BLACK SWAN

白鳥のブログ - 日々の世界を徒然と

知性間戦争(2) ― 「神邑/カムラ」というSAOとAWで暗躍するトリックスター

2020-09-21 21:27:05 | SAO/AW
その1からの続き)(その3その4に続く)

では、アンダーワールド人がリアルワールドに出向く場合はどうすればいいのか?

なぜ、この問いが重要かというと、今回のアリシゼーション編の最終話で描かれたように、アリスが「鋼の身体」、要は機械の体を操ってでしか、リアルワールドで行動できない不自由さについて、キリトが何か感じないではいられないはずだと強く思ったから。

機械ではなく生身の身体をリアルワールドでもアリスに与えたいと、キリトが近い将来、思ってもまったくおかしくはない。


で、多分この動機から発したものと思しきものが、案の定、AWでは試験的試みとしてなされている。

それは、人間の身体を用意して、その脳にフラクトライトを上書きする、というもの。


もっと具体的に言うと、アクセル・ワールドのヒロインの黒雪姫がまさにそれで、生まれてすぐの時点で、別のフラクトライト、すなわち魂を「上書き」されている。

(この詳細は、アクセル・ワールドの第23巻に記されている。)

そのため、黒雪姫は、身体的には両親のDNAを引き継いでいるものの、「魂」的には両親由来の魂を引き継いではいない、不思議な存在として育てられた。

もっとも、その親譲りの身体にしても、両親から採取された精子と卵子を人工受精させ、さらには、黒雪姫が誕生した2032年には開発されていた人工子宮で育てられたものであり、その点で、デザインチャイルドをいってもおかしくはない。

だから、両親といっても、単にDNA上のつながりから法的にそう言うしかないだけのことで、当の両親からしたら、倫理上の観点から他人から許可を取るのが難しいので、実験のための素体として自ら素材を提供した、と言う方が正しいのかもしれない(黒雪姫の両親がこの様な行動をとった理由はまだ明らかにされてはいない)。

ちなみに、黒雪姫というのは一種の愛称、というかハンドルネームのようで、彼女の本名はまだAWの中では明かされていないのだが、少なくとも母方の姓が「神邑」ということだけは明らかになっている。


この「神邑」という名が、ミッシングリンクの鍵の一つとなっている。

というのも、SAOの世界では、アリシゼーション編の後のユナイタル・リング編になって、アスナの高校に「神邑樒(かむらしきみ)」という女子が転校してきたのだが、その容姿が、黒雪姫の姿とそっくりであるから。

しかも、神邑樒が転向する前に通っていた高校が、黒雪姫がもともと通っていた中高一貫校であったこと。

さらには、神邑樒の実家は、SAOの映画である『オーディナル・スケール』の中でオーグマーというAR装置を製作した会社を経営している。

ちなみに、アスナの実家は、アインクラッド事件の後にSAOのシステムを引き継いだレクトという同種の会社を経営しており、AWの説明では、ニューロリンカーというシステムは、カムラとレクトの間で開発競争が起こった結果、生まれた製品とされている。

ニューロリンカーは、ARとVRのハイブリッド型の装置であり、その点で、ARのカムラ、VRのレクトが競い合うことで、両者の技術が製品レベルで融合したことを意味している。

もっとも基礎技術の開発では、オーグマー事件で登場した東都工業大学の重村研が重要な役割を果たしており、重村教授がオーグマーの開発に直接関わっただけでなく、重村研のOBには、SAOの開発者である茅場晶彦、彼のパートナーで医療向けVR機器の開発を手掛ける神代凛子、アリシゼーションのシステムを開発した比嘉健、さらにはレクトでSAOの引き継ぎをしながら実験を行い続けた須郷伸之が名を連ねている。

要するに、重村研は、SAO世界のシステム開発拠点であり、この大学への進学をキリトが希望したことから、近い将来、キリトは、ゲームプレイヤーから、茅場のようなゲーム開発者になる可能性が高く、このキリトの辿る道もまた、「知性間戦争」を考える上での鍵の一つと目されている、ということ。


ところで、アリシゼーション編が終わった時点では、SAO世界には、二人のキリトが存在している。

ひとりは、アンダーワールドでの200年間の記憶を消去した「無印キリト」であり、

もうひとりは、200年間の記憶を残したフラクトライトの複製体である「星王キリト」であり、

この2人が、知性間戦争で、対立した2つの陣営それぞれの首魁と目されている。

星王キリトは、200年間の経験から現実的な設計思想を独自に構想し、無印キリトは、重村研?で学ぶことで、茅場たちの開発思想の初期にあった理想を体現しようとした、といえるのかもしれない。

ちなみに、AWの説明では、知性間戦争の結果、生じた「世界の不都合」を修正するために作られたのがブレイン・バースト2039。実は、ブレイン・バースト2039の他にも2つのゲームが開発されていたが、どちらも目的を達成することができず、ゲームシステムそのものが破棄されている(AWの本編は、25巻の今、このあたりの謎に切り込もうとしている)。

で、これは憶測に過ぎないけれど、知性間戦争だけでなく、このブレイン・バースト2039の開発にも、キリトが何らかの形で関わっているのではないか、と思っている。

ついでにいえば、魂=フラクトライトを上書きされた黒雪姫にも、なんらかの形でキリトが関わっているのではないかと思われる。

理由の一つは、黒雪姫の誕生日がアスナと同じ9月30日だからなので。

で、そこから、黒雪姫に上書きされた魂については、年齢的にみて「キリトとアスナの子ども説」があったりするのだが、それはちょっと違うのではないかと思っている。

結論から言えば、黒雪姫に上書きされた魂は、アリスのもの、ないしはアリスの子供のものではないかと思い始めている。

というのも、あの黒雪姫の、なんともいえない「能力値は高いが残念な女子」の感じは、騎士アリスから引き継いだものである方が、納得がいくところ多いから。

ちなみに、この黒雪姫には姉(=ホワイトコスモス)がいて、彼女は、どうやらブレイン・バーストの欺瞞?に反旗を翻しているようなのだが、もしかしすると姉もまた、デザインチャイルドであり、同じように魂を上書きされているのかもしれない。

あるいは、姉といっても、実は双子で、(双子の)妹の黒雪姫だけが、魂を上書きされているのかもしれない。

であれば、作中で、黒雪姫が親元を離れて別居しているのも理解できる。

両親からすれば、姉との区別がつかなくなって遠ざけたく思ったのかもしれない。

ともあれ、こうしたところに、ブレイン・バースト2039というシステムが「知性間戦争」がもたらした悲劇を解消するために作られながらも、逆に、新たな問題を生み出した根源になっており、結果として、知性間戦争の解明が、アクセル・ワールドにとっても、物語のゴールになってしまっている。

こうして、

ソードアート・オンラインでは、知性間戦争に至る道が、

アクセル・ワールドでは、知性間戦争直後の事後処理の話が、

それぞれ、物語のゴールに設定されている。


ところで、まだどこにも記されていないのが、星王キリトが救済すべきと考えた「200年後のアンダーワールド」の状況だ・・・と思っていたら、ユナイタル・リング編に「挟み込む」形でどうやら描かれる模様なのだが。

ということで、知性間戦争については、まだ続くw

その3へ)

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知性間戦争(1) ― ソードアート・オンラインとアクセル・ワールドを結ぶミッシングリンク

2020-09-21 17:53:59 | SAO/AW
(この「知性間戦争」のエントリーについては、その2その3その4と続きます。)


SAOのアリシゼーション編の最終話でようやく登場した「知性間戦争」。

SAO/AWの読者の間では、すでに話題になっていた謎だけど、それがなぜ、関心を集めるのか?

理由の第一は、表題の通り、SAOとAWをつなぐミッシングリンクになるから。

「知性間戦争」という言葉は、SAOのアリシゼーションで登場したけれど、その具体的な内容が明かされているのは、もっぱらAWの方。

というのも、AWにおけるVRゲーム空間であるブレイン・バースト2039が創造されたきっかけとなった事件が「知性間戦争」であるから。

ちなみに「2039」というのは、このブレイン・バーストのシステムが稼働を始めた2039年のこと。一方、アインクラッドを舞台にしたSAOがローンチしたのは2022年なので、SAOとAWは17年しか離れていないことになり、そのため、両者の間の基礎技術の間に連続性をみるのは全然おかしなことではない。

特に、SAOのソウル・トランスレーターが小型化され民生品になったのがAWのニューロリンカーであり、この技術の連続性から逆にSAOとAWの間の「リンク」を具体的が想像できてしまうわけで。

気分的には、プレステの進化でも想像すればいい感じ。


で、話をもとに戻すと、すでにSAOでは、この知性間戦争に、キリト、アスナ、アリス、リーファ、シノンたちが関わることは伝えられているから、端的に、彼らはAWの物語世界の始祖となると想像される。

なので、必然的にSAOとAWの間の繋がりを探ろうとする読者がでてくるわけで、このブログもその一つw

もちろん、SAOとAWの間をつなぐ謎を設定することで、一方の読者にもう一方のシリーズを読ませようとする作者や出版社側の「大人の事情」があることは、間違いないのだけどw

でも、それがわかっていてもこのミッシングリンクが気になってしまうのは、単純に、SFとして見ても興味深いものだから。

「知性間戦争」というのだから、「2つ(以上の)知性の間の戦い」ということになって、どうやら、その2つの知性とは、「人間の知性」と「人工の知性」のことを指していることは間違いない。そのうえで、後者の「人工の知性」、すなわちAIについては、SAOの世界ではすでに、ユイのような「トップダウン型AI」と、アリスのような「ボトムアップ型AI」の2つが登場している。

しかも「ボトムアップ型AI」は、作中設定では、人間の「魂」を構成するとされる神経細胞内のマイクロキューブルにある「フラクトライト」を、人工的に再現することで制作されている。

問題は、フラクトライトのレベルでは、人間とAIの間の垣根の存在が限りなく曖昧になること。

なので、これもまたSFではよくある話だけれど、はたして人間とAIの間に、存在としての差はあるのだろうか?という疑問につながる。

で、知性間戦争、というテーマは、大本のところで、こうしたSF全般にかかわる普遍的な疑問を喚起させるわけで、これが、単純にSAOとAWの2つの物語をつなげる以上の興味を読むものに抱かせてしまう。

しかも、フラクトライトが魂の源泉、というのは、SF、というよりも科学的にも全く根拠がない話ではなくて、この設定は、ペンローズという学者が提唱した「心の理論」にヒントを得ていると思われるから。

アンダーワールドという世界は、この人工フラクトライトが、人間の姿をとって現界している世界として(人間の手で)ゼロから構成されている。

さらに、「知性間戦争」以後の世界を描いたアクセル・ワールドの方では、フラクトライト仮説を徹底的に活用していて、人間の脳内のフラクトライトを、一旦、ブレイン・バーストのシステムサーバー内で複製して、その複製したフラクトライト/量子回路をつかって「加速した世界」で格闘ゲームを行うことを物語の基本設定にしている。

加えてブライン・バーストでは、ログアウトした時点で、複製したフラクトライトの経験を元の脳内フラクトライトに同期させるという手順を踏んでいる。

アリシゼーション編を見た後だと容易に想像がつくように、人間が脳内のフラクトライトを使ってダイレクトにアンダーワールドの世界にログインすると、アンダーワールド内の時間を加速させた場合、フラクトライトは直接その時間経過による「加齢」を経験してしまう。

それが、キリトとアスナが、200年間アンダーワールドで生活した後でリアルワールドに戻ってきた際、アンダーワールド内の記憶を消去することで、フラクトライトのフレッシュ化をしなければ行けなかった理由。

もっとも、これだと単純にフラクトライトに、ハードディスクみたいな記憶容量限界があって、200年も生きるともうそれを使い尽くしているから、一回、メモリをきれいにします!ってな感じなので、え、そんなんでいいの?とは思うわけだけど。。。

でも、そうして200年間分の記憶を消去することで、一応、キリトとアスナは、リアルワールドでもとどおりの17歳と18歳として生活することができることになった。

多分こういう教訓を経て、アクセル・ワールドの世界では、こうしたオリジナルのフラクトライトの摩耗ないしは破損の危険性を回避するために、一旦、複製体のフラクトライトを用意することで、ダメージは複製体の方で受け止めることができるような設計がなされている。

ちなみに、このブレイン・バースト2039のシステムは、SAO的にいえばリアルワールド人がアンダーワールド(と酷似したブレイン・バースト世界)に出向くための方法だが、その一方で、多分、このブレイン・バースト2039の開発者たちが裏で考えていたのが、

では、アンダーワールド人がリアルワールドに出向く場合はどうすればいいのか?

という問いだと思っている。

・・・という具合で、まだ続きそうな気がするので、一旦ここで切っておきます。

続きは、その2で。

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