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白鳥のブログ - 日々の世界を徒然と

86-エイティシックス- 第9巻までの感想: 結局ただのラノベになりさがってしまうのか?

2021-11-22 14:20:56 | エイティシックス
とりあえず本編としては最新の9巻まで読んだ。

で、そこまで読み終わっての印象だけど、なんかただのラノベに成り下がっちゃったなぁ、というもの。

単純に残念。

作者が個人としてストックのあるネタというのが、結局のところ、ミリタリーネタでしかなくて、

それ以外のストーリー展開や登場人物の配置、といったところは、巻が進むごとに、どんどん、ありきたりのラノベ展開になってしまった。

1巻の内容、あるいは、1巻の最後の場面までの補完である2巻と3巻の内容が、おお!と思わせたのは、

戦場に無理やり駆り出された少年の悲劇のリアリズム

にあった。

加えて、そこに

シンたち(エイティシックス)とレーナ(共和国)の間の被害者・加害者という、容易には越えられない非対称な壁

があったからこそ、この先、どうなるのかと頁を繰る気にさせられた。

その際、兵器を詳細に描く乾いた文体は、戦場と心情のリアリズムの両方を伝えるのに貢献していた。

多分、こうした複数の要素が微妙なバランスの上で配置されていたがゆえに、1巻から3巻までの内容には、眼を見張るところがあった。

ところがそうしたバランスが4巻以降、どんどん崩れていってしまって。

何がヒドイかといえば、すでに6巻までの感想でも書いたように、いつの間にか、シンとレーナの恋バナを中心にした「エイティシックス学園」の話になってしまったこと。

そのトーンは7巻以降も全く変わらない。

むしろ、そうした学園モノの雰囲気を増やすために、ステレオタイプなラノベキャラがどんどん増えていく。

その傍らで、物語はどんどんワンパタン化していく。

一番ひどいのは、5巻の最後でシリンが築いた屍の山で示されたような、

エイティシックスたちにとってあり得たかもしれない悲劇

というモチーフを繰り返していること。

8巻の船団国群しかり、9巻の聖教国しかり。

一応、

船団国群では「戦士として生きる誇りが潰える悲劇」、

聖教国では「戦場に駆り出されるしかない子どもの運命」

という感じで力点の置き方は少し異なっているけれど、どちらもエイティシックスの子どもたちの内面をくじいて戦意を喪失させるための仕掛けでしかなくて、

その結果、8巻ではセオが、9巻ではクレナがそれぞれ精神不安定な状態に陥ってしまう。

特にセオの場合、その精神状態から、結局、左前腕を切断する重症を負って、戦線離脱を余儀なくされてしまった。

まぁ、巻が進めば身内から犠牲者も出るよね、ということなのだけど、その安易さも含めて陳腐な展開が続いてしまう。

多分、こうした「エイティシックスにとってのあり得たかもしれない悲劇」のパタンを繰り返すのは構造的な問題で、それは、この物語の敵が物言わぬ機械であるため。

人間どうしの戦いなら敵国のキャラや内情として「クソな」奴らを書けるものが、レギオンについては書くことができない。

その結果、クソで、ビッチな奴らも、一応、味方であるはずの人類の方で描くしかない。

その結果、8巻や9巻のような、かなりアクロバティックな「可哀相な同盟国」を描くしかなくなる。


とはいえ、そのすべてを「エイティシックスにとってのあり得たかもしれない悲劇」にする必要はないと思うので、このあたりは、単純に、作者にストーリーの運び方の引き出しがなさすぎるからなのだろう。

その代わりに、といってはなんだけど、そうしたストーリー展開の陳腐さを糊塗するために、8巻と9巻では、とにかく戦闘描写が過剰でくどくて意味不明なものが続き、リーダビリティも低下するという始末。

特に8巻の海戦描写は全く意味不明で、何が起こっているのか、ほとんどわからなかったので、ひたすら頁を飛ばしていた。

こんな具合で、巻が進むにつれて、

シリーズとしての大きな流れ
個々のエピソードとしてのストーリー展開
キャラの配置
戦闘描写
それらを支える文体

といった要素が、どんどんバラバラになってしまっている。

多分、一番いらないのは、シンとレーナをはじめとしたラブコメ要素で、これは、ほんとにうざい。

しかも、作者がミリオタなせいか、このラブコメ描写が極めて書き割りすぎて、お粗末。

一応、7巻末でのシンの告白をもって、2人の関係は正式に恋仲に向けて進み始めるのだけど、おいおい、作者、そこで「あとがき」をはさむか?あんた?ってぐらい、作者が出張ってくる、という気持ち悪さ。

あれはドン引きだったなぁ。

ただでさえ、ラノベのあとがきって、作者が、この巻ではこんなことやあんなこと書きました、ってあらすじの紹介や、あの描写にはこんな背景があって、なんていう解説をしまくる場になっていて、

いや、そんなこと読めばわかるんだから、作者がこう読めよ、お前ら、なんてことわざわざ注釈しなくてもいいだろう、と思ってしまうので、常々、あとがきはいらないなぁ、と思っていたので。

そういう意味では、7巻のあとがきは、ホントひどかった。


・・・という具合に、なんかね、『エイティシックス』という話は、話が進むほど、どんどん劣化が進むという酷さで。

いや、6巻まで読んだところで、ちょっとこれどうよ?という気にだいぶなっていたので、7巻以降を読むときは、できればいいところを見つけたいとも思いながら読んでいたのだけど、駄目だった。

この先は、大きな話としては、

フレデリカの処遇、すなわち、女帝バレというイベント、レギオン停止のイベント

があるけれど、それだけでは陳腐な悲劇しか生まないだろうし。

それこそ、エルンストあたりが、このフレデリカの一件でマジギレして、暴君に転じでもしてくれない限り、面白くなりそうもないし。

あとは、戦線離脱したセオがどういう形で復帰するのか。

シリンもある時代なのだから、ロボアームの義手でなんとかなるんじゃないの?って思っていたら、いきなり9巻冒頭で否定されてしまったので、それをどうするのか。

まぁ、ここまでのマッチアップぶりからすれば、同じく皮肉屋のアネットあたりが、そうはいえ、義手をなんとかしそうな気もするし。

あるいは、そもそもレギンレイブには人が乗り込まなくちゃいけないの?という点で、セオについては、遠隔思考操作型の戦闘マシンの試作機を作りそうな気もするし。

てか、すでにレギオンが人間の脳のネットワークの取り込みをしてるのだから、「無慈悲の女王」を鹵獲している今、そういうことを、アネットとルルーシュ、もといヴィーカ殿下が新開発しそうな気もする。

その一方で、敵が喋らない問題も、この先、レギオンとの意思の疎通も可能になる、という展開もありそうな気はするけど。

問題は、そういう設定を、今の作者の技量で、整合性のあるかたちで導入できるかどうか、というところかな。


・・・とまぁ、こんな具合。

まとめると、1巻から3巻までの内容が良かったので、いろいろとその先が想像できて期待はしているものの、それはどうやら高望みだった、というのが、その後の9巻までを読んでの印象。

その印象が覆る展開に期待したいところだけど。。。

多分、無理かなぁ。

せめて、ミリオタ書き込み要素を減らして、もう少し読みやすい文体にしてほしいかな。

それくらいは、なんとかして欲しいところ。
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