小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

新型コロナ・パンデミックを振り返る

2024年08月16日 07時36分56秒 | 新型コロナ
2019年末に始まった新型コロナ・パンデミック。
2023年5月に“感染症法第五類相当”に格下げされ、
季節性インフルエンザと同じような扱いとなりましたが…
今でも高齢者がかかると命に関わるし、
医療者にとっては、とても“ふつうの風邪”とは思えません。

今後、我々はこのウイルスとどう対峙していくべきでしょうか?
今までを振り返り、将来に備えることが必要です。

ご意見番の忽那先生の考えを聞いてみましょう。

<ポイント>
・欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。
・日本での流行の特徴は、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していること。
・日本ではオミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた。
・日本は他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性がある。
 ✓ もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少した。
 ✓ 新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加している。
・日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう。
・コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返されたが、現在でも医療従事者数の確保については欠落している。
・パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要。感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要。

総じて、日本の新型コロナ対策は成功した、という論調です。
感染対策+ワクチン接種の両輪で、他国より死亡者数を抑制することができたのは事実だと思います。

その成功の影には、社会機能を麻痺させるほどの感染対策を続けたための影響が浮かび上がりました。
婚姻数減少〜出生率低下〜少子化速度進行、社会的孤立〜自殺者増加…
これらが判明した今、また来るであろうパンデミックに向けて対策を練っておく必要がありそうです。


■ 忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?
ケアネット:2024/08/07)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会合同学会にて発表した。

▶ 日本ではオミクロン株以前の感染を抑制
 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。
 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。

▶ 新型コロナの社会的影響
 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。

▶ パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか
 コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない。・・・

▶ 医療従事者のバーンアウト対策
 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。
 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。

▢ 参考
1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)
2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.
3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日
4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日
5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)
6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.
7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.
8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023


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あなたに合う食物線維は?

2024年08月13日 06時47分03秒 | 医療問題
「便秘対策には食物線維をたくさん摂りましょう」
と繰り返し言われてきました。近年は、
「不溶性食物線維だけでなく水溶性食物線維も大切です」
という論調になってきました。

そして最近ようやく、食物線維の種類について言及されるようになりました。
以下の記事を紹介します。

結論は、
「腸内細菌叢は人それぞれなので、その人に合った食物線維も人それぞれ」
(食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される)
という、収拾のつかないものでした。

■ 最適な食物繊維は人それぞれ
HealthDay News:2024/07/31:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 これまで長い間、食物繊維の摂取量を増やすべきとするアドバイスがなされてきているが、食物繊維摂取による健康上のメリットは人それぞれ異なることが報告された。単に多く摂取しても、あまり恩恵を受けられない人もいるという。・・・
 食物繊維は消化・吸収されないため、かつては食品中の不要な成分と位置付けられていた。しかし、整腸作用があること、および腸内細菌による発酵・利用の過程で、健康の維持・増進につながる有用菌(善玉菌)や短鎖脂肪酸の増加につながることなどが明らかになり、現在では「第六の栄養素」と呼ばれることもある。また糖尿病との関連では、食物繊維が糖質の吸収速度を抑え、食後の急激な血糖上昇を抑制するように働くと考えられている。そのほかにも、満腹感の維持に役立つことや、血圧・血清脂質に対する有益な作用があることも知られている。
 本研究では、食物繊維の一種である難消化性でんぷん(resistant starch;RS)を摂取した場合に、腸内細菌叢の組成や糞便中の短鎖脂肪酸の量などに、どのような変化が現れるかを検討した。59人の被験者に対するクロスオーバーデザインで行われ、試行条件として、バナナなどに含まれている難消化性でんぷん(RS2と呼ばれるタイプ)と化学的に合成された難消化性でんぷん(RS4と呼ばれるタイプ)、および易消化性でんぷんという3条件を設定。5日間のウォッシュアウト期間を挟んで、それぞれ10日間摂取してもらった。
 解析の結果、難消化性でんぷんの摂取によって腸内細菌叢や短鎖脂肪酸などに大きな変化が生じた人もいれば、あまり変化がない人、または全く変化がない人もいた。それらの違いは、腸内細菌叢の組成や多様性と関連があることが示唆された。研究者らは、「結局のところ、ある人の健康状態を腸内細菌叢へのアプローチを介して改善しようとする場合、どのような種類の食物繊維の摂取を推奨すべきか個別にアドバイスしなければならない」と述べている。
 論文の上席著者であるPoole氏は、「過去何十年もの間、全ての人々に対して一律に食物繊維の摂取を推奨するというメッセージが送られてきた。しかし今日では、個人個人にどのような食物繊維の摂取を推奨すべきかを決定する上で役立つであろう、精密栄養学という新しい学問領域が発展してきている」と述べている。今回の研究でも、食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される可能性が浮かび上がった。また意外なことに、難消化性でんぷんではなく易消化性でんぷんの摂取によって、短鎖脂肪酸が最も増加していた。短鎖脂肪酸は、血糖値やコレステロールの改善に寄与することが明らかになりつつある。
 研究者らは、個人の腸内細菌叢の組成を把握することで、その人がどのようなタイプの食物繊維に反応するのかを事前に予測でき、その結果を栄養指導に生かせるようになるのではないかと考えている。「食物繊維や炭水化物にはさまざまなタイプがある。一人一人のデータに基づき最適なアドバイスを伝えられるようになればよい」とPoole氏は語っている。

<原著論文>
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思春期の発現〜学校健診に思う〜

2024年08月12日 15時17分00秒 | 予防接種
群馬県みなかみ町の小学校健診で、
「生徒のパンツの中を覗いた」
学校医が社会問題化しました。

一般市民の反応は“推して知るべし”ですが、
医師の中でも賛否両論があることに驚きました。

私は小児科医なので、
「思春期早発症」患者さんの診療経験があります。
つまり、予定より早く“陰毛発生”があるかどうかを確認することは、
診療範囲であり、私も疑わしい患者さんにはそうしています。

逆に、あの“事件”があってから、
「うちの娘(あるいは息子)に陰毛が生えているようなのですが・・・」
という相談が何件かありました。

さらに小学校の学校健診で思春期早発症をスクリーニングされず低身長に終わった患者さん、
「学校健診であの先生に担当してもらっていたら早期発見され、
 治療に結びついて最終身長がもう少し伸びたはず・・・」
という男子もいます。

確かに予告なしで全員に確認することは、
今のご時世では問題視されるかもしれません。

しかし生徒の人権を守るということは、
はずかしいからといって不十分な診察方法を選択することではなく、
しっかり診察してもらい病気のスクリーニングをすることではないのでしょうか?

そして医師の中でも、
「パンツの中を覗くなんて非常識だ!」
という方は、おそらく思春期早発症を診たことがない、
つまり小児科医以外が多いと思われます。

思春期の発現に関して、以下の論文を紹介します。
興味深い記述を列挙します;

・1900年代に性成熟の低年齢化が進んできたが、
その現象が進めば将来の低身長化につながる。
・・・と予想していること。実際にそうなってますから・・・。

・身長発育には成長ホルモンの他に女性ホルモンへの依存が男女ともに大きく、
女性ホルモンは身長発育に関してアクセルとブレーキの両方の作用を有する、
思春期の獲得身長が女性の方が小さいのは、
男性に比べて女性ホルモンの分泌量が多く、また速やかに増加するため。
・・・男女の身長差の秘密は、女性ホルモンの量と分泌パターンによることを、
初めて知りました。

・人は他の哺乳類に比べて思春期前の期間が圧倒的に長い。人が生殖能を獲得し,集団生活をおくれる身体的・ 精神的発達段階に達するための脳の発育にそれだけの期間を要する。女児の二次性徴の出現が13歳から 10 歳に 3 年早まった。昔は 13 年間で達成していた思春期前の精神発達を,今では10年間で達成しなければならなくなったということである。20%の 早熟化は個人差を拡大し,思春期における未熟性を助長した。
・・・妙に肯ける考察です。


Yamanashi Nursing Journal Vol.3 No.1(2004)より一部抜粋(下線は私が引きました);

I.思春期発現の内分泌学的機序
・思春期前は下垂体性性腺刺激ホルモン(LH,FSH)分 泌は抑制されており,LH-RH負荷にも低反応である。性 ホルモン濃度も測定感度以下と低値である。
・このような下垂体ー性 腺系に対する強い抑制はネガティブフィートバック機構 では説明がつかず,上位中枢からLH-RH非依存性の強い 抑制が働いているためと考えられる。この抑制機構に関 しては GABA 系ニューロンが重要な役割を果しており, GABA系ニューロンの抑制とグルタメイト系ニューロン の活性化が思春期発現に関与していることが明かとなっ てきた。
・思春期年齢に達すると上位中枢からの抑制が 解除されて,視床下部から脈動的に LH-RH が分泌され, 下垂体前葉からの FSH,LH 分泌増加が始まり,性腺の 発育,性ホルモンの増加が起こり,二次性徴が出現する。
・乳児期早期(1-3ヵ月)には, FSH,LHと性ホルモン の思春期に匹敵する分泌増加がおこる。2 歳以降思春期までは 下垂体ー性腺系は沈静化した状態(juvenile pause)が持続する。他の哺乳類に比べて人では思春期前が極端に長く, これは思春期発来以前に大脳皮質の発育,成熟を達成す ることが必要なためと推測している。
・二次性徴が発現する 2 年前から LH-RH の脈動的 分泌の振幅が増大し,その刺激で FSH,LH 分泌が増加 し,性腺が発育し,性ホルモン分泌が増加して思春期が 発現する。
・男性ホルモン(テストステロン)は,男児では思春期前 は 10 ng/dl 未満であるが, FSH,LH 分泌増加が始まっ た後,二次性徴が出現する前に測定可能となる。日中の テストステロン分泌は精巣容量 4 ml 以上になると(平均 11 歳)測定可能な濃度に増加し始め,性成熟度タンナー 分類(表 1)2 度から 3 度にかけて血中テストステロン濃度 は急激に上昇する。男性ホルモンは,筋肉増強,変声,発 毛など,思春期の男性化を促進する。
・女性ホルモン(エストラジオール)は,思春期前女児で は 0.6 pg/ml,男児では 0.08 pg/ml と,女児が有意に高 く,これが女児で思春期発来が約 2 年早い理由の 1 つと 考えられている。思春期に入ると男女児ともエストラジ オールは徐々に上昇するが,女児の方が全体的に高値を 示す。男児では身長のスパートが始まると低下してくる。 男女児とも思春期の身長スパートは,主としてエストラ ジオールが成長ホルモン分泌を促進するためと考えられ ており,また骨端線が閉鎖して身長発育が停止するのも エストラジオールの作用と考えられている。
・成長ホルモンはエストラジオールの刺激で分泌が増加 し,IGF-(I インスリン様成長因子)を増加させて,結果的
に思春期の身長スパートが始まる。・・・一方,成長ホルモン 単独欠損では思春期発来がおくれ,成長ホルモン投与を 行うと思春期発来が正常化することが知られている。・・・成長ホルモンは性腺の発育成熟を促進する 作用があることから,思春期の発来にも関与していると 考えられる。

II.思春期の身体変化
・思春期の身体的変化は生殖可 能となるための準備としておこってくる。その特徴的な現象は,性腺の成熟による性ホルモン分泌増加に伴う二次性徴の出現と身長の加速現象(スパート)である。二次性徴は必ず一定の順序に従って出現してくるため,出現時期と出現順序,成熟速度,完成への到達を診ていくことが,思春期の身体的変化を評価する基準となる。
1.性成熟
1-1)二次性徴
・二次性徴の評価には,Tannerの性成熟度分類が広く用いられている(表1)。陰毛,乳房,男性外性器の発育を5 段階に分けて評価するもので,Tanner 2度が思春期発来時期である。
・二次性徴のうち乳房腫大は女性ホルモン作用陰毛,陰茎,髭,変声は男性ホルモン作用である。
女児の二次性徴は乳房発育,陰毛,月経発来の順に出現するが,これらの成熟度の相互関係は個人差が大きい。 日本人では乳房発育 3 - 4 度で陰毛発育が見られるようになり,陰毛 2 - 3 度に達するころに月経発来を認めることが多い。
・乳房発育は左右同時ではなく,数カ月のずれをもって片側性に出現することもある。一見して乳房 腫大がわかり,乳房辺縁と胸部の境界が不明瞭な時期を Tanner 3度としている。乳頭径は1,2度の間は3-4 mm 位で拡大せず,3-5度にかけて4-9mmに拡大する。乳房の大きさは個人差が大きいが,乳頭輪の二次隆起が出現すればTanner 4度となる。
・陰毛は最初大陰唇の内側に 出現するため,足をそろえた仰臥位では見逃され易い。 陰毛 3 度では恥骨結合部に写真に取れる程度の陰毛がみ られ,4 度では陰毛の性状は成人型となり恥骨結合をま たいで縦長(菱型)となる。5 度では大腿内側中央部まで 拡大するが,日本人では4度に留まることも少なくない。
・膣径は白人では思春期前8cmから初経発来時11 cmに拡 大し,初経発来数か月前から透明又は白色の帯下の増加 が見られる。
・男児では睾丸容積の増加が最初の性成熟徴候である。 睾丸容積は Prader の考案した睾丸容積計 orchidometer を用いて測定する。通常,成人では睾丸は 15 - 25ml に 達し,右睾丸が左睾丸より大きく,上方に位置している。
・睾丸容積が 4 ml 以上になると血中男性ホルモン(テスト ステロン)濃度が測定可能となり(>10 ng/dl),次いで陰 嚢皮膚のしわが細かくなり赤みを帯び,陰茎長が増大し てくる。
・陰茎の増大から約 1 年で陰毛発生を認める。陰 毛が 4 度に達すると腋毛が生え始め,やや遅れて髭が生え始める。
・髭は上唇の両端から生え始めて全面にわたり, 頬上部,下唇の下,下顎へと拡大する。
・変声も思春期後半から明かとなる。
・思春期には男児にも乳房に変化が見 られる。乳頭輪径が思春期前(約 1 cm)の 2 倍となり,20 -30 %で乳頭輪下にしこりを触れ,女児のTanner 3度に相当する乳房腫大(gynecomastia女性化乳房)を認めることも稀ではない。思春期初期は相対的に男性ホルモンに比べて女性ホルモン分泌が増加するために起こる現象で,男性ホルモン分泌が増加してくると 1 - 2 年で消失してくる。
・病的な女性化乳房として,性分化異常症などの原発性精巣機能障害から女性化乳房を来す場合がある。クラ インフェルター症候群,男性ホルモン不応症,テストス テロン合成障害などである。
・二次性徴(思春期)が異常に早期に発現する場合を思春 期早発症(性早熟症)という。思春期早発症は,二次性徴 が早期に出現し,その結果身体的,精神的発達に障害を 生じるか,或いは社会生活上問題を生じる状態である。思春期早発症は様々な原因で発症するが,診断基準は二 次性徴の発現時期で決められている(表 2)。
・性成熟徴候 すなわち二次性徴の出現が明らかに遅れている場合,あ るいは出現しても 5 年以内に完成しない場合を性成熟不 全( disorder of sexual maturation, sexual infantilism ) という。
・二次性徴の出現時期は・・・現在日本では,
 男児は14歳,女児は12歳までに96%が思春期発来をみており,
 男児では 15歳,女児では13歳までに99.6%が思春期発来をみてい る。
 そこで,男児では 14 歳,女児では 12 歳になっても 二次性徴が出現しない場合には,思春期遅発と考えて性成熟不全を疑い検査を行う。一般に,二次性徴が出現し て 3 - 5 年で性成熟は完成するため,途中で停止したり, 5 年経過しても完成しない場合も性成熟不全と考える。
1-2)生殖能
・女児では月経発来(初経)と月経周期が重要な指標であ る。日本人の初経年齢は 12.4 歳で,大部分は 10 - 15 歳 の間にはいる。
・初経後1-2年は月経周期は不規則で,無排卵性の場合も多いが,5年を経過しても不規則,過少,過多月経を認める場合は無排卵性月経が疑われる。
・男児では睾丸を直接観察できるため,睾丸容積が生殖能の判定に重要である。・・・睾丸容積の増大と精子形成能は密接な関連がある。・・・睾丸からの男性ホルモン分泌が増加すると, 陰茎が発育し,同時に前立腺,精嚢も発育する。陰茎発育開始後1 年以上経過すると自然射精( 多くは睡眠中の夢精)が認められる。最初の精液は精子数も少なく,運動能 も低いとされている。日本人の自然射精発来(精通)年齢は明かでない。
1-3)成長加速現象(身長スパート)
思春期の身長スパートは男女児とも女性ホルモン(エス トロゲン)に依存している。女性ホルモンは成長ホルモン 分泌を増加させることにより身長発育を促進し,同時に骨成熟を促進することにより骨端線を閉鎖し,身長発育を停止させる。女児の方が身長発育が早く,思春期獲得身長が小さいことは,女性ホルモン分泌量の差による部分が大きいと考えられる。
・思春期身長スパート開始後最終身長に達するまでの 獲得身長は,思春期発来年齢が若いほど大きく,年長に なるほど小さくなる。身長スパー ト開始時の身長と最終身長は高い正相関を示す。
・平均的な小児では身長スパート開 始年齢を女児で 9.5 歳,男児で 11 歳とすると,その後の 獲得身長は女児 25 cm,男児 30 cm となる。
・女児では身長増加率と初経とは一定の関係があり,最大身長増加率を示した後の増加率が低下してきた時点で初経が発来する。森岡らによると,初経発来時の身長は151.3±5.5 cm,体重は 42.8 ± 5.9 kg である。
・思春期の骨成長は末梢から中心へ進み,手足の指が最 初にスパートを開始し,四肢,背骨の順になる。そのた め思春期中期では身長の割に手足が大きくなり,足長の体形となるが,背骨(座高)は20歳を過ぎても伸びるため 最終的には普通の体形になる。
1-4)その他の身体的変化
・思春期に性差が 160 明かなのは骨盤と肩である。両腸骨間幅の増加量は男女 で差がないが,身長から見ると女児で腸骨間幅が広くな る。一方,肩幅は男児が明かに大きくなる。
・皮下脂肪の年間増加量は Tanner によると,身長増加率が最大となる時点で最低となり,その後急速に増加する。女児ではどの時点でも皮下脂肪量は増加しているが,男児では身長増加率が最大となる前後 1 年間は皮下脂肪量は減少す
る。

2.思春期発現の男女差
2-1)身体成熟のテンポ
・身体成熟の指標として一般的に用いられている骨年令は,レン トゲン写真上の手骨,手根骨の形態から判定するが,同暦年令の手骨,手根骨は男児に比べ女児の方が成熟している。
・様々な成熟度の指標を用いて評価しても,女児の成熟のテンポは男児より約 20%速いと考えられる(成熟 の速度 男児 / 女児:1/1.2)。
・女児の成熟のテンポを速め ている主な因子は女性ホルモン(エストラジオール)である。思春期前の血清エストラジオール濃度は男女とも極めて低値であるが,女児の方が 8 倍高値である(女児:0.6 pg/ml,男児:0.08 pg/ml,成人女性基礎値:20 - 60 pg/ ml)。人は思春期前の期間が他の哺乳類と比べて特別長いため,低値ではあってもこの濃度差は成熟のテンポに大きく影響していると推測される。女児の成熟のテンポが速いため,思春期前の男女の身長発育は一致しているが, 結果的に女児は男児より約 2 年早く思春期を迎えることになる。そのため 9 歳 10 ヶ月から 12 歳 6 ヶ月までは女児の平均身長が男児を上回ることになる。
2-2)身体成熟の年次変化
日本人の初経発来年令は 1900 - 1930 年の間は 15 - 16 歳で推移しており(早い報告でも 14 歳以上),1930 - 1950 年の 20 年 間に初経年令は13歳まで早期化し,1960年に12.5歳とな り,その後はほぼ一定で現在は 12.4 歳である。
1900年代における日本人の早熟化は思春期前の身長発育の増加として現れており,今後さらに早熟化が進むことになれば最終身長は低下してくると予想される。
3-3)女性ホルモンと男性ホルモン
・思春期の体型の性差は性ホルモンの分泌量が男女で異 なるためである。
・身長発育に関しては男女とも女性ホルモンへの依存が大きいことが明らかになってきた。 女性ホルモンは成長ホルモンの分泌を促進し,インスリ ン様成長因子を増加させることによって身長発育を促進 させるが(身長スパート),同時に長管骨に直接作用してインスリン様成長因子(IGF-I)の合成を抑制し,成長軟骨 の骨化を促進することにより骨端線を閉鎖し,身長発育を停止させる。このように女性ホルモンは身長発育に関 してアクセルとブレーキの両方の作用を有している。思春期の獲得身長が女性の方が小さいのは,男性に比べて女性ホルモンの分泌量が多く,また速やかに増加するためである。

III.性成熟と身体像(ボディーイメージ)
・・・

IV.おわりに
人は他の哺乳類に比べて思春期前の期間が圧倒的に長い。人が生殖能を獲得し,集団生活をおくれる身体的・ 精神的発達段階に達するための脳の発育にそれだけの期間を要するということが,思春期前の期間の長さに現れ ていると考えられる。
・この思春期前の期間の長さ が個人差を拡大し,思春期に発生する様々な問題の一因 ともなっている。100 年前には 15 歳初経発来が今では 12 歳である。このことは女児の二次性徴の出現が13歳から 10 歳に 3 年早まったことを意味している。昔は 13 年間で達成していた思春期前の精神発達を,今では10年間で達成しなければならなくなったということである。20%の 早熟化は個人差を拡大し,思春期における未熟性を助長したと考えられる。

・・・この示唆に富む文章を書いた人物こそ、
みなかみ町の“パンツ覗き学校医”として話題になった大山健司医師です。
純粋に医学的理由で診察した行為だと私は信じています。

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プラスチックかが進む人体〜心臓・精巣・ペニス

2024年08月07日 12時31分47秒 | 予防接種
前項で人体に侵入しているナノプラスチックの記事を紹介しました。
引き続き局所のナノプラスチック存在に関して・・・
なんとペニスからも検出されたというショッキングな記事を紹介します。

対策としては「体にプラスチックを入れないこと」が基本、
さらに具体的には、
・プラスチック容器を使わない、生活環境から排除する
・プラスチック容器を電子レンジでチンしない
・プラスチック容器を食器洗浄機にかけない
を提案しています。

<ポイント>
・人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかった。
・人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出された。
・マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性がある。
・マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのか、現時点では不明。
・プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある。
・われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ。
・人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かった。
・対策その1:可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らす。
・対策その2:乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめる。
・対策その3:熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにする。

■ 人間のペニスから初めてマイクロプラスチックを検出
HealthDay News:2024/07/15)より一部抜粋(下線は私が引きました);  
 人間のペニスから7種類のマイクロプラスチックが初めて検出されたことを、米マイアミ大学ミラー医学部のRanjith Ramasamy氏らが、「IJIR: Your Sexual Medicine Journal」に6月19日発表した。この研究では、5点のペニスの組織サンプルのうちの4点でマイクロプラスチックが検出されたという。研究グループは本年5月に人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出されたことを報告したばかりであった。研究グループは、マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性があると話している。
 Ramasamy氏はCNNの取材に対し、「今回の研究は、人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかったことを明らかにした先行研究を土台にしている」と述べ、「ペニスは心臓と同様、非常に血管の多い臓器であるため、ペニスからマイクロプラスチックが見つかったことに驚きはなかった」と語っている。
 Ramasamy氏らは今回、勃起不全(ED)と診断され、2023年8月から9月の間に陰茎インプラント手術を受けるためにマイアミ大学の病院に入院していた6人の患者から採取したペニスの組織サンプルを用いて、赤外イメージングシステムによる分析を行った。組織サンプルは陰茎体部から採取され、うち5点のサンプルは洗浄済みのガラス器具に保存された。残る1点は、プラスチック容器に保存して対照サンプルとした。
 その結果、ガラス器具に保存した5点のサンプルのうちの4点と対照サンプルから7種類のマイクロプラスチックが見つかった。最も多く検出されたのはポリエチレンテレフタレートPET、47.8%)、次いで多かったのはポリプロピレンPP、34.7%)であった。また、マイクロプラスチックのサイズは20〜500µmであった。
 このような結果を踏まえた上でRamasamy氏は、「今後は、マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのかを明らかにする必要がある」と述べている。
 Ramasamy氏は、この研究が「人間の臓器内に異物が存在することについての認識を深め、このテーマをめぐる研究の促進につながる」ことを願っていると付け加えている。同氏はさらに、「われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ」と述べている。

 米ニューメキシコ大学薬学部教授のMatthew Campen氏はCNNの取材に対し、「プラスチックが体内の至る所に入り込んでいることを裏付ける興味深い研究だ」と話す。同氏は、「プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある」と指摘する。
 Campen氏は、共著者として参加した人間の精巣に関する研究において、人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かったことに言及。「われわれは、体内のマイクロプラスチックがもたらし得る脅威にようやく気付き始めたところだ。マイクロプラスチックが不妊症や精巣がん、その他のがんに関与しているのかどうかを明確にするためにも、このテーマに関する研究の急増が必要だ」と述べている。
 一方、米国小児科学会(AAP)の食品添加物と子どもの健康に関する政策声明の筆頭著者である、米ニューヨーク大学ランゴンヘルスのLeonardo Trasande氏は、マイクロプラスチックがもたらす脅威が明らかになるまでの間にわれわれがやるべきこととして、「まず、可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らすこと。また、乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめること。さらに、熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにすること」とCNNに対して語っている。

<原著論文>
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ナノプラスチックはすでにあなたの体に侵入している。

2024年08月06日 07時58分48秒 | 医療問題
プラスチック…もはや人類に欠かせないマテリアルです。
でも自然界で分解されないことから、
巡りめぐって人類に悪影響を及ぼすことが判明してきました。

こちらの記事を紹介します。

<ポイント>
・ペットボトル入り飲料水には、1リットル当たり平均で約24万個のナノプラスチック粒子(※)が含まれている。
・米国で人気のある3種類のペットボトル飲料水(ブランド名は非開示)を調べたところ、1リットル当たり11万~37万個のプラスチック粒子が検出された。検出された粒子の90%はナノプラスチックで、残りはマイクロプラスチックだった。
・ナノプラスチックは非常に小さいため、体内を移動し、血液や肺、心臓、脳などに入り込む可能性がある。
・ナノプラスチックは腸内で炎症反応を引き起こし、細胞や組織のバランスを崩す酸化ストレスの原因になる可能性がある。
・ナノプラスチックは代謝障害を引き起こす可能性がある。
・ポリスチレンナノプラスチックは、死亡率の増加や成長障害、生殖異常、胃腸機能障害の原因になる可能性がある。

※ ナノプラスチック:プラスチック廃棄物の処理によって生じる、長さ1マイクロメートル未満の微粒子で、マイクロプラスチックより小さい。

■ ペットボトルの水は危険? 米研究で多数のプラスチック粒子を検出
Arianna Johnson | Forbes Staff 
 ペットボトル入り飲料水には、1リットル当たり平均で約24万個のナノプラスチック粒子が含まれていることが明らかになった。米コロンビア大学の研究チームが8日、米科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した。
 ナノプラスチックとは、プラスチック廃棄物の処理によって生じる、長さ1マイクロメートル未満の微粒子で、マイクロプラスチックより小さい
 研究チームが米国で人気のある3種類のペットボトル飲料水(ブランド名は非開示)を調べたところ、1リットル当たり11万~37万個のプラスチック粒子が検出された。検出された粒子の90%はナノプラスチックで、残りはマイクロプラスチックだった
 ボトル内からは、ペットボトルの素材であるポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、発泡スチロール容器の素材であるポリスチレン(PS)など、最も一般的な7種類のプラスチックが検出されたが、最も多かったのはナイロンの一種であるポリアミド(PA)だった。だが、この7種類のプラスチックは、飲料水の中で見つかったナノプラスチックの10%に過ぎない。今回の研究では、残り90%のナノプラスチックの種類を特定できなかったが、種類によっては、1リットル中に数千万個含まれている可能性もある。
 PETとPEはペットボトルの包装材に含まれているため、保管や輸送中に包装材から放出されると考えられているが、他の5種類のプラスチックは飲料水の製造前または製造中に混入するとされた。
・・・
 ペットボトル飲料水に含まれるプラスチックの量については、これまで複数の研究が行われてきたが、その推定値には1マイクロメートル以下のプラスチックは含まれていなかった。つまり、ナノプラスチックは研究の対象外だったということだ。例えば2018年の研究では、ペットボトル飲料水1リットル当たり平均325個のマイクロプラスチック粒子が検出されたが、ナノプラスチックは含まれなかった。
 環境保護団体アースデイによると、米国人は年間約500億本のペットボトル飲料水を購入している。学術誌「環境科学と技術」に昨年掲載された論文では、1日に2リットルのペットボトル入り飲料水を飲む人は、年間約4兆個のナノプラスチックを摂取することになるとされた。
 ナノプラスチックは非常に小さいため、体内を移動し、血液や肺、心臓、脳などに入り込む可能性がある。ナノプラスチックについてはまだ完全に解明されていないが、反応性が高く、大量に存在し、体内の多くの場所に浸透することができるため、マイクロプラスチックより危険性が高いとする専門家もいる。ナノプラスチックは腸内で炎症反応を引き起こし、細胞や組織のバランスを崩す酸化ストレスの原因になる可能性がある。2021年の研究では、ナノプラスチックは代謝障害を引き起こすとされた。ポリスチレンナノプラスチックは、死亡率の増加や成長障害、生殖異常、胃腸機能障害の原因になるとも考えられている。

<関連記事>
▢ 「BPAフリー」の哺乳瓶から大量のマイクロプラスチックが赤ちゃんに 不当表示で米2社提訴
Arianna Johnson | Forbes Staff
▢ 動脈中のマイクロプラスチック、心臓発作と脳卒中のリスクを高める可能性
Leslie Katz | Contributor

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「熱中症ガイドライン」が改訂されたらしい(2024年)。

2024年08月06日 06時53分10秒 | 医療問題
「熱中症分類」、昔は単語でした。
しばらく前に単語から数字(I度、II度、Ⅲ度)に変更されました。

しかしいくら解説を読んでも、私にはピンときませんでした。
各分類の線引きが曖昧なんです。

一時期、熱中症関連の書籍・資料を読みあさり、
納得できるものに出会ってまとめたのがこちらです。

チェックポイントは「吐気の強さ」と「意識状態」。
これが問題なければ様子観察可、
問題あれば医療機関受診(救急搬送を含めて)。

吐き気+だるさ(+意識正常) → 涼しいところで休んで少量頻回の水分補給
嘔吐頻回+グッタリ(+意識正常) → 医療機関受診し点滴を
意識レベル低下 → 無条件に救急搬送!

とシンプルなフローです。

さて、「熱中症ガイドライン」なるものが存在し、
それが今年(2024年)改定されたという情報が入ってきました。

記事を参考に紹介します。
読んでみると、I度とII度は意識障害の有無で区別し、集中力・判断力の低下がなければ現場で様子観察、怪しければ医療機関へ、とあります。
一見、わかりやすそうなのですが、臨床現場ではどうでしょう。

熱中症を心配する患者さんから訴えられることは、
・暑いところで活動していて熱が出てだるそう。
・汗をたくさんかいている、あるいはかいていないから心配。
が多いです。

ガイドライン2024の分類に「発熱」という単語を探すと・・・IV度のところにしかありません。
では熱があればすべてIV度というと、そんなことはないでしょう。
I度、II度の発熱はどうなっているんですか?と問いたい。

「発汗」という単語を探すと・・・多量の発汗がI度にあります。
ではII度〜IV度では発汗はどうなっているんですか?と問いたい。

<ポイント>
・改定されたガイドライン2024では熱中症の重症度分類や診療アルゴリズムを変更したほか、熱中症患者の身体を冷却する「Active Cooling」の定義などを見直した。
・改訂前の重症度分類では、I度(軽症)、II度(中等症)、III度(重症)の3段階としていたが、ガイドライン2024では、より重症な患者の分類として新たに「IV度(最重症)」を導入。
【I度】めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛などの症状があるが、意識障害は認めない患者。
 → 現場で対応可能。
【II度】頭痛や嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られるJCS≦1の患者。
 → 医療機関での診察が必要、Passive Coolingを行い、不十分ならActive Coolingの実施のほか、経口的に水分・電解質の補給を行う(経口摂取が困難なときは点滴を利用)。
【Ⅲ度】中枢神経症状(JCS≧2、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常のうちいずれかを含む状態。
 → 入院治療の上、Active Cooling(※)を含めた集学的治療を考慮。
【qIV度】表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)。
【IV度】qIV度に該当した患者にはActive Coolingを早期開始しつつ、深部体温の測定を早急に行い「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」に該当する例。
 → Active Coolingを含めた早急な集学的治療を実施。

※ Active Cooling:何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること。氷嚢、蒸散冷却、水冷式ブランケットなどを用いた冷却法、ゲルパッド法、ラップ法、(近年登場した)体温管理機器を用いる冷却方法。冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与(エビデンス不十分)、クーラーや日陰の涼しい部屋での休憩はActive Coolingではなく、「Passive Cooling」の範疇。

■ 日本救急医学会が「熱中症診療ガイドライン2024」を公表
加納 亜子=日経メディカル
2024/07/30:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会は2024年7月25日に「熱中症診療ガイドライン2024」を公表した(日本救急医学会のウェブサイトはこちら)。改訂は約10年ぶりとなる。ガイドライン2024では熱中症の重症度分類や診療アルゴリズムを変更したほか、熱中症患者の身体を冷却する「Active Cooling」の定義などを見直した
 改訂前の重症度分類では、I度(軽症)、II度(中等症)、III度(重症)の3段階としていたが、ガイドライン2024では、より重症な患者の分類として新たに「IV度(最重症)」を導入した。
 広く用いられてきた改訂前の「熱中症診療ガイドライン2015」における重症度分類では、「(1)深部体温≧40℃、(2)中枢神経障害、(3)暑熱環境への曝露──の3つを満たすもの」を重症と定義した「Bouchama基準」に、腎障害や肝障害、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの症状を判断基準に加えた上で、その状況に至るまでの諸症状・病態を一連のスペクトラムとして「熱中症」と総称し、必要な処置のレベルに応じてI度~III度に分類していた。だが、入院加療が必要な「III度」の定義が幅広く、軽度の意識障害(JCS 2程度)のみに該当する場合から昏睡やDICなどの多臓器不全を呈する致死的状態までを同じ範疇で定義している状態だった。
・・・ガイドライン2015の重症度分類における「III度」の重症者のうち、「表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)」をqIV度と定義。現場ではまず、qIV度に該当する患者を迅速にスクリーニングするよう求めた。その上で、qIV度に該当した患者にはActive Coolingを早期開始しつつ、深部体温の測定を早急に行い「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」に該当すれば「IV度」、深部体温が39.9℃以下であれば「III度」に振り分ける流れとした。
 そのほか、めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛などの症状があるが、意識障害は認めない患者は「I度」と設定。頭痛や嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られるJCS≦1の患者は「II度」中枢神経症状(JCS≧2、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常のうちいずれかを含む状態を「III度」とした。
 重症度分類の見直しに伴い、診療アルゴリズムも変更した(図1)。I度は「現場で対応可能」II度は「医療機関での診察が必要」としてPassive Coolingを行い、不十分ならActive Coolingの実施のほか、経口的に水分・電解質の補給を行うよう求めた(経口摂取が困難なときは点滴を利用)III度では「入院治療の上、Active Coolingを含めた集学的治療」を考慮し、IV度では「Active Coolingを含めた早急な集学的治療」を実施するよう求めている。

図1 熱中症診療ガイドライン2024の診療アルゴリズム(熱中症診療ガイドライン2024から引用)

 また、Active Coolingについては、改訂前の「熱中症診療ガイドライン2015」では氷嚢、蒸散冷却、水冷式ブランケットなどを用いた従来の冷却法、ゲルパッド法、ラップ法など細かく個別の冷却方法を記載していた。近年、体温管理機器を用いる冷却方法が開発されていることを受け、ガイドライン2024ではActive Coolingを「何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること」と定義。包括的な記載に統一した。
 ただし、冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与、クーラーや日陰の涼しい部屋での休憩はActive Coolingではなく、「Passive Cooling」の範疇だと記した。また、冷蔵庫に保管していた輸液製剤の投与は薬剤メーカーで推奨された投与方法ではなく、実際の液温が不明であり、重症熱中症患者への有効性を示すエビデンスがないことにも言及した。また、重症例(III~IV度)への治療法については、Active Coolingを含めた集学的治療を行うことを推奨(CQ3-01:弱い推奨、エビデンスの強さB〔中等度〕)している。
 なお、ガイドライン2024はMinds(Medical Information Distribution Service)診療ガイドライン作成マニュアル2020(Minds2020)に準拠した形で作成した。定義・重症度・診断、予防・リスク、冷却法、冷却法以外の治療(補液、DIC、治療薬)、小児関連の5分野から24個のクリニカル・クエスチョン(CQ)を設定。システマティックレビューの結果がそろった段階で、執筆担当者14人で推奨決定会議を行った。満場一致で合意した場合はCQからバックグラウンド・クエスチョン(BQ)やフューチャー・リサーチ・クエスチョン(FRQ)へ変更し、推奨決定会議の経過は解説文に記載した。


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シンデレラ体重(BMI≦18)は健康的ではない。

2024年08月06日 06時21分28秒 | 糖質制限
女子の間では「シンデレラ体重」という神話があり、
「BMI18は理想の体重」と囁かれているそうですが・・・
医学的には決して健康的とは言えず、
“やせすぎ”なんですね。

日本若年女子の栄養状態を扱った記事を紹介します。
結論から申し上げると、
日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。
 将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、
 低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる。
とのこと。

<ポイント>
・BMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする主張がソーシャルメディアなどで見られる。
・日本人若年女性に低体重者が多い。20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高い。
・女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性がある。
・極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く、一方でコレステロールの摂取量は比較的高値だった。28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は有意に低いこと。
・極端な低体重者(BMI17.5未満)は微量栄養素が不足している。96%で鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満、ビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在している。40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された。

■ シンデレラ体重の若年日本人女性の栄養不良の実態が明らかに
HealthDay News:2023/09/18:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 国内で増加している低体重若年女性の栄養状態を、詳細に検討した結果が報告された。栄養不良リスクの高さや、朝食欠食の多さ、食事の多様性スコア低下などの実態が明らかにされている。藤田医科大学医学部臨床栄養学講座の飯塚勝美氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月7日掲載された。
 日本人若年女性に低体重者が多いことが、近年しばしば指摘される。「国民健康・栄養調査」からは、20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高いBMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする、この傾向に拍車をかけるような主張もソーシャルメディアなどで見られる。実際には、女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性も指摘されている。とはいえ、肥満が健康に及ぼす影響は多くの研究がなされているのに比べて、低体重による健康リスクに関するデータは不足している。
 飯塚氏らの研究は、2022年8~9月に同大学職員を対象に行われた職場健診受診者のうち、年齢が20~39歳の2,100人(女性69.4%)のデータを用いた横断研究として実施された。まず、低体重(BMI18.5未満)の割合を性別に見ると、男性の4.5%に比べて女性は16.8%と高く、さらに極端な低体重(BMI17.5未満)の割合は同順に1.4%、5.9%だった。
 次に、女性のみ(1,457人、平均年齢28.25±4.90歳)を低体重(BMI18.5未満)245人、普通体重(同18.5~25.0未満)1,096人、肥満(25.0以上)116人の3群に分類して比較すると、低体重群は他の2群より有意に若年で、握力が弱かった。栄養状態のマーカーである総コレステロールは同順に、177.8±25.2、184.1±29.2、194.7±31.2mg/dL、リンパ球は1,883±503、1,981±524、2,148±765/μLであり、いずれも低体重群は他の2群より有意に低値だった。一方、HbA1cは肥満群で高値だったものの、低体重群と普通体重群は有意差がなかった。
 続いて、極端な低体重のため二次健診を受診した女性56人を対象として、より詳細な分析を施行。この集団は平均年齢32.41±10.63歳、BMI17.02±0.69であり、総コレステロール180mg/dL未満が57.1%、リンパ球1,600/μL未満が42.9%、アルブミン4mg/dL未満が5.3%を占めていた。その一方で39%の人がHbA1c5.6%以上であり、糖代謝異常を有していた。なお、バセドウ病と新規診断された患者が4人含まれていた。
 20~39歳の44人と40歳以上の12人に二分すると、BMIや握力、コレステロールは有意差がなかったが、リンパ球数は1,908±486、1,382±419/μLの順で、後者が有意に低かった。また、アルブミン、コレステロール、リンパ球を基にCONUTという栄養不良のスクリーニング指標のスコアを計算すると、軽度の栄養不良に該当するスコア2~3の割合が、前者は25.0%、後者は58.3%で、後者で有意に多かった。
 極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く(同順に82.1%、96.4%)、一方でコレステロールの摂取量は277.7±95.9mgと比較的高値だった。また、28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は、朝食を食べている人の4.18±0.83に比べて朝食欠食者は2.44±1.87と有意に低いことが明らかになった
 極端な低体重者は微量栄養素が不足している実態も明らかになった。例えば鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満の割合が、いずれも96.4%を占めていた。血液検査からはビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在していることが分かった。さらに、40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された
 これらの結果に基づき著者らは、「日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる」と総括している。

<原著論文>
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アナフィラキシー対応は「注射」から「鼻スプレーへ」

2024年08月02日 08時16分39秒 | 食物アレルギー
私は小児科専門医&アレルギー専門医です。
医療医学の進歩に後れを取らないよう、
日々情報収集のアンテナを張っています。

そんな中で、画期的な記事を見つけました。
それは「アナフィラキシー」対応に、
現在の注射剤ではなく鼻スプレー剤が登場したという内容。

アレルギー症状の最重症型である「アナフィラキシー」の処置として、
現在は「エピペン」という注射剤が有名になっています。

これは医療関係者以外の一般市民でも使用可能で、
学校現場などでも教職員他が研修を受けて対応できるようにしています。

しかし実際には、ふだん扱ったことのない注射を具合の悪い子どもにするというハードルが高く、
タイミングよく使用されないことがしばしば報告されています。

そこに「鼻スプレー剤」の登場!

これは今までのハードルを一気に取り払うくらいのインパクトがあります。
実用化が待ち遠しいですね。


■ 「アナフィラキシー」に鼻にスプレーするタイプの薬で効果確認
2024年7月30日:NHK)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 重いアレルギー症状が出た場合、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、鼻にスプレーするタイプの薬でも同等の効果が確認できたとする、治験の結果を開発を進めるグループがまとめたことが分かりました。この治験は、国立病院機構相模原病院と製薬会社のグループが行いました。
 食物などのアレルギーで「アナフィラキシー」と呼ばれる重い症状が起きた際には、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、注射をためらうなどして投与が遅れるケースがあると指摘されています。
 グループでは、海外の製薬会社が開発を進める鼻にスプレーをするタイプの治療薬について、国内で最終段階の治験を行い、アナフィラキシーの症状が出た6歳から17歳までの子ども15人にこの薬を投与しました。
 その結果、15人のうち14人で5分以内に症状が和らぎ始め、最終的に全員の症状が治まったということで、いずれも重い副作用などはみられませんでした。
 これまでの研究で鼻からの投与で十分な量の薬が吸収されることが確認されているということで、グループでは、今回の治験で自己注射薬と同等の効果があることが確認できたとしています。
 国内で開発を進める製薬会社では、今年度中に国に承認申請を行うことを目指しているということです。
国立病院機構相模原病院臨床研究センターの海老澤元宏センター長は「注射薬は一般の人や教職員が使うときにどうしても抵抗感があるが、点鼻型の薬が実用化できる見通しがたったと考えている」と話していました。

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卵・牛乳アレルギー除去解除の安全な開始量・維持量は?

2024年07月28日 07時17分49秒 | 食物アレルギー
乳児期に発症した食物アレルギー(卵・牛乳)の治療方針は、
一旦は症状が出ないレベルで除去し、
1歳過ぎに除去解除を試みるのがふつうです。
ただし解除の時期は重症度によりアレンジされますので、
必ず主治医の指示を守ってください。

では除去解除の際、どれくらいの量を試すのが適切なのでしょう?
ガイドラインでは一応、グラム単位で量の設定がされていますが、
その数字に関してはいまだに議論の対象で、
学会に参加していると今後もエビデンスにより変わる雰囲気が感じられます。

当院では、食物アレルギーの軽症例(皮膚症状のみ)だけを診療しています。
なのでグラム単位の指導はしていません。
除去解除、あるいは再開する際は、ケースバイケースではありますが、

・少量摂取で無症状、大量摂取で症状出現
 → 無症状レベルの量から漸増していく

・微量摂取でも症状出現
 → “舐める程度”からはじめ、漸増していく

ルールとして以下のことを指示します;

・同量を複数回試して症状が出ないことを確認する
・増量する際は2倍以内とする

つまり「石橋を叩いて渡る」イメージですね。
これらを守っていただければ、安全に除去解除が進められます。
・・・少なくとも私の経験では。

そんなタイミングで、以下の記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・従来は域値(症状が出現する量)に近い量で開始していたが、症状が出現してしまうことが一定数いた。
・極微量開始法は、症状が出現するリスクが少ない。
・極微量開始・継続法でも、その後の耐性獲得(症状が出なくなること)が得られた。
・極微量開始・継続法は、安全に行うことができ、かつ耐性獲得もできる有効な方法である。

当院の方法との違いは、
微量摂取可能例はどんどん増量していかなくても、
症状が出現しない量を食べ続けることにより、
いずれ耐性獲得が期待できる、
という点でしょうか。

■ 経口免疫療法の至適開始量が判明〜卵・牛乳アレルギー
2023年12月06日:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 鶏卵と牛乳は即時型食物アレルギーの原因食物の上位2品目で、特に小児では割合が多く、普段の食事に悩む保護者は少なくない。長年、経口免疫療法が行われてきたが、安全な実施法は確立されていなかった。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する小児と青年に対し、食物経口負荷試験の閾値を基に開始量と増量を設定した5群で経口免疫療法を実施。その結果、従来法に比べ閾値の100分の1量から開始し10分の1量で維持する方法では、2回目の食物負荷経口試験の閾値上昇人数が有意に多く、アナフィラキシー症状は発生しなかったとClin Exp Allergy(2023年9月28日オンライン版)に報告した。

▶ 閾値の1万分の1~10分の1で開始
 食物経口免疫療法に関しこれまでさまざまな報告がなされているが、一般診療で実施できるものではなく、摂取時、摂取後の体調や摂取量によりアナフィラキシーが誘発されることもあり、適切な実施法の確立が課題となっていた。
 大矢氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する4~17歳の小児・青年217例を対象に、経口免疫療法の至適開始量と維持量を検討した。同センターの外来で1回目の経口負荷試験を受けた後、閾値を基に原因食物の開始量と維持量を設定した5群(表)に分けて経口免疫療法を実施。電子カルテデータを分析し、安全性と有効性を比較した。

表. 開始量と維持量のパターンによる分類


▶ アレルギー診療専門家の救急対応を準備した上で実施を
 検討の結果、従来法のD群に比べ極微量開始維持法のB群では、2回目の食物経口負荷試験の閾値が上昇した患者の割合が有意に多く(56.8% vs. 88.2%、P<0.001、図-A)、食物特異的IgE値が上昇した割合は、完全除去のE群よりB群で有意に多かった(61.1% vs. 93.8%、P<0.05、図-C)。また、D群に比べ、微量開始維持法のA~C群は有害事象を経験した患者が有意に少なかった(D群70.5% vs. A群24.2%、B群13.7%、C群29.4%、図-B)。A~C群で確認された有害事象は、ほとんどが口や喉の痒みといった軽微な症状でアナフィラキシーは認めらなかった一方、D群ではアナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。

図. 累積耐量増加と有害事象、食物特異的IgE減少を認めた患者割合

(表、図とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 今回の結果から、大矢氏らは「従来法に比べ微量開始維持法の安全性と極微量開始維持法の有効性が示された」と結論。一方、経口免疫療法中に軽微だが症状が発症しているため「今回の治療法をそのまま実臨床で実施するのではなく、患者の症状や重症度、合併症を考慮し、症状出現時の緊急対応としてアレルギー診療を熟知した専門家と連携した上で慎重に実施してほしい」と付言している。


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糖質制限ダイエットは危険?

2024年07月26日 06時29分33秒 | 予防接種
私自身、もう5年以上糖質制限をしています。

といってもゆる〜い糖質制限で、主食(穀物)を食べないだけ。
言い方を変えると、「おかずだけ食べる」食生活です。

ストイックな糖質制限食者は、
天ぷらや揚げ物の衣も食べないそうですが、
私は食べる喜びを捨てるつもりはないので、
みんな一緒に食べています。

するといくつかのことに気づきました。
まず、和食のおかずは「しょっぱい」こと。
ご飯がはかどるための味付けになっているのです。

これは、日本人が米を主食に選んだ弥生時代に、
高血圧という国民病を抱えることになったと読んだことがありますが、
その通りだと思います。

それから、炭水化物を主食に選んだ時点で、
糖尿病という国民病も抱えることになりました。

炭水化物は消化吸収される際、ブドウ糖に分解されます。
つまり、甘いスイーツや菓子類を食べなくても、
米やパンやパスタでしっかり糖負荷がかかっているのです。
例えば、「うどんひと玉は角砂糖14個分」という題名の本がありましたね。

ですから、糖質制限は少なくとも「高血圧」「糖尿病」を回避する有効な方法と言えます。

そして過剰な糖質は脂肪となって蓄積されます。
油っぽいモノを食べると脂肪になるとイメージされやすいですが、
実は脂肪の元凶は糖質です。

実際にゆる〜い糖質制限を続けている私は、
標準体重を維持し続けています。

これは栄養学的のみならず、精神衛生上とてもよいこと。
ユニクロの衣服をきつさを感じることなく着用可能なのです。
メタボの中年はユニクロをスマートに着こなせませんよね。

…前置きが長くなりました。
私にとって糖質制限はよいことですが、
中には反対意見もあります。
これから数回、それらの記事を拾ってみます。

以下の記事で驚いたのは、
「油っぽいものを食べると太る」というイメージは、
砂糖業界が商業的に作り出したものである、という事実!

それから、
「糖が足りないときは脂肪やたんぱく質がそれを補う」
と説明しておきながら、
「糖が足りないと脂肪やたんぱく質が分解されて危険」
と否定的な説明もしており、
 (どっちなの?)
と、どう理解してよいのかわからない…。

それからそれから、
脂肪が分解されると生成されるケトン体を悪者にしていますが、
近年、脳はケトン体を栄養分として利用できることが判明したという、
科学的事実を付け加えておきます。

<ポイント>
・生物には、飢餓に備えて余ったエネルギーを脂肪の形でためておいて、飢餓の状態になったときそれを使って生き延びるしくみがあります。エネルギー源になるのなら、ためておくのはタンパク質だって、糖質だっていいのですが、脂質は、同じ重さあたりのエネルギーが倍以上なのでとても効率がいいのです。そのため糖質やタンパク質も余れば脂質に変換され蓄えることができます。このしくみがあるために、脂質ばかりでなく、何を食べても食べすぎれば太るということになるのです。
・脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。
・脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります。砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。
・デンプンはブドウ糖が長くつながってできた分子で、アミラーゼなどの消化酵素の働きでブドウ糖に加水分解され、小腸で吸収されます。肝臓では、一部グリコーゲンとして蓄えられたのち、血液で必要な組織や細胞に運ばれエネルギー源として使われます。過剰なブドウ糖はすぐにグリコーゲンに変えられるし、ブドウ糖が足りなければすぐにグリコーゲンを分解して、解糖系で代謝させることができます。
・脂質と糖、タンパク質は互いに変換できます。つまり、糖やタンパク質から脂質が作れるということ。また、脂質やアミノ酸から糖も作れます。特に糖と脂質の代謝は密接ですから、糖を摂りすぎれば脂肪となって蓄えられ、足りなくなれば使われます。
・糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です。
・脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます。肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます。使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です。血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。
・脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります。


■ 最悪の場合は死に至る…ラクに体重が減る「糖質制限ダイエット」に潜む危険すぎるリスク過度な減量は飢餓状態とほとんど変わらない
2022.6.8:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ラクに体重を減らせるとして「糖質制限ダイエット」が注目を集めている。コンビニなどでも「糖質」を表記する商品が目立つ。サイエンスライターの佐藤成美さんは「たしかに糖質制限をすれば体重を減らせるが、筋肉量の減少や脱水症状を引き起こすリスクがある。長期にわたって過度な糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もある」という――。
※ 本稿は、佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

▶ 油っぽい食べものはダイエットの敵なのか
 さて、三大栄養素の糖質、脂質、タンパク質について、複合的に考えてみたいと思います。エネルギー源となるこれらの栄養素の熱量は、タンパク質や糖質では1gあたり4kcalなのですが、脂質は9kcalと倍以上にもなります。
 脂質のこの性質は生体内にエネルギーを蓄えるためには重要です。ただ、油といえば、連鎖的に太るとイメージされます。油や油を多く含む食べものはもっぱらダイエットの敵とされてきました。このようなイメージが染みついているのは、脂質のエネルギーが高いからなのでしょうか。
 生物には、飢餓に備えて余ったエネルギーを脂肪の形でためておいて、飢餓の状態になったときそれを使って生き延びるしくみがあります。エネルギー源になるのなら、ためておくのはタンパク質だって、糖質だっていいのですが、脂質は、同じ重さあたりのエネルギーが倍以上なのでとても効率がいいのです。そのため糖質やタンパク質も余れば脂質に変換され蓄えることができます。このしくみがあるために、脂質ばかりでなく、何を食べても食べすぎれば太るということになるのです
 さて、脂質は皮下組織や内臓のまわりにある脂肪組織に蓄えられます。脂肪組織は体温の保持や体の保護にも重要です。脂肪組織には脂肪細胞という脂肪をためておくための特殊な細胞があり、細胞質に脂肪滴という脂肪のかたまりをもっているのが特徴です。

▶ 肥満によって脂肪細胞はどんどん増えていく
 脂肪細胞には、大きな脂肪滴がひとつある白色脂肪細胞と複数の脂肪滴がある褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞があり、役割が異なります。
 皮下組織にあって、脂肪をためる役割をしているのは白色脂肪細胞です。褐色脂肪細胞は首や肩の周りなどに多くあり、脂肪を代謝させエネルギーを産生します。ベージュ脂肪細胞は動物が長期間、寒冷にさらされると出現するという特徴があり、やはりエネルギー産生機能をもっています。
 白色脂肪細胞(以下、脂肪細胞)は、脂肪をためると直径70〜90µmほどの大きさになります(1µmは10-3mm)。赤血球の直径が8µmほどですから、脂肪細胞はかなり大きい細胞です。人類は、飢餓に備えて、このような細胞を獲得したものの、食べものが豊富になり、便利な時代となった今、栄養過剰摂取と運動不足でエネルギーは余るばかり。それでも、生体はエネルギーをためることはやめません。
 その結果、脂肪細胞は脂肪をどんどん取り込むことになりました。風船がふくらむように大きくなり、最大では直径100µmをこえるほどの大きさになります。太るとき、脂肪細胞は、「数は変わらずにどんどん大きくなる」という説と「数が増える」という説がありました。最近は、肥満によって脂肪細胞の数が増えることが明らかになってきました。

▶ 太る原因は糖質なのか、脂質なのか
 脂肪細胞の数は成人で約300億個、肥満者で400億から600億個といわれます。そしてこれらの脂肪細胞は体内最大の内分泌器官でもあります。脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます
 ここでまた本稿の冒頭の疑問点に戻ります。生物は余ったエネルギーを脂肪として蓄えるしくみがあり、それは脂質を含む食べものを食べたときばかりではありません。それなのに、脂質=太るというイメージが強いのはなぜでしょう。
 脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります
 砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。
・・・

▶ 糖質はどうやって代謝されているのか
 糖代謝について少し説明しておきましょう。デンプンはブドウ糖が長くつながってできた分子で、アミラーゼなどの消化酵素の働きでブドウ糖に加水分解され、小腸で吸収されます。肝臓では、一部グリコーゲンとして蓄えられたのち、血液で必要な組織や細胞に運ばれエネルギー源として使われます。
 細胞に取り込まれたブドウ糖は、クエン酸回路、電子伝達系を経て、ATP(アデノシン三リン酸)が合成されます。ブドウ糖が二酸化炭素と水になるだけの反応ですが、何段階もの複雑な過程を経ることで、非常に効率よくエネルギーを引き出しています。糖代謝はさまざまな代謝の中心で、代謝の途中でできる中間代謝産物が脂質やタンパク質などほかの代謝経路とも相互に関わりあっています。
たとえば、ブドウ糖は解糖系の第1段階として、グリコーゲンに変化しやすい状態に変わり、ここでグリコーゲンといったりきたりします。過剰なブドウ糖はすぐにグリコーゲンに変えられるし、ブドウ糖が足りなければすぐにグリコーゲンを分解して、解糖系で代謝させることができます。

▶ なぜビタミン剤は疲労に効果があるのか
 脂質とタンパク質の代謝についても見てみましょう。
 中性脂肪はグリセロールと脂肪酸から構成されていますが、グリセロールは解糖系と関わっており、脂肪酸はアセチルCoAという物質でクエン酸回路と関わっています。タンパク質はアミノ酸に分解されると、アセト酢酸やピルビン酸を経てアセチルCoAになります。これらの中間代謝産物を介して、タンパク質の代謝と糖代謝も関わっています。
このことは、脂質と糖、タンパク質が互いに変換できることを意味します。つまり、糖やタンパク質から脂質が作れるということ。また、脂質やアミノ酸から糖も作れます。特に糖と脂質の代謝は密接ですから、糖を摂りすぎれば脂肪となって蓄えられ、足りなくなれば使われます
 生体内の代謝は化学反応の連続で、さまざまな代謝経路が相互に関わりながら非常に複雑なネットワークをつくっています。ネットワークを示した代謝マップは、東京など大都市の路線マップよりも複雑です。そして、このネットワークが間違えずにスムーズに機能することが「体調が良い」ことになるのです。
 三大栄養素の代謝にはビタミンが必要で、不足すると代謝が機能しにくくなります。ビタミン剤やビタミン入りのドリンクが疲労に効果があるといわれるのは、必要なビタミンを補い、代謝を促すからなのでしょう。

▶ 過剰な糖質制限ダイエットは低血糖を招く
 ここからは、低糖質ダイエットや糖質制限ダイエットについて詳しく考えてみたいと思います。
糖質とは炭水化物のうち、エネルギー源になるデンプンやその構成要素でもあるブドウ糖などをいいます。糖質制限ダイエットのブームで、糖質という言葉の意味が広く知られるようになったものの、太る原因や健康に悪いというイメージが強まりすっかり悪者になってしまいました。
 糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です
 糖質を控えるだけなら比較的簡単そうだし、おまけにカロリー制限はなく肉も満腹になるまで食べてもいい、ということで飛びつきたくなる気持ちもわかります。ただ、主要なエネルギー源である糖質を控えたら、どうやってエネルギーを得ることになるか、考える必要があります。
 脂質やタンパク質は糖質とともにエネルギーになります。糖代謝はエネルギー代謝の中心にあり、脂質やタンパク質の代謝と密接に結びついており、糖質が不足してもエネルギーをつくるしくみがあります。それなら糖質制限しても問題はなさそうと思ってしまいます。ところが、困ったことに、脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます
 もし、低血糖になれば脳はその影響を強く受け、昏睡こんすい状態になる危険もあり、時には死を招きます。

▶ 意識障害や脱水症、動脈硬化のリスクが高まる
 低血糖を避けるために体内では、まずは肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解して、ブドウ糖を補います。グリコーゲンはデンプンと同様ブドウ糖がつながった分子なので、分解すればブドウ糖になります。とはいえ、肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます
使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です
 血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。このような体を守るしくみを知ったうえで糖質制限ダイエットについて考えてみる必要があります。
 糖質制限をすると脂肪細胞の分解ということは起こるので、やせることはかなり期待できます。ただ、やせたといってもぬか喜びになるかもしれません。極端な糖質制限を続ければ筋肉まで分解され、生体にとって危険な状態になるからです。
 脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります

▶ 長期の糖質制限ダイエットはで死亡リスクが高まる可能性も
 実は飢餓や糖尿病でも、これと同じ状態が起こります。糖尿病は、糖代謝が制御できず、高血糖状態が続く病気です。糖尿病になると、体内にブドウ糖があってもブドウ糖を利用できなくなり、エネルギー不足に陥ります。
 糖質制限をしたときに起こるメカニズムはまだ十分には解明されていません。糖質制限をしてやせる理由のひとつに、ケトン体が栄養シグナル分子として、絶食などブドウ糖を利用できないときのエネルギー利用の調節にはたらいているためではないかと示唆されています。
 一方、長期にわたって糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もあります。糖質制限の効果には賛否両論があります。良い面も報告されていると同時に弊害も報告されています。健康になるのかどうかは今のところは疑問です。糖質をとりすぎている人は減らす必要はありますが、ブドウ糖は筋肉や脳を動かすエネルギー源として欠かせないものなので、適度に摂取することは必要です。
・・・


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