あるマーケティングプロデューサー日記

ビジネスを通じて出会った人々、新しい世界、成功事例などを日々綴っていきたいと思います。

事実物語『ヒトラーの贋札』

2008-01-27 14:29:52 | インテリジェンスの歴史
“事実は小説よりも奇なり”―これを地でいっているのが、強制収容所でナチス・ドイツの贋札作りに関わったアドルフ・ブルガー著『ヒトラーの贋札』です。

史上最大の紙幣偽造作戦、「ベルンハルト作戦」。強制収容所に収容されていたユダヤ人の中で、印刷業、製紙業に従事していた職人でドイツ語に堪能な人間が選ばれ、偽造紙幣業務に従事させられた実在の事件です。

1942年9月、ザクセンハウゼンに集められた印刷業者、銅板画家、銀行で重要な地位についていた者、最新技術の教育を受けた者など計26人は、親衛隊少佐ベルンハルト・クリューガーの指揮下で、イギリスポンドの贋札の製造を開始します。

この製造集団は、2年後には144人にまで膨れ上がります。写真製版で作られた刷板は銅板画部門に送られ、銅板画家が電需版に描かれた点や線を一つ残らず正確に彫ったのです。

印刷が終わると、紙は断裁部門と検査部門に引き渡されました。検査担当官は全員銀行で働いたことのある囚人ばかりで、下から強い光を当てて一枚一枚、丹念にチェックしました。

面白いのは、ここで終わらないことです。偽造紙幣は、印刷された後4つのカテゴリーに分類されました。

◆第1カテゴリー/あらゆる点で完璧なもの
◆第2カテゴリー/ミスはあるが、ほとんど肉眼では見分けのつかないもの
◆第3カテゴリー/印刷ミスがはっきり認められるもの
         →イギリス通貨の信頼を落とすためにイギリス上空から配布
◆第4カテゴリー/明らかな失敗作で廃棄処分

ここで選別された紙幣は使用済みと見せかけるために、汚してから皺をつけ、500枚ごとにまとめて帳簿に記録されました。

しかも、イギリス人のクセまで反映させていました。イギリス人はお金をピンで止めてそのままポケットに入れる習慣があったので、偽造工房にも紙幣に安全ピンで止めた痕をつける特別なグループがあったのです。

完成した紙幣は、数百ポンドにのぼりました。これらの製造量は、偽造工房の班長だった元レジスタンスの人間が命がけで監視の目を逃れて、紙幣の製造量とその搬出量を逐一記録していたため、戦後正確に把握できたのです。

本書は、映画『ヒトラーの贋札』(ドイツ・オーストリア合作)の原案本でもあります。事実に基づいた精緻な構成と記述には、ただただ圧倒されます。

自分の命が明日にはないかも知れないという極限状況での、したたかな計画と勇気ある数々の行動。そこには、学ばされるものが数多くあります。

最新の画像もっと見る