港町のカフェテリア 『Sentimiento-Cinema』


献立は…  
シネマ・ポップス…ときどきイラスト

『恐怖の報酬』 旅の友・シネマ編 (28) 

2020-01-10 12:06:17 | 旅の友・シネマ編



『恐怖の報酬』 Le Salaire De La Peur (仏)
1952年制作、1954年公開 配給:東和 モノクロ
監督 アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
脚本 アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
撮影 アルマン・ティラール
音楽 ジョルジュ・オーリック
原作 ジョルジュ・アルノー
主演 マリオ … イヴ・モンタン
    ジョー … シャルル・ヴァネル
    リンダ … ヴェラ・クルーゾー
    ルイジ … フォルコ・ルリ
    ビンバ … ペーター・ファン・アイク 



ベネズエラの場末の街ラス・ピエドラスの町は食い扶持を求めて品行の良くない半端者たちが日々何もすることもなくたむろ
しており、酒場の娘リンダという恋人がいるコルシカ人マリオもその一人である。そこに札つき男ジョーが流れてきてマリオと
親しくなった。ある日500キロ先の山上の油井が火事になり、多くの犠牲者が出た。石油会社では緊急会議の結果、火を消し
止めるためにニトログリセリンを運び上げて爆破させその爆風によって鎮火することにした。ニトログリセリン運搬の運転手は
成功報酬2000ドルの賞金つきで募集され、マリオとジョーそしてルイジとビンバの二組が選ばれ、2台のトラックに分かれて
目的地に向けて出発した。激しいでこぼこ道、追突の危機、崖に突き出た吊棚の上でのヘアピンカーブ、行く手を阻む巨大
岩石の爆破、途中でルイジ組のトラック爆破事故の影響でできたと思われる原油のプール。そしてそのプールからの脱出で
ジョーが瀕死の重傷を負い亡くなってしまう。マリオはそんな難所難関を乗り越えてひとり目的地にたどり着いた。
ニトログリセリンによって火事は消しとめられ、マリオは報酬を受け取り乗って来たトラックで取り岐路につくが浮かれ気分で
崖路をジグザグ運転をはじめ、ハンドルを取られて谷底に転落してしまった。



アンリ・ジョルジュ・クルーゾーが監督した危険なニトログリセリンを運ぶ仕事を請け負った4人の男を描いたサスペンス映画で、
物語の前半は場末の町の状況描写に徹し、アメリカ資本に毒されて荒び果てた町とそこでうごめく退廃した人々の人間関係を
リアリズムによってきめ細かく描き上げ、男たちが命がけの仕事を引き受ける過程を事細かく描写しています。
喧嘩で銃口を突きつけられてリボルバーが回転し始めても微動だにしないほどの大物だったジョーがいざとなってみると次第に
怖じ気づいてくるくだりなど、それぞれ運搬人四人の人間関係だけでも見事なドラマを構成していました。



そして後半は一瞬のミスが爆死につながるという緊張感のなかで、ジワジワと襲い掛かる重苦しい緊張感そして死の恐怖。
特に吊棚の上での恐怖感を、朽ちた足場、滑る車輪、ちぎれそうなワイヤー・フックなどのモンタージュを見事に積み重ねて
秀逸なシークエンスに仕立て上げ、直球型サスペンス娯楽の神髄ともいえる作品となりました。







監督のアンリ・ジョルジュ・クルーゾーは『犯人は21番に住む』『密告』『犯罪河岸』とリアリズムタッチで犯罪推理映画を発表し、
描写の巧さとモンタージュの確かさに加えて演出の緻密さでも群を抜く映画作家で、1949年には衝撃作『情婦マノン』において
若者の破滅的な絶望をペシミズムを極力抑えながら執拗に描き、用意された衝撃のラストシーンに向かって骨組みと肉付けを
施しながら誘導する演出手腕が絶賛されました。
クルーゾーは「映画というものは最後のシークェンスが一番印象に残る」という言葉通りにそしてこの『恐怖の報酬』においても
ウィンナワルツと合わせるようにトラックが踊るように崖路をくだりはじめ、ハリウッド映画なら歓喜に沸く街に悠々と凱旋して
ハッピーエンドとするところを、甘さのない強烈なリアリズムによって用意されたエンディングに向かっています。『情婦マノン』の
手法を踏襲することで非情なラストのシークェンスを見事に締めくくりました。





最新の画像もっと見る