アメリカGAYライフ American Gay Life by an expat Japanese

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余命10分?

2006-08-13 03:52:02 | 人生・哲学
「人生が、残り10分だったら何をする?」

この手の質問って、僕が小学生の頃にはやった「究極の選択」なんかで出てこなかったっけ?もう一つ、小中学生の頃に誰もが一度はどこかで聞いたことのある質問が、「人間は、唯一○○する生き物である」というもの。

この「○○」に当てはまることなんかを、学校の道徳や倫理とかの授業でやらなかった?

・ 人間は、唯一、言葉を話す生き物である
・ 人間は、唯一、服を着る生き物である、などなど

これの派生系として、「ヒトはパンツをはいたサル」なんていうのもどこかで聞いたことのあるフレーズ。

どこかで聞いたことのあるこれらの質問を目にしたのが、最近読み始めた本、『Stumbling on Happiness(幸福へのめぐり合い)』(著者のダニエル・ギルバートは心理学者)。

著者のダニエル君は、「人間は、唯一、将来について考える生き物である」って言ってるんだな。冒頭で、「残りの人生が10分しかなかったらどうする?」という質問を投げかけているのも、人間がいかに将来を考えずにはいられない生き物かっていうことを逆説的に問いかけているっていうワケ。ま、人には時間軸の感覚が鋭いってことなんだけど、未来だけじゃなくて過去を振り返ったりもするよね。チンパンジーが、幼少期を思い出して懐かしがるなんてあんまり想像できないから、過去を振り返るっていう行為もかなり人間的なんだけど、ある研究では、過去、現在、未来の中で、人は未来について考える時間が一番多いらしい。

「これって、モロ僕に当てはまってる・・・」って、本屋で立ち読みしながら2ページ目までしか読んでいないのに、この時点ですでに胸を鷲掴みされた思い。僕って人生設計とか日頃からよく考えてるし、「来年の今頃、僕は何をしてるんだろう・・・」ってふと思い出したように考え込む一瞬があるし。このブログでも1月1日に、モロ、人生設計しちゃってるし・・・。それに週末なんかになると、「土曜日は午前中にこれをして、午後にはあれをして・・・」なんて計画をいつも立ててる。

ダニエル君は、うろたえる僕なんかお構いなしに、さらに畳み掛けるように説明を続ける。

そもそも、なんで人って将来の自分について考えるのが好きなのか。これにもダニエルは明確な答えを用意してるんだな。しかも心理学者なので、実験結果つきで!

ある被験者に、高級フランス料理店の無料夕食券が当たりましたって言って、「いつレストランに行きますか?」っていう質問をしたらしい。今すぐ?今晩?それとも明日?って聞いたのだけど、被験者のほとんどが、だいたい1週間後の日程を選んだんだって。おいしい料理をすぐ食べられることができるのに、なんで少し先延ばしするのか?ナゾだよねぇ~。

これって、経済学の基礎を根本から覆してると思うんだけど。大学の『マクロ経済概論』なんかでは、初回の授業で、「明日飲むビールよりも、今飲むビールのほうが『効用(utility)』が高い」なんて教わったけど、この実験の結果からすると、明日飲むビールのほうが満足度が高いってことになる。

この「少し先延ばしする」っていう行為は、高級フランス料理店で無料で食事ができるっていう具体的な将来を想像することで得られる恍惚感を、より長く楽しむっていうことらしい。すごく納得。僕って、おいしいものを後で食べるタイプだから・・・。逆に先に食べちゃう人っていうのは、どういう理由からなんだろうね。将来についてあんまり考えないのかな?兄弟が多い家庭で育って、残しておくと取られちゃう可能性があるから、最初に食べとくってこと?ま、とにかくこの実験によると、被験者のほとんどが、具体的な幸せは先延ばしする傾向にあると出たらしい。

これをダニエル君は、さらに一刀両断に切り込んだ分析をしてる。人が、こんな風に将来の楽しい自分を想像することが好きな理由、それは、往々にして実際に経験するよりも、想像の中で幸せな自分を想像するほうが楽しいからだとか。

またとある実験をしたらしいのだけど、そこで、被験者は、最近一目惚れした人について、彼・彼女をデートに誘う自分を想像してみるように指示された。そのとき、自分の頭の中で、より具体的にバラ色のデート・シーンを想像した人ほど、実験後の数ヶ月以内に実際にその意中の人にアプローチする率が低かったという結果が出たらしい!

これって、まさに僕じゃないですかぁ。ゲイ・バーなんかで「うっわー、イケテル」なんて人を見かけると、だいたい、「あんな人と付き合ったらどんな感じだろう」なんて考えちゃうわけですよ。モンモンと。だけど奥手なもんだから、絶対に自分からは声をかけないっていうパターン。あれって、イイ男を見かけて、その人とのハッピーな自分を想像しちゃうから、それを壊したくないっていう心理が働いてアプローチできなくなってるんですかね。ヤバイッスよ。ダニエル君、僕の心をかなりお見通しみたい。

一方、人ってネガティブな将来予測もしちゃうじゃない?そこもダニエル君は抜かりなく説明してますよ。例えば、定期健診でレントゲン写真を撮ったとき、「もし影が映っていて、ガンですなんて言われたらどうしよう・・・」なんて悪い方向に考えちゃうことってあるよね。あれって、悪いシナリオをイメージしておくことで、本当にそれが現実となって現れたときに「あ、やっぱり・・・嫌な予感が的中」っていう心的プロセスを経るから、受ける心的ダメージを少なくすることができるんだって。これはいまさら言われなくても、意識的に「最悪の状況」を想定しておくってことは誰もが普通にやってるよね。例えば、ゲイ・バーに行く前から、「きっと今晩もイイ男からは声かけられないんだろうなぁ」ってネガティブな予測をしておくこととか。

いずれにしても、この将来を予測しようという脳内の働きは、少しでも将来のことを自己制御しようという人間ならではの欲求だってダニエル君は言ってる。実際、定期健診の結果なんて人がコントロールできることじゃないよね?それにゲイ・バーでイイ男に出会えるかどうかなんて、実際に行ってみないとわからない。だけど、本当の結果を知る前に、「ガンかも?」「イイ男にはきっと今晩も出会えない」って想像することで、まだ知りえない将来を、自分の意思でコントロールしているっていう錯覚に陥ってるっていうわけ。

極端に悪い将来を想像することや、一目惚れした相手に、話しかけるつもりもないのにバラ色のデートを想像するっていう行為って、「正しい将来予測」じゃないじゃない?極端に悪い方向や良い方向に考えちゃってて、「現実的な」正しい将来予測じゃない。なのに、人ってそういう非現実的な将来を予想することで、「自分は自分の将来を自己制御できてる」って思っちゃってるところがまさにオメデタイわけで、錯覚に陥ってるわけなんだなぁ。ここまで読んで、いまさらながら僕ってオメデタイ人間だったんだって凹みました。

だけど、ダニエル君によると、将来のことを極端に良い・悪い方向に考えてしまうことがなくて、結構、正確に自分がコントロールできること、できないことを考えられる人たちがいるらしい。それは、うつ病と診断された人たちなのだとか。

うつ病と診断された人たちへの治療法として、前頭葉の一部を切除するなんていう、まさに『羊たちの沈黙』のハンニバルみたいなことを発見したお医者さんがいたらしい。この治療法、確かにうつ病には効果てき面だったらしいのだけど、大きな副作用があったのだとか。それは、将来について計画するっていう能力が完全に欠如してしまうということ。前頭葉の手術を受けた患者は、知能的には問題はなくって、普通に会話もできるし記憶テストでも問題ないという結果が出てるらしいのだけど、とにかく先のことについて考えられなくなってしまうのだとか。

1981年に交通事故に遭って、前頭葉の一部に障害を負ったために、このうつ病の手術を受けたのと同じ状態になった人(イニシャルがN.N.。当時30歳)がいた。彼に心理学者がインタビューをしたときの会話は次のようなものだった。

心理学者: 明日は何をする予定ですか?

N.N.: わかりません。

心理学者: 私の質問を覚えていますか?

N.N.: 私が明日何をするつもりかということですか?

心理学者: はいそうです。それについて考えようとするときのあなたの心的状況について説明していただけますか?

N.N.: 空白、だと思います・・・なんか眠っているような・・・何もない部屋にいるようで、誰かがその部屋にいって椅子を探して来いって言うんだけど、そこには何もない・・・湖のど真ん中を泳いでいるような感じ。何も支えるものや掴むものがない。

* * *

この前頭葉の一部を失うことで、人はうつ病にならない代わりに、将来計画もできなくなってしまうという発見。す、すごくないですか、これって。不安を感じる部分と、将来について考える部分が、脳内で一緒なんですよ。将来について考えれば考えるほど、不安になるっていうことじゃないですか。幸せという心の状態が、不安を感じないという心の状態だとすると、将来について深く考えずに生活していたら、ハッピーな人生を送れるっていうことですか?

実はこれまでのお話は、まだ本の5分の1くらいまでの内容でしかない。この先、もっと奥の深い議論が実験結果つきで紹介されてるみたい・・・。この先、読むのが怖いけど、読むしかないでしょう。

しかも、ここまで読みながら、「アリとキリギリス」について思い出してしまった。将来の困難に備えて備蓄するアリさんと、将来なんてこれっぽっちも考えずに今を楽しむキリギリス・・・。きっと、ジャドソンが人生を謳歌してハッピーに見えるのは、将来について無駄な想像をすることなく、今の自分を楽しんでいるからじゃないかなぁって思うようになりました。

イソップ童話では、将来に備えずに今を楽しむキリギリスは快楽主義者として批判的に描かれていて、一方、アリさんは「勝ち組」として美化されているけど、アリさんは、実はうつ病患者なのかもしれないなと。どっちの人生がいいかと考えると、人は基本的に冬になったからと言ってキリギリスさんのようにのたれ死ぬことはないことを考えると、アリさんの生き方よりもキリギリスさんの生き方のほうが幸せ度は高いんじゃないかな、なんて。

ってなわけで、僕も今を最大限楽しむ努力をしてみることにしましたよ。単なる錯覚に陥ってるだけの将来計画は考えないようにして。そしたら、なんか、今週はiPodも買っちゃうし、これを機会にノートパソコンも買い替えしちゃったし、これまで買いたかったAdidasとNew Balanceの靴も買っちゃいました。僕に残された人生が10分だったら、ショッピング三昧?(そういえば、そんな映画がありました。『Last Holiday』っていう、クイーン・ラティーファが主演の映画で、医者に余命数ヶ月と宣告されたのをきっかけに、退職金や貯金を全部引き出して豪遊旅行に出るという話。)