発見記録

フランスの歴史と文学

パンと砲弾 配給制の時代

2007-05-24 22:39:29 | インポート

「一九一八年の冬は特に厳しいものだった。ガソリンは不足し、セーヌ河は流氷を浮かべた。アンドレ・シトロエンが考案した食糧切符が制度化され、パンが配給になった。」(フランソワーズ・ジルー『マリー・キュリー』山口昌子訳 新潮社)

もともとケ・ド・ジャヴェルの工場は第一次大戦中、砲弾の大量生産のため作られた。砲兵隊を統括するバケ将軍(Louis Baquet 1858-1922)にシトロエンが提案、委託を受けたもの。軍需工場への石炭・ガス供給も任された。
ドラギニアン砲兵学校の大砲博物館には、戦後シトロエンが将軍に贈った、砲弾の1/2モデルを収めたケースが展示されている。

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日本の食糧切符 昭和館ホームページ 統制下のくらし

トロワイヤの小説?Viou?(Librio)は第二次大戦後まもない時期の話。タイトルは8歳の少女シルヴィーの愛称。父は亡くなり、母親はパリで働く。シルヴィーはル・ピュイの祖父母の家に預けられる。
信仰厚い祖母は、眼鏡のレンズが片方割れたのを贖罪の苦行だと思ってそのまま掛けるような人。シルヴィーの父ベルナールは医師としてレジスタンスに協力、命を落とした。祖母はベルナールが少年期を送った部屋をすべてそのままに残す。ベルナールの使った通学鞄を、孫娘に無理やり持たせる。父の肖像写真に見つめられているような気がする家で、「大人たちの囚人」となった女の子。
ある日の夕食時、祖父は子牛のブランケットが水っぽいと文句を言う。
- Cette blanquette a un goût d’eau, dit grand-père.
祖母が返事もしないので、祖父は孫娘に同意を求める。

- Tu ne trouves pas, Sylvie ? reprit grand-père. Ta grand-mère a perdu la notion des bonne choses. Mais toi et moi, qui avons encore le palais fin, nous décrétons que cette blanquette a autant de saveur qu’une pelote de ficelle plongée dans de la sauce à la farine. Angèle nous fait une cuisine de gargote et nous l’acceptons sans sourciller !
- Eh bien, dites-le-lui, Hippolyte, soupira grand-mère, excédée.

Et elle ajouta :
- On semble oublier, dans cette maison, que, si la guerre est finie, les restrictions ne le sont pas encore tout à fait.
- Vous vous débrouillez mal, Clarisse, voilà tout! Grommela grand-père.
- J’ai toujours refusé de me ? débrouiller ?, comme vous dites. Et j’en suis fière!
  (?Viou?, p.15)
「シルヴィー、お前はそう思わんか?」 おじいさんは続けて言った。「おばあさんは美味いものの感覚がなくなってしまった。お前と私はまだ舌が利くから、言わせてもらうぞ、このブランケットの味ときたら、小麦粉のソースに浸した一玉のひも並みだ。アンジェル〔年取った料理女〕のこしらえる料理はまるで安食堂だ、それを私たちは眉一つ動かさずに食べている!」
 「やれやれ!彼女にそうおっしゃれば、イポリット」 苛立ったおばあさんはため息まじりに言った。
 もう一言、
 「戦争は終わっても、供給制限はまだ完全には解かれていないのが、この家では忘れられているようですわ」
 「君が要領よくやらんからだ、クラリッス、それがすべてさ」、おじいさんはぶつぶつ言った。
 「私は『要領よくやる』ことをいつも拒否してきました、おっしゃる通り。恥ずかしいとは思いません」

Système Dなどというが、se débrouiller なんとか要領よくやる、この場合、「闇の食糧を手に入れる」ではないか。

頭越しの「二人の守護神」の争いに、シルヴィーはどうしていいかわからない。テーブルの上のパン屑を丸めていると、叱られてしまう。

- On ne joue pas avec le pain, Sylvie, dit grand-mère sévèrement.
「パンをおもちゃにするものではありませんよ、シルヴィー」、おばあさんは厳しく言った。