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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

アレルギー診療の新常識

2014年11月13日 06時21分23秒 | 食物アレルギー
 タイトルは医療系商業誌「日経メディカル」2014年11月号の特集名です。
 医学的な知識より社会的位置づけの視点が興味深く、拝読しました。

・アレルギー疾患の各ガイドラインが公表されているが、それに沿った治療が必ずしも行われていない。
・スギ花粉症では「舌下免疫療法」という新しい治療法が登場、毎日の服用を2年以上続ければ8割強に効果
・アナフィラキシーではじんま疹など皮膚症状を伴わない例があることに注意
・乳幼児の食物アレルギーは「疑わしきは除去」から「必要最低限の除去」へ
・アレルギー発症は「経皮感作説」が有力視されてきた

 などなど。

メモ
 自分自身のための備忘録。

□ 求められるアレルギー診療の均てん化
 全国調査で示されたガイドラインから外れた診療の実態
【アトピー性皮膚炎】
・2割の医師が外用薬を「できるだけ薄くのばす」と指導(→ 「フィンガーチップユニット」の概念で指導すべし)
・ステロイドを「使いたくない」と感じている患者は半数以上
【アレルギー性鼻炎】
・マスク着用の徹底など、抗原除去・回避の指導がおろそかに
・日常生活に支障がない程度にコントロールできているのは3割程度
・アレルギー専門医と比べて非専門医は漢方薬を処方する割合が高い(・・・私のこと?・・・一応アレルギー専門医ですけど)
【気管支喘息】
・発作が1回以上ある患者の2割弱が発作予防薬を、3割弱が発作治療薬を服用せず
・発作治療薬を予防薬として定期的に使う患者も
【食物アレルギー】
・アナフィラキシー既往のある患者の半数がエピペンの処方をされていない
・IgG抗体検査の結果をもとに食物アレルギーと診断されるケースも(世界的に有用性が否定されています)

□ 花粉症:舌下免疫療法の登場
・舌下免疫療法は従来の皮下免疫療法に比べて患者への負担が少なく、安全性が高い。これは体内に吸収されるアレルゲン量が少なく、全身性アナフィラキシーを起こしにくいため。
・海外で報告されている舌下免疫療法のアナフィラキシーの頻度は0.025%程度と、抗菌薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)より低い。
・効果を得るためには最低2年間継続する必要があり、その効果を持続させるためには3~5年の投与継続を要する。
・2年続けても15%は無効

□ アナフィラキシー
・各臓器症状の発現頻度(横浜市立みなと赤十字病院:中村陽一先生による)
 皮膚・粘膜症状:93%
 呼吸器症状:60%
 循環器・ショック症状:41%
 消化器症状:39%

□ 食物アレルギー
・現在の検査は症状発症との一致率が低く、特異的IgE抗体価が高くても症状が出るとは限らない。
・食物アレルギーが疑われる患者でも、免疫寛容を促すため、症状を誘発しない範囲で食物の摂取を勧めるべき。
・摂取を勧める際の注意点として、“少しだけ”といった曖昧な指導ではなく、安全な摂取量を食品ごとにできるだけ正確に指導すべし。

□ アレルギー発症予防
・象徴的なアメリカ小児科学会の方針変換
(2000年)「妊娠・授乳期の母親は食物アレルギーの原因となりやすい卵やピーナッツなどの食物の摂取を制限し、乳幼児に対しては乳製品や卵、ナッツ類や魚の摂取をできるだけ遅らせるべき」との声明を発表
(2008年)上記声明を撤回
・有力視される「経皮感作仮説」
 まず皮膚のバリア機能の低下が起き、それに伴いアレルゲンに対する経皮感作が成立する。これが食物アレルギーや喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を次から次へと発症するアレルギーマーチに繋がると考えられるようになった。

食物アレルギーに役立つスマホアプリ「アレルギーチェッカー」と「クミタス」

2014年11月11日 07時24分42秒 | 食物アレルギー
 食物アレルギー患者さんに情報提供です。
 スマホのアプリを利用して、食べたい食品にアレルゲンが含まれるかどうかを知り、さらにアレルゲンが含まれない食品を見つけることができる時代になりました。

■ 食物アレルギーで悩んでいるなら、このアプリ~特定のアレルゲンを含まない食品を検索するサービスも
(2014/11/7 日経デジタルヘルス)
 牛乳や卵、エビ、そば粉などが含まれる食品を少しでも口にすると、じんましんが出たり、気分が悪くなったりする――。そんな体質の読者は少なくないだろう。日本人のうち、約700万人が何らかの食物アレルギーを抱えるとされる。日本における食物アレルギーの患者数は急増しており、最近10年間で約2倍に増えたという。まさに現代病だ。
 こうした食物アレルギーに特化したヘルスケアサービスを手掛けるのが、ウィルモアである。ウィルモアが2012年に提供を始めたのが「アレルギーチェッカー」と呼ぶスマホアプリ。自分の気になるアレルゲンを含むかどうかを、食品に付随する1次元バーコードをスマートフォンのカメラで撮影するだけで判定できるアプリである。表示が義務付けられているアレルゲンだけでなく、表示が推奨されているだけのアレルゲンも含む、数十種類のアレルゲンの含有の有無を判定可能だ。これまでに、約5万7000件の食品に対応させた。
 同社がこのアプリの提供を始めた当初、食物アレルギーに特化したヘルスケアサービスは他にほとんど存在しなかったという。そのため、こうしたアプリを「出してくれただけで嬉しいという声を喜ばしく感じるとともに、(食物アレルギーへの対応が遅れている実態に)悲しみを感じた」と石川氏は話す。

□ アレルゲンを含まない食品を購入しやすく
 その後、自分の気になるアレルゲンの含有の有無を調べられるだけでなく、そのアレルゲンを含まない食品を見つけ、購入することにつながるサービスを求める声が増えたという。これに応えて、ウィルモアが2013年10月に提供を始めたサービスが「クミタス」である。特定のアレルゲンを含まない食品を、amazon.co.jpや楽天市場といったポピュラーなショッピングモールを横断する形で1回で検索できる
 アレルギーチェッカーとクミタスはもともと、子供の食物アレルギーに悩む親の利用を主に想定していた。ところがクミタスの利用者プロフィールからは、自身が食物アレルギーを抱える大人の利用者が想定以上に多いことが分かったという。

「親と子の食物アレルギー」(伊藤節子著)

2012年10月24日 23時10分37秒 | 食物アレルギー
講談社現代新書、2012年発行。

著者の伊藤節子先生は小児アレルギー学会の重鎮で、その臨床・研究への真摯な姿勢から尊敬を集める先生です。

多くの怪しい情報に振り回されがちな食物アレルギーについての、正しい知識を得ることができる本です。
食物アレルギーの現況について学会レベルの内容を扱っているにもかかわらず、わかりやすく解説しています。
アレルギー専門医の端くれである私にも参考になるところがたくさんあり、日々の診療で抱く漠然とした疑問が解決して頭の中がスッキリ整理されました。
例えば・・・

・乳児期のアトピー性皮膚炎がステロイド軟膏でよくなってもやめると悪化するのはなぜか。
・ペットが乳児期のアトピー性皮膚炎へ及ぼす影響について。
・食物アレルギーのコントロールが悪い児は将来喘息になるリスクが高い。
等々。

また「除去食中に何を食べたらよいか」という項目が充実しているのが本書の大きな特徴です。
「調理・料理」についての解説は女性ならではで、類書の中で群を抜いていると思います。
同じアレルゲンでも調理法や一緒に調理・加工する食材によりアレルゲン性の変化が異なる事実が確認されたことは、伊藤先生の詳細な研究の成果です。
「○○と○○を除去してください」と医師から言われて途方に暮れるお母さんは、是非お読みください。

一般読者向けにコンパクトにまとめられた新書ですが、臨床現場の医師や、食物アレルギー児が在籍し給食メニューで苦労している保育園の栄養士さんにもお勧めできる良書だと思います。

※ より専門的な内容は、ほぼ同時期に発行された下記書籍に詳しく記載されています。
抗原量に基づいて「食べること」を目指す乳幼児の食物アレルギー(診断と治療社、2012年9月発行)

「アレルギーなんかこわくない!」

2008年09月06日 07時39分26秒 | 食物アレルギー
三宅健著、2001年、講談社発行.

小児アレルギー界では有名な先生の肩の凝らないアレルギー解説本です.

彼の診療のポイントは「症状が出るに至ったストーリーを考える」こと.
アレルギーの患者が悪化したとき、「なぜ悪くなったんだろう?」としつこく探求します.
犯人が見つかると、それを避ければ症状は出ないのです.
これを繰り返していると、だんだん症状に悩まされない生活スタイルが出来上がります.
すばらしい!

現在、アレルギー疾患の各種ガイドラインが整備され、診断名がつけば標準的な治療法が決まります.
例えば、喘息であれば吸入ステロイド、アトピー性皮膚炎であればステロイド軟膏.
でも、これらの治療法は「根治療法」ではなく「対症療法」なのですね.
残念ながら、薬をやめればまた元の状態に戻ってしまいます.
このような紋切り型の対症療法に終始すること無く、一人一人の患者さんのストーリーを描く診療姿勢を見習いたいと思いました.

三宅先生は予防接種の副反応の犯人は卵ではなくゼラチンだったことを発見した人であり、また食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの日本第一例目を報告した人でもあります.
患者さんを細かく観察し、疑問を持ち続ける姿勢がこのような成果につながったことは明白です.

以下に印象に残った文章を抜粋します.

「花粉症は大抵、最初の数年は年ごとに悪化する.そして、10年目くらいで峠を越すパターンが多い.」
・・・私もそうありたい(花粉症です).

「IgE抗体の半減期は2~3日だった.」
・・・知りませんでした.お恥ずかしい.

「マクドナルドの定番ハンバーガーには、卵も牛乳も使われていない.」
・・・さすが世界の大企業!

「『除去食でアレルギーが治るわけじゃない.アレルゲンを食べないから症状が出なくなるだけだ』とか、『卵と牛乳のアレルギーは成長すると自然に治る』という医者もいるのだが、僕の言う『治る』とはそういう意味ではない.除去食に寄ってIgE値が次第に下がり、食べても症状が出なくなる、と言うことである.つまり、また食べられるようになるのだ.」
・・・この件についてはアレルギー学会レベルでもまだ結論が出ていません.鳥と卵はどちらが先か? という袋小路に入りがちな議論です.症状が出ない程度に少しずつ食べた方が治りやすいのか、完全除去の方が治りやすいのか・・・現在は前者の理論が優勢です.

「『美肌水』は今井龍弥さんという名古屋の開業医が提唱したもので、尿素とグリセリンと水道水とを混ぜてつくる自家性の化粧水のこと.タチの悪いアトピービジネスではない.」
・・・確かに肌に悪くない組み合わせです.

「ステロイド軟膏のリバウンドなんて無い.ステロイドを止めて皮膚がボロボロになったというなら、それは『ステロイドは効く薬である』という証明でしかない.なぜなら、ステロイド剤を止めて症状が悪化しないのだったら、それは薬が効いていない証拠になるからだ.」
「このことは、解熱剤に置き換えて考えていただくとわかりやすい.薬を飲んで熱が下がった.薬を止めたら熱が上がった.これ、薬が効いていた証拠ですよね?」
「解熱剤もステロイド軟膏も、病気を治す薬ではなくて、症状がひどい時を乗り切るための手段に過ぎない.」
・・・その通り!

「花粉症の人が風邪を引くと悲惨な目に遭う.花粉症のアレルギー反応は鼻の入り口付近である.花粉症で鼻が詰まると、まさに『入り口がピタッと閉まった感じ』になる.一方、風の鼻づまりは鼻の後ろ側だ.だから、花粉症の人が風邪を引いた時二は、入り口も奥も閉塞状態、鼻づまりの2点ブロックである.特に夜は悪化し地獄の苦しみとなる.」
・・・経験したくないですねえ.

「子どもの花粉症は鼻水、鼻づまりがほとんどなく、目のかゆみが主症状である.小さい子どもは口呼吸が主で、鼻であまり息をしないからだ.鼻粘膜にあまり花粉がくっつかないから鼻症状が出ない.」
・・・フムフム.気をつけます.

「スギ花粉症の発症年齢が低下してきている.『子ども達と日本の将来のためにスギ林を伐れ』と主張しているが、まだまだ理解は得られていないのが現状だ.」
・・・私もそう思います.でも、医者の中にもスギ伐採に反対する人がいるので驚いています.

「『アトピーと食事は関係ないですよ』と言う皮膚科の医師が多いが、それは診ている患者の年齢層がまったく違うからだと思う.卵のアレルギーが出るのは生後6ヶ月~1歳半までがピークで、3歳以上になるとダニアレルギーが出てくるが、赤ちゃんが皮膚科に行くことは少ない.行っても乳児の血液検査をしない皮膚科医も多い.ところが、大人のアトピーの人で卵のアレルギーが出るのは1%以下、ダニアレルギーは70%以上出るのが普通である.」
・・・私も日々感じていることです.

「皮膚科に行けばステロイド軟膏を出されるだけで何の説明も無い.小児科に行くと検査もせず、いきなり『卵をやめなさい』と言う医師に会う.」
・・・皮膚科の先生は「アトピー性皮膚炎は皮膚の病気です.皮膚科専門医で治療しましょう」と宣いますが、小児科に流れてくる患者さんが少なからず存在します.困ったものです.

「そしてアトピービジネスにたどり着く.これは学校と塾、銀行とサラ金の関係に例えることができるであろう.学校の指導内容が不十分だから塾に通う子どもが多くなる.銀行が貸し渋るからサラ金が繁盛する.同じように『医師の治療が悪いからアトピービジネスが繁盛する』.説得力があるでしょう?」

「小麦アレルギーは除去食を行ってみてもあまり効果がないため.『普通に食べています』という軽いアレルギーが多い一方で、非常に強いアレルギー反応を起こす人がたまにいる.これが小麦アレルギーの特徴だ.米アレルギーも有名だが、じんましんなどの強い症状は出ないため、実際に米を除去している人はほとんどいない.」

「1988年(グミキャンディが発売された年)の厚生省の予防接種委員会の席上で、ぼくは『麻疹ワクチンの成分でアレルギー反応を起こすのは安定剤のゼラチンである.早急に取り除くべきである』と力説した.ところが、司会役の大学教授は苦虫をかみつぶしたような顔で、『そんなことはない.次の演題に』と言い捨て、ぼくが提出したデータは議論の対象にもならなかったのである.そして予防接種液に含まれるゼラチンによるアナフィラキシーの事故はその後も次々起きた.あのひどい会議のせいで、対策が10年遅れたのだ.このような『意図的とも思える見逃し』が日常的に行われていたことは、後年、血液製剤による薬害エイズ問題でも明らかになった.ほんとに迷惑な人たちである.」
・・・さぞ悔しかったことでしょう.先生のおかげで現在のワクチンはすべてゼラチンフリーです.ありがとうございます.