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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「どの県でも適切なアレルギー治療」の体制構築へ議論進む

2018年01月30日 07時23分48秒 | 医療問題
 当院はアレルギー科も標榜しています(院長は一応「アレルギー専門医」ですので)。
 しかし開業医で出来ることは限られています。

 しばしば問題になるのは、食物アレルギーによりアナフィラキシーを起こす患者さん。
 卵や牛乳を摂取すると、じんましんだけではなく、吐いたり咳き込んだりする例は、摂取量が多いとショックまで進行する可能性があります。
 有事の際に人海戦術が取れない開業医では診療は無理(というか患者さんを危険にさらすことになる)です。
 
 すると、医師が複数在籍する総合病院小児科へその管理を依頼することになります。
 しかし当地域では、頼みの総合病院小児科には常勤医が1人しかいません。
 アナフィラキシー症例を紹介すると断られてしまうのが現状です。
 なので当地域のアナフィラキシー症例は、距離の遠い県内外の総合病院へ紹介しています。

 紹介する記事は「どの県でも適切なアレルギー治療」と掲げていますが、残念ながらこの状況を打破する方策とは思えません。
 「診療と研究」「予算」など、大切なこととは思いますが、「目の前にいる患者さんをどうするか?」という末端の現場とは悩む内容が異なりますね。

■ 「どの県でも適切なアレルギー治療」の体制構築へ議論進む 〜厚労省の協議会に予算案を報告
2018/1/26 :日経メディカル
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イナビルの吸入容器が仕様変更 〜部分的に透明化〜

2018年01月30日 07時05分43秒 | 感染症
 吸入製剤は内服と異なり、うまく吸えないと効きません。
 イナビル容器が吸い残しがないか確認できるよう、一部透明になるそうです。
 ただし流通するのは3月とのこと。

■ イナビル®の吸入容器が一部透明に
2018/1/30 :日経ドラッグインフォメーション

[関連情報]
・第一三共:イナビル®吸入容器仕様変更のご案内(医療関係者向け)


オマケです。
イナビル®吸入のピットフォールの記事(日経メディカル)

もう一つ。
イナビル®は薬局で吸入方法を教えてもらい、そこで済ませることが多い薬剤です。
薬局薬剤師が感染対策として行っている工夫を紹介します。
薬局でイナビル®を吸わせるコツ」から;
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佐橋紀男氏のスギ花粉着床状況フィールドワーク2018

2018年01月27日 08時24分32秒 | アレルギー性鼻炎
 佐橋氏は「花粉 Learning」というHPを主催し、長年自分が現場に足を運んでスギ花粉の着き具合を調べる現場派の学者です。
 気象庁やウェザーニュースなどの大手は、近年の飛散実績や前年夏の日照時間などから計算で花粉飛散予想を割り出しますが、やはり「スギが実際にどれだけ花粉を着けているか」という情報に勝るものはありません。
 毎年私は彼の報告記事を待っています。
 なかなか掲載されないと、御高齢のこともあり「健康に何か問題が起きたのかな?」などと心配してしまいます。
 ・・・今年もようやくメディカル・トリビューンに登場しました(元気そうで何より)。
 関東地方のフィールドワークによると、「(千葉県)今年の花粉飛散は過去10年平均および昨年に比べやや多くなる見込み」「(関東地方)おおむねスギ・ヒノキ合算で6,000個の飛散が見込まれ、ところによっては前年の1.5倍程度に達する可能性もある」だそうです。

■ スギ花芽はほぼ全面的に着生-野外調査から
10年平均、昨年よりやや多い飛散か
2018年01月25日:メディカル・トリビューン
 スギやヒノキの枝に着生した花芽の個数や大きさなどを観測する野外調査は、翌年の花粉飛散量を予測する上で大きな手がかりとなる。今年(2017年)11月24日、千葉県富里市において元東邦大学薬学部教授の佐橋紀男氏が実施した花芽の野外調査に同行した。
 調査では、同氏が毎年定点観測しているスギ林の各エリアから40本をサンプルとして抽出し、花芽の着生状況によりA〜Dでランク付けをした(表)。

表. スギ花芽の着生状況


 今回サンプルを抽出したエリアは2カ所で、1つ目のエリアでは着花量が非常に多いAランク12本、やや多いBランク19本、やや少ないCランク9本、着花がほぼ見られないDランク0本であった。
 2つ目のエリアではAランク5本、Bランク21本、Cランク10本、Dランク4本であった。
 観測したスギ林の全体的な傾向としては、枝に鈴なり状で花芽が密に着生しているような樹木はあまり見られなかったが、多数の花芽が全面的に着生している樹木は少なからず見られた。
 また、花芽の大きさを計測したところ、最長でも直径6mm程度で,7mmを超える大粒の花芽は観測されなかった。  観測結果について、同氏は「Aランクのスギが少なからずあり、Bランクに関しては一定数確認できた。観測エリアの日射条件なども勘案すると、来年の花粉飛散は過去10年平均および昨年に比べやや多くなる見込みである」と解説した。なお、NPO花粉情報協会の調査によると、富里市に比較的近い船橋市における来年の花粉飛散予測は9月27日時点で6,401個/cm2/season(以下、個)である。



 同氏は富里市だけでなく、多摩地区をはじめ関東地方の複数の地域で同様の観測を実施しており、それらの結果も勘案すると、同地方では来年、おおむねスギ・ヒノキ合算で6,000個の飛散が見込まれ、ところによっては前年の1.5倍程度に達する可能性もあるとした。
 さらに、今年8月に関東地方で確認された記録的な長雨や日照時間の不足について、「花芽の成長に影響を及ぼしたことは確実で、5~10年に1度発生するような、花粉の大量飛散が予測されるほどの花芽の大きさや着生状況ではない」と補足した。
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海外旅行後の体調不良は「持ち込み感染症」を疑え!

2018年01月26日 08時30分31秒 | 感染症
 グローバル化した世界の視点で、国内の感染症対策をみつめる必要があります。
 それは「入国・帰国者による持ち込み感染症(輸入感染症)」です。
 風疹に関する記事を紹介します;

■ 海外出張後の体調不良が思わぬ感染源に〜抗体保有率低い男性群の風疹が依然問題
2018.1.24:メディカル・トリビューン
 2月4日は"風疹(ゼロ)の日"。同月いっぱいを"風疹ゼロ"月間と定め、妊婦の風疹ウイルス感染を防いで先天性風疹症候群(CRS)児の出生をゼロにし、風疹の完全制御を目指す活動が始まる。風疹ゼロプロジェクト作業部会代表で日本産婦人科医会常務理事の平原史樹氏は、抗体保有率が低い30~50歳代の男性で風疹ワクチンを接種せずに海外出張し、帰国後体調不良を自覚しつつも出社して出張先で感染した風疹を妊娠中の女性に二次感染させた事例を紹介。国と医療従事者、企業が一体となって風疹対策に取り組む必要性を、1月17日に東京都で開かれた同医会記者懇談会で訴えた。(関連記事「男性の海外出張による"輸入感染症"、児の先天風疹症候群の原因に」)

◇ 依然として日本は風疹流行の準備状態
 風疹ゼロプロジェクトは、昨年(2017年)2月に日本産科婦人科医会を中心に開始され、
①麻疹・風疹(MR)混合ワクチン接種の啓発活動を全国規模で推進
②適切なワクチン接種の推進策を提言
③ワクチン未接種者の低減に向け有効な方策を発信
―を行うプロジェクトである。
 これまで風疹は反復流行し、多くのCRS児が出生した。依然、日本は流行の準備状態にあり、大規模な国際交流イベントの開催時に大流行する傾向が見られる。日本では2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えていることから、厚生労働省は同年までに風疹の排除を目標としている。
 風疹ゼロプロジェクトは、昨年に引き続き今年も次の4つのスローガンを掲げた。

1.海外に出かけるなら風疹の用心と万全の対策を!
2.海外から帰国後の体調異変はもしかしたら風疹かも! 診察を受けてから職場へ
3.30~50歳代の男性は風疹への抵抗力が弱い人が多く、ぜひMRワクチンを接種してください(かかりつけ医、職場健康相談で尋ねてください)
4.妊娠を考えているおふたりへ風疹対策は大丈夫ですか? 予防接種は妊娠前に忘れずに!
(各市町村で風疹抗体検査女性事業が実施されています―詳しくは保健所へ)


◇ CRS の約7割は職場での二次感染が原因
 スローガンの主なポイントは、海外渡航者へのワクチン接種と帰国後の体調管理の推奨にある。現在38歳6カ月以上の男性(1979年4月2日以前に出生)と55歳6カ月以上の女性(1962年4月2日以前に出生)は風疹含有ワクチンの定期予防接種制度の対象ではなく、接種の機会がなかったため抗体保有率が低い。特により海外出張の機会が多い男性が、風疹の流行国であるインド、中国、インドネシアに渡航した場合、感染しやすい。
 帰国後、体調不良を感じても風疹感染に気付かずにかぜだと思い込み、受診せずに出社することで、感染を拡大させてしまう。
 2012/13年の風疹の流行時に公表されたCRS出生児数は45例に上った。しかし、平原氏は「45例はあくまで公的にCRSと認定された患児の数で、実際のところは分からない。人工妊娠中絶を余儀なくされた妊婦も存在した」と述べた。 同氏によると、45例中約7割は職場での二次感染によるものだったという。それにもかかわらず大々的な報道はされず、渡航者の風疹ワクチンの接種率は高くない。 今年はスローガンに、MRワクチン接種が必要な年齢層を具体的に示し、接種を呼びかける。
 なお、"風疹ゼロ"プロジェクトの協力要請組織・共同行動組織・機関には、厚労省、経済産業省、外務省、国立感染症研究所、日本医師会、関連学会の他、妊娠中に風疹に罹患して出産した母親とCRSの当事者グループ・風疹をなくそうの会など多数の組織が名を連ねている。


<参考>
□ 「麻疹・風疹の現状と対策ー輸出国から輸入国へー」(2017.11.5岡部信彦先生講演スライド)
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花粉飛散調査隊「ポールンロボ」、始動準備

2018年01月26日 08時20分03秒 | 花粉症
 私は春の花粉症シーズンのリアルタイム情報を知りたいときにウェザーニュースのHPをよく閲覧します。
 これは、全国の協力者がウェザーニュースから配布された機械「ポールンロボ」を設置して情報を送るというシステム。タイムラグがないので、今の自分の症状が花粉によるものかどうか、判断しやすくなります。
 ことしもその「ポールンロボ」の発送が始まりました;

■ 花粉観測機「ポールンロボ」、全国1,000の企業や家庭に発送中!



2018年1月25日 By ロボスタ編集部
 株式会社ウェザーニューズは、花粉シーズンを目前に控えた今日、全国の花粉症の家庭に向けて、独自に開発した花粉観測機「ポールンロボ」を順次発送していることを発表した。同社は、一般ユーザーとともに花粉症に立ち向かう「花粉プロジェクト」を2005年から実施しており、今年も全国のご家庭や病院、企業に約1,000台の『ポールンロボ』を設置していく予定だという。
 「ポールンロボ」は空気中に含まれる花粉をカウントし、観測した花粉量に応じて目の色を「白」「青」「黄」「赤」「紫」の5段階に変化させる。「ポールンロボ」が観測した花粉飛散量の観測データは、スマホアプリ「ウェザ—ニュースタッチ」やウェブサイトの「花粉Ch.」にて、設置が完了した所から順次公開されていくという。
 ウェザーニューズでは、この観測データと気象データ、そして全国の花粉症の方々から届く症状の報告を合わせて、毎日の花粉予報など各種花粉コンテンツに活用していく。中でも「花粉対策アラーム」では、毎朝その日の予想飛散量や一人ひとりの症状にあった花粉対策を、臨時で大量飛散や花粉シーズンの開始・ピークの情報を、スマホにプッシュ通知でお知らせする。
 今シーズンの花粉は、2月初めに九州南部や関東を中心に飛散が始まり、西・東日本の広範囲で飛散ピークを迎えるのは、スギ花粉は3月上旬、ヒノキ花粉は3月下旬~4月中旬の予想されている。飛散量(全国平均)は、2017年夏と秋に天候不順が続いたこともあり、平年の65%、2017年の75%と少なくなるという。「ただ、強風時や雨の翌日は一時的に大量飛散の恐れがあるため、油断せず備えが必要です」とウェザーニューズは伝えている。

◇ 目を光らせて花粉飛散量を伝える「ポールンロボ」
 「ポールンロボ」は直径約15cmの球体で、人の顔に見立て、目、鼻、口がかたどられている。口の部分からは成人の呼吸量と同量の空気を吸い込み、人の呼吸時とほぼ同量の花粉を観測できるように設計されている。「ポールンロボ」の目の色は、観測した花粉の量によって「白」「青」「黄」「赤」「紫」の5段階で変化し、設置場所の花粉飛散量がひと目でわかるようになっているという。なお、今年は無線LAN対応版のポールンロボを増強し、一部にPM2.5センサーをテスト搭載している(PM2.5のデータを閲覧することはできない)。



 この「ポールンロボ」は、2017年11月13日までに設置の応募をした方の中から、選定された1,000名に送られている。
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「母乳とくすりハンドブック第3版」(大分県)

2018年01月25日 15時34分42秒 | 医療問題
 日本のほとんどの医薬品添付文書には「本剤投与中は授乳を避けさせること」「授乳を中止させること」とあり、約9割の薬物が授乳婦に投与できません。
 その理由は、投与した薬物がヒト・動物において乳汁中への移行があれば、「本剤投与中は授乳を避けさせること」「授乳を中止させること」と記載されるためです。
 しかし一方で、乳汁中への薬物移行の評価に用いられるのが相対的乳児投与量(RID)※2で、10%以下なら安全に投与できる、という考え方もあります。

 その辺をどう調整していくか?
 厚労省も重い腰を上げ、2019年に添付文書の記載方法を変更することを発表しました。
 大分県の取り組みに関する記事を紹介します。

■ 授乳中の薬剤の安全性に混乱〜「母乳とくすりハンドブック」で共通認識目指す
2018年01月22日:メディカル・トリビューン
 授乳中の患者に「薬を飲んでも大丈夫か」と問われた経験がある医師もいるだろう。安全性の科学的根拠はあっても、医療用医薬品の添付文書では授乳婦への投与を禁じているケースが散見され、医療者が混乱する要因になっている。こうした事態を受け、大分県「母乳と薬剤」研究会※1は「母乳とくすりのハンドブック」を作成し、認識の共有化に努めている。日本産婦人科医会理事の松岡幸一郎氏は、1月17日に東京都で開かれた記者懇談会で、授乳中の薬物療法に対する正しい認識を呼びかけた。

◇ 母乳育児を推進・支援を
 母乳育児による児へのメリットとして、母乳に含まれる分泌型IgAなどの免疫抗体により消化器・呼吸器系の感染症に罹患しにくくなり、成長・発達を促すことの他、近年、母親からの虐待やネグレクトを防止し、母子関係を良好にすることが報告された(Pediatrics 2009; 123: 483-493)。また授乳は、母親の生活習慣病の発症予防にもなる(Obset Gunecol 2009; 113: 974-982)。
 そのため、松岡氏は「母乳育児を推進し、それを継続できるよう支援することが医療関係者に求められる」と述べた。 授乳婦が薬物療法を受ける際に気にするのが児への影響だ。愛知県の2006年度地域保健総合推進事業報告書によると、妊娠・授乳中の患者の約半数(793例中52%)は安全性を不安視しており、うち約70%が医師に相談したという。一方、妊娠・授乳中の患者から相談を受けた小児科医(75例)は、1年間で平均15件の相談を受けており、中には200件と回答した医師もいた。

◇ 安全でも添付文書に「授乳を避けさせる」「授乳を中止させる」
 前述の報告書では、医師が安全性を確認する情報源として最も多いのは医薬品添付文書で、次いで製薬企業、書籍、米食品医薬品局の順であった。
 添付文書では表現方法が定められており、ヒト・動物において乳汁中への移行があれば、「本剤投与中は授乳を避けさせること」「授乳を中止させること」と記載される
 乳汁中への薬物移行の評価に用いられるのが相対的乳児投与量(RID)※2で、10%以下なら安全に投与できる。
 例えば抗インフルエンザウイルス薬オセルタミビルの場合、同薬が乳汁中に移行したが、児で有効性を示すと考えられる濃度よりも有意に低かった(Am J Obster Gynecol 2011; 204: 524e1-4)。2009年の新型インフルエンザの世界的流行において、日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会は、妊婦・授乳婦には抗インフルエンザ薬を早期に投与するようガイドラインにまとめたところ、日本では妊婦の死亡例が世界で唯一認められなかった。
 しかし、同薬の添付文書には「授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。[ヒト母乳中へ移行することが報告されている。]」とある。松岡氏は「添付文書で判断するなら、薬剤の9割は授乳婦に投与できない」と指摘。医療従事者側の安全性に関する認識の違いが、授乳婦に大きな不安をもたらし、本来治療が必要な患者が不利益を被ることになると述べた。

◇ 第3版では827品目を収載
 こうした事態を受け作成されたのが「母乳とくすりのハンドブック」だ。
 そこでは薬剤を4つのカテゴリーに分類し、大分県内の医療関係者における母乳と薬剤の安全性に関する共通認識の普及を目指している。

◎(安全):授乳婦で研究した結果、安全性が示されている。疫学情報はないが、乳児に有害事象を及ぼさないとされる薬剤
○(危険性は少ない):授乳婦での研究は限定的だが、乳児へのリスクは最小限である。疫学情報はないが、リスクを証明する根拠がない薬剤
△(注意):乳児に有害事象を及ぼす可能性があり注意が必要である(推奨されない)。安全とされる薬剤への変更を考慮すべき薬剤
×(禁忌):薬剤の影響がある間は授乳を中止する必要がある。安全性を示す情報がなく、リスクが解明されるまで回避すべき薬剤


 2010年の初版における薬剤は284品目(◎97品目、○138品目、△38品目、×11品目)、第2版では683品目(同273品目、303品目、71品目、34品目)であった。第2版に収載された薬剤を添付文書で検討すると、約67%が「授乳中止」と記載された薬剤であるという。 昨年3月に第3版が発刊され、ワクチンを含む827品目が収載された。「母乳とくすりのハンドブック」は県内のみならず、全国規模でニーズが高い。

◇ 添付文書の記載方法が変わる
 昨年、厚生労働省は、医療用薬品の添付文書の記載要領を改正したと発表した。 廃止されるのは「原則禁忌」「慎重投与」の他、「高齢者への投与」「妊婦、産婦、授乳婦への投与」「小児への投与」の記載で、いずれも投与対象は新設された「特定の背景を有する患者に関する注意」に含まれる。また注意事項の記載については、乳汁移行性だけでなく薬物動態や薬理作用から推察される哺乳中の児への影響を考慮し、必要事項を記載できるという。
 施行は2019年4月1日を予定しており、施行されれば治療の継続が必要な授乳婦において不必要な薬剤中止または授乳の中止が回避できそうだ。

※1 大分県産婦人科医会、大分県小児科医会、大分県薬剤師会によって2009年に設立された
※2 母親に投与された薬剤量(mg/kg/日)分の乳児が母乳から摂取する薬剤量(mg/kg/日)×100%
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5年ぶりに改訂した小児喘息ガイドライン(JPGL2017)

2018年01月23日 06時02分10秒 | 気管支喘息
 日本の小児喘息ガイドライン(GL)が改定されました。
 私はアレルギー専門医ですが、GLをあまり読みません。
 なぜかというと、GLが作られる前から小児喘息診療をしてきた私にとっては「GLが臨床現場にだんだん近づいてきた」歴史だからです。言い換えると、世界標準の欧米GLと実際の日本の喘息診療とを比べながら、その中間を記してきた歴史でもあります。

 さて、今回の出来はどうでしょうか?
 日経メディカルの紹介記事から(下線は私が引きました);

■ 5年ぶり改訂の小児喘息ガイドライン、どこが変わった?
 小児喘息へのツロブテロール貼付剤は2週間まで
 LABA単剤での処方はNGに、乳幼児喘息での診断的治療を明記

2018/1/23 :日経メディカル


私の印象を○△×で表すと・・・

[全体]
(○)Minds方式に準拠し、長期管理に関する薬物治療、急性増悪(発作)への対応から8つのクリニカルクエスチョンを設定し、エビデンスに基づいて推奨度とエビデンスレベルを記載。
(○)2歳未満の「乳児喘息」を削除し、5歳以下をひとくくりとして「乳幼児喘息」に。小児喘息を5歳以下と6~15歳の2区分に整理。
(△)「喘息発作(asthma attack)」という用語を「喘息の急性増悪(発作)(acute exacerbation)」へ変更。

[長期管理に関する薬物療法]
(○)吸入ステロイドの成長抑制への影響などについてクリニカルクエスチョンで解説。
(○)長時間作用性β2刺激薬の経口・貼付薬を長期管理薬から外し、新たなカテゴリーである「短期追加治療」に用いる薬として位置付け。
(△)長時間作用性吸入β2刺激薬の単剤使用を長期管理薬から外し、吸入ステロイドとの配合薬のみを推奨。
(○)長期管理に関する薬物療法プランのステップ4の追加治療(6~15歳)に抗IgE抗体を追記。
(○)乳幼児に対する「診断的治療」を推奨。

[急性増悪(発作)への対応]
(△)短時間作用性β2刺激薬の吸入液の推奨使用量を増加。5歳以下は0.3mL、6~15歳は0.3 ~0.5mLに。
(○)急性増悪(発作)の強度と治療との関係をより簡便に捉えられるように、新たに「治療のための発作強度判定」の表を作成。


おおっ、結構高評価ですね。
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インフルエンザ最新知識アップデート2018

2018年01月20日 07時27分15秒 | 感染症
 インフルエンザ最新知識のアップデート。
 Lancet セミナーを解説した記事を紹介します。

 注目すべきは、学童集団接種に対する評価の変遷です。
 かつて日本では、小中学校で強制的にワクチン接種が行われていました(1962年〜1987年)。しかし副反応事例にマスコミ、市民が過剰反応し、1987年以降、任意接種となりました。

 そして何が起こったか?

 老人施設の集団感染&死亡、小児のインフルエンザ性脳症の増加・・・

 日本の集団接種が忘れ去られそうになってから、これを科学的に分析して評価したのは米国の研究者でした。日本の厚生労働省の死亡統計を詳しく調べ上げて書かれた論文は「小児に集団接種をすることにより、高齢者をも守っていた」ことを明らかにしました。
 これを専門用語で「集団免疫効果」(herd immunity)といいます。
 つまり、小・中学生がワクチン接種によりインフルエンザにかからなかったことにより高齢者もかからず、そしてこれは高齢者の肺炎死亡を抑制していたのです。
 しかし、ワクチンの副反応を大々的に喧伝したマスコミはこの論文を完全に黙殺し、一切話題にはなりませんでした。
 ワクチンをしないことによる死亡者の増加の責任の一端はマスコミにあります。

■ 抗インフルエンザ薬は、重症者で肺炎・入院減らす!
 西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
2018年01月18日:メディカル・トリビューン)より、一部抜粋(下線は私が引きました)

 昨年(2017年)秋、小生もインフルエンザワクチンの接種をしました。Lancet(2017; 390: 697-708)にインフルエンザのセミナーがありましたのでまとめてみました。世界最新のインフルエンザ知識です。
  最重要点は次の8点です。

【Lancetセミナー「インフルエンザ」の8つの最重要点】
1.世界的流行を起こすのはインフルエンザAでありBは起こさぬ
2.インフルエンザの平均再生産数は1.28(1人が1.28人にうつす)
3.インフルエンザ診察はサージカルマスク着けよ。気管支鏡ではN95
4.ウイルス排出は発症初期1、2日がピーク、この時期にswab検査せよ
5.抗インフルエンザ薬は発症48時間内が効果的、健康成人で症状を1日未満短縮
6.抗インフルエンザ薬は重症患者で肺炎(RR 0.56)、入院期間(同0.37)を減らす
7.予防に最も効果的なのはワクチン!65歳以上、妊婦、小児、免疫不全、医療者で推奨!
8.ワクチン株と流行株が一致すればワクチン有効率は50~60%


 インフルエンザ予防に最も効果があるのはワクチンです。かつて日本では、インフルエンザに対し、1962年から1987年まで小中学校で強制的にワクチン接種が行われていました。しかし副反応事例にマスコミ、市民が過剰反応し、1987年以降、任意接種となりました。
  これがどのような恐るべき結果を引き起こしたか、なんと米国の研究者(日本人の共同研究者もいる)によりN Engl J Med(2001; 344: 889-896)に発表されました。それが次の論文です。日本の厚生労働省の死亡統計を詳しく調べ上げて書かれた論文です。
"Reichert TA, et al. The Japanese Experience with vaccinating schoolchildren against influenza"
 この要点は次の3つです。
 ① 日本でインフルエンザワクチン接種は1962~87年まで学校で強制的に行われた
 ② 1987年の中止により日本の全死亡率および高齢者の肺炎死亡率が上昇した
 ③ ワクチン強制接種は群免疫(herd immunity)により高齢者死亡率を抑制していた

 つまり、小・中学生がワクチン接種によりインフルエンザにかからなかったことにより高齢者もかからず、そしてこれは高齢者の肺炎死亡を抑制していたのです。 小生自身もかつては、インフルエンザワクチン接種は意味がないと思い込み、患者さんに勧めることはありませんでした。しかしこの論文を見て、このことで多くの高齢者たちを死に追いやっていたことを知り驚愕、深く反省しました。
  2001年にこの論文を読んだとき、これは国内で大問題になると思いました。しかし、マスコミはこの論文を完全に黙殺し、一切話題にはなりませんでした。

1.世界的流行を起こすのはインフルエンザAでありBは起こさぬ
 インフルエンザは過去100年に4つのpandemics(世界的大流行)を起こしました。
 なおendemic、epidemic、pandemicの言葉の定義は次の通りです。
 ・Endemic : 風土病。特定の地域で発症する病気
 ・Epidemic : 流行病。地域で一時期に多数の発症
 ・Pandemic : 世界的流行病。国中または世界中で発症
 インフルエンザAとBはepidemic (流行病)を起こしますが、Aは散発的に pandemic(世界的流行)を起こします。
 過去、世界的流行には下記4回がありました。いずれもインフルエンザAです。
 ・1918年 H1N1 Spanish influenza、世界で2,000~4,500万人死亡(1977年に再発生したが pandemicにならなかった)
 ・1957年 H2N2 Asian influenza
 ・1968年 H3N2 Hong Kong influenza:この罹患率、死亡率が最も高い
 ・2009年 H1N1 swine influenza

2.現在の流行はインフルエンザAのH3N2(死亡率高い)とH1N1
 現在、世界で流行しているのは、1968年のH3N2インフルエンザAと、2009年にpandemicを起こしたH1N1 swine(豚)インフルエンザAで、インフルエンザBとともに流行しています。"Swine"(スワイン、豚)はドイツ語では"Schwein"(シュバイン)と言います。
 小生が先日接種したインフルエンザ株を調べたところ、次の4つの株が入っていました。 H1N1のswineインフルエンザも入っています。インフルエンザ株の記号の意味は次の通りです。

【ウイルスのタイプ(A、B)/最初に分離された場所/株の番号/年号/HAとNAの亜型】
 ・A/シンガポール/GP1908/2015(H1N1)pdm09
 ・A/香港/4801/2014(H3N2)
 ・B/プーケット/3073/2013(山形系統)
 ・B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)

 1995年、米国陸軍病理研究所でスペイン・インフルエンザにより死亡した患者の肺標本からウイルス遺伝子が分離されH1N1であったことが分かりました。
 『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(速水融著、藤原書店、2006年)という本があります。日本全国と、当時日本領だった朝鮮、樺太の新聞を丹念に調べ上げた力作です。日本のスペイン・インフルエンザ流行についてまとまった本としてはこれしかないと思います。
 日本内地だけで約50万人の死者(当時の人口が5,500万人)、世界全体で2,000万から4,500万の死者(世界人口20億人)と推定しています。第一次世界大戦の死者が約1,000万ですから、死者はそれよりもずっと多かったのです。
 スペイン・インフルエンザは世界的に流行したのですが、戦争当事国はこれを報道せず、中立国だったスペインのみが報道したため、「スペイン・インフルエンザ」の名になったのだそうです。
 日本国内のスペイン・インフルエンザですが、愛媛県の「海南新聞」によると、松山市では人口6万のうち、罹患者は2万~2万5,000に達し、高熱の患者の熱冷ましに大量の氷の需要が生じて価格が高騰、1貫(3.75kg)12~13銭だったのが50銭~1円で取り引きされたとのことです。
 大正7年11月、大阪市では死亡者の大幅な増加により平時は3つの火葬場で1日70~80体を焼却していたのが、120体以上の処理が必要となり死体を堆積せざるをえなくなりました。また葬儀夫も罹患し、火葬自体が困難となり、大阪駅から地方へ死体を送ったとのことです。
 大阪医科大学助教授がインフルエンザ後の肺炎で死亡しましたが、翌日遺言により解剖が行われ、肺全体が侵されていることが分かりました。演出家、島村抱月(『カチューシャ可愛や』のカチューシャの歌の作詞者)もインフルエンザ後の肺炎で死亡、その愛人の松井須磨子が後追い自殺をしています。
 Lancetのセミナーによると、インフルエンザ関連肺炎は1957年のpandemicで報告されましたが、1918年時点でも存在が推測されていました。そもそも1918年の時点でインフルエンザがウイルスによるとは分かっていなかったのです。
 インフルエンザウイルスによる肺炎の画像は、両側びまん性浸潤影で喀痰培養は陰性です。死亡率は高く、剖検では壊死性気管支炎、硝子膜、肺胞出血・浮腫、間質の炎症があります。
 一方、インフルエンザ後の細菌性肺炎は、1918年に報告されました。2009年のH1N1のpandemicの死亡は細菌性肺炎が多かったそうです。インフルエンザの症状が治まった後、4~14日目に発熱、呼吸困難、湿性咳嗽、肺陰影が出現します。つまり2峰性の発熱が起こったらインフルエンザ後の細菌性肺炎を疑うのです。
 細菌で多いのは、肺炎球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、Haemophilus influenza、 Streptococcus species、グラム陰性桿菌などです。無論、ウイルスと細菌性肺炎の合併も起こりえるし、インフルエンザで細気管支炎やクループ、 COPD悪化、喘息再燃も起こります。
 1918年のスペイン・インフルエンザ(H1N1)流行時、群馬県の「上毛新報」によると、「・・火葬場に於いては友引でも寅の日でも、満員の有様で、毎日二つや三つ取り残されぬことはなく、棺を送っていく職人や人夫などは、焼場成金が出来るの、医者成金が出来るのと騒いでいるが、其のお医者様さへも大分遣られて奥さんや子供の冒されているのもあって、もう医者なんかやめたくなったと熟々とこぼして居る先生もある」とのことでした。
 大正8年の北海道の「北海タイムス」によると、「東京電報:悪性感冒で全村惨死 残る者唯六人。福島県若松市近くの人口276人の1は村民皆インフルエンザに罹り270人は無残の死を遂げ一村全滅の形なり」とあります。大正9年6月6日の同紙では、択捉(エトロフ)島では、「死体を原野に運び山積して火葬す。惨状目もあてられぬ」とのことでした。

3. AとBはantigenic driftで小変異起こし、Aのみがantigenic shiftで大変異
 インフルエンザAが次々と変異していく理由は、インフルエンザの遺伝子は単鎖RNAでDNAに比べ非常に不安定であるためです。インフルエンザAとBは抗原連続変異(antigenic drift)といって、抗体結合部位で遺伝子の点変異(point mutation)が蓄積しワクチンが効かなくなります。
 一方、インフルエンザAのみで起こるのが抗原不連続変異(antigenic shift)といって2種以上のウイルス株が結合して新しいsubtypeができます。例えばH1N1とH3N2から、H1N2やH3N1ができるのです。新株ですから人口の多くは免疫を持ちません。これがインフルエンザBでなくAが世界的流行を起こす理由です。
 温帯ではインフルエンザは毎年季節的にepidemic(流行)を起こしますが、熱帯では通年で起こり発生の予測ができないのだそうです。

4. インフルエンザの平均再生産数は1.28
 このセミナーによると、インフルエンザの流行は平均再生産数(reproductive number;1人が平均何人に感染させるか)1.28で発病率(attack rate:cumulative incidence)は10~20%だそうです。インフルエンザ患者1人が平均1.28人に感染させるという意味です。
 この平均再生産数の意味がよく分かる論文がN Engl J Med(2014; 371: 2083-2091)にありました。 "Ebola Virus Disease in Democratic Republic of Congo,"(コンゴ民主共和国のエボラ熱)です。
 コンゴでのエボラ熱発症は2014年7月26日に始まりました。Boende という町の近くの村です。発端者(index patient といいます)は妊婦でした。 この女性の夫が死んだ猿を拾ってきたので食用のため、女性が解体したところ、7月26日にエボラ熱を発症、この女性は8月11日に死亡しました。
 医師と補助者3人が、亡くなった妊婦の死体の帝王切開を行い、胎児を取り出して別々に埋葬しようとしたのですが、この 4人全員がエボラ熱を発症、死亡したのです。7月26日から10月7日までにエボラ熱は69名(確定38、おそらく28、疑い3)発症しました。
 平均再生産数は1.29(95%CI 4.71~7.29)でした。しかし発端者からの最初の21人の感染者数を除くと、0.84(95%CI 0.38~2.06)で、感染継続する1より小さく自然終息することになります。0.84なので8月中旬から発生が減少し、10月4日に最後の患者が発生した後は 発症はありませんでした。 なるほど、感染継続するかどうかはこうやって計算するのかあと感心しました。

 当、西伊豆健育会病院の内科医が、各疾患の平均再生産数を教えてくれました。出典は国立感染症研究所感染症情報センターです。「基本再生産数」は感染者1人が免疫を持たない集団で何人にうつすかです。「集団免疫率」は感染拡大阻止に必要な免疫保持者の割合です。


(国立感染症研究所感染症情報センター)

 麻疹、ムンプス、百日咳の感染力ってすごいんだなあと驚きました。麻疹患者が1人いると16人から21人に感染するのです。麻疹や水痘は空気感染します。空中に漂っていますから近づくだけで感染するのです。インフルエンザは、人口の50~67%が免疫を持っていないと、流行を抑えられません。ワクチン接種の重要さが分かります。
 水鳥(waterfowl: 特にカモ)や岸辺の鳥(シギ、サギ)はインフルエンザAの天然のreservoir (保有動物)です。水鳥でインフルエンザは呼吸、消化管感染を起こし腸管で増殖して糞により水が汚染されます。これにより家禽(ニワトリ、アヒル、ガチョウ、七面鳥)に伝染します。 外来の患者さんに養鶏場で働いているお婆さんがいます。卵を産まなくなったニワトリをどうしているのか聞いたところ、たまげたのは、そういうニワトリは味が悪いので食肉にはならず、なんと動物園のライオンの餌になるのだそうです。まるでネロに迫害されたキリスト教徒です。
 インフルエンザウイルスは細胞を出るとき、膜を拝借して殻を被ります。他人の家を出るとき、傘を失敬するようなものです。この殻表面にはヘマグルチニン(haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(neuraminidase)の2種類の棘がたくさんあります。ウイルス自体は細胞に直接侵入することができません。ウイルスと細胞の仲介をするのがシアル酸(sialyloligosaccharides)です。殻のヘマグルチニンが細胞表面の糖蛋白であるシアル酸に接着して初めて細胞内に侵入できるのです。ノイラミニダーゼは、ヘマグルチニンを溶かして増殖したウイルスを放出するものです。ノイラミニダーゼ阻害薬(商品名タミフル、リレンザ、ラピアクタ)はこれの阻害薬です。
 ヘマグルチニンはH1からH16まで16種類、ノイラミニダーゼはN1からN9まで9種類あります。この組み合わせで「H〇N〇」は144種類できます。 一方、インフルエンザBはVictoriaとYamagataの2種あり、動物のreservoir(宿主)はありません。

5.ウイルスの細胞接着はヒトでα2,6、鳥はα2,3シアル酸、豚は両者を介する
 ウイルス表面のヘマグルチニン蛋白は宿主細胞表面のシアル酸の受容体に接着します。ヒトのインフルエンザウイルスは、特にヒトの上気道にあるα2,6-linked sialyloligosaccharidesに好んで接着し、一方、鳥インフルエンザウイルスは下気道に多いα2,3-linked sialyloligosaccharide受容体に接着します(α2,6と2,3の違いに注意)。
 ヒトと鳥では、シアル酸がα2,6とα2,3で異なるので普通、鳥インフルエンザはヒトに感染しません。ただ、皆無ではありません。しかし鳥インフルエンザがヒトに感染した場合、ヒト‐ヒト感染は起こしにくいのです。
 例えば、1997年に香港で3歳児が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こし完全な鳥インフルエンザウイルスH5N1 avian influenzaが分離されました。2016年10月にもインドネシア、ベトナム、エジプトなどで856例発生、452例の死亡が起こりました。これは家禽の(butchering)、羽抜き(defeathering)、病鳥の摂取、生鳥の市場などで感染家禽に接したことによります。H5N1のヒト-ヒト感染も見られましたが、その感染維持は起こりませんでした。
 2013年以前はH7亜型(H7N7、 H7N3、H7N2)は軽症でした。2013年、新たにH7N9が中国で出現、以後毎年出現し2016年10月3日までに798例の報告、320例の死亡例が報告されました。ほとんどは家禽からの感染でしたが、まれにヒト-ヒト感染もあり重症の呼吸器感染を起こしました。多くはオセルタミビル(タミフル)感受性であり推奨です。
 一方、豚には気道にα2,6とα2,3シアル酸の両方が見られ、豚には鳥もヒトインフルエンザも感染するのです。先週、小生が接種したワクチンには、A/シンガポール/GP1908/2015(H1N1)pdm09が入っていますが、このH1N1は豚(swine)インフルエンザでもあります。豚にインフルエンザをうつされるのかと思うと、あまりいい気持ちはしません。
 豚で起こすのはH1N1、H3N2、H1N2です。豚インフルエンザAはヒトに感染し、これらのウイルスは"variant virus"といわれ末尾にvを付けるのだそうで、H3N2v、H1N2vが米国で見られました。特に豚と接して起こりヒト-ヒト感染も報告されましたが、多くは小児での感染でした。年とともに交叉反応抗体が増えるために成人には起こりにくいと思われます。  

6.インフルエンザ診察はサージカルマスク着けよ。気管支鏡はN95
 インフルエンザウイルスはヒト-ヒト感染が効率的に起こります。感染は空気感染(aerosol)、飛沫感染(droplet)、接触感染(contact transmission)の3つによります。くしゃみや咳で直径0.1~100μmの感染粒子が排出されて飛沫感染が起こります。このくしゃみや咳で感染するのが飛沫感染(droplet transmission)です。この飛沫は急速に乾燥して5μm以下になり数分から数時間空中を漂います。これを吸入して感染するのが空気感染(air transmission)です。結核、麻疹、水痘は空気感染で、くしゃみ、咳をされなくても部屋に入っただけで感染します。インフルエンザは空気感染も起こり飛行機内で数時間換気システムが壊れ53人中、38人(78%)が発症した報告があるそうです。
 空気感染で有名なのは、特に結核、麻疹、水痘です。当、西伊豆健育会病院の内科医は、これを「ケツに麻酔(結、麻、水)」と覚えています。下品ですが、くやしいけど一発で覚えられます。ただし、結核は空気感染だけですが、麻疹と水痘は飛沫感染、接触感染も起こしえます。
 結核は空気感染なので、個室隔離が必要です。患者にはサージカルマスク、医療者はN95マスクを着けて入室します。しかし、結核には飛沫感染や接触感染はないので、ゴム手袋や、ゴーグル、ガウンテクニックは不要なわけです。
 くしゃみ、咳で出た大きな粒子は、周囲2~3mに付着し、インフルエンザは接触感染も起こします。インフルエンザウイルスは手の表面でも短時間残存しますし、周囲の非多孔質(すべすべした)表面なら48時間くらい感染力があるそうです。
  WHO、米疾病予防管理センターではインフルエンザ患者のケアでは医療者にサージカルマスク着用を推奨しています。換気がよければサージカルマスクで伝染はたいてい防げるそうです。インフルエンザ患者を外来で見るときは、サージカルマスクを着けましょう。気管支鏡、挿管では術者はN95かレスピレーターを着用すべきだとのことです。

7.ウイルス排出は発症初期の1~2日がピーク、この時期にswab検査せよ
 インフルエンザの症状は、潜伏期1~2日で、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、倦怠感(malaise)、食欲不振があります。発熱が最も重要で最初の24時間で最高41℃にもなります。 発熱などの全身症状は典型的には3日続きますが8日まで長引くことがあります。
 呼吸器症状としては、乾性咳嗽、鼻汁、咽頭痛。眼科症状には、羞明、結膜炎、流涙、眼球運動痛があります。熱が治まっても咳、倦怠感は2週間続くことがあります。小児では成人より発熱は高いことがあり熱性痙攣も起こります。またcroup、bronchiolitis, bronchitis、消化管症状も起こりえます。また小児ではふくらはぎの激しい筋肉痛や、筋炎を起こしやすいとのことです。
 インフルエンザの身体所見は顔面紅潮、粘膜発赤、透明鼻汁、結膜充血、頸部リンパ節腫脹があります。25%でdiffuse rhonchiやralesもあります。咽頭所見の名著『アトラスさくま(第2版)』(佐久間孝久著、丸善プラネット、2008年)によると、インフルエンザの咽頭所見は、「シレッとして、あまり所見がない」とのことです。そう言われれば確かにそう思います。
 インフルエンザの診断はその症状の多彩さから、症状からの診断は困難です。流行していて発熱と咳があり見た目が重ければ疑います。ウイルス排出(viral shedding)は典型的には潜伏期から始まり、発症の最初の1~2日にピークがあり減少し1週で消失、臨床症状の激しさとよく相関します。無症候性の場合、ウイルス排出はよく分からないそうです
 インフルエンザテストはウイルス排出の多い初期にnasopharyngeal swab、nasal wash、nasopharyngeal aspiratesで行います。Rapid antigen detection(immunochromatogenic assay)の感度は59~93%、Viral cultureとRT-PCRの感度は100%近いとのことです。
 インフルエンザで肺炎も起こりますが、筋炎、横紋筋融解もまれに起こり歩行困難、腎不全に至り4~6週続くとのことです。また心臓合併症では、心筋炎、心膜炎、心疾患再燃を起こします。
 Reyes syndromeは特に小児インフルエンザや水痘でアスピリン内服により起こります。Reyesは脳炎や肝障害(脂肪肝)を起こしアンモニア濃度が上昇します。特に幼児の死亡は30%です。小児でのアスピリンが中止されてから減少しました。その他、インフルエンザは、脳・脊髄炎、横断性脊髄炎、ギランバレー症候群、無菌性髄膜炎、脳炎を起こします。

8.タミフル、リレンザ、ラピアクタは発症48時間以内が効果的、健康人で症状を1日未満短縮
 抗ウイルス薬には4種あります。アダマンタン(Adamantanes)、ノイラミニダーゼ阻害薬(neuraminidase inhibitors)、膜融合阻害薬(membrane fusion inhibitors)、RNA依存RNAポリメラーゼ阻害薬(RNA-dependent RNA polymerase inhibitors)の4つです。欧米で承認されているのはアダマンタンとノイラミニダーゼ阻害薬のみです。
 アダマンタンにはアマンタジンとrimantadineがあり、インフルエンザAのmatrix 2 ion channnelを阻止します。インフルエンザBには効きません。現在流行しているインフルエンザは全てアマンタジンに抵抗があり推奨できません。ということで、使うのはノイラミニダーゼ阻害薬です。
 2015年から16年には経口オセルタミビルと吸入ザナミビル(リレンザ)が欧米で推奨されました。静注のベラミビル(ラピアクタ)は米国で使用されています。また米国には静注のザナミビル(リレンザ)があるそうで、オセルタミビル耐性の重症患者で使用されます。予防投与は、最後の感染が起こってから7日間あるいは14日間投与します。
 2007~08年にインフルエンザA H1N1に対してオセルタミビル耐性株が出現しました。これはノイラミニダイーゼ蛋白のヒスチジンがチロシンに置換されたためだそうです。
 H1N1pdm09 インフルエンザA(小生が接種したワクチンの株)出現後は、ノイラミニダーゼ阻害薬に対する耐性は少ないそうです。米国で、2016年3月時点で流行しているインフルエンザA H3N2とインフルエンザBはノイラミニダーゼ阻害薬感受性があり、インフルエンザA H1N1pdm09のわずか5%が耐性でした。
 ノイラミニダーゼ阻害薬3種(タミフル、リレンザ、ラピアクタ)は発症48時間以内の早期投与が最も効果があります。ランダム化比較試験(RCT)ではこれにより健康成人で臨床症状は1日未満短縮します。「えっ、たったそれだけ?」と少しがっかりです。
 小生は健康成人のインフルエンザ患者さんへの抗インフルエンザ薬投与は、「症状が1日未満短縮するだけ」であることを説明、納得した方だけ投与しております。また日本国内だけで報告されている副作用ですが、2階から飛び降りたりする異常行動の説明も必要です。

9.タミフル、リレンザ、ラピアクタは重症で肺炎(RR0.56)、入院期間(同0.37)減らす
 2014 Cochrane reviewでは入院リスク、合併症に差はありませんでした。しかし、Dobsonらによるとノイラミニダーゼ阻害薬で下気道感染のrisk ratio(RR)0.56(95%CI 0.42~0.75、P=0.0001)。入院期間のRR 0.37 (同0.17~0.81、P=0.013)で、肺炎と入院期間減少には効果があるようです。なおRRとは薬を使わなかったときと比べて肺炎が0.56倍、入院期間が0.37倍だったということです。
 2009年1月から2011年3月にノイラミニダーゼ阻害薬が投与された2万9,234人のインフルエンザ患者の死亡率のオッズ比(OR)は0.81(95%CI 0.70~0.96、P=0.0024)でした。ORとは1のとき効果なし、1より大きければ有害、1より小さければ有効という指標です。95%CI 0.70~0.96とはこのトライアルを何度繰り返しても95%の確率でORは0.70から0.96の間に納まるという意味です。どっちにしても1より小さいので、ノイラミニダーゼ阻害薬は、死亡率を減少させるわけです。
 つまりタミフル、リレンザ、ラピアクタは、健康成人では1日未満症状を減少させるにすぎないけど、入院するような重症患者では、肺炎(RR 0.56)、入院期間減少(同0.37)に効果があるよということです。ですから、抗インフルエンザ薬はリスクの高い老人や合併症を持つような方には積極的に投与した方がよさそうです。

10. 予防に最も効果のあるのはワクチン!65歳以上、妊婦、小児、免疫不全で推奨!
 インフルエンザ予防に最も効果があるのはワクチン接種であり当、西伊豆健育会病院では職員は100%接種を目指しています。ワクチンは特にハイリスクグループである65歳以上、免疫不全、小児、妊婦、医療者で推奨されます。
 ワクチンは日本でも生後6カ月未満には認可されていませんので、母親のワクチン接種が乳児の予防につながります。しかし、妊婦は副作用を恐れて接種したがらないのが現状です。妊婦のワクチン接種により母体、胎児での副作用は増加しません。妊婦の接種を推奨せよとのことです。
 なお、oil-in-water adjuvants(抗原性補強剤)は不活化ワクチンの効果を助長しますが、21歳以下でnarcolepsyの発症が報告されたとのことです。
 WHOは次のシーズンの流行に対して推奨を年2回行います。北半球では2月、南半球では9月です。反対側の半球に旅行しようとしている場合は予防が難しいそうです。ワクチン株と流行株が一致していれば有効率は50~60%だそうです。ワクチンが市販された後に不連続抗原変異(antigenic drift)が起こると有効率は大幅に減少します。

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インフルエンザの死亡率は従来報告よりも高い?

2018年01月20日 07時15分38秒 | 感染症
 昔からインフルエンザは「命の最後の灯火を消す感染症」と呼ばれてきました。
 インフルエンザ関連死の考え方に、「超過死亡率」というものがあります。
 直接の死因にはならなくても、インフルエンザが流行した年に増える死亡を抽出する方法です。
 この用語を聞くと、私は日本で学童にインフルエンザ勇断予防接種をしていた時代を解析した論文を思い出します(次項で扱います)。
 さて、インフルエンザ関連呼吸器疾患の超過死亡率を再評価したら従来より高い数字が出たという Lancet 論文を扱った記事を紹介します;

■ インフルエンザの死亡率は従来報告よりも高い 〜米国CDCによるインフルエンザ超過死亡率の推定研究
2018/1/12:日経メディカル
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見逃しやすい「スノーボーダー骨折」

2018年01月19日 06時03分04秒 | 医療問題
 今から約25年前、スキー場が遠くない群馬県北部の病院に勤務していました。
 ちょうど、スノーボードが流行始めた頃です。
 「スノーボーダーの骨折患者が多くて大変」と整形外科の医師が嘆いていました。
 中でも「鎖骨骨折」が多いと聞きました。
 初心者が傾斜がきつくない場所で滑ると「逆エッジ」になって転び、肩を打撲して骨折、というパターン。
 その話を聞いて、スノーボード・デビューを考えていた若かりし私は思いとどまり、現在に至ります。

 そんなスノーボーダー骨折を扱った記事を紹介します。

■ 見逃しやすい「スノーボーダー骨折」
2018/1/12 日経メディカル
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