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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

ニキビダニは人体に“寄生”しているのではなく“共生”している?

2025年03月30日 08時11分23秒 | 皮膚疾患
私は小児科医ですが、
思春期のニキビの治療も行っています。

近年、日進月歩のニキビ治療。
赤ニキビの治療にとどまらず、
ニキビ肌の治療、
つまり「ニキビができにくい肌」が手に入るようになりました。

当院ではそのような新薬のぬり薬と漢方薬内服を併用して、
「外からも中からも」治療し、効果を上げています。
詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

さて、話題は少しずれますが、時々耳にする「ニキビダニ」。
誰の顔にもいるとされていますが、
誰も気にしていません。
・・・想像すると気分が悪くなってきますね。
でも人体に寄生・共生する細菌は数限りなく存在すますので、
気にしていたらキリがありません。

その生態についての解説記事が目に留まりましたので読んでみました。
すると、意外な展開が・・・

・ニキビダニはさまざまな哺乳類の皮膚に存在しているが、動物によって種類は異なる。主にヒトの皮膚には毛包内およびその周囲に生息するDemodex folliculorumという種と、皮脂腺に生息するDemodex brevisという2種。
・ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を過ごし、数が増えると宿主の皮膚に炎症を引き起こすと考えられていた。
・しかし2022年の研究で、発生の初期に細胞数を減少させるという寄生虫の特徴とは異なることが判明したほか、皮膚の炎症への影響が少ないことが示された。ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつある。ニキビダニは多くの要因から非難されてきたが、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性がある。
・免疫システムに異常をきたしているときや、ニキビダニの数がうまく調整されず増えすぎてしまったときは、皮膚の炎症につながる可能性がある。しかし、ほとんどの人にとってはニキビダニは無害である。
・ほとんどの人はオリジナル系統のニキビダニを保有しているため、ニキビダニを調べることでその人の先祖を知る研究も進んでいる。

なんと、ニキビダニは人体に“寄生”しているのではなく“共生”しつつあるとのこと。
つまり、敵ではなく味方?
それから各個人がオリジナルの系統のニキビダニを保有しているため、それを分析すると先祖がわかるかもしれない、という記述も興味深かったです。


▢ 人の毛穴に生息する「ニキビダニ」の生態とは?
2025年03月29日:Gigazine)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 哺乳類の皮膚、特に多くのヒトの顔には、「ニキビダニ」と呼ばれるダニが寄生しています。毛穴の中で生きて食事をしたり交尾をしたり卵を産んだりしているニキビダニの生態について、イギリスのレディング大学でニキビダニを研究するアレハンドラ・ペロッティ博士が解説しています。
You might be surprised by what you'd find in your pores - M. Alejandra Perotti - 
 1841年、ドイツの解剖学者であるジェイコブ・ヘンリーがヒトの耳あかを顕微鏡で観察しているとき、小さな虫がいることを発見しました。後に、それはダニのグループに属することが判明し、「demodex(ニキビダニ属)」と呼ばれるようになりました。
 ニキビダニはさまざまな哺乳類の皮膚に存在していますが、動物によって種類は異なります。主にヒトの皮膚には毛包内およびその周囲に生息するDemodex folliculorumという種と、皮脂腺に生息するDemodex brevisという2種がいます。
 ニキビダニの一生はヒトの生活サイクルと強く結び付いています。日が暮れるとヒトの体は睡眠に関係するメラトニンというホルモンを生成します。メラトニンはニキビダニに対しては刺激信号として働くため、夜になるとニキビダニの活動は活発になります活動中のニキビダニは時速1cmほどの速度で移動し、顔の表面を横切ったり毛穴に潜んだりします。研究によると、ひとつの毛穴ごとに14匹のニキビダニを収容できるそうです。
 ニキビダニはすべてのヒトの顔に存在しており、肌が触れ合うことで乳児にも移っていきます。ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を過ごし、数が増えると宿主の皮膚に炎症を引き起こすと考えられていましたが、ペロッティ氏も参加した2022年の研究では、発生の初期に細胞数を減少させるという寄生虫の特徴とは異なることが判明したほか、皮膚の炎症への影響が少ないことが示されました。そのため研究チームは「ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつあります。ニキビダニは多くの要因から非難されてきましたが、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性があります」と指摘しています。
 ペロッティ氏によると、免疫システムに異常をきたしているときや、ニキビダニの数がうまく調整されず増えすぎてしまったときは、皮膚の炎症につながる可能性があるとのこと。しかし、ほとんどの人にとってはニキビダニは無害です。また、ほとんどの人はオリジナル系統のニキビダニを保有しているため、ニキビダニを調べることでその人の先祖を知る研究も進んでいるそうです。
一方で、個人の顔に固有のニキビダニグループが繁殖を繰り返す関係上、全体的な遺伝的多様性は日ごとに減少していきます。そのため、ニキビダニが何かのきっかけで絶滅してしまう可能性をペロッティ氏は指摘しています。実際にニキビダニの絶滅は起こるのか、絶滅したら皮膚に何が起こるのかは分かっていませんが、少なくとも現在顔にニキビダニが生息していることは正常であり、健康の証拠であるとペロッティ氏は述べています。


・・・関連記事もありましたのでこちらも紹介します。


▢ ヒトの顔に寄生する「ニキビダニ」が寄生生物から共生生物に進化しつつある
2022年06月22日:Gigazine)より一部抜粋(下線は私が引きました);
多くのヒトの顔には「ニキビダニ」と呼ばれるダニが寄生しています。このニキビダニはヒトの皮膚の上で一生を過ごすのですが、あまりにも孤立した環境で世代交代が行われたことによって遺伝情報が「人間と共生する」方向へ変化しているという研究結果が報告されました。
Human follicular mites: Ectoparasites becoming symbionts | Molecular Biology and Evolution | Oxford Academic
The secret lives of mites in the skin of our faces
ニキビダニは哺乳類の皮膚に寄生するダニで、ヒトの場合は特に顔の皮膚に多く寄生することから別名「顔ダニ」とも呼ばれています。このニキビダニは誕生と同時にヒトの毛穴の内側に寄生し、ヒトの毛穴から放出された皮脂を栄養源として暮らします。ニキビダニは夜間に生殖活動を行い、新たに生まれたニキビダニもヒトの毛穴の内側に寄生します。
ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を終えるため、外敵の影響をあまり受けません。このため、ニキビダニは外敵からの防御を度外視した方向に進化していることが推測されていました。そんなニキビダニのDNAを詳細に分析した結果、以下のような特徴が明らかになりました。

・ニキビダニの脚はわずか3個の筋細胞で動く
・ニキビダニの体を構成するタンパク質の種類は類似生物の中で最も少ない
・ニキビダニは「日光に応じて目覚める遺伝子」が欠落している
・ニキビダニはヒトが夜間に分泌するメラトニンを利用して夜間に生殖活動を活発化させている

また、一般的に寄生虫は発生の初期に細胞数を減少させるとのことですが、ニキビダニでは発生初期の方が成虫期よりも細胞数が多いことが確認されました。これらの研究結果から研究チームは「ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつある」と指摘しています。
さらに、これまでニキビダニは「肛門が存在しないため老廃物が体内に蓄積され、宿主の皮膚に炎症を引き起こす」とされていましたが、詳細な分析の結果ニキビダニには肛門が存在していると判明し、皮膚の炎症への影響が少ないことが示されました。研究チームの一員であるHenk Braig氏は「ニキビダニは多くの要因から非難されてきました。しかし、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性があります」と述べています。


・・・なんだか不思議な生き物ですねえ。


にきびに対して最も効果的な治療法とは?

2024年05月06日 16時45分29秒 | 皮膚疾患
ニキビの治療は近年、大きく進歩しました。
昔はイオウカンフルローションと抗菌薬程度しか治療薬が存在せず、
それでお茶を濁していた感が否めませんでした。
現在でも皮膚科医は抗菌薬を常用していますね。

近年、外用薬(ぬり薬)のターゲットが「化膿病変」から「ニキビ肌改善」へシフトしています。
つまり、できたニキビを治すのではなく、ニキビができにくい肌にしよう、という考えです。

小児科医の私も、悩める思春期男子・女子を対象にニキビの治療をしています。
外用薬は上記の通り、抗菌薬とニキビ肌改善薬を併用し、
かつ漢方薬を内服してもらいます。

漢方では赤ニキビ(炎症性皮疹)と黒ニキビ(非炎症性皮疹)で効く薬が異なり、使い分けます。
赤ニキビに対しては熱を冷やしたり、溜まった膿を排泄する生薬が入ったモノ。
結構苦いのですが、飲み続けている中学生もいるので、
手応えがあるのでしょう。

さて、以下の記事が目に留まりました。
日本の治療薬とどんなところが違うのか、興味を持って読みました。
ポイントを列挙します;

・ニキビに関する200件以上の論文を解析し、ニキビ治療薬37種類の優劣を検討した。
・最も効果的な治療法は「経口イソトレチノイン(商品名:アキュテイン・・・日本未発売)である。
・2位以下は複数薬剤の併用療法であった。
・外用薬を3剤使うことはコンプライアンスが悪化する可能性があり現実的ではない。

第一位の薬が使えない日本では、2位/3位の選択枝しかありません。
小児科医は抗菌薬を長期使用することに躊躇します。
それは耐性菌をつくってしまうからです。
しかし皮膚科医は1ヶ月単位で処方しています。
ニキビ菌には耐性ができないのでしょうか?・・・不思議です。

■ にきびに対して最も効果的な治療法とは?
 生活の質(QOL)に大きな影響を与えかねないにきび(ざ瘡)に対する最も効果的な治療法は何なのだろうか。台大病院(台湾)のChung-Yen Huang氏らによる200件以上の研究を対象にしたレビューから、その答えは、経口イソトレチノイン(商品名アキュテイン)であることが明らかになった。
・・・(Abstract/Full Text
 Huang氏らは、にきびに対する薬物療法に関する包括的な比較を行うために、論文データベースを用いて2022年2月までに発表された関連論文を検索し、221件の臨床試験を含む210件の研究論文(対象者の総計6万5,601人、平均年齢20.4歳)をレビュー対象として抽出。これらの研究で検討されていた37種類のにきび治療法を、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数の減少率に基づき比較した。対象とした37種類のにきび治療法には、外用と経口の抗菌薬、外用レチノイド、経口イソトレチノイン、過酸化ベンゾイル(BPO)、アゼライン酸、ホルモン治療薬の単剤療法と併用療法が含まれていた。治療期間中央値は12週間だった。
 解析の結果、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数のいずれについても、最も効果的な治療法は経口イソトレチノインであることが示された。イソトレチノインは、皮脂腺を縮小して皮脂分泌を抑制するとともに抗炎症作用も持つ。
 効果的な治療法は、総皮疹数と非炎症性皮疹数に対してはいずれも、

1.経口イソトレチノイン
2.外用の抗菌薬・BPO・レチノイドの3剤併用療法、
3.経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法

の順であった。
炎症性皮疹数に対しては、

1.経口イソトレチノイン
2.外用抗菌薬と外用アゼライン酸の2剤併用療法
3.経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法

であった。
 また、単剤療法に関しては、経口または外用抗菌薬と外用レチノイドは炎症性皮疹数に対して同等の効果があるが、抗菌薬は非炎症性皮疹数に対してあまり効果のないことが示された。
・・・
 皮膚科医であるJulie Harper氏は、「経口イソトレチノインは、にきびの治療薬として最も効果が期待できる薬だ。イソトレチノインを服用した多くの人で、にきびが消えるだけでなく、その状態を長期にわたり維持できる」と言う。
 ただし、副作用として肝障害や抑うつ症状などが生じたり、妊娠中の女性では胎児に重篤な先天異常をもたらす可能性もあるため、誰もが服用できる薬剤ではないことも同氏は指摘している。
 また、米ボストンの皮膚科医であるEmmy Graber氏は、「臨床試験参加者は、外用の抗菌薬・BPO・レチノイドによる3剤併用療法を処方されても遵守する可能性が高いが、実臨床で患者に複数の外用薬を1日に何度も使わせるのは困難だ」と指摘する。そして、「外用薬でも優れた効果を得ることはできるが、そのために重要になるのがコンプライアンスと併用だ」と述べ、「3剤併用療法では、内服薬を含める方が外用薬だけを3種類用いるよりも効果的だろう」との見方を示している。
 一方、米Acne Treatment & Research Center(にきび治療研究センター)のメディカルディレクターを務めるHilary Baldwin氏は、「全ての外用レチノイドが同じように作られているわけではないのに、この研究では、外用レチノイドとしてまとめられている。外用レチノイドの強さを一括りにして評価することは不可能だ」と研究の限界点に言及する。同氏はさらに、「にきびは、その数だけでなく、病変の大きさ(赤み)も評価して、重症度を判断するべきだ」と主張する。さらに、「患者ごとにパラメーターは大きく異なっており、にきびの治療成績は、治療の遵守、皮膚の敏感さ、ライフスタイルの特徴など多くの要因に左右されるものだ」と説明している。