小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

中国でのアトピー性皮膚炎事情

2016年04月21日 07時08分07秒 | アトピー性皮膚炎
 こんな記事が目に止まりました。
 成人アトピー性皮膚炎患者の約8割が12歳以降の発症とのこと。
 乳児期に発症して成人後に持ち越す例は少ないのですね。

 日本ではどうでしょうか。
 私が小児科医になった四半世紀前は、この記事同様「アトピー性皮膚炎は子どもの病気で、成長に伴い自然に治る」と考えられていました。その頃を思い出します。
 その後成人期に持ち越す例が多いことが認識されるようになり、ステロイドバッシングやアトピービジネスなど紆余曲折を経て、現在に至ります。

■ 中国の若者におけるアトピー性皮膚炎の特徴
ケアネット:2016/04/12
 北京大学人民医院のPing Liu氏らは、中国青少年/成人の慢性対称性湿疹/アトピー性皮膚炎(AD)の臨床的特徴を調べ、中国版青少年/成人AD診断基準を作成する検討を行った。小児ADの臨床的特徴については広く研究されているが、青少年/成人ADについては大規模な検討がなかったという。42施設から2,662例のデータが集まり分析を行った結果、患者の77.5%が発症は12歳以降と遅発性で、ADの発現形態は不均一であったことなどを報告した。Chinese Medical Journal誌2016年4月5日号の掲載報告。
 検討は、病院ベースで行われ、42の皮膚科センターが参加。慢性対称性湿疹またはADを有する成人および青少年(12歳以上)患者を包含した。2013年9月~14年9月に、記入式調査票を用いて患者および研究者両者に対する調査を行った。
 有効回答データを、EpiData 3.1、SPSS 17.0ソフトウェアを用いて分析した。主な結果は以下のとおり。

・2,662例の有効回答が得られた(男性1,369例、女性1,293例)。平均年齢40.6±18.9歳(範囲:12.1~93.0歳)で88.0%が18歳以上、84.1%が都市部住民であった。
・2,662例のうち、2,062例(77.5%)が12歳以降の発症であった。12歳以前の発症は600例(22.5%)のみで、湿疹/ADが一般に遅発性であることが判明した。
・2,139例(80.4%)は、6ヵ月以上の間、症状を有していた。
・1,144例(43.0%)は、アトピー性疾患の個人歴または家族歴があった。
・1,548例(58.2%)で、総血清IgE値上昇、好酸球増加症、アレルゲン特異的IgE陽性が認められた。
・これらの結果をベースに、マスト事項「6ヵ月以上の対称性湿疹(皮膚炎)」+「ADの個人歴または家族歴あり」および/または「総血清IgE値上昇、好酸球増加症、アレルゲン特異的IgE陽性のいずれかあり」とする中国版青少年/成人AD診断基準を作成提案した。
・2,662例を対象に調べた同診断基準の感度は、60.3%であった。一方で、同一対象について、Hanifin Rajka基準の感度は48.2%、Williams基準は32.7%であり、日本皮膚科学会基準(JDA)は79.4%であったが、中国版青少年/成人AD診断基準は簡易で良好な診断基準であることが示唆された。

<原著論文> Liu P, et al. Chin Med J (Engl). 2016;129:757-762.


 昨年から当院では乳児期アトピー性皮膚炎の診療に力を入れています。
 スキンケアを繰り返し指導することにより、皮膚のバリア機能を回復し、それを維持することにより経皮感作によるアレルギーマーチの進行を防ぐことが目的です。
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ウェークフィールド氏の逆襲

2016年04月16日 06時31分00秒 | 予防接種
 表題を見ても何のことかわかりませんよね。
 でも、わかる人にはわかるはず。

 小児科医や予防接種に携わる人にとって、「ウェークフィールド氏」はMMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)ワクチンと自閉症が関連しているという論文を発表し、世界最高峰の医学雑誌であるLancetに掲載され、話題になった人物です。
 その後、データねつ造やCOI問題が発覚して内容は否定され、Lancetも論文掲載を撤回したという異例の措置が取られ、ウェークフィールド氏は医師資格も剥奪されました。

 しかし、「MMRワクチンと自閉症は関係している」という誤った情報は都市伝説化し、現在でもそれを信じる人たちが後を絶たず、もう少しで排除できそうだった麻疹が未だにあちこちで小流行を繰り返しています。

 そのウェークフィールド氏が、自らの主張を映画として再び世間に問うたのです。
 アメリカの映画祭で上映されるはずでしたが、直前にストップがかかり上映断念。
 しかし、街の映画館での上映に切り替えられ、そこは観客で溢れているらしい・・・。

 元日赤医療センターの薗部Drは「ワクチンの歴史は冤罪との闘いの歴史である」とおっしゃっています。
 ワクチン接種後に健康被害が生じれば、当事者は「ワクチンのせいだ!」と考えるのは無理もありません。
 しかし時間関係だけで判断すると危険です。本当は関係ないことがたまたまそのタイミングで紛れ込んだだけであったことまで巻き込んでしまうからです。

 例えば、2011年に話題になったヒブ/肺炎球菌ワクチンの同時接種後の死亡例。
 問題視されて一時「接種見合わせ」措置が取られましたが、検討の結果、因果関係が証明されず再開されて現在に至ります。
 ではなんだったのか?
 想定されることとして、乳児突然死症候群(SIDS)の紛れ込みの可能性が指摘されています。
 現代日本でも、1年間に約150人の乳児が原因不明で突然死している事実があります。
 つまり、それまで元気で健康に問題のなかった赤ちゃんが3日に1人のペースで亡くなっているのです。
 その数日前に予防接種を行っていたとしたらどうでしょう。
 ご両親は「ワクチンのせいで・・・」と感じるのが自然の成り行きです。

 でも、そこに科学的分析を加えると、関係ないことが判明するのです。
 しかし、現代科学を持ってしても、ワクチンと健康被害の因果関係を証明するのは難しいとされています。
 そこで登場するのが「疫学的分析」。
 ワクチンを接種している赤ちゃん群とワクチン未接種の赤ちゃん群を何万人単位で比較するのです。
 問題になっている健康被害が、接種群で多く発生していればワクチンが悪さをしていると考え、接種群・未接種群で差がなければ関係なし(たまたまそのタイミングだっただけ)と判断可能なのです。


■ デ・ニーロ主催の米映画祭 “自閉症映画”上映拒否が話題に
2016年4月7日:日刊ゲンダイ
 ハリウッドの大物俳優ロバート・デ・ニーロが主催する「トライベッカ映画祭」は、ハリウッドセレブや映画ファンが集結する華やかなイベントです(現地時間4月13~24日)。ここで上映予定だった「Vaxxed: From Cover-Up to Catastrophe(予防接種・事実隠蔽から破局へ)」が突然キャンセルされ、話題になっています。
 この映画は、予防接種と自閉症との関連を指摘したドキュメンタリーで、監督はイギリスの元医師アンドルー・ウェークフィールド氏です。彼は1998年、「MMR(はしか、おたふく風邪、風疹の新3種混合ワクチン)の予防接種と自閉症が関連している」という研究結果を発表し、世界に衝撃を与えました。
 しかしこの論文は科学的に正しくないとされ、2010年に撤回。ウェークフィールド氏は倫理法に反する治療を行ったなどの理由で、医師免許を剥奪されました。
 一方、論文が与えた影響は大きく、アメリカやイギリスでは我が子に予防接種を受けさせない親が続出し、それが原因とみられるはしかの大流行も起こっています。
 上映決定は、当初から大きな波紋を呼んでいました。しかし自らも自閉症の子供を持つデ・ニーロは「自分にとっても重要な問題。自閉症に関してオープンな対話やさらなる研究のきっかけになれば」と、上映擁護の声明を出していました。
 ところが、その数日後に「詳細に再検討した結果、自分が期待したような対話は生まれないと判断した」という理由でキャンセル。関係者は「アンチ予防接種のメッセージと受け取られることを危惧したのでは?」などと臆測しています。
 アメリカの自閉症児は年々増加し、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は10年の時点で「子供の68人に1人が自閉症」と発表しています。原因が特定されないだけに親の不安は大きく、アンチ予防接種の動きも根強くあります。さらに、予防接種を受けない子供から、自分の子供をどう守るのかも大きな問題となっています。

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天気予防ができる喘息児

2016年04月01日 06時21分27秒 | 気管支喘息
 昔から喘息児は台風が来るのがわかると言われてきました。
 特に、台風が発生、あるいは天気図に入ってくる頃に気づく印象があります。

 下記論文を元にすれば「喘息悪化予測アプリ」が作れそうですね。

■ 天気予報で喘息の増悪が予測できる
ケアネット:2013/11/06
 気象要因と通学状況の組み合わせにより、小児救急科に搬送された小児における喘息増悪が予測できることが、スペイン・バレアレス諸島大学のDavid Hervas氏らにより報告された。Allergol Immunopathol誌オンライン版2013年10月26日の掲載報告。
 小児期に救急科に搬送される喘息増悪は、季節による影響がきわめて大きい。しかしながら、どの季節に増悪が起こるかは、人によってさまざまであるうえに、関係する要因はあまりわかっていない。本研究の目的は、地域病院の小児救急科に搬送された小児において、気象要因と通学状況が、喘息増悪とどのように関係しているのかを調べることである。
 著者らは、2007年~2011年の間に喘息増悪で搬送された、5~14歳の医療記録を後ろ向きに調べた。気象データは研究対象が通う学校にごく近い気象台から収集し、回帰分析により、喘息増悪の回数と気温、気圧、相対湿度、雨量、風速、風向、紫外線、日射量、水蒸気圧の相関を検討した。
 主な結果は以下のとおり。

・試験期間中に喘息増悪で搬送された小児は371人で、年齢の中央値は8歳(四分位範囲は6~11歳)、59%は男児であった。
・喘息増悪は、春と夏にピークを有する二峰性のパターンを示した。
・年間を通じた喘息増悪の最大のピークは年初から39週目であり、これは夏期休暇終了後に新学期が開始してから15日以内の時期であった。
・回帰分析の結果、月間の喘息増悪は平均気温、水蒸気圧、相対湿度、最大風速と通学状況で98.4%(p<0.001)の説明がついた

<原著論文>
Hervas D, et al. Allergol Immunopathol (Madr). 2013 Oct 26.
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