君にかくあひ見ることのうれしさも

2005-07-14 | 良寛
貞心尼が、三嶋郡嶋崎村木村家邸内の小庵を訪ねて初めて良寛和尚に見えたのは、文政九年の秋であつた。良寛和尚の高徳の聞えは、ずっと以前から彼女の耳にも入つてゐた。敬慕のあまりどうかして一度その人に會つて見たいものだとは、彼女の久しい前からの念願であつた。そこで人を介してその意のあるところを和尚の許へ通じて貰ふと同時に、和尚が常に好んで手毬を弄ぶといふことを聞いて詠んだ歌にかこつけてさうした自分の敬慕の心を傳へて貰つたりした。
 これぞこのほとけの道にあそびつゝ 撞くやつきせぬみのりなるらむ
すると思ひがけなくも和尚からその歌の返しが屆いた。
 つきてみよひふみよいむなこゝの十とを とをさめてまた始まるを
そんなわけでつひに彼女はたまらなくなつてみづから訪ねたのであつた。
 君にかくあひ見ることのうれしさも まださめやらぬ夢かとぞおもふ
まつたくそれは彼女にとりては半ば夢心地の歡びであつた。その日は初めての見參であつたにも拘らず、貞心は夜更けるまでも良寛のそばを離れ得なかつた。
 白たへのころもでさむし秋の夜の月 なか空にすみわたるかも
こんな風に良寛の方で夜の更けたのに驚いてゐるにも拘らず、貞心の方では、
 向ひゐて千代も八千代も見てしがな 空行く月のこと問はずとも
と名殘を惜みもし、未練を殘しもしてゐる。良寛の方でもその心根を察して、
 心さへ變らざりせばは ふつたのたえず向はむ千代も八千代も
とやさしく慰め、
 又もこよ山のいほりをいとはずば 薄尾花の露をわけ\/
といふやうに、しみじみとした思ひを寄せてゐる。
(相馬御風「良寛に愛された尼貞心」4節
 http://www2s.biglobe.ne.jp/~Taiju/teisin_01.htm#1_01一部省略・加工)

この場面のカラフルな解説と貞心尼の絵がhttp://yuka.itspy.com/menu/sekai/2002/ryoukan/koi/koi.html
にありました。楽しいサイトですね(あまりに素敵なので、上で一枚お借りしています)。

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