紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

★55 最期の最後

2024-09-22 06:28:06 | 「と・ある日のこと」2024年度



「あなたねぇ、さいごはどうするつもり?」
 電話の向こうのM子の言う「さいご」は人生の最期のことらしい。

M子の実母は90歳を越えていた。痴呆症らしい症状も出てきた頃、M子の兄や姉の手を煩わせることが多くなった。ようやく、実母を施設に預けることが出来た。それも、家に居たいということを説得し続けて、ようやく入所させたのだが、面会に行く度に、「家に帰りたい」と言い続けていたらしい。そのような状態だった実母を見て、自分が老いたなら、自分から施設に入所する。と言っていたM子だった。

「わたしは、最期の最後まで家にいるつもり」という私の言葉に一瞬息をのんだ様子。
「何故なら、入所したところが、必ずしも、自分に合った職員だったり、入所仲間だったりなら良いけれど、そうでなければ、大変な事よ。帰ると言っても、易々と家族が承知するとも限らないし、苦しむのは自分。出来る限り心身の健康を保って、最期の最後まで、この家で暮らしたいと思っているわ」
 M子のため息が聞こえたような気がした。たぶん、M子が想像していた答えではなかったのだろう。
「お嫁さんの世話になるってことね?」
「そうなるかもしれないし、また、その時の状況が全く違ったものになっているかもしれないけれど」
「私は」M子が言葉を詰まらせた。

 さて、本当はどういう状態の最期の最後になるのかは不明だ。誰しもが、突き当たる問題。人間として良い最期の最後が迎えられれば幸せなことだが。

 誰にも看取られることも無く、ひっそりと最後を迎えたにしても、それはそれで、最高の良い最後かもしれないし・・・。




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★54 舞香さんが来た

2024-09-15 07:35:14 | 「と・ある日のこと」2024年度


 
生保レディの舞香さんが来た。年一のお顔拝見と保険の確認が目的とか。舞香さんは初顔の生保レディ。黒いミニボックスに乗って来た。ポーチの燕の巣に気づいて、「あら、雀ですか」と。思わず笑っちゃいました。本人も燕と気づいて、「ガハハハハ」と笑った。145cmという体格からは想像外の豪快な笑い。こちらも引きずられて「ウフフフフフ」

 玄関に脱いだ靴はちっちゃくて、22センチのサイズでも大きいので、下敷きを入れているとか。私も22,5センチの靴だが、それよりもっと小ぶり。可愛いさが溢れている。

 生保の確認は、パソコン画面を見て進められた。生保レディの舞香さんの手際よさで、すぐに終わり、夫のパスワードの再登録だけが次回に回された。

 すぐに帰ることは無く、世間話などで暫く滞在。
結婚間近だと言う舞香さんの手の爪は、キラキラのマニキュアが目立った。ウエディングドレス姿は、お人形さんのようになるのではないだろうか? 幕張の何とか言うホテルでの結婚式は、130名ほどの出席者になるとか。結婚相手はO市の市役所勤め。小中学校の二つ先輩で、二人ともO市生まれのO市育ちだそうだ。

結婚相手はO市役所で婚活係をしている。O市役所の婚活パーティーの参加者は、O市在住の、年齢は38歳までの男女に限定されているそうだ。結婚してもO市に住んでもらいたいという理由らしい。近隣の市町村も巻き込んで婚活パーティーをしたなら、もっと効率よい婚活が出来るかもしれないが、とにかく、市民を増やすことに繋げたいようだ。

 舞香さんは、とにかくよく笑う。ちっちゃいお顔で、豪快な笑い声。さぞかし、楽しい家庭になることに違いない。




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★53 クロスズメバチ

2024-09-08 07:24:29 | 「と・ある日のこと」2024年度


 息子が亡くなってから毎月一度は墓参りをしている私たち夫婦。お陰様で年月と共に老いている私たちではあるが、花を供え、供物を供え、お線香を手向けられている。

 数年前から、我が家の墓石の香炉の中に、蜂の巣が造られている。蜂と言えば、獰猛な蜂もあれば、そうでない蜂もいるようだが、どちらにしても、香炉の線香を置く器に手を伸ばすことになる。幸いとして、蜂に刺されたことは無いが、春先から出来始める巣を、早い段階で始末しないと、一カ月後の墓参時には、数段大きくなっている。

 毎年、蜂が香炉の中に入りにくいように、幅広のセロファンテープなどで、香炉の中に入りにくいようにしていたのだったが、その御陰で、いつの間にか蜂の存在を忘れていた我ら家族。ところが今年の春。直径三センチほどの巣が、香炉の中の上の部分に張り付いているのが見えた。しかも、数匹の蜂が、忙し気に巣の周りをうろついていた。もう、卵が産み付けられている。蜂が守るように群がって居るので、巣立つのを待つことにした。

 七月に入って梅雨明け間近の曇りの日。香炉の中の巣の様子を見ると、何ということでしょう? 巣は、直径十センチ以上も大きくなっていて、蜂の子がうようよと巣の周りで遊んでいた。線香を置く器を外に出し、線香を焚くと、ぶんぶんと大人の蜂が飛び出してきた。それは、それは、巣を守る。子を守る。蜂の勢いは、恐れをなすほどである。さんざん考えた末に、自分たちで駆除できそうもないので住職へ電話を入れた。
「境内の他の場所にも蜂の巣があるので、駆除しますので大丈夫ですよ」と言ってくれた。半日後、住職から電話連絡がきた。クロスズメバチと言う種類の蜂だったそうだ。お陰様で迎え盆や、送り盆も恙無く済ますことができた。



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★52 顔の下部分

2024-09-01 11:21:02 | 「と・ある日のこと」2024年度



久しぶりの再会のEさん。緑色のドレスを着てきた。仲良しのWさんを伴っている。予約席は私の隣。
新型コロナ流行以来外せないでいたマスクを、私はずうっと未だに着けている。循環器系が弱いこともあり、以前から外出時はマスクを着用していたので、そんなに抵抗も無く、未だに電車内は勿論、ホールで踊る時も外さないでいる。

 EさんとWさんは、ダンス曲が流れ出すと、マスクを外した。
約2年近く会わなかった二人の顔を、何気なく見た。ああ、少し老いたような気がした。こういう時の心理って、自分のことはシッカリ棚に上げるモノらしい。彼女らと同様、私自身も老いているはずだ。だが、自分の顔は鏡で見ても、正確に見えるはずもないだろうから、欲目で見る。それでも、ほうれい線というものの、顔の下半分は特に、重力に耐えかねて、形など気にすることもなく、ぽっちゃりとか、ゆるやかにとか、下がってくるモノらしい。

「ねぇ、あなた、マスクを外して、お顔を見せて」と、Eさんが言う。ちょっと戸惑ったが、一年以上も会わなかったから、顔をシッカリ確かめたいのかしら? などと思い、私はマスクを外した。
「・・・・・」Eさんは、唇の端を上げてほほ笑んだ。どういう見え方をしたのかは言うはずもないが、自分同様の年月を垣間見えたはずだ。

 一年半も病気と戦ったEさん。ダンスの足型は忘れないでいたようだ。一時の勢いのあるダンスではないように見受けられるが、軽やかにステップを踏んでいる。次の約束は無かったが、また何れ一緒に踊る時は来るだろう。それまで、どうやって、老いの印から逃れられるか? 暫しの間考えていたが、いつの間にか、いつもの暮らし方に戻っている。 




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パソコンの不具合でしばらく更新できませんでしたが、まだ、不慣れですがとりあえず「と・ある日のこと」を更新しました。
早く新機能に慣れるように頑張りますので、よろしくお付き合いくださいませ。

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★51 宇宙人の田んぼ

2024-08-17 06:44:03 | 「と・ある日のこと」2024年度


 宇宙人と言われていたT氏。米所の農家さんだが、先祖から受け継いだ田んぼは一町五反。自分の代になってからは、田んぼの管理と米作りは、町内の専業農家に委託している。

私が喫茶店を経営していた頃の常連客である。飄々とした人柄は、仕事仲間からは「宇宙人」と呼ばれていた。掴みどころのない性格は、まるで皆がいう宇宙人らしくあった。

 我が家の毎日のご飯は、この宇宙人みたいなT氏家の米を食べている。喫茶店閉業後も、毎年半俵(30kg)8個前後を購入して、無くなる近くに連絡しては、精米した米を届けてもらっている。

 ある時、数日に掛けて連絡しても電話が通じなかった。後に知ったことだが、宇宙人の奥様が脳梗塞を患い、入院生活を続けているとのこと。スッカリ奥様に頼り切っていたT氏は、青天の霹靂。米農家の後始末は、息子二人と奥様に任せて、自分は90歳ごろに逝くつもりでいたらしい。それが、妻が後遺症のある病人となり、息子二人も、家から離れた所に所帯を持ってしまった。自分に都合の良い計画は考え直しをせまられている。

「困ったよ、一番は田んぼのコト。今まで通りに専業農家に頼んだとしても、何れは何とかしなければならない。固定資産税は掛かるし。売ろうにも田んぼは安いんだ」

 老いた宇宙人は、4個も癌が見つかっているとか。手術後の癒着で、また縫い直した腹部を庇うように、半俵を3個の袋に分けて入れた精米を、ミニトラックの荷台から下ろし、我が家の玄関まで運ぼうとした。縫い目がはじけるといけないから、重いモノは持たないようにと、主治医に注意されていたらしい。慌てて私は、T氏から米袋を取り上げ、エッチラオッチラ玄関まで運んだ。

美味しい米はいつまでも食べたいものだが・・・。




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