ロールズの思考実験

2006-02-12 | philosophy

PCに大きな影響を与えたのが,ハーバードの哲学者ジョン・ロールズの正義論(J.Rawls, A Theory of Justice, 1971)。

正義(社会的公正)の基準は何か?
次である。

社会制度Xは正しい(正義にかなっている)
=def 原初状態(original position)において人々が全会一致でXを選択する

ただし、
原初状態
=def 以下の条件群を満たす人々から成る仮想的状況
1.彼は自分の属す社会が「正義の環境」にあることを、すなわち、全員の必要を十分に満たすに必要な資源がなく、利害の対立があることを知っている。
2.彼は合理的である;すなわち、自分の人生計画をもっており、それを実現するために必要な「社会的基本財」(social primary goods)―自由、機会、所得、富、自尊心の基礎―をできるだけ多く欲しいと望んでいる。
3.彼は子孫の福祉を増進したいという願望をもち、とくに直接の子孫に対し義務と責任を負っている。
4.彼は羨望をもたない。
5.彼は、自分の利益の追求の動機となる一切の個人的情報を欠いている(自分がであるか知らない)。ただし、社会の一般的原理、すなわち、人間の心理や政治・経済の基本原理は知っている(無知のヴェール veil of ignorance)。

では,正義の基準を満たすXは具体的には何?
ロールズの主張:X=「正義の2原理」を満たす社会
ただし、
正義の2原理
第1原理(平等な自由の原則)
 各人は、すべての人に対する同様の自由の体系と両立しうる、平等な基本的自由の最も広範な総体系を享受する平等な権利をもつべきである。
第2原理
 社会的および経済的不平等は、
 (a)正当な貯蓄原理と整合な仕方で、最も不利な状態にある人々(least favorable  people)の利益を最大化し(格差原理difference principle)、
 (b)公正な機会均等という条件の下、すべての人々に開かれた職務や地位に付随している(機会均等の原則)、
といったように整えられるべきである。

社会のメンバー全員が社会の一般常識は知っているが自分が誰であるかということだけ知らない,という仮想的な状況を考えてみよう。突然全員が自分についての情報を失った記憶喪失状況。架空の設定だが,とにかくこの設定により,単純なエゴイズムが排除される。つまり誰もが自分に都合のいい意思決定ができない。そもそもみな自分が誰であるかわからないのだから。このような状況で,「望ましい社会は何?」が問題になり,投票によりそれを決めよう,ということになったとする。もしそこで全員がOKするような社会システムがあったとすれば,それこそが「公正な(フェアーな)社会」だ。

ロールズの思考実験によれば,その架空の投票において全員が選択する「公正な社会」は,具体的には,「最大多数の最大幸福」のような功利主義的社会ではなく(そこでは全体の利益のために個人の自由,少数派の自由が損なわれる恐れがある),
(1)「基礎的な自由」が等しく全員に与えられ,
(2)人間社会の性質上避けられない不平等(格差)の設計にあたっては,「機会均等」(原則的に誰でもどの仕事にもつける)が保障され,かつ,「最も恵まれない人々」の幸福を増やすような仕組みになっている,
といった社会だ,とされる。

ロールズの思考実験に含まれる論証を「ナイーブ」だとみる人は多いと思う。しかし,そこから彼が導き出した,社会経済的格差は「最も恵まれない人々」(least favorable people)の幸福を増やす限りで許される,という「格差原理」(difference principle)は大いに注目された。それによれば,小泉さんが偉いのはなにも総理大臣というポストについているからではなく,また,最高税率を大いに下げたからでもなく,恵まれない人々の福祉をアップさせた限りにおいてだ,ということになる。

Wikipediaから
John Rawls (1921–2002) was an American philosopher, a professor of political philosophy at Harvard University and author of A Theory of Justice (1971), Political Liberalism(1993), Justice as Fairness: A Restatement, and The Law of Peoples. He is considered by many scholars to be the most important political philosopher of the 20th century in the English-speaking world.
比較的最近の翻訳に「ロールズ哲学史講義(上)(下)」みすず書房。日本語タイトルは若干misleading(でもこのほうが確かに売れそうではある)。内容は近世から近代にかけての政治・倫理思想史についての講義。

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