小児アレルギー科医の視線

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第16回食物アレルギー研究会へ参加してきました。

2016年02月15日 05時52分08秒 | 食物アレルギー
2016.2.14に昭和大学上條講堂で開催された件名の研究会に参加し、まる1日、食物アレルギーにどっぷりつかってきました。

今回は「学校給食におけるアレルギー対応の現状と課題」がメインテーマ。
上記について、医師・学校・教育委員会・文部科学省の各立場から講演がありました。

食物アレルギーの診断をするのは医師ですが、それを患者である子どもの日常生活にどう反映させるか・・・QOLを落とさず、かつ安全を確保する方法がいかに難しく、現在も手探り状態であることを浮き彫りにしたシンポジウムでした。

例えば、重症食物アレルギー児が入学し、彼は給食時間は他の生徒から離され、先生の隣で食べます。誤食事故を防ぐためです。
しかし、安全を期するあまり、学校はボランティアを雇用して彼が誤食しないように見張り、給食時間以外でも彼の机を離しはじめました。
彼はみんなでわいわい楽しいはずの給食時間も、ふだんの学校生活も失ってしまったのです。
確かに以前より安全は確保されたものの、学校生活のQOLは下がりました。

こんな感じです。

一般演題を挟んで、午後は現在改訂中の食物アレルギーガイドラインの中間報告。
診断に関しては、プロバビリティ・カーブの多様性やアレルゲン・コンポーネントによる進歩が紹介されました。
治療に関しては、経口免疫療法の位置づけについては「臨床研究」にとどめ、「一般的な治療」と認められないことが再確認されました。
一時期ブームとなった「食べさせて治す」という方法が、その危険性により時期尚早として沈静化した感があります。

ただ、経口免疫療法~経口負荷試験の間にグレーゾーンがあることを、私を含めて疑問に思っている医師が多いことも無視できません。

経口負荷試験は、毎日食べさせて脱感作状態を作り、それを維持することで治癒を期待する方法。
一方、経口負荷試験は本来は「食べて症状が出るか出ないかの確認」という検査目的ですが、それを定期的に行うことにより、経口負荷試験の緩徐法に近づいてくるのです。
それがどこまで検査で、どこから治療なのか・・・今のところ誰にもわかりません。
今後の臨床研究の大きな課題です。

上記研究会とは別に、前日の2/13に「第54回台東区小児科医会」にも参加しました。
テーマは「食物アレルギー~クリニック外来での食物負荷試験と最近のトピックス」(福岡圭介先生)です。
臨床現場で食物負荷試験を実践されている講師の豊富なノウハウを伝授していただきました。
各食品交換表の使い方や、食品中のアレルゲン量の複雑さに舌を巻きました。

講師に「先生の行われている経口負荷試験は検査ですか、それとも治療の要素を含んでいますか?」と質問したところ、「治療のつもりでやっています。急速減感作ではなく緩徐法に近いという意味で」との返答でした。

この辺がもう少し整理されると、小児科開業医でも経口負荷試験がより安全にできるようになると思います。
それにしても、食物アレルギーの知見は広く深い・・・アレルギー専門医でも日々の研修とアップデートが欠かせない分野です。


<参考HP>
・「食物アレルギー診療の手引き2014」(厚生労働科学研究班)
・「ぜんそく予防のためのよくわかる食物アレルギーの知識&食物アレルギーを正しく知ろう」(2010年、環境再生保全機構)
・「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(H20年、文部科学省)
・「学校給食における食物アレルギー対応について」(文部科学省)
・「学校における食物アレルギー対応指針」(H27年、文部科学省)
・「学校給食における食物アレルギー対応の手引き」(H22年度版、愛知県)
 → 2/16に「学校における食物アレルギー対応の手引き」と名前を変えてアップされる予定
・「学校給食会」(各県に設置)
・「よこはま学校食育財団」・・・ネット上で献立の食品の原材料がわかります。
・「栃木市教育委員会の取り組み
 → 有事の際に利用する「アクションカード」の提案と実践
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