きていません」
 他の州もこれに続いた。メイン州では、ワクチン推進派の政治活動団体SAFE Communities Coalitionの事務局長ノース・ソーンダーズ氏が率いる運動が実って、個人的な信条を理由とする接種免除を全廃する州法が制定され、2020年3月の州の住民投票でも支持された。
 同様の運動により、コネチカット州とニューヨーク州では医学的な理由以外による接種免除が廃止され、ワシントン州ではMMRワクチンについて医学的な理由以外の接種免除が廃止された。

▶ 接種免除を復活させる動き
 こうした成功の一方で、最近、米国の多くの州で、医学的な理由以外によるワクチンの接種免除を復活させるための法案が提出されている。ソーンダーズ氏は、反ワクチン派が接種免除の拡大を求める運動を推進しているのだと警告する。
 米国の非営利・独立系の報道機関プロパブリカは3月28日に、CDCの上層部が、内部の予測センターが作成した麻疹の流行に関する評価の発表を差し止めていたと報道した。この評価では、一般市民が感染するリスクは依然として低いものの、流行地域周辺の予防接種率の低い地域ではリスクが高いと指摘されていた。
 CDCはプロパブリカに対して書面による声明を発表し、評価を公表しなかったのは、「すでに一般に知られていること以外には何も述べていなかったから」だと釈明した。
 そして、CDCがワクチンを「麻疹を予防する最善の方法」と考えていることに変わりはないとしながらも、「ワクチン接種は個人の判断に委ねられるべき」であり、「人々は医療従事者に相談し、ワクチン接種に関する選択肢を理解し、ワクチンに関連する潜在的なリスクと利益について知らされるべきだ」というロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官の最近の発言内容を繰り返した。
 ソーンダーズ氏やアーンスト氏らは、ワクチン接種免除の拡大を求める州議会の法案が可決されてしまうことを懸念している。もしこれらの州法が成立すれば、「死者が出ることになるでしょう」とソーンダーズ氏は言う。「予防接種率が下がれば、人々は麻疹に感染し、命を落とすことになるのです」


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「ベースアップ評価加算」の罠

2025年04月09日 07時32分46秒 | 医療問題
政治家の間では、
「膨張した医療費を削減せよ!」
と声高に叫ばれています。

しかし現実に目を向けてみると・・・
高齢者社会で医療費が嵩むのは当たり前。
さらに分子標的薬など、想定外の高価な薬剤が登場し、
それを使うガン患者も増えているので医療費が嵩むのは当たり前。

それを減らすことなんてできるのでしょうか?

私には、どんどん背が伸びる子どもに対して、
「背が伸びるのは仕方ない、でも体重は減らせ!」
と言っているような印象があります。
・・・無理ですよねえ。

私は小児科医ですが、
少子化の影響で患者数は漸減しています。
それに加えて「医療費削減!」のあおりで保険点数は上がらず、
この先収入は先細り、ジリ貧状態が目に見えています。
小児科医は絶滅危惧種と言ってよいでしょう。

そこに世間では「賃金上昇」の風が吹き荒れています。
「収入減少」と「賃金上昇」の両立は可能か?
・・・こちらもムリな相談です。

ということで、無理なことを強制しているのが現在の日本の医療経済。
厚労省による医師への「パワハラ」と言えるかもしれません。

さて「賃金上昇」についてちょっと考えてみます。

先日、「2024年の日本の貿易黒字は史上最高を記録した」というニュースが流れました。
なるほど、輸出に関わる会社では増収している様子、
そこでは「賃金上昇」はあり、ですね。

もし「トランプ関税」「トランプショック」で貿易黒字が赤字に転落した場合、
そこで「賃金上昇」できるでしょうか?
むしろリストラの嵐が吹き荒れるのではないかと思われます。

医療界は上記の通り、物価高に対応した診療報酬増加はゼロなので、
構造的に「賃金上昇」は無理です。

それを知って、厚労省は「ベースアップ評価加算」という項目を設定しました。
これは、表立っては、
「職員の賃金を上げる費用に充ててください」
という項目ですが、その具体的内容は、
「上昇分は患者さんに負担してもらってください」
というもの。

つまり、
診療報酬アップ → 医療機関が増収 → 職員の給料上昇
ではなく、
患者さんから追加徴収 → 職員の給料上昇
というシステムです。

これは厚労省が、
「現状では医療機関の職員の給料を上げるのは無理」
と認めたことを証明する皮肉な事実ですね。

貿易会社が貿易黒字で社員給料上昇、とはワケが違います。

さらに巧妙な罠が仕掛けられています。

ベースアップ評価加算を算定するためには、
・1年目:2.5%
・2年目:2.1%
の給与アップ報告をしないといけません。
けれども、ベースアップ評価加算で得られるのは1.2%前後のみ・・・
不足分は医療機関からの持ち出しとなります。

そしていずれ、ベースアップ評価加算は廃止されます。
一旦上昇させて給料を下げることは法律違反になるそうです。

結局、医療機関の収入は増えないけど、職員の給料は増えて赤字体質が残る・・・
最終的には大企業が行っている「リストラ」につながることが目に見えています。

そしてこの加算の最大の特徴は、
「医師の給料を上げることに使ってはいけない」
というルールがあること。
職員の給料に回すことに限定されているのです。

「医者は高給取りだからむしろ減らして当たり前」
「職員は世間一般の給料上昇の流れに沿って昇給」
という考えです。

開業医のほとんどは職員10人前後の零細企業です。
その社長の給料を国が減らそうとしているということ。

勤務医は給料よりも労働環境の劣悪さが問題視されていますが、
「働き方改革」の一環として現在の状況を否定すると、
医療が立ちゆかなくなることが目に見えているため、
医師は「対象外」として例外扱いされています。

つまり、
「劣悪な労働環境はそのままで、給料抑制」
というブラックな労働環境。

こんなブラック労働環境を、
これから医師になる若者達はどう見ているのでしょうか。

最近「直美」という単語をよく耳にするようになりました。
「なおみ」ではなく「ちょくび」と読みます。
これは、医学部を卒業した医師の卵達が、
研修期間を終わると内科や外科ではなく、
接「容外科」へ進むことを意味します。

なぜそんな現象が起こるのかというと、
美容外科は自由診療なので収入がよいのです。
そして時間外(夜間や週末)の拘束もありません。
そう、「楽して儲ける」志向です。

「直美」が増えてきた背景には、
若い医師達が、現在の医師の労働環境・収入状況に「No!」を突きつけた行動に他なりません。

ここからも“医療崩壊”が始まっていることを、
厚労省は自覚すべきですね。

昨今、厚労省の作戦は姑息です。
診療報酬はそのまま(医療の評価は数十年前と変わらず)、
いろんな条件をつけた“加算”を設定して、
「〇〇をしてくれたらこの加算を算定できますよ」
と誘惑してくるのです。
その〇〇とは、
・時間外労働
・医療システムのデジタル化
等々。

逆に時間外労働やデジタル化に従わないと、
医療収入は漸減して閉院につながるしくみです。

厚労省の言う通りにする医療機関だけ残ればよい、
という影の方針が見え隠れします。

そしてこれらの加算を算定するために、
たくさんの書類を用意し届け出なくてはいけません。
診療に専念したいのに、
雑用がどんどん増えてきています。

さて、デジタル化をすると、
ハッカーなどの被害を被るリスクが発生します。
驚いたことに、
その対策費用も被害に遭ったときの補償も医療機関持ち、
という設定なんです。
厚労省は責任を持ちません。

ハッカー集団は国家レベルの巧妙な犯罪です。
それを個人で対応しろというのは、どだい無理な話。

なんだかなあ・・・

高齢の開業医は、
「この辺がそろそろ潮時かな」
と閉院を考える良いタイミングでしょう。

私も還暦を過ぎ、
厚労省による「パワハラ」の圧に“疲れ”を感じる今日この頃です。

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