紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

★50 付いた手摺

2024-08-10 07:45:35 | 「と・ある日のこと」2024年度


 我が家から見えるお宅の玄関から、門に向かって家の外壁に手摺が付いた。数日前二、三日掛けて、工事していたが、外回りもそうだが、家の内部からも工具の音がしていたので、内部も同様の設えを施したのかもしれない。

 このお宅は、4人の男女の子供たちはみな成人して、それぞれが独立したらしく、現在はご夫婦だけが暮らしていた。まだ二人とも七十代半ばの年齢に見える。だから、手摺の設えは、ご主人か奥様のご両親の何方かが同居するためだろうと察した。

 と、ある日の正午頃、丁度私がそのお宅の前を通った時、玄関からご主人が出てきて、その後から、三、四十代と見られる介護職らしい女性が、大きな手提げ袋を抱えて出てきた。ご主人は何やら言葉を交わし、深々と頭を下げた。そして、駐車場からその女性の車が通りに出ると、改めて頭を下げて見送った。

 私は、よそ様の家庭の中を覗くつもりは無かったが、余計な想像が湧き出てきた。
もしかして、何方かの身体が不自由になったのかもしれない。私の、身体障碍者の息子を育てた経験が、あらゆる場面を想像してしまう。玄関から駐車場までの手摺は? 身体障碍者が居ることの証ではないのか?・・・・
 最初は、ご夫婦の超高齢の親御さんの誰かかもしれない。という、想像は、この頃見かけない奥様ではないかとの想像に変化した。

 その身にならないと分からない事は、突然やって来るものだ。全く、想像外の事。最初は戸惑い、そして悔し涙を流し、そして、逃げられない現実に愕然とする。が、それを少しずつ受け入れて、少しずつ前向きに、歩む覚悟をし、そして、その現実に向かって努力するしかない。

想像は大きく膨らんでしまったが、全くの想像外であればいい。私の余計な妄想であれば嬉しい。



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★49 (★47の続編) 落下した子燕

2024-08-04 06:25:51 | 「と・ある日のこと」2024年度
先日、我が家の巣から燕の子たちが親共々巣立った。早朝の旅立ちだ。



 この猛暑の中、子育てをしていた燕。巣は、カラスなどの襲撃に遭わないようにポーチの中心にある照明器具の側面。やりづらい作業だったかもしれないが、出来上がると卵を産み、抱卵を開始。子燕の数が4羽だと思っていたが、3羽であった。

 ある日の朝私は、毎日のルーティンで庭を徘徊し、玄関ポーチ迄行く途中に、何やら蠢いているモノを見つけた。掴んで見ると、なんと、燕の子だ。まだ羽の生え揃っていない子燕は、怖がることも無く、私の手の中にいる。巣から落下したようだ。野鳥に手出しはしない方が良いと思ってはいたが、地上に下りない習性の燕が、子を巣に戻すことは出来ない。それに、地上にいる子燕を認識しても、餌を運び養育することは無理ではないか?

夫が六尺の脚立に上って巣に戻した。次にさっきの燕より小ぶりの雛が、糞受けの紙の上に落下。大急ぎでまた脚立を出して、夫が巣に戻した。と、そうしているうちに、二番目よりチビの子燕が落下。巣が手狭になったせいらしい。巣に戻したいが、夫は用事があって出かけてしまっていた。私は、自分一人で脚立に上る勇気がなかった。仕方なく、プラスチックの皿に紙タオルを敷き、子燕を収容。夕方戻った夫に巣に戻してもらった。30分おきの餌やりが出来ないと衰弱するとかいう時間を大幅に過ぎていた。

 番の親が餌を運んできた。我ら夫婦はポーチから離れて中庭の方に移動して見ていた。と、思う間もなく、ストンという音と共に、チビが落下。今度はタタキにもろに落ちた。番の親燕は、鳴き乍ら右往左往に飛び、子の心配をしている。チビは動かない。親二羽は暫くチビの真上辺りを大騒ぎで飛び回っていたが、諦めたように飛び去り、戻って来た時には、遺った二羽の子燕に餌を与え続けた。
 羽が育ち、羽ばたきを繰り返し、そして、生き残った子燕たちが巣立った。



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★48 たまご売り

2024-07-28 06:55:34 | 「と・ある日のこと」2024年度

 
と・ある日。某ダンスホールに出かけました。今日のスタッフ5人の中に、養鶏場の社長をしているSちゃんが居ます。Sちゃんは、話術も面白く、ダンスは軽快な足取りで踊ります。人気者の一人で、いつも明るく楽しいダンサーでもあります。

 今日も、6個入りパックの卵を持参しているようです。休憩時間になると、スタッフの誰かが「ミネソタのたまご売り」の曲を掛けました。ずうっと若い頃聞いたことのある曲です。
「ココココ コケッコ・・・」と女性歌手が歌いだすと、Sちゃんは踊り出します。
ホールいっぱいに、飛んだり跳ねたり。鶏の動作を真似て踊ります。流石に、日々鶏と付き合っているだけあって、まるで鶏の雄が沢山居る雌の間を踊っているように見えます。

ホール中のスタッフとお客様が「ヤンヤ」の手拍子を送ります。そうして曲の中盤になると、数人のお客様がカウンター前に並びます。6個入りのパックは頑丈で、遠方までの持ち運びにも耐えられそうですが、私は購入したことはありません。混んだ電車内では心配でもありますし、我が家のキッチン係は、常に冷蔵庫に卵を収納しているからです。

「卵お買い上げありがとうございます。後、4パック残りがあります。どうぞ宜しく。売り残して帰ると、まず、子供が泣き、妻が泣き、そして、自分も泣くことになります」
 Sちゃんは、お客様に訴えます。笑い声が響きます。三人が買い上げました。
「あと、1パック」
 Sちゃんが声を上げます。
「残りはセリで。五円から」スタッフの一人が叫ぶ。「ちょ、ちょっと待って。お願いしますよ。1パック6個で、五百円です。お願いしますよ」卵売りのSちゃんが叫びました。

猛暑のこの日も卵は売り切れました。





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★47 青大将と夏燕

2024-07-21 05:21:17 | 「と・ある日のこと」2024年度


「青大将が現れたよ」
 夫は、一大事を訴えるように言う。聞けば、バードゴルフの練習に出かけようと玄関の扉を開けたら、扉に添って長々と涼んでいたらしい。ここのところの暑さに出てきたらしい。

 青大将と初めて遭遇したのは、喫茶店営業中だった。カウンターの椅子で休憩していた時。「バサリ」と、本でも落ちたような音で見ると、カウンター内の造り付けの食器棚の上から落ちたのか? 動いたのは1mほどの青大将だった。大捕り物は不発に終わり、冷蔵庫の下に逃げ込んだ青大将は翌朝には居なくなっていた。それから毎年のように梅雨入り頃に現われるのである。どうやら、庭の一角が住処らしい。喫茶店を閉業して、店舗と住まい全部を解体し、新築住居になったにも関わらず、年一、二回は見かける。気持ち良いモノではないが、だからと言って、どうすることも無く、我が屋敷の守り神になった。


 新築家屋が出来上がった翌年の梅雨入り頃、毎朝燕の囀りがした。玄関のポーチは三坪。ポーチの天井中央にある丸い照明に、燕が巣作りを始めたらしい。番がせっせと何処からか材料を咥えてきた。その巣は数年使え、毎年4,5羽が巣立った。築15年過ぎて屋根を葺き直し、外壁全体を塗装したときに、巣を取り壊してしまった。

 あれから、毎年、玄関ポーチの内覧があったのだが、巣作りはしてもらえなかった。なのに、今年の燕たちは、数日内覧に来ていて、そして、ついに巣作りを開始したのだ。
 燕の囀りは喜ばしいもの。ポーチの天井中央の照明器具は、鴉の襲撃も、青大将の悪戯も出来ないような場所。
 抱卵日数は三週間弱。ついに弱弱しい鳴き声をさせて雛が誕生した。楽しんで見守る。


舌打てば四つの顔出す燕の子


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★46 二度目の寡婦

2024-07-14 06:32:31 | 「と・ある日のこと」2024年度


「また、未亡人になってしまったわ」
 と、ちょっと自嘲気味の声が、すぐに涙声に変わった。一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

「私が殺したのではないわよ。助けられなかった。そうめんを柔らかくして、少しとろみをつけて飲み込みやすくして食べさせていたんだけど。咳き込んでね、その時喉に詰まらせたみたいなの。私は殺していないわよ。何しろ痩せていても重かった。息子を呼んで吐き出させようとしたんだけど・・・。救急車が来た時には呼吸は止まっていた。心臓がよほど弱っていたのね、助けられなかった。また、未亡人になってしまったわ」
 彼女の声は絞り出すように、そして、千切れるように、それでも一気に言うと、しばらく嗚咽が続いた。

 GWの3日が通夜で4日が葬儀だと言う。
身内だけで葬儀を執り行うそうだ。私は地図を広げて彼女の移住地の国を見た。遠い。

 3日の朝、いつものように狭庭を徘徊していた時、ふわりと私を掠めた影。影を追いかけると大きな黒い揚羽蝶。きっと亡くなった彼だ。急いでカメラを持ち出す。揚羽蝶は、ふわふわと私の周辺を舞う。植物に留まるところを待ってシャッターを押す。ご冥福を祈る。

 彼女は先の夫君を突然死で亡くす。息子と娘はまだ中学生と高校生。二人を育てるのに必死に仕事を選び、その先の先輩だった彼と結婚したのは、共に還暦を過ぎてから。そして、介護生活七年が過ぎて、二度目の未亡人となった。

 彼女自身も乳がんを患い、想像を絶する介護の毎日だったようだ。残りの人生の幸せを祈らずにはいられない。


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