地盤沈下

おいそれと先を急ぐ男の肩が
風を切る
敵も味方もきっと同じくらいいるんだろうけど
そのうちの何人が10年後も覚えていてくれるかな
辿る道すがら
そんな事を考えると
誰かに忘れられた誰かに
出会えた気がして笑えちゃう
去年の秋とまた同じ匂い
でも少しだけここ、地盤沈下したんだって
恋は愛と違って
なんだか切ないって話は
あなたとは、した？

モデラート

無理せずいけよ
走らず止まらず歩く
いや、たまに走ってたまに止まって
そうでもしなけりゃ
走ることも止まることも
忘れちゃうからもったいない

ただひとつのくに

学校でもらった白地図帳に
色を塗るのが好きだった綾子ちゃん
お話しするときには両手をたたいてリズムをとって
えっとね、えっとねと、唾をいっぱい溜めて
歩行器具をがしゃがしゃ鳴らしながら
皆の輪の中に飛び込んでいった
綾子ちゃんの眼鏡は分厚いレンズで
小さい瞳がますます小さくなって
不細工だったけど元気だった

ある日綾子ちゃんの眼鏡が割れていて
綾子ちゃんの体操服が焼却炉に捨てられていて
それから一週間後
今日綾子ちゃんは学校を休んだ

綾子ちゃんの机の中には白地図帳があって
誰もそれには気付かない
綾子ちゃんは不細工な上に馬鹿だったから
日本も外国も海も陸も10年前も10年後も
グラフも矢印も表紙も全部
綾子ちゃんの好きな赤い色で塗られていて
綾子ちゃんはこの赤いただひとつのくにが
大好きから大嫌いになっちゃった

ねぇ先生
色分けしたら正解ってルール
酷いよね？

不毛

終わらせたのに始めたい
守られてるのに壊したい

割り切りたい
賭けてみたい

私が元より何も持たなければ
わってもかけても
ゼロなのに

誰かのために許されて生きているのはとても辛い

誰かのために晴れやかな笑顔を
恵みの雨を

自然を最初に美しいと言ったのは
誰だろう

差

縮めて広げたその差に惚れる
印象付けたいならなるべく深く刻み込め
最高と最低があるから
平気で居られる
まるで反対ほど近いものは無い
反対を見つめると見えてくる
その差を出来るだけ大きく

解放

雁字搦め
晩熟の感覚を破壊せよ
生命は程なく途絶え
冷えていく身体が
奪った熱でその殻を砕く
痛切を知る
極限が解放する

愛

みんな足りないっていうから
分け合えないんだろうな

大人が思う正しいことに
愛はあるのかな

歴史のつくりかた

歴史をつくる人
歴史から消された人
誰かが仕掛けた歴史の上を
歩く人

この街を歩く

この街は今
空も海も塞いで
とても広くなった
思い出を埋める度に
何かが狭くなる
だからあなたはとても窮屈で
歴史のつくりかたを学ぶ

生産性

あるかないかと問われれば
私にはあると答える
生産性

女性だからね

ただそれだけで
女は女の柵を越えていかなくてはならない

可か不可かと問われれば
私は可と答える
許容範囲

全てを
許していかなければならないくらい
なにもかもを許されてきたんだもの

正か負かと問われれば
私が正しいと答える
それで負けたとしても

時に真剣は相手を傷つけるもの

相手の真剣で刺されても
私はこのやり方を貫き
全てを許し
つくりあげねばならない

女性だからね

かなしみのはてで

歯車から外れて

ペンダントになりたいな