【誕生日】
☆ジュリアン・デュヴィヴィエ Julien Duvivier (1896.10.08~1967.10.29)
ペシミスティックな運命を題材として、大衆的な映像文学者といわれたフランスを代表する映画監督です。
フランス北部のノール県リールに生まれ、リール大学卒業後パリへ出て俳優としてオデオン座の舞台に立ち、演技の指導を
受けていた演劇界の大立者アンドレ・アントワーヌが映画に進出すると彼の助監督をつとめました。1918年~19年にかけて
ゴーモン社でルイ・フイヤードやマルセル・レルビエの助監督をつとめた後、1919年に "Haceldama ou Le prix du sang" で
監督第一作を発表しました。その後21本のサイレント作品を監督しましたが殆どは話題にもあがらない出来だったようです。
1920年代のフランスではブニュエル、カヴァルカンティ、ルネ・クレールなどの前衛作品が映画芸術の中枢であったのですが
映画がトーキー時代を迎えたことによってフランスでも映画芸術の根本が底辺から覆されました。映画に真の芸術を求める
動きは鈍り、芸術と興行の折り合いを求めることになり、トーキーによる芸術の香りのするリアリズム劇映画が誕生して
ヨーロッパ映画の主流となっていきました。
そんな時代の激しい流れの中で、トーキーを巧みに利用した語り口で頭角を現わしたのがデュヴィヴィエでした。
1930年にトーキー第一作となる『資本家ゴルダー』を監督、富める者の悲惨を重厚な家族ドラマとして仕上げ、その奥には
デュヴィヴィエの神髄となるペシミズムを漂わせるという独特の手法によってトーキー時代の映画作法の基礎を築きました。
1932年の『にんじん』では沈痛な感傷で少年の開眼を、翌年の『モンパルナスの夜』では都会の澱みに沈む犯罪者の心理を
凝視し、1934年の『商船テナシチー』においては運命に裏切られた敗者の苦い涙を、卓越した環境表現によって映像化し
トーキーにおける劇映画の傑作に仕上げました。しかし、これにとどまることはなく、『白き處女地』『ゴルゴダの丘』
『地の果てを行く』『巨人ゴーレム』『我等の仲間』などの傑作を監督した後に、1937年に『望郷』を発表しました。
この作品はアルジェのカスバに逃げ込んだギャングのペペ・ル・モコが惚れてしまった女のために命を失うという破滅物語で
巧妙に出来すぎたペシミスティックな運命をラストシーンで最高潮に盛り上げました。続く『舞踏会の手帖』では一転して
ほろ苦くも甘い青春への追想をロマンチシズムと絢爛な話術で回転ドラマの傑作に仕上げ、この二作によってペシミズムから
生まれる情熱と運命の図式化された人間ドラマは 芸術的ともいえる大衆文芸映像の頂点を極めました。
その後も強烈な印象を残した『旅路の果て』などを立て続けに発表していましたが、第二次大戦勃発と共にアメリカに渡り、
そこでも持ち味のペシミズムに加えて『舞踏会の手帖』で培った回転ドラマの妙技を遺憾なく発揮した名作『運命の饗宴』を
監督してその存在を示し、戦後に帰国してからも『巴里の空の下セーヌは流れる』『陽気なドン・カミロ』『埋れた青春』
『わが青春のマリアンヌ』など、様々なジャンルで快作を量産しましたが、ヌーヴェルヴァーグの台頭と共に徐々に陰りが
見えて低迷しはじめ、1967年の遺作となる『悪魔のようなあなた』の公開を待たずにこの世を去ってしまいました。
しかしながら、デュヴィヴィエが映画界に残した功績は計り知れず、トーキーにおける芸術の香り豊かな映像文芸の世界を
確立した第一人者であり、その独自のペシミズムから生まれる運命ドラマ、 芸術的ともいえる語り口による大衆文芸映像は
トーキー時代が生んだ最高の映画作家でもありました。フランス映画の黄金期を飾ったルネ・クレール、ジャック・フェデー、
ジャン・ルノワール、マルセル・カルネと共にフランスだけでなく世界映画史に燦然と輝く第一人者的存在でした。
【主要監督作品】
1930年『資本家ゴルダー』David Golder
1931年『カイロの戦慄』Les cinq gentlemen maudits
1931年『巴里-伯林』 Allo Berlin ? Ici Paris!
1932年『にんじん』Poil de carotte
1933年『モンパルナスの夜』La tête d'un homme
1934年『商船テナシチー』Le paquebot Tenacity
1934年『白き處女地』Maria Chapdelaine
1935年『ゴルゴダの丘』Golgotha
1935年『地の果てを行く』La Bandera
1936年『巨人ゴーレム』Le Golem
1936年『我等の仲間』La belle équipe
1937年『望郷』Pépé le Moko
1937年『舞踏会の手帖』Un carnet de bal
1938年『グレート・ワルツ』The Great Waltz
1939年『旅路の果て』 La fin du jour
1939年『幻の馬車』La charrette fantôme
1940年『わが父わが子』Untel père et fils
1941年『リディアと四人の恋人』 Lydia
1942年『運命の饗宴』 Tales of Manhattan
1943年『肉体と幻想』Flesh and Fantasy
1944年『逃亡者』The Impostor
1948年『アンナ・カレニナ』Anna Karenina
1949年『神々の王国』Au royaume des cieux
1951年『巴里の空の下セーヌは流れる』Sous le ciel de Paris
1951年『陽気なドン・カミロ』 Petit monde de Don Camillo
1952年『アンリエットの巴里祭』La Fête à Henriette
1953年『ドン・カミロ頑張る』Le Retour de Don Camillo
1954年『埋れた青春』L'affaire Maurizius
1955年『わが青春のマリアンヌ』 Marianne de ma jeunesse
1956年『殺意の瞬間』Voici le temps des assassins
1957年『奥様ご用心』Pot-Bouille
1959年『私の体に悪魔がいる』La Femme et le pantin
1959年『自殺への契約書』Marie-Octobre
1960年『並木道』Boulevard
1962年『火刑の部屋』La Chambre ardente
1962年『フランス式十戒』Le Diable et les dix commandements
1963年『めんどりの肉』Chair de poule
1967年『悪魔のようなあなた』Diaboliquement vôtre
【ご命日】
★ロジャー・ウィリアムス Roger Williams (1924.10.01~2011.10.08)
「大統領のピアニスト」と呼ばれ、見事なスケール演奏でイージー・リスニング界に君臨したアメリカのピアニスト。
主な演奏曲として『枯葉』『テンプテーション』『ララのテーマ』『野生のエルザ』などがある。