1996年から2001年まで、6年間にわたって調査してきた琵琶湖北湖の水深調査がほぼ完了した。
ほぼというのは、琵琶湖の地殻は日々移動しており、複雑な湖底地形の場所では、より綿密な調査が今後も必要だからである。
表紙に、今回のデータをもとに作成した琵琶湖湖底の立体図を掲載した。
深さ方向の誤差は約10cm、水平方向の誤差は約5mである。
今回の調査によると、琵琶湖北湖の最大水深は、104.1mであった。
これは、1976年の国土地理院の調査(103・8m)と比較すると、25年間で約30cm深くなっていることを示している。
もちろん、計測の誤差があるので簡単には比較出来ないが、もし計測が有意であるという前提に立って議論を進めると、1年間で約1cm深くなったということは面白い仮説を導き出す。
琵琶湖は、年間に約1mm沈降していると言われており、今回の変化から単純に琵琶湖が1cm沈降したと考えることはできない。
むしろ、琵琶湖が横方向に移動したことによって、結果的に水深が深くなったと解釈するほうが適切である。
ここで、琵琶湖の最も深い場所はどのようになっているのかを知る必要がある。
非常に面白いことに、琵琶湖の最大水深は、湖底山嶺のすぐ横である。
湖底から突き出した山は、70mほど屹立し、水面下30mにまで達している。
この山嶺の東側は幅約50m、長さ約200mにわたって深くえぐられ、最大水深部はこの窪みの中にある。
一方、山嶺の西側は、土が盛り上がったような形になっている。
まるで、山嶺が、東から西に向かって前進したような形状になっている。
国土地理院が実施しているGPS連続観測システム近畿版をみると、琵琶湖の西岸では地殻が年間約1cmの速さで東に向かって進んでいる。
一方、滋賀県の隣、三重県では、ほぼ同じ速さで西に進んでいる(http://mekira.gsi-mc.go.jp/pic_nen/disp06.html)。
両方の地殻は、鈴鹿山脈あたりでぶつかっており、ここで、一方が沈降し、他方は隆起している。
もし、フィリピン海プレートの西日本への沈み込みによって、三重県側が沈降すれば、沈み込んだプレートに乗った山嶺は、東から西へ進むことになる。
一方、山嶺の上にのる地殻は西から東へ移動するので、相対的には年間約2cm山嶺が移動することになる。
25年間では、50cmの移動距離になる。
山嶺の傾斜が約20%なので、横方向へ50cmずれると、その5分の1、つまり10cm深くなる。
今回の約30cmの沈降は、誤差を含んでおりそのままの値を信用するわけにはいかないが、地殻の水平移動を考慮すれば、オーダーとして十分説明できる数値である。
したがって、琵琶湖が水平方向に年間約3cm移動しているという同志社大学の横山氏の説は、あながち嘘でもないらしい。
はっけん号という実験調査船が1993年に進水してから8年たった今、このように興味深いデータを公表できるようになった。
河内船長をはじめとするクルーの皆さんのご協力に心から感謝したい。