DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

湖の鎮魂歌(114)

2013-11-27 23:56:58 | ButsuButsu


人生には説明のつかないことが多くある。

土曜と月曜と、お葬式が2件続いて気が滅入っていた。

親しかった板倉先生のご逝去は堪えた。

気分転換に読み始めた本が、森絵都の「ラン」だった。

1968年生まれの森は、2006年に直木賞を取っている。

軽妙な文体で、私が好きな作家、というより感化される作家の一人だ。

この本、読まれた方もあろうかと思う。

読んでびっくりした。

主人公、夏目環は、ひょんなことから死後の世界へ出入りできるようになる。

彼女は、13歳の時に両親と弟を交通事故で亡くし、20歳の時に保護者だった叔母さんを亡くし、22歳の時に猫のこよみを亡くした。

多くの死と対面してきた環が、廃業した自転車屋から手作りの自転車をもらった。

その自転車屋も妻と息子を亡くしていた。

彼が作った自転車は、もともと息子のために作ったものだった。

ある日、モナミ1号と名づけた自転車が環をあの世へ連れて行った。

そこで、環は父と母と弟に出会う。

ファーストステージと名づけられた死後の世界は、この世に未練を残した死人たちが暮らす世界だった。

つまり幽霊の世界だ。

この世界では、死んだ家族たちは皆、善人となっていく。

次第に悪い心を失っていくのだ。

森絵都は、このことを「とける」と表現した。

完全にとけてしまうと、セカンドステージに移る。

完全に形をなくした死者は、他者とも渾然一体となって生まれ変わるのを待つ。

ファーストステージの幽霊たちは、マジックミラーを通すように現世を観察していた。

父も母も弟も、環のことが心配でならなかったのだ。

その後、頻繁に自転車で死後の世界へ通うことになった環。

家族との再会は、環を幸せにした。

そこに死んだ叔母の奈々美が登場する。

厳しいけれども優しかった叔母。

「自転車ではなくて自分の足で来なさい」というのが彼女の要求だった。

環を運んでくれる自転車は、自転車屋の死んだ息子に返すべきだというのが言い分だ。

何故だか知らないが、この世からあの世への距離は40kmだという。

あの世で滞在できる時間は1日だけ。

40kmを走ってあの世を往復しなければならない。

こうして、運動オンチの環は、ジョギングを開始する。

そして何故だか、マラソン大会に参加する羽目となる。

この本の中で、森絵都が自転車屋に語らせる部分がある。

*****

死は美化できても老いは美化できない。

美化する余地のない冷酷な、そして強烈な「生」に僕は今、打ちのめされるくらい圧倒されながら毎日を生きています。

*****

死後の世界を見せながら、生きると言うことを教えようとする作者の意図が見え隠れする。

板倉先生も今頃、ファーストステージのあの世から、こちらの世界を見ているのだろう。

そこは匂いも味もない世界だけれども、一切の悪が消えていく浄化の世界でもある。

二つの葬式が終わってから、何気なく読み始めた森絵都の本。

死後の世界の話。

奇妙だと思いませんか。

あなたも最近、親しい人を亡くしたのならば、ぜひこの本を読んでみてください。

11月26日(火)のつぶやき

2013-11-27 05:12:50 | 物語