小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「小児の頭痛ー診かた・考え方の実践ー」(小児科診療 Vol.76 No.8, 2013)

2014年03月23日 15時18分14秒 | 小児医療
 第2弾は医学系雑誌の「小児の頭痛」特集号。
 啓蒙書と違い、科学的根拠(エビデンス)に基づく記述が明解で心地よい。
 お役立ち情報をメモメモ。

 国際頭痛分類はトリプタン製剤を有効に使うためのスキルという視点から作られたものらしい。事前に基礎疾患の除外をストイックに行う必要があります。
 小児に片側性が少なく、拍動性も少ないという現象は、本当にそうなのか、表現できないだけなのかという疑問が最後までつきまとうのは「痛み」という主観による症状で診断する疾患ですから仕方がないのでしょう。
 片頭痛発作中の頭痛の性質に変化があることを教えていただきました。ピークに至る過程では拍動性、その後は炎症が中心になるので非拍動性になり、トリプタン製剤が効くのは前半の拍動性頭痛である、という記述は服用指導をする際のポイントになります。
 トリプタン製剤が「小児適応がない」事実を受け入れ、学会の指診などを参考に手探りで使用するのが現状です。臨床現場としては、早くこのようなストレスなく診療できる環境にしていただきたいものです。

※ なお、頭痛=片頭痛ではありません。この項目のメモは「他の病気を除外した」という前提での記載とお考えください。


片頭痛の症候と診断(神戸市立医療センター西市民病院小児科:安島英裕)
・1980年代に発売されたトリプタン製剤は、鎮痛剤ではないにもかかわらず片頭痛に著効し、片頭痛の発症機序として三叉神経血管説(Moskwitz)が正しいことを証明することになった。これ以降、片頭痛の研究や診療が飛躍的に発展した。
・1988年に国際頭痛分類初版が公開され、2004年に第2版へ改訂された。その中で「トリプタン製剤が有効そうな患者を捜すときは、この分類の前兆のある片頭痛や前兆のない片頭痛の診断基準に基づいて患者を診断しなければならない。」と記載されており、極論すればトリプタン製剤の使用を念頭に作成された典型的な片頭痛を診断する基準だとも解釈される。逆に診断基準から外れる例については、生命に関わり後遺症を残す可能性のある疾患を見逃さないことが大切である。

前兆のない片頭痛の診断基準】(ICHD- code1.1)
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある(注1)
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)(注2-4)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
 1.片側性(注5・6)
 2.拍動性(注7)
 3.中等度~重度の頭痛
 4.日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 1.悪心又は嘔吐(あるいはその両方)
 2.光過敏および音過敏(注8)
E. その他の疾患によらない(注9)


(注)
1.1.1「前兆のない片頭痛」と2.1「稀発反復性緊張型頭痛」は時に鑑別が困難であると思われる。したがって、発作を5回以上経験していることを診断の要件とした。発作回数が5回未満の例は、それ以外の1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準を満たしていても、1.6.1「前兆のない片頭痛の疑い」にコード化すべきである。
2.片頭痛発作中に入眠してしまい、目覚めたときには頭痛を認めない患者では、発作の持続時間を目覚めた時刻までとみなす。
3.小児では片頭痛発作の持続時間は1-72時間としてよいかもしれない(ただし、プロスペクティブな日記研究により、小児においては未治療時の発作持続時間が2時間未満であり得ることのエビデンスは、プロスペクティブな頭痛日記により確認する必要がある)。
4.発作が3ヶ月を越える期間にわたり15日/月以上生じている場合には、1.1「前兆のない片頭痛」としてコード化すると共に、A1.5.1「慢性片頭痛」(2006年に新しい基準が公表された)としてコード化する。
5.幼児の片頭痛は両側性である場合が多い。成人にみられる片側性の頭痛パターンは思春期の終わりか成人期のはじめに現れるのが通例である
6.片頭痛はふつう、前頭側頭部に発生する。小児における後頭部痛は、片側性か両側性かを問わず希であり、診断上の注意が必要である。
7.拍動性頭痛(pulsating)とは、ズキンズキンする(throbbing)、あるいは心臓の拍動に伴い痛みが変化することを意味する。
8.幼児の光過敏及び音過敏は、行動から推測できるものと思われる。
9.病歴及び身体所見・神経所見より頭痛分類5-12を否定できる、または、病歴あるいは身体所見・神経所見よりこれらの疾患が疑われるが、適切な検査により除外できる、または、これらの疾患が存在しても、初発時の発作と頭蓋疾患とは時間的に一致しない。

(著者の補足)
B. 頭痛の持続時間
 小児の片頭痛は1-3時間で落ち着くことも多い。中には30分ほどのものもあるが、数十秒~数分の頭痛を繰り返す場合は二次性頭痛の可能性を考慮する。片頭痛が72時間を超えて持続する場合は、片頭痛の診断に「片頭痛発作重積」(ICHD- code1.5.2)を付記する。
C.
1)片側性:
 片頭痛がいつも同じ部位で起こる人は少なく、発作のたびに部位が変わる方が多い頭の両側が痛くても痛みに左右差があるならば片側性とし、左右差がない場合や頭全体が一様に痛い場合は両側性とする時に片側性、時に両側性の場合は両者を記載する。成人では片側性が60%、両側性が40%であると報告されている(Silbersteinら)。小児では両側性が多いが、本当に左右差がないのか、それを表現できないだけなのかは不明である。筆者の施設では片側性が40%であり、小学校高学年以降に片側性が増える
 片頭痛は三叉神経の支配領域である前頭側頭部に発生し、頭頂部痛もよくある。ただし後頭部痛は三叉神経の支配領域から外れ、とくに小児では片側性、両側性を問わず希であるため二次性頭痛の鑑別が必要である。
2)拍動性:
 拍動性は幼少時には少なく、50歳以上でも不明確になるので血管の硬度なども影響するかもしれないが、本当に拍動性ではないのか、表現できないだけなのかは不明である。小学校低学年では拍動性を訴える児が増える。この拍動性の痛みは片頭痛の始まりからピークにかけてみられ、この時点ではトリプタン製剤が著効するが、ピークを過ぎると痛みの主体は血管性から血管周囲や神経の炎症へと変化して拍動性が失われ、非拍動性の頭痛に変化する。また、片頭痛が軽く経過すると拍動性にならず終わることもある。これを機械的に診断基準に当てはめると、片頭痛患者の多くが拍動性/非拍動性頭痛の両者を経験するため、緊張性頭痛を持つという結果になってしまう。
3)中等度~重度の頭痛:
 筆者は寝込むほどのつらい頭痛を重度、寝込むほどではないが勉強や遊びがつらいと感じる頭痛を中等度、生活に支障のない頭痛を軽度と表現してもラテ居る。本人の訴える重症度と生活支障度に乖離があるものは精神疾患の可能性も視野に入れる。
D.
1)悪心または嘔吐
 小児は悪心がなくても嘔吐する場合がある。繰り返す嘔吐がいじめの対象になることもあるので注意が必要である。成人では悪心はあっても嘔吐の頻度は減ってくる。小児周期性症候群(code 1.3)、腹部片頭痛(code 1.3.2)では嘔吐や腹痛が強すぎて片頭痛に気づいていないことも多い。
2)光過敏および音過敏
 両者が揃わないと1項目とならないが、小児では両者が揃わないことが多い。付録診断基準の前兆のない片頭痛(code 1.1)では、悪心、嘔吐、光過敏、音過敏、臭過敏のうち2項目あれば診断基準Dを満たすので、こちらを用いてもよい。
 光過敏は、片頭痛痔の症状として「まぶしいから電気を消して欲しい」と訴える、頭から布団を被って寝込む、などがみられ、片頭痛の誘発因子としては強い光や水面に反射する光やネオンなどが挙げられる。
 音過敏は、片頭痛の症状として「周りの音や友人の声が気に障る」などの打った江波みられ、片頭痛の誘発因子としては大きな声や音などがある。教師が日光の差し込む窓際に経って大声で怒鳴った際に片頭痛が起きる児もいる。
 臭過敏は、片頭痛時の症状として、ふだんは気にならない花や香水やタバコの臭いが気になる、などがみられ、片頭痛の誘発因子として不快な臭いなどがみられる。プールの消毒液の臭いが苦手な児もいる。

前兆のある片頭痛
 成人も小児も前兆がない方が多く、前兆がある場合も毎回ではない。
 片頭痛は「三叉神経血管説」で説明できるが、前兆は「皮質拡張性抑制」という別の機序が加味され、発症機序に異なる点があるため、それぞれ別の片頭痛として扱う。前兆には視覚症状、感覚症状、言語症状の三つがあり、その責任病巣は大脳皮質である。
・視覚症状・・・陽性徴候:閃輝暗点、 陰性徴候:視覚が低下あるいは消失
・感覚症状・・・陽性徴候:チクチクする異常知覚、陰性徴候:感覚鈍麻(小児期ではあまりない)
・言語症状・・・陽性徴候:ない、陰性徴候:失語性言語障害(小児期ではあまりない)

◇ 予兆
 前兆の有無にかかわらず、片頭痛の数時間ないし1-2日前から生じる以下の症状は予兆と呼ばれる。
 頭痛が起こりそうという予知感、首や肩のこり、生あくびが多い。ほかに活動性更新、疲労感、倦怠感、意識消沈、うつ、集中困難、光や音に対する過敏性、悪心、満腹感、下痢、霧視、顔面蒼白など。

◇ めまい
 片頭痛に伴うめまいは vertigo も dizziness もあり、予兆としても前兆としても記載される。

◇ 片頭痛の誘発要因
・血管が拡張する状況:人混み、高温、多湿、運動、発汗
・ストレス:緊張から解放されてホッとしているときにおきやすい。成人では週末に、小児では下校時や下校後。
・運動:階段を昇るときなどにおきやすい。
・睡眠:片頭痛はぐっすり休むことで改善することが多い。不規則な時間帯の睡眠や、睡眠不足や睡眠方は片頭痛の誘因となる。
・不規則な食事:とくに朝食抜きは低血糖刺激により昼食前に片頭痛をおこしやすい。

◇ 片頭痛の経年変化
 片頭痛は15-20歳前後で発症することが多く、25-30歳頃に頭痛のつらい時期があり、40歳を過ぎると痛みの程度は徐々に軽くなり、寝込む機会も減り、嘔吐も少なくなる。


小児の片頭痛治療(宇多野病院小児神経科:白石一浩ほか)
・小児の片頭痛に対するトリプタン製剤、予防薬は保険適用外使用であり、使用にあたっては説明、同意が必要である。よって、原則は「薬の使用は必要最小限に」となる。

急性期治療
・アセトアミノフェン(カロナール®):保険適用は「小児の鎮痛薬」。
・イブプロフェン(ブルフェン®):保険適用は「小児での急性上気道炎に関連する解熱・鎮痛薬」。
・鎮痛剤投与が必要なとき:遊びを止めるほどの頭痛が1時間以上継続したとき、眠れないほどの強い頭痛の時。
・トリプタン製剤:海外の小児に於いて、プラセボ対照群を置いた検討で有効性が報告されているのは、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)とリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)の3つである(※)。
日本頭痛学会の「慢性頭痛の診療ガイドライン」では、小児のトリプタン製剤について「体重40kg以上、12歳以上の小児であれば、成人と同量のトリプタン製剤を使用可能と考える」を見解を述べているが、現時点ではすべてのトリプタン製剤の添付文書に「小児等での安全性は確立していない」と記載されている。
・エビデンスを考えると、小児片頭痛の急性期治療として、アセトアミノフェン(10kg/kg/回)もしくはイブプロフェン(5mg/kg/回)が推奨される。両者で効果が不十分な場合、筆者は以下の条件でトリプタン製剤の使用を考慮している;
①感じが小学校高学年以上で、片頭痛と診断できる。
②体重が40kgを越えている。
③てんかん、心疾患の既往がない。
 使用薬剤は海外でのエビデンスの高いリザトリプタン(マクサルトRPD®)、もしくはゾルミトリプタン(ゾーミッグ®RM)の口腔内崩壊錠か、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)を成人量で使用している。

予防的治療
・筆者は、鎮痛剤乱用を防ぐ意味から、週に2回以上になる症例では予防的治療を提案している。
・プラセボ対照群との比較で有効性が報告されているのは、7歳以上でのプロプラノロールと6歳以上でのトピラマートのみである。日本の小児片頭痛の予防薬についての検討はほとんどない。
・筆者は、小学生までは、まずシプロヘプタジン(ペリアクチン®)かアミトリプチリン(トリプタノール®)を使用している。中学生以上では、上記2剤に加えて、塩酸ロメリジン(ミグシス®)、プロプラノロール(インデラル®)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン®)を考慮している。

 今、必要なのは、「頭痛時には早めに薬を飲んで学校へ」ではなく「頭痛時にはゆっくり家で休みましょう」と言える社会をまずおとながつくることである。

トリプタン製剤の小児使用に関するエビデンス
スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®):12-17歳の738例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。使用量は20mg。
リザトリプタン(マクサルト®):6-17歳の96症例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。投与量は40kg未満では5mg、それ以上では10mg。プロプラノロールとの併用は禁忌である。
ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®):6-18歳の32症例で、プラセボ対照群との比較において、ゾルミトリプタン2.5mg内服群では頭痛改善率が有意に高かったと報告されている。

コメント
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「子どもの頭痛~頭が痛いって本当だよ~」(藤田光江著)

2014年03月21日 15時59分05秒 | 小児医療
メディカル・トリビューン社、2013年発行。

~帯のフレーズ~
 わかってあげることから始めよう。
 頭痛持ちの悩めるお子さんとその家族に。
 幼児から思春期の頭痛の全てがこの一冊に。
 幼稚園や小・中学校の先生もこれで安心。

「子どもの頭痛」はまず大人が理解し、共感するところから治療が始まります。
 疑問や不安をまず解決!
 子どもでも頭痛になるのですか?
 食事で気をつけることは?
 学校は休ませるの?


著者の肩書きは、
北海道大学医学部卒業、医学博士。
筑波学園病院小児科、東京クリニック小児・思春期頭痛外来で診療。
子どもの頭痛をライフワークにしているベテラン小児科医です。

「子どもの便秘」が一段落付いたので、今度は頭痛の患者向けプリントを作るべく手元の本を読み始めました。
一般向け啓蒙書なのでとても読みやすく、1日で読み終わりました。

子どもの頭痛に関する知見が俯瞰でき、知識の再確認とアップグレードができました。
子どもの頭痛の特徴として、
・持続時間が短いことがある:おとなの診断基準は4-72時間のところ、子どもは1-72時間に設定。
・片頭痛といっても必ずしも片側性ではない:診断基準には「年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい」とある、しかし後頭部はあり得ない。
などなど。
また、古くは「自家中毒」と呼ばれた「周期性嘔吐症」が世界的には片頭痛の分類に組み込まれていると聞いていましたが、その正確な位置づけを確認できました。
痛みの程度を「視覚ペインスケール」というツールを使って把握する工夫とか、「薬が必要な頭痛は片頭痛、ガマンできる頭痛は緊張型頭痛」というコメントも参考になりました。

さて、小児の日常診療の中で、頭痛の相談があるとまず処方するのが解熱鎮痛剤です。
風邪で熱が出たときに処方される薬と同じなのです。
代表的なのがアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ坐薬、カロナール®、コカール®など)であり、インフルエンザにも安全に使用可能な薬です。
これでダメならエルゴタミン製剤(ジヒデルゴット®)という流れでした。

一方、おとなの片頭痛診療は日進月歩で、現在は「トリプタン製剤」全盛期。
しかし小児適応(子どもへの使用許可)がなかなか出してもらえません。
臨床の現場では、アセトアミノフェンでは効果不十分な例には子どもにもトリプタン製剤が見切り発車的に使用されているとの噂も聞きます。

解決したい私の疑問は「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使用可能か? 可能なら何歳から?」というもの。
この本の中では、「スマトリプタン(イミグラン®)点鼻薬は12歳以上に使用可」とあり、この情報だけでも読んだ甲斐がありました。
錠剤のリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)も子どもの片頭痛に有効であるとのデータあり。
一方、スマトリプタン(イミグラン®)、エレトリプタン(レルパックス®)は子どもの片頭痛に有効であるとのデータはないとのこと(しかし実際使用して有効例が多いと記されています)。
しかし「イミグラン点鼻液®」の添付文書には「小児等への投与:小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。」と正式に許可されてはいません。
処方の際には「保険適用外使用」であるという「説明と同意」が必要になりますね。

※ ネットで検索すると以下の文章がありました;
「子供の片頭痛によく使われているのは、欧米でも子供の片頭痛によく使われている、リザトリプタン(マクサルトRPD錠)です。副作用が少なく、安全性が高いと評価されています。嘔吐などの強い子供には、スマトリプタン点鼻薬が良いようです。」


それから、慢性化して薬物治療無効例は、やはり心の問題、社会的不安・ストレスが悪化因子になるとも記されています。
便秘にしても、起立性調節障害にしても、うつにしても、この要素が必ず登場します。
「本人が気づき、成長して乗り越えるのをじっと見守って待つ」のが基本と書いてありました。

親業は切ないですねえ・・・。

参考になるHP
日本頭痛協会
 「知っておきたい学童・生徒の頭痛の知識」(養護教員用頭痛冊子2013年版)
□ 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」(日本神経学会・日本頭痛学会)
□ 「国際頭痛分類第2版」「国際頭痛分類第3β版」(日本頭痛学会HP)
 ・・・日本頭痛学会のHPはリンクを張れないようブロックされているので、上記名称で検索してください。



メモ
自分自身のための備忘録。

画像検査が必要な緊急性のある頭痛
□ 救急車を呼んで画像検査ができる病院へ
・今まで経験したことのないような激しい頭痛
・意識消失又はけいれん
・進行する神経症状(片麻痺など)
□ できるだけ早く画像検査ができる病院へ
・後頭部痛(吐気/嘔吐を伴う)
・朝の嘔吐を伴う頭痛
・物が二重に見える、ふらつくなどの神経症状
・頭痛のために睡眠中に目が覚める
・以前からの頭痛の強さや頻度が増す等変化したとき


病院受診前のメモリスト
□ 頭痛の始まった時間
□ 痛む部位
□ 痛みの強さ:日常の動作で痛みが強くなるなど
□ 痛みの性質:ズキンズキン、ガンガンと脈打つ痛み、頭が締め付けられる痛みなど
□ 頭痛の起きる頻度:1ヶ月に何日くらい起きるか
□ 痛みの持続時間
□ 頭痛の前ぶれ:前兆の有無、あるとしたらどんな前兆か
□ どんなときに起きやすいか:天候、食品、睡眠不足などの誘発因子
□ 頭痛に伴う症状:吐気、嘔吐、光・音・においに敏感になるなど
□ 家族の頭痛の有無
※ 今まで罹った病気、不眠や不登校などの有無も。

国際頭痛学会による頭痛分類(ICHD-)

一次性頭痛
1.片頭痛
2.緊張型頭痛
3.群発頭痛と他の三叉神経・自律神経性頭痛
4.その他の一次性頭痛

二次性頭痛
5.頭頚部外傷による頭痛
6.頭頸部血管障害による頭痛
7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛
8.物質またはその離脱による頭痛
9.感染症による頭痛
10.ホメオスターシスの障害による頭痛
11.頭蓋骨、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頭蓋の構成組織の障害に起因する頭痛あるいは顔面痛
12.精神疾患による頭痛

頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛
13.頭部神経痛及び中枢性顔面痛
14.その他の頭痛、頭部神経痛、中枢性あるいは原発性顔面痛


片頭痛の分類(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
1.前兆のない片頭痛
2.前兆のある片頭痛
 ① 典型的前兆に片頭痛を伴うもの
 ② 典型的前兆に非片頭痛様の頭痛を伴うもの
 ③ 典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの
 ④ 家族制片麻痺性片頭痛
 ⑤ 孤発性片麻痺性片頭痛
 ⑥ 脳底型片頭痛
3.小児周期性症候群
 ① 周期性嘔吐症
 ② 腹部片頭痛
 ③ 小児良性発作性めまい
 ④ 小児交代性片麻痺
 ⑤ 良性発作性斜頚


片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
【前兆のない片頭痛】
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
 (年少児では1~72時間)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.片側性:年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい(※1)
2.拍動性
3.中等度~重度の頭痛
4.(歩行や階段昇降などの)日常的な動作により頭痛が増悪する、もしくは頭痛のために日常的な動作を避けようとする
D. 頭痛発作中に以下のうち少なくとも2項目を満たす(※2)
 (年少児の場合、行動から推測される)
1.悪心
2.嘔吐
3.光過敏
4.音過敏
5.におい過敏
E. その他の疾患によらない

※1) 年少児の場合は、片側のこともあれば、両側のこともある。両側が痛む頭痛でも、患者が年少児で前頭部もしくは側頭部が痛む場合には片頭痛のこともある。
※2)片頭痛の発作時は「静かなくらい部屋で寝ていたい」と感じるのが特徴である。これは音過敏や光過敏のため。におい過敏が現れている場合は、例えば電車内の香水の匂いなどにより頭痛が悪化することがある。頭痛を訴えながらも平気でテレビを見ているようであれば、痛みの程度はあまり強くないか、片頭痛以外の頭痛と考えられる。


緊張型頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
A.
1.稀発反復性緊張型頭痛:平均して1ヶ月に1日未満(年間12日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
2.頻発反復性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に1日以上15日未満(年間12日以上180日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
3.慢性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に15日以上(年間180日以上)の頻度で発現する頭痛
かつ、B~Dを満たす
B. 頭痛は30分~7日間持続する
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも3項目を満たす
1.両側性
2.性状は圧迫感または締め付け感(非拍動性)
3.強さは軽度~中等度
4.歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない
D. 悪心(食欲不振は起こりうる)、嘔吐、光過敏、音過敏がない
E. その他の疾患によらない


片頭痛と緊張型頭痛の相違点

(項目)   (片頭痛) (緊張型頭痛)

発作的な頭痛  (+)   (ー)

持続時間  (4-72時間) (30分~7日間)(※1)
      (1-72時間:年少児)

部位    (片側性    (両側性) 
      年少児では両側性:前頭部/側頭部)

性質     (拍動性)  (非拍動性)(※2)

強さ    (中等度~重度)(軽度~中等度)

日常的動作による悪化(+) (ー)

悪心・嘔吐   (+)   (ー)(※3)

光・音・におい過敏(+)   (ー)

家族歴     濃厚    希薄

※1)慢性緊張型頭痛:絶え間なく続くことがある
※2)圧迫感または締め付け感
※3)食欲不振は起こりうる
 片頭痛と緊張型頭痛という両タイプの頭痛が起こる人がいる。このような頭痛に対し、以前は「混合型頭痛」という病名が使われていたが、現在は使われなくなった。両方が起こるとしても、ある時点で起きているのは片頭痛か緊張型頭痛のどちらかなので、片頭痛があり、緊張型頭痛もあると診断されている。
 
群発頭痛
 ある時期に激しい頭痛が集中するタイプで、頭の片側に起こる。若い男性に多く、子どもに起こることは希。部位は眼窩部、眼窩上部、側頭部のうち1つ以上の部位で持続時間は15分~3時間。発作が起こる頻度は「2日に1回」から「1日に8回」。
 頭痛に伴って、頭痛が起きている同側に、次のような症状を少なくとも1つ伴う。
①「結膜の充血」または「流涙」、あるいはその両方。
②「鼻閉」または「鼻漏」、あるいはその両方。
③「眼瞼浮腫
④「前頭部及び顔面の発汗
⑤「縮瞳」または「眼瞼下垂」、あるいはその両方。
⑥「落ち着きがない」または「興奮した様子

小児周期性症候群
 小児の場合、頭痛以外の症状が強く、頭痛が現れていなくても片頭痛と診断されることがある。片頭痛に移行することが多いといわれている病気で、いずれも乳幼児期に発症することが多い。発作以外の時は症状が全くなく元気である。
周期性嘔吐症
 悪心と嘔吐が見られる周期性の発作。発作が始まると1時間に少なくとも4回は嘔吐が続く。発作は1時間~5日間続く。治療は、水分が不足しないように点滴で水分を補給し、吐気を軽くする薬が使われる他、片頭痛の特効薬であるトリプタンが使用されることもある。
腹部片頭痛
 へその周囲が発作性に痛む。1~72時間続き、痛みの程度は中等度~重度。さらに食欲不振、悪心、嘔吐、顔面蒼白のうち、少なくとも2つの症状が現れる。
 海外ではよく見られるようだが、日本ではこの病気と診断される子どもは少ない。
小児良性発作性めまい
 重度の回転性のめまい発作。数分~数時間で自然に治まる。めったにない病気。耳鼻科での検査や脳波検査、頭部画像検査では異常がない。一過性で症状は消えるが、反復することもある。
小児交代性片麻痺
 体の左右いずれかに、交代制に見られる片麻痺の発作が反復する。生後18ヶ月までに発症する。
良性発作性斜頚
 頭部が片側に傾く症状がみられ、傾くだけでなく、少し回旋を伴うことがある。常に同じ側とは限らず、数分から数日間続いた後、反対側に傾くこともある。生後1年以内に発症し、顔面蒼白、刺激に敏感になる(易刺激性)、倦怠感、嘔吐、運動失調(年長児の場合)などの症状のうち、少なくとも1つは現れる。希な病気。

起立性調節障害(OD)、不登校と頭痛
 片頭痛を持つ子どもの生活歴:小学生では友達が少ない傾向にあるが、行動面での問題はない。中学生では指導的立場にあり人気もある。
ODと頭痛
 慢性反復性頭痛の子どもの中でODの診断基準を50%が満たす。ODの子どもには一次性頭痛の片頭痛が多く、緊張性頭痛がそれに続く。また、ODをもつ不登校児では、緊張型頭痛が片頭痛より高率。
不登校と頭痛
 頭痛による不登校状態で受診する子どもは、片頭痛が共存していることもあるが、毎日続いている頭痛は慢性緊張型頭痛である。しかし緊張型頭痛の痛みは軽度~中等度にとどまるのがふつうで、登校できないほど強い頭痛にならないはず。この慢性連日性頭痛は、何らかのストレスや緊張のため、身体症状として頭痛が強く前面に現れている状態だと考えることができる。
 頭痛が解消しても、遅刻して学校へ行けない場合には、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。
※ 不登校と関連した慢性連日性頭痛の調査を行ったところ、慢性連日性頭痛がある不登校児は、その全てに精神疾患(適応障害、不安障害、転換性障害)が認められた。それに対し、不登校のない慢性連日性頭痛では、精神疾患が認められる子どもは20%にとどまった。
ODと不登校
 ODだけなら、生活指導や薬の効果によって、昼頃には体調がよくなり、遅刻して登校することができる。
 一方、遅刻して登校することがどうしてもできない子どもには、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。このような場合、何かがきっかけとなり、学校がこの子にとって、大きな不安要因になって、身体疾患である起立性調節障害の症状が強くなったと考えられる。

精神疾患に関連した頭痛(国際頭痛分類第2版より)
 一次性頭痛(片頭痛、反復性緊張型頭痛、特に慢性緊張性頭痛)は精神疾患をしばしば共存している。幼児期、小児期、青年期に診断される睡眠障害、分離不安障害、学校恐怖症(不登校)、適応障害やその他の障害(特に注意欠陥・多動性障害、行為障害、学習障害、遺尿症、遺糞症、チック)では、小児の頭痛の支障度と予後への影響が大きいので、注意深く見つけ出し、必要があれば治療sれなければならない。また、頭痛が神経疾患によるものかどうか確定するために、頭痛と同時に精神疾患が存在するかを最初に決定することが最も重要である。すなわち、最低限、全体的な不安、パニック障害、抑うつのような一般的に共存する精神症状について問診することは重要である。

発達段階から見た小児の主な頭痛

幼児から小学校低学年
1.片頭痛(軽度)
2.緊張型頭痛(稀発・頻発反復性)
3.てんかんに関連した頭痛

小学校高学年から高校生
1.片頭痛(軽度~中等度~重度)
2.緊張型頭痛(頻発反復性・慢性)
3.起立性調節障害の頭痛
4.心理・社会的要因関与の頭痛
※ 片頭痛を経験している子どもに、思春期になってストレスがかかるようになると、慢性緊張型頭痛が加わり、治りにくい慢性連日性頭痛になってしまうことがある。

あらゆる年齢(上記疾患に加えて)
1.炎症性疾患、高血圧を伴う疾患
2.耳鼻咽喉科、眼科、歯科疾患
3.脳腫瘍など脳神経外科疾患

片頭痛は遺伝するか?
 家族集積性がある:子どもが片頭痛の場合、男子/女子にかかわらず家族に頭痛持ちが居る割合は80%(母が片頭痛は60%)。
 ただし、片頭痛の遺伝子に関しては、家族制片麻痺性偏頭痛という特殊な片頭痛の遺伝子が見つかっているのみで、一般的な片頭痛に関しては現在の所特定の遺伝子は発見されていない。そのため、複数の遺伝子と環境因子が発症に関係している多因子遺伝病であると推測されている。
 しかし、「国際頭痛分類第2版」の診断基準には、頭痛の家族歴は含まれていない(以前使われていた小児片頭痛に関するいくつかの診断基準には含まれていた)。

痛みの評価法~幼児にも使える「視覚ペインスケール」
 幼児期までは症状を言葉で表現する能力が未熟。言葉による表現に頼らずに痛みを評価する方法として「視覚ペインスケール」が有用である。どの程度の痛みかを、スケールの表情から本人と保護者に選んでもらうと、本人の訴えている痛みと、保護者から見た客観的な痛みの程度の療法を評価することができる。



前兆の「閃輝暗点」とは?
 片頭痛の前兆として知られ、見ようとするところが暗くぼやけ、その周りがキラキラ光って見える現象。
 著者の外来では、子どもの片頭痛のうち女子の35%、男子の26%が「前兆のある片頭痛」だった。

特殊型「脳底型片頭痛」
 一過性に津日のような症状のうち少なくとも2つが現れる;
・構音障害:おしゃべりがしづらくなる
・回転性めまい:周りがグルグル回る
・耳鳴り/難聴:耳が聞こえにくくなる
・複視:物が二重に見える
・両眼の視覚障害:物が見えにくくなる
・運動失調:よろめいたり倒れやすくなったりする
・意識レベルの低下:意識がぼんやりする
・両側性の感覚障害:両手足がチクチクしたりムズムズしたりする
※ これらの症状はてんかんの発作でも見られるため、症状が現れている場合には脳波の検査を受けてんかんでないことを確認しておくことも必要である。

薬物乱用頭痛
 頭痛に対する急性期治療薬を、1ヶ月に10日あるいは15日以上使用することが、3ヶ月を越えて続いていて、この薬物乱用によって、頭痛が現れたか、あるいは頭痛がはっきりと悪化した場合をいう。

子どもの頭痛の慢性化リスク要因と対処法
慢性化のリスク要因
1.片頭痛の既往
 回数の少ない片頭痛に緊張型頭痛が加わり、慢性化していることが多い。
2.気持ちを言語化するのが苦手な、いわゆるよい子にストレスがかかると、頭痛が慢性化しやすい。
3.年齢的要因
 思春期(特に中学生が要注意)
4.共存症のある場合
1)起立性調節障害
2)精神疾患(適応障害、不安障害、身体表現性障害、抑うつ状態、発達障害)
対処法:慢性化の早期発見
 回数が少ない時期に、正しい片頭痛の診断と対処法を知り、回数が多くなったら早めに受診する。
 
小児一次性頭痛の簡易診断アルゴリズム
① 二次性頭痛の除外
② 日常生活の支障度→ 小さい→ 片頭痛(軽度)、反復性緊張型頭痛
  ↓
 大きい
  ↓
 ③1ヶ月何日頭痛があるか
  → 15日未満→ 片頭痛(中等度~重度)
    → ④前兆はあるか→ ある:前兆のある片頭痛
             → ない:前兆のない片頭痛
  → 15日以上→ 慢性連日性頭痛
    → ⑤心理・社会的要因は?→ ある:慢性緊張型頭痛
                 → ない:慢性片頭痛


頭痛の発生頻度
片頭痛
□ 3-19歳の調査:男児1.4-13.8(平均6.0)%、女児2.1-28.4(平均9.7)%、全体の有病率は7.7%
□ 中学生の調査(安藤直樹医師):男児3.3%、女児6.5%、全体では4.8%
 思春期前では男女ともに2.5%前後、思春期になると男児4%、女児6.4%。成人では女性が男性の3倍。
緊張型頭痛
□ 7-19歳の調査:男児0.9-19.1(平均10.1)%、女児1.7-23.2(平均14.5)%。

 一般病院(筆者の勤務病院)の小児科外来に頭痛を訴えて受診した2-15歳では、片頭痛57%、緊張型頭痛16%、片頭痛と緊張型頭痛の共存4%、2次性頭痛3%、分類できない頭痛20%。

小児片頭痛の治療の基本
1.正しい片頭痛の診断
2.非薬物療法
① 誘発因子(まぶしい光、チーズ、チョコレートなどの食品)があればそれを避ける
② 睡眠時間:年少児ほど十分な睡眠が必要
③ 規則正しい食事や水分摂取、適度な運動などの生活リズム
④ 過程、学校、習い事などにおける心理・社会的ストレスの把握
3.薬物療法
① 急性期治療
② 予防薬

片頭痛に使う薬
急性期治療
 鎮痛剤は頭痛が始まったら、あるいは頭痛の前兆が短い場合は前兆が起こったらすぐに服用する。できるだけ早く十分な量を服用するのが、薬を良く効かせる上手な使い方。
 子どもの頭痛の第一選択薬は解熱鎮痛剤のイブプロフェン(ブルフェン®、ユニプロン®)アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®、アンヒバ®、アルピニー®ほか)
 吐気を伴うときは、制吐剤のドンペリドン(ナウゼリン®)メトクロプラミド(プリンペラン®)を併用する。
 これらを使用しても十分な効果が得られない場合は、トリプタン製剤(※)の使用を考える。
 ただし緊張型頭痛には、片頭痛ほど薬が効きません。
※ トリプタン製剤は片頭痛の特効薬で、その一種である「スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)」は12歳以上で有効例多数。イミグラン点鼻液®は苦味があるので嫌がる子どももいる。上を向いて点鼻すると、喉に液が垂れて強い苦味を感じる。正面を向いたまま点鼻し、鼻孔を数分間押さえるようにすると、あまり苦味を感じない。キャンディを舐めながら点鼻することもオススメ。
※ イブプロフェンやトリプタンは現状では「適応外使用」になる。しかし、決められた量を使用している場合には、海外でも問題になる副作用は報告されていない。イブプロフェンやアセトアミノフェンが効かない場合や、頭痛に伴ってひどい嘔吐を繰り返す場合には、QOLの改善を期待して、トリプタン系薬剤の投与を考えるべきである。
予防薬
 繰り返す片頭痛により日常生活に支障をきたしている場合は予防薬の投与を考える。
 すぐに効果が現れるわけではなく、まったく頭痛が起きなくなるとも限らない。有効かどうかは8~12週間使用してみてはじめてわかる。
ロメリジン(ミグシス®、テラナス®):カルシウム拮抗薬。思春期の学童に有効例多い。
シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬。10歳以下によく使用される。けいれん誘発作用があるので、発熱時は中止するなど慎重に使用する必要がある。
アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。思春期以降でよく使われ、緊張型頭痛の予防薬としても効果があるため、片頭痛と緊張型頭痛が共存する患者さんにも効果が期待できる。
トピラマート(トピナ®)バルプロ酸(デパケン®、セレニカ®。バレリン®、ハイセレニン®):抗てんかん薬。子どもに使用する場合は定期的な肝機能検査が必要。

緊張性頭痛の治療

1.非薬物療法・生活指導
・疲労、食事を抜く、不規則な睡眠、ストレスなどが関連していることがよくある。習い事、塾、部活動などで生活が加重になっていないか、家庭や学校などの集団生活における人間関係に問題はないかなど、子どもの置かれた生活環境を見直す。
・心理・社会的要因や精神疾患が関与していることがある。
・早寝早起きを励行させて生活リズムを整え、栄養バランスのとれた食事を規則正しくすること、適度な運動を勧める。
・ゲームやテレビは時間を制限する。ゲームやテレビに長時間集中し、同じ姿勢を取り続けることによって、首筋のこりや肩のこり、あるいは眼精疲労が起こりやすくなる。そもそも、発達途上の子どもにとってゲームやテレビに集中するのは百害あって一利無しである。
※ 成人の場合は長時間のパソコン作業で緊張型頭痛が起きやすい。
・何をする場合でも、長時間同じ姿勢を続けないように心がける。

2.薬物療法
 片頭痛のように発作性ではなく、持続する頭痛のため鎮痛剤を使用するタイミングが難しい。
 使用される鎮痛剤は片頭痛と同じくイブプロフェンとアセトアミノフェンである。
 おとなでは予防薬として、抗うつ薬のアミトリプチリンや抗不安薬のエチゾラムが使われることがある。緊張を和らげて快眠をもたらす薬であるが、子どもに対する効果の研究は片頭痛ほど進んでいない。

慢性連日性頭痛

1.概要
 頭痛の最重症型。
 1日に4時間以上の頭痛が、1ヶ月間に15日以上あり、それが3ヶ月異常持続している場合に診断される。
 分類上は慢性片頭痛、慢性緊張型頭痛、持続性片側頭痛、新規発症持続性連日性頭痛という4つのタイプからなるが、おとなでも子どもでも多いのは慢性片頭痛と慢性緊張型頭痛である。
 思春期以降では精神疾患の共存と薬物乱用頭痛を考える必要がある。日本は子どもの薬物乱用頭痛は少なく、むしろ心理・社会的要因が関与する頭痛が多くを占める。
 片頭痛と緊張型頭痛の共存は12~14歳の中学生に多く見られ、心理・社会的要因のあるものはないものに比べ難治性になりやすい傾向がある。

2.治療
1.非薬物療法・生活指導
 基礎に片頭痛があったとしてもそれだけということはなく、何らかのストレスや緊張があり、そのために身体症状として頭痛が前面に出ている状態と考えられ、基本的に難治であるのでこの頭痛と気長に付き合っていく覚悟がまず必要である。

「頭痛ダイアリー」の活用
 小学生までなら、睡眠不足などの生活習慣が原因になっていることが多い。
 中学生であれば、心理社会学的要因が誘因になっていることがよくある。しかし、頭痛を訴えている子どもたちは、自分で原因に気づけるほど成熟していない。その「気づき」を促すのに有用なツールが「頭痛ダイアリー」である。
 頭痛ダイアリーは小学生までなら保護者が記入する。保護者は子どもから聞き出すのではなく、基本的に子どもを観察して記入する。中学生には自分で記入させる。
 生活の状況を責めたり、改めるように諭してはいけない。本人が自分の状態に気づき、何とかしようと思うまで待つことが大切である。

心に問題がある頭痛の対応の基本
 子どもと親を別々に面接する。
<子どもへ>
①頭痛はしばらく続くので、頭痛があってもできることから始めよう。
②今日からまず家族の一番身近な人(母親?)に思ったことをストレートに言おう。
③頭痛ダイアリーに頭痛の様子と日常生活、できれば気持ちも書こう。
<親へ>
①この頭痛は治りにくく、鎮痛薬は効かないので、気長に経過を見ていこう。
②心にあることを言語化できない子に強い頭痛が続くことが多いので、本人に気持ちを吐き出させる環境を整えよう。
③根掘り葉掘り聞くより、親は黙って見守る方が有効。反抗的になることは、自我の形成の証で回復の一歩と考える。

親子のカウンセリング
 必ず親子別々に行う。
 思春期にさしかかる小学校高学年から中学生の頃、子どもを取り巻く環境は厳しくなる。こうした中で、いわゆる「よい子」タイプで自分の気持ちを適切に表現できないためストレスをため込んでしまい、そのために強い頭痛が起きていることが多い。
 このような場合、カウンセリングを通じて、本人の心の葛藤を言語化できるようになると、その頃から頭痛は軽減し始め、そして1年くらい経つと、頭痛の訴えは聞かれなくなるか、発作性の片頭痛のみとなる。親からは、子どもは押したり引いたりするよいも、見守りながらそれぞれの成長を待つしかないと、悟った意見が聞かれるようになる。
 子どもの頭痛の専門医として、特に慢性緊張性頭痛に不登校などの心理・社会的要因を伴うような患者さんに接していると、「親子の心の成長にとことん付き合わずには、子どもたちの難治な頭痛は治せない」という境地にたどり着く。

2.薬物療法
 心理社会的要因が絡む頭痛には、鎮痛剤はあまり効果が期待できない。
 抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール®)は小児期や思春期の片頭痛と緊張性頭痛の予防薬として使用されている。
 抑うつ状態、強迫性障害、睡眠障害、社会不安が強い場合には、抗不安薬のエチゾラム(デパス®)アルプラゾラム(コンスタン®、ソラナックス®)、あるいは抗うつ薬のフルボキサミン(ルボックス®、デプロメール®)を症状に応じて使用し、一定の効果が得られている。
 ODが共存している場合には、低血圧治療薬のミドドリン(メトリジン®)、漢方薬の小建中湯補中益気湯などを使用する。

薬物治療がうまくいかないとき
生活環境を見直す:睡眠は十分に取れているか、食事は規則的に取っているか、過密なスケジュールになっていないかなど。
診断を見直す:緊張型頭痛には片頭痛のトリプタン製剤は効かない。片頭痛の薬を8週間以上使用しても効かない場合には、片頭痛が種ではなく、慢性緊張型頭痛が主となっている頭痛である可能性がある。
セカンドオピニオンを求める。
鎮痛薬の使い過ぎをチェック:1ヶ月間に鎮痛剤の使用が10日を越えている場合には、生活環境を見直すことや、予防薬を服用することを考える。予防薬を使用するときは、数ヶ月間服用して頭痛のない状態が続いていたら、服用量を半分にしてみる。それで頭痛が多くならなければ、減らした量を続ける。悪化した場合は元に戻す。治療の目安は、頭痛によって生活に支障があるかどうかで、生活に支障のない状態にコントロールすることを目指す。



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「腸のふしぎ」(上野川修一著)

2014年03月17日 07時15分55秒 | 小児医療
副題:からだの中の外界、最大の免疫器官にして第二のゲノム格納庫
講談社ブルーバックス、2013年発行

便秘つながりで、手元にあった「腸」関連啓蒙書を読んでみました。
著者の上野川(かみのがわ)先生は東京大学農学部出身の東京大学名誉教授という肩書きで、私の中では日本アレルギー学会で「腸管免疫」関連シンポジウムになるとかならず登場する専門家として記憶している人物です。

従来あまり注目されることのなかった「腸管」が生体の中で重要な役割を担っていることが近年次々と判明し、それをわかりやすく解説しています。
腸管の進化の系譜から説き起こし、消化吸収だけではない神経系や免疫系の腸管機能や、腸管に共生している「腸内細菌」と人体との共生関係まで幅広く言及しています。

草食動物と肉食動物の腸管の長さと機能の違いを扱った項目は興味深く拝読しました。
ヒトは本来肉食なのか、草食なのかという素朴な疑問にも「ヒトの腸は、形や働きから見て、本来は肉食であったものが進化の過程で草食も取り入れるようになった。」と明解に答えています。
草食の哺乳類の驚くべき消化システムも、以前読んだ「ヒトはおかしな肉食動物」(高橋迪雄著)より詳説されていました。

免疫システムの解説はよい復習になりましたし、「便秘」対策を科学的に捉える視点からも参考になりました。

「ブルーバックス」の伝統として、一般啓蒙書より少々教科書的に記述されている傾向あり、少しハードルが高いかもしれませんが、良書だと思います。


メモ
自分自身のための備忘録。

ヒトの消化管の大きさ・広さ
 ヒトの胃は、何も入っていないときの容積は50-100mlとかなり小さいが、満腹時には2-4Lと50倍以上にも拡張する。小腸は長さ5-6m(十二指腸が25cm、空腸が2-2.5m、回腸が3-3.5m)、大腸は約1.5mであるから、小腸と大腸を合わせた腸管全体で6.5-7.5mにも達する。そして、腸の表面積はテニスコート1面分(約260平方m)もある。

「消化管長/体長比」で食性(肉食/草食/雑食)がわかる。
 草食動物の肉食動物と比較して消化管長/体長比が大きい。これは消化しにくい植物の成分を消化・吸収するには長い腸で十分に時間をかける必要があることを示している。
 魚類は肉食が多く、例えばカマスの比は1。両生類では、肉食のカエルやイモリの比は2。は虫類では肉食の蛇やワニの比は1-2。雑食の鳥類はニワトリで1.8、草食のハトで7。
 哺乳類の腸の長さ(消化管長/体長比)は、マッコウクジラ300m(16-24)、ウシ51m(22-29)、ラクダ42m(12)、ヒツジ31m(27)、ウマ30m(12)、ブタ22m(15)、ライオン7m(3.9)、トラ5m(5)
 ヒトの消化管長/体長比は4.5であり、まさに肉食と草食の中間に位置している。ヒトの腸は、形や働きから見て、本来は肉食であったものが進化の過程で草食も取り入れるようになったと考えられる。ちなみに、肉を食べることの多い欧米人と穀物主体の日本人を比べると、後者の方が腸が長いという説がある(科学的論文はない)。

ヒトの食性は「超雑食」
 ヒトは他のいかなる動物よりもどん欲に、それが動物であれ植物であれ、食べられるものは何でも食べてきた。このどん欲さ故に食べるものに困ることなく、地球上の様々な環境に耐えて生き続けてきたのである。
 超雑食が可能になった理由;
①火の利用:火を使うことで、そのままでは硬くて消化しにくい様々な草食系食品(植物性食品)が食べられるようになった(つまり「料理」)。火を通すことは同時に、食の保存期間を大幅に伸ばすことに繋がり、食が絶える危険性が大幅に減少した。
②腸に有益な細菌を多数共生させている:有益な腸内細菌は、私たちがそのままでは消化・吸収できない繊維質を分解し、エネルギー源としてくれている。

消化管の進化
 動物の消化管は、その誕生の頃はきわめて単純な構造をしていた。やがて、自らの主のサバイバルのために周囲の環境、特に食を供給する自然に合わせ、得られる食を最大限に利用できるよう複雑化・高機能化してきた。

無脊椎動物:簡単な構造をした消化器を備えている。
5億年前:無顎類(原始的な脊椎動物)出現・・・消化管は1本の管(例:ヤツメウナギ※1)。
4.6億年前:魚類出現・・・あごと歯ができて(顎口類)食性が広がり、胃と小腸ができて大腸以外の消化管が揃った。
3.5億年前:両生類出現・・・大腸が出現(※2)。自分より小さくて捕まえやすい物は何でも捕食する肉食。
3億年前:は虫類出現・・・消化管はさらに多様化。食性は基本的に肉食。
2億年前:
・鳥類出現・・・空を飛ぶための軽量化策として歯を退化させ、胃にも工夫を施して独特の消化系を作り上げた。鳥類の食性は草食から肉食、雑食まで幅広い。
(例)ハトは植物食、スズメは成長期は植物食で成長後は雑食、カモは雑食、サギはカエル、ワシやタカなどの猛禽類は肉食。
・哺乳類出現・・・肉食・草食それぞれに応じて、胃や腸の形やスタイルが多様化した。草食動物は草を消化するために反芻胃(ウシ、ヒツジなど)、肥大した盲腸や結腸(ウマ、ウサギ、ネズミ)を有するが、肉食動物にはこれらは存在しない。

※1)ヤツメウナギは抗体を持たないが、魚類は抗体を有している。
※2)大腸が出現した理由:①陸上生活への移行によって水分不足に陥らないようにするため、通常はほとんどが小腸で吸収される水分をさらに徹底して吸収するための器官として必要になった。②排泄物を随時垂れ流してしまったのでは、特有の臭いでその存在を捕食者に知られてしまうため、排泄物の貯蔵庫として出現した。

動物性の食と植物性の食の違い
①タンパク質や脂質を補給するには動物生食が効率的であり、特にタンパク質については動物性のものは動物同士でにたアミノ酸からなっているので体が利用しやすい。
②糖質を補給するには植物生食が有利である。しかし、植物性の糖質には繊維質など難消化性のものが多く、そのままでは体に吸収されることはない。
③以上の主要成分以外にも、ビタミンやミネラルなど、いのちに必要な成分は動物生食と植物生食と出含まれる量や種類が異なっている。

 近年、動物生食と植物生食をどのように食べ分ければより健康に資するのかが話題になっている。だが、いまだ完全な解答は得られていない。「両者のバランスのとれた食事をする」ことが現時点での最良の答えである。

「腸神経系」という「第二の脳」
 消化管全体では、脊髄と同じ数、すなわち1億個の神経細胞(ニューロン)が存在する。多数のニューロンが互いに繋がって形成している神経ネットワークのうち、粘膜下層にある神経叢を「Meissner神経叢」、輪状筋と縦走筋の間にある神経叢を「Auerbach神経叢」と呼ぶ。これらの神経は「腸神経系」と呼ばれ、筋肉間を網の目のように走っている。腸神経系は、主として食物をゆっくりと適正な速度で消化管の下方に送るぜん動運動をコントロールしている。
 私たちの体は、食物に対して2系統の情報処理を行っている。
 一つは視覚・嗅覚・味覚を介した脳による情報処理、もう一つは腸によるものだ。腸は入ってきた食物、あるいはその分解成分の情報をもとに自らが行うべき働きを選択している。脳の力を借りることもなく、腸独自で行っている高度な仕組みである。脳から腸に来ている神経を切断しても、腸は独自にぜん動運動を行い、消化液を分泌するのである(セカンドブレイン)。

大腸の役割
 大腸は一部の水分とミネラルを吸収する役割の他に小腸とは大きく異なる役割がある。
 一つは、酸素がほとんどない大腸が、管内に1000種以上、100兆個にも及ぶ「腸内細菌」(重量は1.0-1.5kg)を住まわせて共生関係を築き上げていること、もう一つは、食成分の中で小腸が吸収しなかった不要物を糞便として体外に排泄する働きである。
 食物には消化・吸収されるものとそうでないものとがある。消化されない代表格として食物繊維や難消化性オリゴ糖がある。私たちの体は、繊維(セルロース、キチンなどの多くの多糖類)や、糖が2-10個程度集まったオリゴ糖の多くのものを分解する酵素を持っていないためである。
 しかし、大腸にいる腸内細菌はこれらを分解するものもいて、自分が生きていくためにのエサにする一方で、これらを分解してできる代謝生産の中で、例えば酪酸などは大腸のぜん動運動を刺激し、便秘を解消するという副次的な効果を私たちの体にもたらしてくれている。さらに大腸の免疫系を刺激して活発に働けるように応援してくれてもいる

「盲腸」の役割
 草食動物、たとえばウマでは小腸では消化できないセルロースなどの繊維質を分解するために腸内細菌を住まわせる場所になっている。ところが、同じ草食動物であるウシなどは、腸の前段階の胃に微生物を住まわせ、セルロースなどを分解・吸収させる役割を担わせている。一方、ヒトの場合は”痕跡器官”として不必要な組織と考えられがちだ。
 盲腸からぶら下がっている細長い器官が「虫垂」である。虫垂は大腸における免疫系の一部を担っている。リンパ小節も存在する虫垂は、免疫系のリンパ器官であるともいえる。過敏な免疫反応である炎症も起こりやすく、これが虫垂炎である。
 最近の動物の進化に関する研究では、虫垂は腸内細菌が増殖するための”隠れ家”的な役割を果たしているという説がある。

ヒトの体における水分出納と便
 ヒトは一日に2Lの水を飲む。体の中では、例えば唾液として1日に1.5L、胃の分泌物として2L、膵液や胆汁としてL、さらに腸の分泌物として1.5Lが消化管に分泌されている。
 このうち8.5Lが小腸に吸収され、大腸の結腸で0.4Lが吸収される。糞便として排泄される水分は0.1Lといわれている。
 小腸から吸収された水は、尿として体外に1日に1.5L排泄される。皮膚からも汗などとして発散される。
 水分のほとんどは小腸で回収されているが、大腸は小腸で回収しきれなかった大切な水を、少量ではあるが、少しでも多く回収することに貢献している。
 糞便の成分は食物や体調によって変化するが、平均して水分が60-70%を占め、それ以外に腸管上皮細胞が剥がれたもの、腸内細菌などの死骸や生菌、消化されなかった食物の残りカスなどが含まれている。

巨大な「腸管免疫」系
 私たちの体の中で、免疫に関係する細胞や抗体のうち、全身の50%以上が腸管免疫系中に集中している。これは、食物と共に病原菌やウイルスが入りやいためであり、消化と免疫は進化の過程上切っても切れない関係だった。腸管免疫系の守備範囲は広く、消化管内の防衛のみならず、粘膜組織までもカバーしている。すなわち、涙腺から鼻腔、唾液腺、咽頭、気管支、乳腺などに免疫細胞を送り出しているのである。

経口免疫寛容の仕組み
 食品中の抗原によって過剰な免疫反応を起こらないようにするしくみ。
 食品中のアレルゲン(抗原)が腸の免疫系に達し、これを危険と判断した場合には過剰な免疫反応(=アレルギー)につながる。そうならないよう、食品アレルゲンを他の抗原と分別して、アレルギーを抑制する仕組みが全身で働き始める。
 そのブレーキの掛かり方には、少なくとも2つの仕組みが知られている。
1.制御性(サプレッサー)T細胞
 アレルギーを起こす考現学力はいると、これに対して免疫反応を押さえる働きのあるT細胞が出現し、B細胞がアレルギーを起こすIgEをつくるのを止めてしまう方法。
2.アナジー
 抗原提示細胞が何らかの方法で特殊なシグナルをT細胞に送り、細胞内を伝達するT細胞活性化のネットワークを遮断させてしまう方法。アナジー状態ではT細胞内のシグナル伝達経路にブレーキがかかっている。

腸内細菌の生態
 腸内細菌は平均して4-5日間、私たちの体内に滞在した後、体外に排出される。一方で、排出されたものに代わるように、分裂・増殖して増えていく。
 腸内細菌の種類は1000種類以上、数は100兆個、重量にして1.0-1.5kgと考えられている。1000種の細菌が均等に共存しているわけではなく、大腸内ではビフィドバクテリウムやバクテロイデスが主要勢力を形成している。これらの菌を含めて、上位30-40種の細菌で90%以上の数を占めている。
 消化管各部位での分布は、
胃:100-1000/g、ラクトバチルスなど(その他ヘリコバクターなど)
小腸上部:10×^4、ラクトバチルスなど
小腸下部:10×^5~7/g、ラクトバチルス、バクテロイデスなど
大腸:10×^10/g以上、バクテロイデス、ビフィドバクテリウム、ユーバクテリア、クロストリジウムなど、
   10×^5~7/g、エンテロコッカス、ラクトバチルス、ペプトコッカスなど

腸内細菌における善玉菌と悪玉菌
善玉菌=有益菌:ビフィドバクテリウムとラクトバチルス
悪玉菌=有害菌:クロストリジウムや腸球菌、連鎖球菌、有害な大腸菌
日和見菌:バクテロイデスや無害な大腸菌
 有害菌といっても、情事体に悪い作用をしているわけではない。腸環境が正常であれば、有益菌が有害菌の増殖を抑えており、腸環境が悪化して有益菌が減少し有害菌が異常増加した場合に病気の原因となる。

■ 代表的な腸内細菌
バクテロイデス:グラム陰性桿菌。多糖や単糖を栄養源としている。ヒトの大腸に10×^10~^11/g生息しており、最大のグループを構成している。日和見菌であり、大腸癌の原因になり得るという報告、新生児の免疫系を刺激し、発達を促す役割を果たすという動物実験の報告がある。
ビフィドバクテリウム:グラム陽性菌。いわゆる「ビフィズス菌」。糖を取り入れて分解し、乳酸と酪酸を生産する。特に母乳中にあるオリゴ糖を増殖に必要とする。種としては約30種類存在する。生まれてすぐの新生児の大腸にすでに数多く生息している。ラクトバチルスと共に有益菌(善玉菌)の代表格である。
※ 「乳酸菌」とは?
 乳酸菌とは、炭水化物を栄養源として菌体内に取り入れて、乳酸を生産する細菌のことをいう。しかし、この定義は細菌学や微生物学的な分類上のグループではなく、どちらかというと実用的な呼び名である。

ラクトバチルス:グラム陽性菌。有益菌(善玉菌)であり乳酸(のみ)を産生する。ヨーグルトなどの醗酵乳製品の製造に利用されている。
大腸菌:グラム陰性桿菌。大腸の中に生息しているが、広く一般的な環境中に認められる細菌でもある。大腸における生息数は、嫌気性が低いためか、実はそれほど多くない。O-157など病原性の高いものもいるが、これらは大腸に常在しているわけではない。
クロストリジウム:グラム陽性桿菌。クロストリジウムのうち、ウェルシュ菌(クロストリジウム・パーフリンゲンス)が大腸の常在菌として主要なものである。一般に大腸内の有害菌といわれているが、通常では有害な作用はしない。
腸球菌:特定の細菌名ではなく複数の菌の総称であり、エンテロコッカス属の細菌群を指している。グラム陽性菌。大腸内の有害菌とされているが、通常の腸内環境下では有害作用を示さない。
連鎖球菌:グラム陽性球菌。大腸内の有害菌とされているが、通常の腸内環境下では有害作用は示さない。

腸内細菌は原核生物
 生物は真核生物と原核生物に分けられる。
 神格kせいぶつは細胞内に核やゴルジ体、ミトコンドリアなどの細胞小器官をもつ真核細胞からなる。一方の原核生物は、細胞小器官は持たないが、DNAをはじめとする「増殖」に必要な要素を細胞内に分散させている原核細胞からなる。
 腸内細菌を含めた細菌達はみな、原核生物である。その大きさは、球状の細菌の場合で直径1μmほど。真核細胞はこれよりずっと大きく、細菌の10-100倍あるものが多い。

グラム染色による細菌の分類
 デンマークのクリスチャン・グラムによって創案された方法。紫色によく染まる菌を「グラム陽性菌」、染まらずに無色のままの菌と、サフラン色素で染めると赤色に染まる菌を「グラム陰性菌」と呼ぶ。
 グラム陽性菌とグラム陰性菌の違いは、細胞質を包む膜や壁の構造にある。グラム陽性菌ではペプチドグリカンという糖とアミノ酸が交互に結合した層が外部を覆っている。一方のグラム陰性菌では、ペプチドグリカンとアミノ酸でできた層は薄く、外側が莢膜に覆われている。
 ちなみに、莢膜を持つ細菌は一般に病原性のものが多い。

腸内細菌と腸管免疫系のクロストークとトル様受容体
 腸管免疫系は侵入者である病原菌は排除するが、共生している腸内細菌を攻撃することはない。
 私たちの免疫系は本来、ともに非自己である病原菌と腸内細菌のいずれとも反応する。ところが、前者と後者とでは反応の強さや方向が違うのだ。
 前者では病原菌独特の成分(細菌表面にある分子や病原菌が放出する毒素)を免疫系が認識し、これを除去するために激しく反応する。後者では、免疫系は反応しているのだが、その反応が弱いか、あるいは逆に抑制する方向で働いている。腸内細菌は病原菌のように強く免疫反応を起こす成分を持っておらず、反対に免疫系を押さえるような独特の仕組みを持っているのである。
 相手の持ってる成分を見極めて、免疫系を調節しているものの正体は腸管免疫細胞の表面にある「トル様受容体(Toll-like-receptor, TLR)」である。腸内細菌達の成分の特定のものがトル様受容体と結合することによって免疫細胞を刺激する。その情報をもとに、免疫反応をどのような方向に働かせれば体を上手く守ることができるかを判断するのである。
 ヒトにおけるトル様受容体は10種類ほどが知られている(TLR1、TLR2,・・・)。それぞれのTLRが結合する物質(リガンド)は異なっている。
 代表的なものとして、TLR2は、主としてビフィドバクテリウムやラクトバチルスの成分であるリポタイコ酸やリポペプチドを認識する。TLR4はバクテロイデスの成分であるリポポリサッカロイドと結合する。
 ヒトのTLRは、単球・マクロファージ、樹状細胞、B細胞、マスト細胞、腸管上皮細胞など、それぞれの働きに応じて特定のTLRが分布している。これら各TLRが結合する物質は、細菌やウイルス、菌類など、微生物の構成成分がほとんどである。TLRは抗体やT細胞抗原受容体とは異なり、単一の分子だけではなく、結合できる物質の種類が広い。結合相手を”パターン”として認識しているのだ。TLRはこのパターン認識構造を使って、その特徴を記憶している悪玉菌を排除するために免疫力を発動し、逆に有益菌に対しては免疫力を抑え込むのである。
※ Tollの名前の由来:当初、1985年にショウジョウバエの発生における背中や腹の向きを決める遺伝子として発見された。この遺伝子を発見したドイツ人研究者は「Das ist ja toll」(実に不可思議だ)と考えて「Toll遺伝子」と命名した。

腸内細菌の好物
 私たちの好物や体に良いものと、腸内細菌、特に有益菌の好物は異なる。各種腸内細菌には糖(単糖、オリゴ糖、多糖)の嗜好性に差が認められ、糖の消化能力も異なる。
 ヒトの場合は単糖はそのまま吸収されるが、二糖以上は原則として、膵臓から分泌される糖加水分解酵素によって単糖に分解されてから小腸で吸収されている。分解されないものは、そのまま大腸に移動する。しかしその中には腸内細菌によって分解できるものもある。
 例えば、ビフィドバクテリウムなどは「難消化性オリゴ糖」と呼ばれるヒトの消化酵素では消化吸収されにくい糖(ラフィノースや大豆オリゴ糖など)を好んでいる。類似構造のものはハチミツやゴボウなどにも含まれている。
 このようなビフィドバクテリウムなどの好物が、バクテロイデスやクロストリジウムにとっては苦手なのである。つまり、ビフィドバクテリウムなどを増やすためには難消化性オリゴ糖を与えればよいことになる。

ストレスと腸内細菌叢
 マウスを用いた実験では、絶食させたり過密状態で飼育したりするなど、強いストレスがかかる状態にマウスを置くと、腸内フローラに変化が生じる。多くの場合、有益菌であるビフィドバクテリウムやラクトバチルスが減少し、日和見菌のバクテロイデスや有害菌である大腸菌が増加する。
 ヒトについては、宇宙飛行士における検討では、日和見菌や有害菌が増え、善玉菌が減少することが報告されている。

腸内細菌と感染防御
 無菌マウスと通常マウスに病原菌を感染させた実験では、通常マウスではほとんど死亡例がなかったのに対し、無菌マウスはすべて死んでしまった。通常マウスでは腸内細菌や免疫グロブリンAが機能することによって、病原菌が腸管バリアを越えるのを阻止しているのである。

腸内細菌とアレルギーの関係
 母親の子宮の中で無菌状態で育っている胎児は、アレルギーの起きやすい免疫状態(Th2細胞優位)にある。子宮の外に出て腸内細菌が定着する過程で、まるでTh2細胞を押さえるかのように、アレルギー抑制型のTh1細胞が出現する。Th2とTh1のバランスがとれた菌叢に変化すると同時に、アレルギーが起こりにくい状態になる。このような作用を持つ腸内細菌は、ビフィドバクテリウムやラクトバチルスである。
 ヒトの新生児では、生後1ヶ月程度でビフィドバクテリウムが増え、優先菌となる。このビフィドバクテリウムがアレルギーを抑えると考えられている。
 アレルギーに罹っている乳幼児のビフィドバクテリウムの数は、正常な子より少ない。
※ スウェーデンのカロリンスカ研究所のビヨルグステン教授の意見;
 「腸内細菌としてビフィドバクテリウムやラクトバチルスが存在する理由は、免疫系のバランスを整えてアレルギーを抑えることにあるのではないか。私たちの体はそのことを熟知していて、これらの細菌に共生を許しているのではないか。」

プロバイオティクス
 「腸内フローラのバランスの改善を通じて宿主に有益に働く菌体」「適度に摂取したとき、宿主に健康上有益に作用する生菌」などと定義され、腸内細菌由来の乳酸菌や、それ以外の乳酸、場合によっては細菌なども含まれる。
 古くはノーベル賞を受賞した微生物学者であるメチニコフが提唱した「ヨーグルト不老長寿説」(ヨーグルト中の乳酸菌が、有害菌が作る腸内腐敗物の生産を抑制することで長寿になるという説)に始まり、最近の研究では整腸作用や抗感染作用、炎症性腸疾患の抑制作用、免疫調節作用、抗アレルギー作用、抗癌作用、コレステロール低下作用などが科学的に証明されている。
 具体的には、ヨーグルトとして摂取したり、菌のカプセルや錠剤として利用される。

プレバイオティクス
 定義は「大腸内で有益菌の増殖を促進し、有害菌の増殖を抑制することにより、宿主に有益な効果を示す難消化性の食品成分」。
 主に「難消化性の糖質」のことを指し、腸内の有益菌がこれを取り入れることで、自らも増殖し、その生産物もまた生体に以下のような有益な効果をもたらす。
①ビフィドバクテリウムやラクトバチルスなど、有益菌の菌数のみが増加し、クロストリジウムなどの有害菌数の増加を抑制して、大腸の健康促進や感染防御、粘膜免疫を増強する。
②カルシウムやマグネシウムのようなミネラルの吸収を促進する。
 代表的な物として、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクチュロース、大豆オリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラフィノースのオリゴ糖ヤイヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グアガムなど。

便秘とプロバイオティクス/プレバイオティクス
 整腸作用が期待できる。
 プロバイオティクスの摂取により、便秘に悩むヒトの排便回数が増加する。腹部の張りや腹痛などの症状の改善も認められている。投与した乳酸菌による乳酸の酸性と共に、腸内フローラの改善が腸内環境の改善につながり、有益菌が乳酸を代謝することにより産生される酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸によるぜん動運動が活性化したためである。
 有益菌の増加意義の一つとして、大腸菌やクロストリジウムなどの有害菌の増殖抑制がある。有害菌の増加は、アンモニア、アミン、インドール、フェノール、硫化水素、トリプトファン代謝物などの腐敗物を増加させ、がんなどのリスクを高めるなど悪影響を及ぼす。プロバイオティクスによって腸内環境を整えることで、そのような状況を未然に防ぐことが可能となる。
 プレバイオティクスを便秘の人に投与すると、排便回数が増加することが明らかにされている。

下痢とプロバイオティクス/プレバイオティクス
 下痢の改善にも役立つ。
 発展途上国における小児の死因の上位を占める感染性下痢の発症率は、乳幼児にビフィドバクテリウム含有ミルクを与えることで減少する。原因となるロタウイルスに対抗するため、免疫グロブリンA産生が活性化することが明らかにされた。ロタウイルスによる乳幼児の感染性下痢の抑制効果は、ある種のラクトバチルスなど、いくつかのプロバイオティクスでも報告されている。
 抗生物質投与により下痢が誘発されることがあるが、これは抗生物質によって腸内フローラが乱れ、病原菌が異常に増殖することが原因である。プロバイオティクスの投与は、抗生物質による下痢の頻度を下げたり症状が起きている時間を短くしたり、腹痛などの症状を和らげてくれたりすることが知られている。
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小児科医、横井茂夫先生の便秘診療

2014年03月13日 06時14分54秒 | 小児医療
 引き続き、子どもの便秘シリーズ。

 横井茂夫先生(横井こどもクリニック院長)が「日経メディカル」という医学系情報誌に連載している「泣かせない小児診療ABC」の中でこどもの便秘を扱っているのを読んだところ、経験に基づいた説得力ある内容に目から鱗が落ちました。

 乳児期の便秘に対する綿棒浣腸の詳細な解説は診療の役に立ちます。
 これだけ具体的に説明されれば、保護者の方も不安・躊躇なく自宅でできそう。

 食事指導の内容も大変参考になりました。
 どの啓蒙書を読んでも「食物繊維を摂ろう」とは書かれていますが、子どもには馴染みのない、あるいは好まない食品が羅列されているだけで、どれをどれくらい食べればよいのか迷ってしまいがち。
 横井先生は「食べられるものを具体的に示して勧める」ことの大切さを説いており、さらに「食べてはいけない物(子どもの便秘を助長する食品)」の具体例を挙げている点が明解でわかりやすい。

 それから、牛乳の功罪。
 アレルギー専門医の間では「牛乳アレルギーが便秘の原因になる」ことが知られ、治療抵抗性の便秘には牛乳制限を試みる価値があるとされています。
 しかし横井先生は「健康な子どもに牛乳をたくさん与えると便が硬くなりやすい」と注意を喚起しています。
 ・・・初耳です。
 確かに、母乳栄養児より人工栄養児の方が便が硬い傾向はありますが・・・どうなのでしょう。
 

メモ

乳児排便困難症には綿棒浣腸
 母乳栄養児に多い症状で、便が数日間出なくて、時にうんうん唸っている、でも出るウンチは硬いわけではなく、お腹が張ったり嘔吐することもなく、食欲・体重増加良好、という状態です。病気なのかどうか、線引きが難しい。
 教科書には「自然治癒する」と書かれており、確かにほとんどの母乳性便秘は離乳食を開始すると改善・治癒しますが、横井先生は「綿棒浣腸」を勧めています。3日間排便がなければ、肛門を綿棒で刺激して排便を促すというもの。
 準備するのは綿棒(細めの綿棒よりも太めの綿棒の方が痛みが少ないためお勧め)、ワセリン(痛みを減らし、綿棒がなめらかに動くよう、潤滑油的に使用。ベビーオイルよりも綿球に吸収されないワセリンがお勧め)です。予め綿棒の先端から1cm、2cmの部位にマジックで印をつけておくと操作しやすいです。
 綿棒の先にワセリンをつけ、それを右手に持ちながら、左手で子どもの両脚を持ち上げます。続いてゆっくりと肛門から綿棒を2cm挿入し、一度引き抜いて綿棒の先に便が付着している(大便が直腸下端に来ている)のを確認します。
 もう一度綿棒をゆっくり2cm肛門へ挿入し、大きく「の」の字を描くよう動かします。4~5回、丸く肛門を広げるように描くと便が出てきます。
 このとき、左手で持った両下肢を腹部にやや強めに押しつけると和式トイレに座るポーズとなり、腹圧がかかって便が出やすくなります。

子どもの便秘に有効な生活指導は?
1)牛乳摂取を多くする
2)水分摂取を多くする
3)朝食後にトイレに座らせる
4)食物繊維の摂取を多くする
5)野菜ジュース摂取を多くする
→ 正解は3と4です。

<解説>
1)日本人は年をとると共に乳糖分解酵素の活性が低下するため、高齢なほど牛乳摂取により便が軟化します。しかし子どもでは、牛乳多飲により逆に便が硬化しやすくなります。
2)脱水のない健康状態では水分摂取による効果はありません。
3)朝食後は、食事を摂った刺激で「胃結腸反射」が起きるので原意を催しやすくなります。それを利用して5~10分間トイレに座らせて排便を促すのは正しい対応です。排便できたときは褒めて、排便できなくても叱らないのがポイントです。
5)便秘症の子どもには野菜嫌いが多く、野菜の代わりに野菜ジュースを飲ませている母親もいますが、野菜ジュースには食物繊維はほとんど含まれていません。

子どもの便秘に有効な食生活指導~食物繊維を効果的に増やそう
 便秘がちの子どもの食事内容を調べると、大抵次のような特徴が見られます;
・大好きなものは牛乳や甘いヨーグルト、アイス。
・食物繊維の多い野菜は嫌いで、野菜を食べないのを母親が心配して果汁100%の野菜ジュースを飲ませている。
 一般書には食物繊維の多い海藻や野菜、冷たい牛乳が推奨されていますが、便秘や遺糞症の症例には野菜嫌いの偏食で牛乳を多飲している子どもが多いのが特徴です。
 つまり、「野菜嫌いなので野菜ジュースを、便が出ないので牛乳を」が間違った食生活なのです。本人の食事内容を聞き取り、好きなものを食物繊維の多いものに交換するよう薦めましょう。
 具体的には、生野菜のサラダではなくサツマイモ、カボチャ、ニンジン、納豆、枝豆、ソラマメ、トウモロコシ、海苔などが便秘によい食材です。おやつには小豆やあんこ、焼き芋、寒天、リンゴ、バナナを薦めます。
 ウンチが硬くなる原因となる牛乳は止めて、無糖のヨーグルトにキウイ、バナナ、コーンフレーク、干しぶどうを入れます。ジュース、アイス、甘いヨーグルトは極力控えて果物そのものを食べさせるよう指導します。麺類好きには日本そば(そば粉)やスパゲッティ(セモリナ粉)もお薦めです。
 食物繊維の代表としてはキノコ類、海藻、干し大根が薦められがちですが、せっかく保護者が料理をしても子どもが食べなければ効果はありません。手軽に手に入り、子どもが食べやすいものをセレクトして薦めるのがコツです。

不適切な食事・食品例
 米飯、うどん/ラーメン、牛乳、市販の野菜ジュース、ゼリー、ケーキ、ポテトチップス
お薦めの食事・食品例
 麦混じりの米飯、日本そば/スパゲッティ、プレーンヨーグルト、手作りジュース、寒天、あんこ、焼き芋

繊維の多い食べ物; 
 納豆、焼き海苔、ミックスベジタブル、サツマイモ、サトイモ、カボチャ、ニンジン、リンゴ、バナナ、枝豆、トウモロコシ、大豆、小豆
食べてはいけない物
 プリン、生野菜、アイスクリーム、牛乳、市販のジュース

横井先生お薦めのレシピ
「納豆、リンゴ、焼き芋、寒天の4種から3つを2週間食べさせてください。例えば、朝食はご飯に納豆と海苔、おやつはリンゴ、焼き芋、寒天という感じです。10日目からウンチが変わってきますよ。寒天には子どもの好きなジュースを入れると喜んで食べます。毎日必ず4つの食べ物から3つを選んでくださいね。牛乳は給食のみにしてください。」
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「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」を読んでみました。

2014年03月12日 07時05分05秒 | 小児医療
編集:日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児消化管機能研究会
診断と治療社、2013年発行

子どもの便秘に関する一般向け啓蒙書をいくつか読んでみましたが、それぞれに著者のクセがあり、比較すると主張が異なるところも散見され、まとめようとしてもなかなか・・・。
すると、脳が科学的根拠を欲するようになります(笑)。

そこで2013年9月に関連学会から発表された「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」を読んでみました(書籍でも販売されています)。74ページに及ぶ労作です。
一般患者さん用パンフレット(「簡易版」「詳細版」)も用意されていますので、興味のある方はどうぞ。

ガイドライン作成委員長の友政先生は恩師の一人です。私が小児科医に成り立てホヤホヤの四半世紀前に学会発表や論文作成の”いろは”を教えていただきました。非常に聡明な先生で、彼と話していると自分まで頭が良くなるような錯覚を覚えたことを記憶しています(笑)。

内容は明解かつ学術的で、世界中の科学的論文を元に構成されています。各記述がどれだけ信頼に足るものなのか、数字でレベル表示されているのです。ですから、一人の専門家の意見が”鶴の一声”のごとく採用されることはなく客観性が担保され、現時点の医学の到達点を表していることになります。

子どもの便秘は日常的に相談を受ける病態ですが、重症疾患との認識が乏しいせいか、これまで詳述してある本はなかなかありませんでした。
このガイドラインを読み、現在わかっていること、わかっていないことが整理され、思い込みで指導してきた内容があったことにも気づかされ、大変勉強になりました。

ついつい「薬に頼らずに食生活の改善で何とかならないものか」と考えがちですが、重症患者をたくさん診療してきた専門家は「早期治療が治癒につながる」と言い切っています。便秘の悪循環で腸の排便機能が麻痺してしまうと、食生活を変えるレベルではどうにもこうにもならず本人がつらいだけです。
そして、慢性の便秘に対しては「6~24ヶ月の治療が必要」としています。
確かに、一旦便が出て楽になると通院が途切れがちですが、しばらくするとまたひどい便秘で再度受診する例をよく経験します。
直腸にたまっている便を出したあとは、腸のぜん動機能・排便機能が正常にもどるまでその状態を維持する必要があるということですね。

また、メディアで盛り上がっている乳酸菌・ビフィズス菌などの「プロバイオティクス」は科学的根拠が今ひとつ乏しく「症例によっては有効」レベルにとどまることを知りました。
どちらかというと食品会社による販売促進目的の誇大広告の要素が大きいようです。

食物線維に関しても「小児の便秘症と食物線維の摂取量の関係はいまだ明確でなく、エビデンスが不足しているため推奨できる段階ではない」との見解です。
フ~ン、そうなんだ(意外)。

また、項目を作って漢方薬を取りあげている点が斬新です。
私は頻用していますが、徐々に市民権を得つつあるようですね。

不満があるとすれば、「じゃあ、何を食べたらいいの?」への具体的な対応。
食物線維を多く含む食品が表にずらっと並べられていますが、日常生活の中ではいちいち「これを何g、それを何g」と計って食べるわけにはいきません。
さらに「このような食品は便秘によくありませんよ」という項目があるとなおわかりやすいのでは、と感じました。


メモ
自分自身のための備忘録。

■ 便秘のなおるのか?
成人期への移行例が少なくない。
一旦治療が成功しても、高率に再発する。4歳以下で便秘と診断された患児の40%以上が治療にもかかわらず学童期になっても便秘症状が残る。5歳以上の小児期に来院した便秘患児の25%が成人便秘へ移行する。
早期診断、早期治療により予後を改善できる。
 予後不良因子として、年齢が高いこと、発症から初診までの期間が長いこと、初診時の排便が少ないことが挙げられる。

便秘症をきたす基礎疾患を示唆する徴候(red flags)
・胎便排泄遅延(生後24時間以降)の既往
・成長障害・体重減少
・繰り返す嘔吐
・血便
・下痢(paradoxical diarrhea)
・腹部膨満/腹部腫瘤
・肛門の形態・位置異常
・直腸肛門指診の異常
・脊髄疾患を示唆する神経所見と仙骨部皮膚所見

最初から薬物治療を併用する、または治療経験の豊富な医師への紹介を考慮すべき徴候(yellow flags)
・排便自立語であるのに便失禁や漏便を伴う
・便意があるときに足を交差させるなどガマン姿勢をとる
・排便時に肛門を痛がる
・軟便でも排便回数が少ない(排便回数が週に2回以下)
・排便時に出血する
・直腸脱などの肛門部所見を併発している
・画像検査では結腸・直腸の拡張を認める
・病悩期間または経過が長い
・他院での通常の便秘治療で速やかに改善しなかった

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「ウンココロ」(寄藤文平/藤田紘一郎著)

2014年03月06日 07時23分21秒 | 小児医療
副題:しあわせウンコ生活のススメ
実業之日本社、2005年発行

★ 帯のキャッチコピー
通になるなら、便通がいい。
ウンコを知ることは、自分の体を知ることです。絵でわかる「ウンコの本」。
ウンコで、きれいになる。
あなたがウンコを理解すれば、ウンコはあなたのためにがんばってくれる!


便秘関連本の3冊目。

これは異色で、ウンコ大好きな著者が作ったある意味「おとなの絵本」。
現代人が嫌うウンコを、愛をもって描ききっています。
なかなかの観察眼です。
本全体が黄色く染まっており、各ページにはウンコの絵があふれているのです。
かといってスカトロ趣味というわけではなく、回虫を自分のお腹で飼っていることで有名な医師の藤田先生の協力を得て、肩の凝らない啓蒙書になっています。

統計的な数字がちりばめられていて、説得力があります。
「究極のウンコ」を各人が語るところが面白い!
体を「ウンコ製造工場」に例えて、いろいろなウンコができる過程をどこが問題なのか?という視点でイラスト化しているのは斬新。
また、食事内容と腸内細菌の善玉菌・悪玉菌・日和見菌バランスが詳述されており、フムフムと興味深く拝見しました。
前2冊では食物線維を水溶性と不溶性に分けて論じていましたが、この本では一括りに扱っていました。発行が2005年と古いせいかな?

ただ、イラストの文字が小さく、老眼が入っている私の目には読みにくいことが残念でした。


メモ
自分自身のための備忘録。

ウンコの量
 日本人が1日に出すウンコは平均200g。
 しかし便秘に悩む日本人のOLのウンコは80gしかありません。
 太古のアメリカ先住民族のウンコは1回分で800g。麦わらや羽毛、種子入り。
 太平洋戦争中の日本人兵のウンコは400g、アメリカ兵のウンコは100g。
 世界の1日の総ウンコ量は124万2200トン(=東京ドーム1個分)。

日本人の食物線維摂取量の変遷
 戦争直後は1日27g、今では12gと著減。理由は欧米化した食生活。

究極のウンコとは?
「バナナ型で、切れがよく、ドボンと沈み、黄褐色、量は100-200g」(下山孝先生、元兵庫医科大学教授)
「ウンコは水に浮かぶのがよい。食物線維が多ければガスが発生するから浮かぶ。そして数分後に泡を残して沈む。これが究極のウンコだ。」(辻啓介教授、姫路工業大学)
「ウンコしたーいって思って便所に入って、他のことを考える前にスルッと出て、見たら大きいのが出ていた。その時のウンコかな。」(五味太郎、絵本作家)
「ウンコの量はバナナ3本分、便切れがさわやかで、練り歯磨きや味噌の固さ、黄褐色でにおいはかすか、ゆっくり水に沈む」(著者)
・・・バナナ1本は約100gだから、理想のウンコは約300g。肉食中心にしているとバナナ1本分くらいになるから、当面のスタミナは出るが、やがて体調がおかしくなる。ウンコの水分は75%が理想で、90%以上になると下痢便となる。

腸内細菌いろいろ
 ウンコの半分くらいは細菌でできている。
 ウンコ1g当たりに1兆個、500-1000種類の細菌がいる。
 腸の中には500種類100兆個以上の菌が棲んでおり、腸内細菌の全重量は1.5kg
 おおきく「善玉菌」と「悪玉菌」に分けることができ、善玉菌が増えると腸の調子は良くなり、悪玉菌が増えると腸の調子が悪くなる。
 しかし悪玉菌は全く不必要な菌ではない。外敵菌から腸を守るという大切な役割を担う。善玉菌と悪玉菌のバランスが大切。
善玉菌
乳酸菌:腸の働きを活発にして消化吸収を助け、免疫力を高める働きがある。
ビフィズス菌:大腸の調整役。ビタミンを作ったり有害物質を押さえる働きがある。
悪玉菌
ウェルシュ菌:大腸の中のものを腐らせる。
大腸菌:増えすぎると腸の働きが悪くなる。一方で、強い外敵菌をやっつけてくれる用心棒でもある。
日和見菌:善玉菌とも悪玉菌ともいえない菌。健康なときは何も悪さをしないが、悪玉菌が力を伸ばすと悪い働きを倍増させる。

腸内細菌バランスとウンコ
・BAD(悪玉菌が多い)・・・肉ばっかり食べているヒトの状態。悪玉菌が勢力を伸ばし、乳酸菌やビフィズス菌が少なくなる。ウェルシュ菌が増えてとてもくさいウンコになる。悪玉菌の作る有害物質は、老化を早めたり、生活習慣病の元になったりする。イライラして肌や髪も荒れる。
・GOOD(善玉菌が多い)・・・ウンコは軟らかくてふかふかになる。免疫力が高まって病気にも罹りにくくなる。気分もよく、肌もつやつやになる。
 「善玉菌いっぱい・日和見菌はほどほど・悪玉菌少々」というのがいちばん理想的なバランス。

食生活モデルと腸内細菌バランス
  菌の%(乳酸菌:ビフィズス菌:大腸菌:ウェルシュ菌)
□ 超健康モデル(30:40:20:10)
□ 魚ばっかり(20:10:30:30) → 悪玉菌が増えようとしても善玉菌の抵抗にあいそんなに増えない。
□ (赤身)肉ばっかり(10:10:30:50) → 悪玉菌が増えまくってくさくなり、免疫力も低下。性格は横暴、短期、怒りっぽい。
□ 野菜ばっかり(30:35:20:10) → 善玉菌が増えて免疫力も高まるが、体力は不足気味。
□ コメばっかり(20:25:20:15) → 善玉菌がやや優位。持久力はあまりなく、ビタミン不足。
□ パンばっかり(20:20:30:20) → コメばっかりより善玉菌が少なくなります。あまり噛まないので顎の発達が悪くなり皮膚が弱く持久力なし。
□ お菓子ばっかり(5:0.01:25:20) → 悪玉菌天国。性格は切れやすくなる。
□ コンビニ食/ファストフード/インスタント食品ばっかり(5:0.01:15:10)→ 善玉菌はほぼ全滅
□ ダイエットで食べない(5:0.01:25:20) → 菌が住めない状態で悪玉菌だけ。
□ ストレスまみれ(5:1:20:20) → 全体的に菌量が減り、悪玉菌優位。
□ お酒ばっかり(10:5:20:20) → 菌量は全体的に少なめで悪玉菌優位。
□ ヨーグルトばっかり(40:25:10:5) → 善玉菌絶対優位。栄養分が不足しているので体力なし。

悪玉菌にもよいところがあるのさ・・・。
 例えば大腸菌はビタミンを合成したり、ほかの有害菌が大腸に定着するのを妨害したりして、僕たちが病気にならないようにしている。つまり、悪玉菌も決して「いらないもの」というのではなく、善玉菌とのバランスが大切ということ。

現代女性の48%は便秘に苦しんでいる。
 若い女性のウンコを調べると善玉菌であるビフィズス菌が少なく、悪玉菌の数が多いことに驚かされる。ウンコの水分量は60%と低く、かちんかちんである。
 その理湯として、食事時間が不規則なこと、決められた排便タイムがないこと、お菓子やパンなど残渣物のでないものを食べていること、ダイエットによる極端な食事制限、等があげられている。

日本人のウンコを改善するための提言
 食生活の改善が欠かせない。なるべく悪玉菌を増やすような動物性脂肪や動物性タンパク質の摂取を控えること、そして善玉菌を増やす発酵食品や野菜、魚介類を増やすこと、とくに食物線維を積極的にとるよう心がける。
 目指すウンコの大きさは、男性では1日300g、女性でも200g以上が欲しいところだ。色は黄色系が好ましい。
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「腸育をはじめよう!」(松生恒夫著)

2014年03月05日 06時49分52秒 | 小児医療
副題:子どもの便秘を放置したらダメ!
講談社、2013年発行

★ 帯のキャッチコピー
・約5割の子どもが「便秘」かもしれない!?
・「腸」のスペシャリストが教える、親子ではじめる「排便力」の身につけ方。
・親も子どもも一緒に、お腹丈夫で元気になろう。
・「賢い腸」を育てると、子どもの健康の不安がなくなる!
・排便は「腸」と「脳」の連係プレー! だから「腸」が元気になると「脳」も元気になる!



 たしか著者がTVの健康番組に出演した際、「便秘にはオリーブオイルがよい」と解説していたのを聞いて、この本を購入した記憶があります。
 買いためた手元の便秘関連本を読もうと一念発起、これが2冊目です。

 著者は消化器内科医で小児科医ではありません。
 しかし「便秘外来」を担当すると、親子そろって便秘に悩んでいる患者さんに多く出会い、安易に薬物治療を続けるより「薬を使わないで便秘を解消する方法」を模索した結論(腸育)がこの本になったと記しています。

 便秘のメカニズムやタイプの解説はそこそこで、具体的な食事内容とか、生活指導が中心に述べられています。
 「なぜそうなるのか?」にこだわる私には少々物足りないのですが、一般向け啓蒙書はこのくらいのスタンスの方がわかりやすいのでしょうね。

 乳酸菌に植物性と動物性があるなんて、知りませんでした。
 しかしこの本には「学術的分類ではなく、日本食のよさを再認識してもらうための方便」と記されており、専門家が使う言葉としては何だかなあ、という印象も受けました。

メモ
自分自身のための備忘録。

安易な下剤の服用が重症便秘を引き起こす!
 便秘の相談に小児科を受診すると「ピコスルファートナトリウム(商品名:ラキソベロン)」や「マグネシウム製剤(俗称:カマ)」や漢方薬が処方されることが多く、「腸の機能を復活させて自然の排便をさせよう」とする発想がありません。保護者の方にも、小さいうちから腸内環境を整えて排便習慣をつけるという発想が必要です。
 10代後半~20歳代の慢性便秘症の患者さんには、小さい頃から下剤を常用していた人が多いこともわかってきました。しかし下剤で便を出す習慣が身についてしまうと、自分で排便をする力が衰えます。大人向けに処方される下剤の70%以上はセンナ、大黄、アロエなどを主成分とした「アントラキノン系」です。これらは即効性はありますが副作用も大きく、常用しているとさらに便秘がひどくなることもあります。

ヨーグルトを食べると便秘が治る?
 まったくの嘘ではありませんが、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌は実は腸に届きにくいので、ヨーグルトだけを食べ続けて便秘を解消するということはあり得ません。

朝食抜きが便秘の原因になる。
 朝食を食べて空っぽの胃に食べ物が入ってくると腸のぜん動運動が強まって「胃・結腸反射」が起きます。それに合わせて大ぜん動 (※)が起こり、大腸まで進んでいた便をさらに先(肛門)へと押し出すのです。朝食を抜くとこの胃・結腸反射が起こらないため、排便になかなか達しません。
 その上朝食を抜くということは、当然食事量も減りますので、食物線維の摂取量も少なくなります。
※ 大ぜん動は1日に数回しか起こらず、特に起こりやすいのは朝食後から1時間以内といわれ、通常は10-30分しか持続しません。

便秘にはオリーブオイル
 オレイン酸を含むオリーブオイルは一時的に比較的多めの量を摂った場合、小腸であまり吸収されずに小腸を刺激します。また小腸に残った食物と混ざり合うことで腸内の滑りがよくなることがわかっています。 
 オリーブオイルは生のオリーブのみを搾って作られますが、「バージンオイル」は生のオリーブのみを搾って濾過しただけのフレッシュなオイル。そのなかでも最高級品の「エキストラ・バージン・オリーブオイル」は香りもよくおいしいので初心者にお勧めです。
 オリーブオイルの摂取の目安は1日に15-30mlが理想的。
 イタリアでは子どもたちの便秘予防として、ティースプーン1杯のオリーブオイルを摂ることが推奨されているそうです。
 寝る前に飲む飲み物としてお勧めなのが「オリーブココア」。オリーブオイルとココア、お好みのオリゴ糖にお湯を咥えたもので、体を温め、腸の働きを改善する効果があります。

腸と腸内細菌
 腸には人間の免疫システムの60%が集中しています。
 成人の小腸は6-7m、大腸は1.6-1.8mで、この2つを合わせた面積は、テニスコート1面ほどになります。
 腸の健康を大きく左右するのが、腸の中に棲む約500種類、合計100兆個ともいわれる腸内細菌。
 腸内細菌は大きく3つに分類されます。
1.善玉菌・・・乳酸菌が代表。食べ物の消化・吸収を助けて体の免疫力を高めます。
2.悪玉菌・・・大腸菌が代表。腸内をアルカリ性にして有害物質を作り出すため、便秘の原因になります。
3.日和見菌・・・腸内環境によりいずれにもなりうる菌群。
 腸内では常に善玉菌と悪玉菌が勢力争いを繰り広げていて、それぞれの菌の腸内バランスは「善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%」が理想的といわれています。

下剤の種類いろいろ
 下剤は大きく分けて「刺激性下剤」と「機能性下剤」に分けられます。
 「刺激系下剤」はさらに大腸の粘膜を刺激する「大腸刺激性下剤」と小腸を刺激して便を出す「小腸刺激性下剤」に分けられます。
 アントラキノン系下剤は大腸刺激性下剤に分類され、効果はあるものの副作用も大きい薬です。長期にわたって使用すると大腸黒皮症(大腸メラノーシス)という病気になります。これは下剤の代謝産物が腸の粘膜に入り込んでしまう状態で、具体的な自覚症状はありませんが、腸を動かす神経の層にも入り込むため、薬を飲んでいるにもかかわらずますます腸の動きが悪くなります。よく「下剤を飲んでいると耐性ができて効かなくなる」といわれますが、実はそうではなく」、このような大腸黒皮症になってしまっていることが多いのです。
 一方、小腸刺激性下剤は食用で使われるオリーブオイルやヒマシ油などが該当し、これらは副作用が少ないことからお勧めです。
 機能性下剤には副作用の少ない「塩類下剤」や、腸内の水分を増やして便を軟らかくする「糖類下剤」などがあります。

「宿便」「腸年齢」は医学用語?
 医学的には宿便と便秘は同義語です。宿便とは腸壁に古い便がこびりついたものだといわれていますが、ぜん動運動を繰り返している腸壁には、そもそも便がこびりつかないので、宿便がたまることはありません。
 雑誌やテレビでよく取りあげられる「腸年齢」についても、腸内の映像だけを見てわかる「腸年齢」というものも存在しません。

おとなとは違う子どもの便秘
 子どもにとって1歳までは排便は反射的な行為ですが、その後大脳が発達して排便の訓練が行われると、便意を自覚できるようになります。
 おとなの便秘は大抵S状結腸に便が溜まりますが、小さい子どもの場合は「直腸の中」に便が溜まるのが特徴です。
 子どもはお腹が痛くても上手く伝えられないので、日頃からチェックしていないと便秘に気づけません。
 週2回以下の排便が3ヶ月以上続いていたり、たとえ週に3回以上排便があっても痛みを伴うような場合は便秘を判断されます。

理想の便の状態
色:黄褐色~茶褐色
量:バナナ2-3本程度
硬さ:硬すぎず軟らかすぎない(練り歯磨き状)
回数:1日1-3回
におい:においはあれどキツイにおいではない。

便秘の分類
 大きく3つに分けられます。
1.弛緩性便秘
 腹筋の筋力が低下したり、大腸のぜん動運動が弱くなることで、スムースに便を肛門の外に出せなくなっている状態のこと。筋力の弱い女性や高齢者に多いとされています。
2.けいれん性便秘
 腸の働きが過敏になり、便秘と下痢を繰り返すタイプ。ストレスが大きな原因で、男性に多いのが特徴です。
3.直腸性便秘
 直腸までは便が下りてきているのに、便意が起こらないタイプ。
 ふつうは朝食を摂ると腸のぜん動運動と分節運動によって「胃・結腸反射」が起こり、その刺激が知覚神経を介して脳に伝わることで排便反射が起こります。便が直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びてその刺激で便意が起こります。便意を感じたときに便を出さないでいると、直腸の壁は伸びた状態のままなので、大脳へのサインも弱まってしまいます。こうして我慢が度重なることで、刺激に対する直腸の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こりにくくなり、便はさらに溜まっていきます。
 溜まった便は硬くなるため、無理に出すことで肛門が切れて出血するようになると、排便がつらくなり、その痛みから便意を感じてもこらえてしまうようになります。またその状態が続くと便が溜まったことを脳に知らせるセンサー(知覚神経)の感度が鈍るので、ますます便が出にくくなります。この状態が長く続くと直腸が太くなるため、正常な排便感覚が失われていくのです。

母乳の中には善玉菌のエサになる「乳糖」が豊富。
 母乳に含まれる乳糖はビフィズス菌のエサになるので腸内にどんどん善玉菌を増やしてくれます。そのため授乳中の赤ちゃんの便はほとんど匂いがありません。

オリゴ糖は子どもの便秘に有効
 オリゴ糖は単糖(ブドウ糖など)が2-20個結合したもので、分解されることなく大腸まで届き、善玉菌であるビフィズス菌のエサになります。
 口から入ったオリゴ糖は大腸に到達し、腸内細菌に食べられます。腸内細菌には善玉菌の他、悪玉菌や日和見菌などもありますが、オリゴ糖を食べた善玉菌が乳酸などの酸を出すため、この酸を苦手とする悪玉菌は死滅し、善玉菌だけが増えるので腸内環境が整い、便秘改善に高い効果があるのです。
 オリゴ糖というと甘味料を連想する人が多いのですが、実は様々な食品に含まれています。
(例)乳糖(牛乳、母乳)、イソマルトオリゴ糖(ハチミツ、味噌、醤油など)、フラクトオリゴ糖(ヤーコン、玉ねぎ、バナナなど)、ラフィノース(ビート、キャベツ、アスパラガス等)、乳果オリゴ糖(ヨーグルト)
 善玉菌にはたくさんの種類があり、ビフィズス菌だけでもヒトの腸内には10種類以上あるといわれています。またそれぞれが好むオリゴ糖は違います。
 「モニラック」という下剤もオリゴ糖の一種。体への負担が少ないので、医薬品として服用するのであればモニラックが第一選択です。

食物線維の性質
保水性:便が軟らかくなり、かさが増える。
粘性:水に溶けるとゲル状になる。腸の内容物はゲル状になると腸管をゆっくり移動する。
吸着性:コレステロールや食べ物の有害物質を表面に吸着して便の中に排泄。
発酵性:一部は大腸内の善玉菌によって分解、発行する。結果的に大腸の中が酸性になって腸が健康になる。

日本人の食物線維摂取量
 1955年頃は1日22gほど摂取していたものが、現在では平均14g前後、特に朝食抜きなどにすると10-11gになります。
 便秘を解消するには1日20gが一つの目安です。
 日本人の食事摂取基準2010年版によると、1日に理想とされる食物線維の量は18歳以上の男性では19g、女性で17g以上であり、これは両手山盛り一杯の野菜の量です。
 レタスやキャベツといった葉物野菜をサラダなどでたっぷり食べているつもりでも、見た目ほどはたくさんの食物線維は摂れていません。これらは加熱し、できればスープなどにしてたくさんの量を摂った方が効率的です。

不溶性食物線維と水溶性食物線維
 不溶性食物線維は玄米やニンジン、ブロッコリーなどに含まれ、水を吸って何十杯にもお腹の中で膨らむことで便のかさを増やし、大腸のぜん動運動を刺激します。
 水溶性食物線維はなめこや海藻類に多く含まれ、水に溶けるとぬるぬるとしたゲル状になり、胃の中で食べ物を包み込んで消化・吸収を手助けします。また、腸の中にいる善玉菌のエサになって善玉菌を増やし、腸内環境をよくしてくれます。
 不溶性食物線維で便のかさを増やしたところに水をたくさん吸った水溶性食物線維の便がまざることで、便は水分を含んだ排出しやすい状態になり、排便がスムースになります。不溶性食物線維ばかりで水溶性食物線維の摂取が少ないと、お腹が張るばかりで便がスムースに排出されません。
 理想的なのは「不溶性2:水溶性1」のバランスです。
(例)キウイフルーツ・・・食物線維が豊富で、不溶性2に対して水溶性1という理想的バランス。
(例)プルーン・・・食物線維が豊富で、水溶性:不溶性=1:1。特に乾燥されたドライプルーンは栄養素がギュッと凝縮されており、体に有毒な活性酸素を中和する「フェノール」という抗酸化物質も含まれています。また食物線維の他にも便秘予防や腸の活性化に有効な「ソルビトール」という成分をはじめ、ビタミン群、カリウム、マグネシウムなどの栄養素も豊富です。

植物性乳酸菌の有用性
 ヨーグルトは動物性乳酸菌、発酵食品である味噌、漬け物、納豆、醤油、甘酒などは植物性乳酸菌に分類されます(実はこれは学術的分類ではありません)。
 植物性乳酸菌は栄養が少ない過酷な環境でも育つ菌で、酸度の高い胃液や腸液にも耐えられるという、「胃液や腸液で死滅することなく大腸まで届く力が強い」のが特徴で、生きたまま腸に届いた乳酸菌は腸内環境を弱酸性にし、善玉菌を増やします。

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「おかあさんと一緒になおす子どもの便秘」(小林弘幸著)

2014年03月02日 13時42分27秒 | 小児医療
幻冬舎、2013年発行。

★ 帯に書いてある文言;
「今までなかった!! 赤ちゃんから13歳までの子どもの便秘解消ガイド、決定版」
「おかあさんの悩みをスッキリ解決」
「便秘外来4年半待ちの名医が教えます!」
「便秘が治るだけで、こんなにもイイコトが」
 ・風邪を引かなくなる!/ダイエットになる!/勉強ができるようになる!/集中力アップ/積極性アップ!


なんだが、すごいことになってます(苦笑)。
著者の肩書きは順天堂大学小児外科教授。帯の通り「小児便秘外来」で有名らしい。

私の日々の小児科診療の中で、子どものお腹のトラブルはありふれた症状です。
どちらかというと、下痢より慢性の便秘の相談が多いですね。
年齢により対応が異なりますが、基本的には赤ちゃんは赤ちゃん用の便秘薬、幼児期以降はおとなに準じた下剤を使用し、下剤を長期にわたり手放せないときは漢方薬を勧めるのが私のスタンスです。
この本は一般向け啓蒙書ですが、何か診療のヒントになることはないかな、と目を通してみました。

まず、乳幼児期の便秘は大人とは違うんだ、と力説されており、私も同じ印象を持っていたので大いに頷きました。
それに伴い、食事指導も大人と子どもでは微妙に異なるという説明にも納得できました。
ただ、便秘の分類法が学生時代の講義と違うのが気になりました・・・昔は「弛緩型」「けいれん型」に分けるのが一般的でしたが、この本では「直腸肛門型」「ストレス型」「直腸ぜん動運動不全型」「その他の病気が隠れている場合」に分けられています。
この分類は学会レベルで認められているのかな?・・・要確認ですね。

小児外科では「肛門を一過性に広げる治療がある」ことは知りませんでした。
詳しい説明はないのでイメージがわきませんが、いったいどのような手技なんだろう?

それから、エクササイズやマッサージも参考になります。

また、家族が心配して頑張るほど本人のプレッシャーになりストレスの悪循環に陥ってしまう「現代家族の病理」が便秘にも当てはまることに驚かされました。
子どもの心の問題の書籍には必ずといっていいほど出てくる病態です。
なんだか、生きづらい世の中になってしまたのですねえ・・・。


メモ
自分自身のための備忘録。

こんなときに便秘を疑いましょう
1.腹部を触ると、かたいような張りがある。
2.排便に苦痛を感じている。
3.3日以上ウンチが出ていない。

子どもの便秘は「本人のせいではない」
 おとなの便秘と子どもの便秘では決定的な違いがあります。おとなの便秘は食生活や生活習慣の乱れなどが主な原因であり、本人の自覚と努力でほとんどの場合が改善されます。ところが子どもの場合には、本人に「がんばりなさい」と言うのは逆効果。「ウンチが出ないくらいどうってことはない」とゆったりした気持ちで、気楽に接して上げてください。
 実は”気にしない”ということが、子どもの便秘解消の特効薬なのです。
 ウンチが出ないことを責めてマイナスイメージを植え付ける保護者は、子どもに「ウンチが出ない自分はダメ人間だ」という劣等感を持たせることになります。その環境が彼らを追いつめ、ますます便秘が治らなくなります。

便秘は遺伝する?
 という説がありますが、今のところ科学的根拠はありません。
 ただ、同じ家で暮らしている家族は、食生活や生活時間が似ていますし、同じストレスを共有していることも多いので、同時発生的に便秘になる可能性が高いのです。例えば、肉が多くて野菜が少ない食事を一緒に食べていたら、食物線維が不足して便秘の原因になります。また夜更かしが多くて朝寝坊という生活パターンを続けていると、親子で便秘になるのも当然です。運動が好きでない保護者の方は、屋外よりも室内でお子さんと一緒に遊ぶことが多くなる傾向があり、その結果、運動不足から親子仲良く便秘になる可能性が高まります。

子どもの便秘のタイプ「直腸肛門型」と「ストレス型」
直腸肛門型】・・・ウンチを押し出す力が弱いことによる便秘で、子どものほとんどはこのタイプ。
 直腸や肛門のセンサーが未発達で、ウンチが直腸にたまってきてもそれがわからないために「そろそろウンチを出しましょう」という指令が出ません。そして腹筋や肛門括約筋など、ウンチを外に押し出すために必要な筋肉も、まだ十分な力を持っていないのでウンチが腸内にたまりやすいのです。
ストレス型】・・・腸が繊細%敏感なタイプ。
 子どもに限らず、全世代がいつでもなり得る便秘がこのタイプです。自律神経の「交感神経」(アクセル)と「副交感神経」(ブレーキ)のバランスが崩れるために起こります。
 ストレスがかかると「交感神経」ばかりが体を支配してアクセルを踏み続けてブレーキ・休息の役割の「副交感神経」の出番がありません。ずっと運転中なのでへとへとになってしまいます。一方の「副交感神経」の働きの一つに腸ぜん動を促すというものがあります。ぜん動は腸の内容物を肛門の方へ送る動きです。「副交感神経」が働かないと「ウンチを肛門へ送りなさい」という指令が出なくなり、便秘を引き起こします。
★ おとなにあって、子どもにはない便秘のタイプ;
1.直腸ぜん動不全型・・・偏った食生活や生活習慣、ストレスから腸内の善玉菌が減り、悪玉菌が支配するようになると正常な働きができなくなり便秘を引き起こします。
2.その他の病気が隠れている場合・・・糖尿病、高血圧などの生活習慣病が便秘の原因になります。糖尿病は自律神経の乱れを引き起こして腸のぜん動が悪くなったり、食事の量が減ってウンチが少なくなったりします。そのため、ウンチがたまるまでに時間がかかり、腸内にいる時間が長すぎて水分を絞り次田、硬いウンチになってしまうのです。

年齢と便秘のタイプ
 腸の神経は2歳頃までに成熟しますが、乳児から幼児、特に4歳くらいまでは腹筋が発達していないので、このタイプの便秘がほとんどです。
 腹筋が発達する5歳以降もこのタイプの便秘が続きますが、集団生活がきっかけになりストレス型が登場します。入園・入学、クラス替えがストレスを生み便秘になることがありますが、慣れとともに解消されることが多くあまり心配は要りません。
 問題は「学校でウンチをしたくない」からと便意を我慢して便秘になる子どもが多いことです。ストレス型の一型と考えられますが、食生活の改善やエクササイズだけでは治すことができません。なるべく朝、学校に行く前にウンチが出るように習慣づけて、学校で便意を我慢しなくてもすむようにするとよいでしょう。
 中学校進学後はおとなと同じ「直腸ぜん動不全型」へ変化します。受験勉強などで運動不足になるとともに合間にスナック菓子などを食べるので、腸内の元気だった善玉菌が付かれて悪玉菌に活躍の場を奪われやすくなります。さらに人間関係や成績などのストレスにさらされ「ストレス型」の便秘を併発する「複合型」の可能性も考えられます。
 そして・・・70歳くらいになると、「直腸ぜん動不全型」「ストレス型」「他の病気が原因の便秘」の他に、子どもの頃と同じ「直腸肛門型」の便秘にもなりやすくなります。

子どもの便秘にヨーグルトは効かない
 子どもの便秘はおとなの便秘と違い、腸内の善玉菌が減ったために起こっているのではありません。したがって腸内の善玉菌を増やす手助けをする乳酸菌を含んだ納豆やヨーグルトなどの発酵食品を食べても効果は期待できません(毒にはなりませんが)。

同じ「ストレス型便秘」でも子どもとおとなでは対応が異なる
 こどもが感じるストレスがおとなが原因です。
 おとなの場合は自分で環境を変えるなどの方法でストレスから逃れたり解消することができますが、子どもが感じているストレスのほとんどは子ども自身ではなく周囲の環境・周囲のおとな達がつくり出しており、子ども自身にはどうしようもないのです。
 こどもの便秘が、どうも食生活やエクササイズで改善しないという場合は、ストレスという可能性を考えてください。

便秘の子どもに接するときの3大原則
1.おおらかに明るく受け入れる
 ・・・雰囲気で子どもを追いつめないように。
2.ウンチが出ないことを責めない
 ・・・「何で出ないの? もっとがんばりなさい!」は禁句。
3.ウンチをすることへの恐怖感をなくす
 ・・・肛門が切れていたい、ウンチが出ないと叱られる、という経験はトイレ嫌いを助長します。

ウンチが硬くて肛門が切れて出血したときの対処法は?
 人肌くらいのぬるま湯で湿らせたやわらかい布で押さえましょう。しばらくすれば出血は止まります。
 このとき冷たい水や熱いお湯ではかえって傷口を刺激してしみて痛がります。
 繰り返し出血するときは小児科/小児外科を受診しましょう。

子どもに「力み方」を教える方法
 前傾姿勢をとり、お腹に手を当てて「う~ん、う~ん」といってみましょう。
1.便座に座って上半身を少し前に倒して前傾姿勢を取ります。
2.手をお腹に当てます。手を当てることでお腹に意識が向き、その部位に力を入れやすくなるのです。
3.「う~ん、う~ん」と声に出して繰り返します。「う~」というときにはお腹を凹ませて体に力を入れ、「ん」で力を抜きましょう。

綿棒マッサージもクセになる?
 綿棒マッサージで肛門に刺激を与えれば、ウンチが出やすくなるのは事実です。しかし強く刺激すればそれだけ効果があるというものではありません。肛門を傷つけないように注意してください。
 刺激を与えるなら、人肌程度のぬるま湯を、スポイトでぴゅっぴゅっとかけてあげる方が安全です。心地よい刺激でウンチが出やすくなります。水やお湯では痛みを感じるので必ずぬるま湯を使ってください。

母乳が便秘の原因になりますか?
 いいえ。母乳の成分が問題で子どもが便秘になることはありません。「私の食生活・おっぱいが原因でこの子が便秘になって苦しんでいる」などとは決して考えないでください。子どもの便秘の原因は腸内環境の性ではなく、ウンチを押し出す筋力が弱いためです。何を食べたかは関係ありません。

離乳食をはじめたら便秘になりました・・・。
 ミルクなどの液体に比べて、固体の離乳食は消化しにくいためです。また離乳食をはじめると一時的にぼにゅうやみるくをのむりょうがへることもあり、ウンチの水分量が不足しがちであることも一因になり得ます。お腹がなれてくれば、ウンチの出方も安定してくるので、水分を多めに飲ませてあげながら、マッサージでウンチを促して様子を見ていきましょう。便通をよくする水溶性食物線維を取り入れるのも効果的です。桃やプルーン、リンゴのジュースなど液体のものがいいでしょう。
 赤ちゃんの便通はなかなか案手せず、便秘又は下痢になることもよくあります。3-4日に一度でも、スルンとウンチが出ていればそれほど心配することはありません。

便秘対策として水分をたくさん取るべきでしょうか?
 無理にたくさん飲む必要はありません。飲みたいときに飲みたいだけあげてください。基本的に常温の水で十分です。
 トイレに行きたいなと思ったときは必ず行かせるように心がけましょう。子どものうちからオシッコやウンチを出すタイミングをコントロールするのは、あまりお勧めできません。子どもは1回に全部出し切れないこともあります。大人の感覚からすると短い間隔で、すぐにまたトイレに行きたがることもありますがそれを責めないよう心がけてください。

子どもの便秘にもオリーブオイルは有効ですか?
 有効です。オリーブオイルが硬くなったウンチを包み、滑りをよくして体外への排出を助けます。オイルで滑りやすくなったウンチはお尻を傷つけることも少なくなります。
 大さじ1杯飲まなくても、ティースプーンに1-2杯で十分ですので量を加減してください(多いと下痢することもあります)。

砂糖白湯(さゆ)、麦芽糖は便秘に有効ですか?
 効果は期待できません(悪影響もありませんが)。
 腸内環境を整えるのによいとされるオリゴ糖は善玉菌のエサになるため、便秘改善に効果があるといわれており、このあたりからの連想で「便秘には糖がよい」という説が広まっているようです。
 おとなの「直腸ぜん動不全型」便秘は腸内環境の悪化が大きな原因なので、善玉菌の働きを助けるために「多糖類」を取ることが役立ちますが、子どもに多い「直腸肛門型」の便秘にとって、腸内環境の変化は直接関係がありません。
 また砂糖や麦芽糖はオリゴ糖ほど腸内環境の改善に役立つというものではありません。
 あえていえば、ストレス型の便秘の場合に「甘くて温かい飲み物をとってホッとする→ ストレスが軽減→ 便秘改善に貢献する」というようなことが、多かれ少なかれあるかもしれません。

食物線維は便秘に有効?それとも無効?
 水溶性食物線維は有効、逆に不溶性食物線維をとりすぎると便が硬くなります。子どもとおとなでうまく使い分けましょう。
 食物線維には「水溶性」と「不溶性」の2種類があります。
 水溶性食物線維は海藻などに多く含まれており、水に溶けるとドロドロのゲル状になります。保水力が高いので、これを多く含んだ食品を食べるとウンチの中の水分が保たれて硬くなりにくくなり、排便しやすくなります。
 一方の不溶性食物線維は野菜に多く含まれています。水を吸収して膨らむので、腸の動きをよくしたいときには効果があります。しかし摂取しすぎると、すでにたまっていたウンチの水分が必要以上に腸壁に吸収されてしまい、より出にくくなってしまうことがあります。どちらかというとおとなの「直腸ぜん動不全型」便秘に効果があるのが不溶性食物線維です。
 子どもの便秘にはウンチの水分量を増やして柔らかくしてくれる水溶性食物線維がよいでしょう。
 おとなの便秘には、まず水溶性食物線維をたくさんとって、たまっているウンチを軟らかくして出してから、不溶性食物線維をしっかりとって、腸を動かすようにしましょう。

朝、学校に行く前にウンチをする習慣をつける方法
 まず、朝はトイレでゆっくり座る時間を作ります。その分、30分くらい余裕を持って起きる必要が出てきます。
 落ち着いて朝ご飯を食べて、内臓が動き出したらトイレに入ります。ウンチが出やすくなるエクササイズをしたり歯磨きをしたりしながら、ゆっくりウンチが出るのを待ちます。最初のうちは、思った通りにウンチが出るとは限りませんが、出るまでがんばろうと無理をすることはありません。だんだん慣れてくると、朝はウンチの時間というように体が覚えてくれます。そのうちスルッと出るようになると思って、しばらくは辛抱してください。自宅でウンチをしてから学校へ行くようになれば、「ウンチが出たらどうしよう」という不安から解放されて、物事にも積極的になれるはずです。

子どもの便秘によい水溶性食物線維を多く含んだ食材(五十音順)
アボガド:ウンチの滑りをよくする不飽和脂肪酸も多く含んでいます
インゲン豆:水溶性・不溶性どちらの食物線維も豊富で、豆類の中ではダントツの高含有率。
オクラ:生よりもゆでて食べる用が吸収がよくなります。
押麦:ご飯に少し混ぜて食べるとよいでしょう。ライ麦や全粒粉もお勧めです。
海藻:昆布、わかめ、あおさ、海苔、もずくなど。
ゴボウ:水溶性・不溶性ともに豊富。オリゴ糖も含まれています。
ココア:ココアには非常に多くの水溶性食物線維が含まれています(コーヒー/紅茶はゼロ)。他にも様々な健康促進に役立つ成分を含んでいます。
切り干し大根:少量でも豊富な食物線維をとれます。
玄米ご飯:含まれる水様生食物瀬にはそれほど多くありませんが、精白米はほとんどゼロです。
サツマイモ:おやつにお菓子を食べるくらいなら、ふかしイモを食べましょう。
里芋:イモ類の中でも多くの食物線維を含む食材です。
そば:ご飯やパン、パスタに比べてずっと多く含まれています。
ナッツ:ピスタチオやカシューナッツは水溶性食物線維だけでなく、ミネラルなども豊富に含む理想的なおやつ。
納豆:水溶性・不溶性食物線維ともに含まれており、朝ご飯のお供に最適。
なめこ:水溶性・不溶性食物線維ともに豊富。ぬめりを落とさないようにして食べましょう。
にんじん:ジュースにしても同じように栄養が取れます。
バナナ:含量はプルーンやイチジクより少ないものの、一年中手に入り、食べやすいのでお勧め。
プルーン:水溶性・不溶性食物線維ともに同じくらい含んだバランスのよい食品。乾燥プルーンでも同じ栄養が取れます。
モロヘイヤ:ぬるぬるに水溶性食物線維がたっぷり。
リンゴ:腸内環境を整える効果もあります。
和菓子:あんこの材料である小豆にも水溶性食物線維が含まれています。こしあんよりも粒あんの方が多くとることができます。

便秘解消、究極の10箇条
1.朝、コップ1杯の水を飲みましょう。
・・・腸が刺激を受け、ぜん動が活発になります。水でウンチを押し出すわけではないので、たくさん飲む必要はありません。これを毎日続ける事により、体が「朝はウンチをするんだぞ」と覚えてくれるのです。食前の方が効果的です。

2.朝日を浴びて、深呼吸をしましょう。
3.必ず朝ご飯を食べるようにしましょう。
4.食事のリズムを一定にしましょう。
・・・定期的に食べ物が送り込まれていないと、腸のぜん動は活発になりません。
 特に夜は最低でも就寝3時間前までに食事を終えるようにしましょう。また、よるにお菓子などを食べ過ぎると、交感神経が働き出して腸のぜん動運動を促す副交感神経が働くことができません。
5.朝のトイレはゆっくり座りましょう。
6.日中は外で元気に遊びましょう。
7.夜更かしは便秘の大敵。
・・・ごく自然な状態では、興奮モードの交感神経の活動はお昼頃がピークです。それとは反対の働きをするリラックスモードの副交感神経は、夜中の0時頃にもっとも活発に働きます。すなわち、このピークに時間にしっかり眠っていると、副交感神経に促されて腸の働きも活発になり、朝起きる頃には立派なウンチができあがっているのです。
8.入浴タイムはお湯の中でマッサージ。
9.寝る前に、便秘解消エクササイズ。
10.いつも笑顔で!でも褒めすぎはダメ。
・・・子どものウンチが出なくても、その度に落胆しないでください。子どもは「おかあさんをガッカリさせる自分はダメだ」と胸を痛めてしまいます。ウンチが出ても「すごいね!」とあまり褒めすぎてはいけません。一度出ても毎日出るとは限りません。出たときにあまり褒められると、逆に「ウンチが出ないのはすごくいけないこと」と感じてしまう子どももいて、「次に出なかったら褒められない、ガッカリさせてしまう」とプレッシャーを感じるのです。

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