<両軍スタメン>
- コイントスでコートチェンジ。
数多J2から降格してきたクラブの受け皿となっているJ3。
そのJ3自身も、今季から始まった(正確には再開された)JFLへの降格制度という恐怖の門が開き。
前年に降格が決まってしまい、再びJ3に舞い戻る格好となった琉球もその立場は同じ。
前年のJ3リーグは、降格組の相模原が最下位に沈むという衝撃的?な結末もあり、どのクラブが突き落とされてもおかしくない状況です。
そして1年でJ2へ復帰する事は至難の業(過去の成功例は大分の1クラブのみ)という、まさに新たなる魔境と化しつつあるリーグ。
そのネガティブぶりをあまり感じさせないのが、この日の相手である今治と、そのホームである今治里山スタジアム。
前年リーグ戦を戦っている間にも着工が進められ、この度完成・開場。
現在はまだJ3規模の集客力(最大5316人)しか無いものの、今後拡張を目指すという、まさにJ参入して間も無い昇り調子の今治の形を示している風でもあり。
しかしその今治の足下にも平等に襲い掛かる、降格への恐怖。
果たしてそれを振り払い、J2昇格に到達する日は来るかどうか。
試合が始まると、中々ボールが落ち着かないなか、お互いがゴールを目指す入りに。
琉球は前半3分、1トップの野田が中央からドリブルの後にミドルシュートを放つと、これがゴール左へ際どく外れる惜しいフィニッシュ。
一方の今治は、右からのスローインを軸として攻め上がり。
4分に山田のクロスが上がると、ヴィニシウスがバイシクルでシュートを狙いにいきましたが、手前でクリアされて撃てず。
立ち上がりの攻防を終えると、双方ポゼッションを高めにいく時間となりましたが、お互いプレッシング意欲旺盛のため中々厳しい状況に。
そんな中で今治は、最終ラインで繋ぎつつも、一度前へ送るとスピードアップさせて一気に敵陣を脅かす攻撃が冴え渡ります。
この日は期待の新戦力・ドゥドゥが初スタメンという事で、裏抜け・速さの面で戦力アップを果たしたのもあり。
15分琉球のロングボールをパクスビンがカットすると、拾ったヴィニシウスがスルーパスをドゥドゥに送り、琉球のベクトルを反転させ。
そして左からのスローインに繋げると、細かい繋ぎを経て新井がカットインからエリア手前でシュート。
GK田口がセーブするも、ドゥドゥが反応良く詰めて追撃、強烈なシュートがゴールポストを叩いたのちゴールイン。
ドゥドゥの能力がフルに活かされた攻めで、早くも先制点に辿り着いた今治。
スコアが動いた事で、動揺からか琉球のポゼッションが揺らぐ中、尚も攻める今治。
22分に敵陣でボール奪取ののち最終ラインへ戻し、市原の縦パスを受けたヴィニシウスがエリア内左へスルーパスと、ここも素早い前方への運び。
そして走り込んだドゥドゥが今度はマイナスのクロスを入れ、後方からヴィニシウスが合わせてシュートを放つも、枠を捉えられず。
助っ人2トップによるゴールの競演、とはいきません。
ビハインドであり、嫌でもボールポゼッションによる攻撃を貫かなければいけない琉球。
最終ラインを3枚にしつつ、サイドバックを高目に上げてのビルドアップはもはや言葉は要らないといった感じであり。
前年緊急的に挟まれたナチョ・フェルナンデス前監督による真逆のサッカーを挟んでも、その伝統は健在なのでしょう。
この日はサイドチェンジを多用し、それも敵陣深めで敢行する場面が目立ち。
クロスを上げても良いような位置で、送った浮き球がエリア手前の逆サイドに渡るというその絵図が印象的でした。
密集させたのち展開、というのがサイドチェンジですが、やはり敵ゴールに近い位置でそれを果たした方がポケットを突き易くなるのは当然であり。
そんな、伝統に一手加えるという手法で攻撃権を支配する琉球。
それでもフィニッシュに辿り着けずにいると、30分過ぎ辺りからは最終ラインからの縦パスを、降りた2列目の選手に受けさせる手法を見せ始め。
この日はトップ下に富所、左SHに武沢と、前年まではボランチでのプレーが中心だった選手が出場。
中盤へ降りて受け、その後さばくという彼らの姿に違和感は無く、これも理に適っている振る舞いでしょうか。
そんな、相手を崩すのに試行錯誤を重ねた琉球ですが、ポゼッションスタイル故の悩みには逆らえず。
フィニッシュは結局36分の上原のミドルシュート(枠外)のみに終わります。
一方今治の攻撃は、プレスを強めに掛かる琉球の前に中々機能せず。
立ち上がりは短く繋いでいたゴールキックも、次第にロングフィードへと移行する事となり。
前線にボールを送り、後はヴィニシウスを中心としてインテンシティ勝負といった感じの敵陣でのサッカーだったでしょうか。
44分には敵陣左サイドでボールキープするヴィニシウスに対し、武沢が倒されながらディフェンスするも、この際にチャージしてしまい武沢の反則に。
すると武沢がヴィニシウスに対しヒートアップする絵図が生まれるなど、「パワーサッカーに対し難儀する」というようなシーンも作ってしまう琉球。
結局1-0のまま前半を終え。
視界良好な今治に対し、それを塞がんとしハーフタイムで動く琉球。
鍵山→金崎へと交代し、富所をボランチへと移す策を採って来ました。
金崎・野田の2トップなのか、あるいは4-2-3-1のままなのかという戸惑いがあったでしょうか。
今治サイドはそれを確かめようとしていたのか、琉球のキックオフで始まると、上原の裏へのロングパスを照山がクリア出来ずに野田に渡り一気に危機に。
そしてエリア内でGKと一対一を作った野田、シュートを左へと蹴り込みゴール。
後半開始の笛から、あっという間の同点劇となりましたが、それだけでは終わりません。
続く後半2分再び琉球が好機、自陣からのスローインを金崎がフリック、これはクリアされるも尚も繋いで左サイドを前進。
そして武沢のスルーパスに走り込む金崎が奥から低いクロス、ニアサイドへ入れられたボールに合わせたのは外から走り込んできた人見。
野田を見ていたのか今治ディフェンスはこれに対応出来ず、シュートを許した結果ゴールネットに突き刺さるボール。
僅か2分足らずでの逆転劇に、色を失うホームの今治サポーター。
その後のキックオフで、ヴィニシウスがセンターサークルからそのままドリブルで持ち上がるという絡め手を見せる事で、何とかファイティングポーズを保つ(ように見えた)今治。
投入された金崎は、見た目ではトップ下として攻撃を流動化させる役割を果たしているようであり。
9分に今度は右サイドで縦パスを受ける金崎、スルーパスを送ってそこに走り込んだ上原がクロス。
ニアサイドに今度は武沢が跳び込みますが、僅かに合わずクリアされ。
今治はやはりショックを隠せないのか、攻撃にリズムが生まれず時間を浪費していき。
コーナーキックを得ても、そこからカウンターを浴びてしまう(9分、金崎がミドルシュートを放つも枠外)など、厳しい状況を強いられます。
13分には中盤でボールを奪われ、再び金崎にカウンターを受けそうな所で、ドリブルに入った金崎を腕で倒したパクスビンが反則・警告を受け。
そんな被害状況を受け今治ベンチが動いたのが17分で、警告付きとなったパクスビンを退かせ。
安藤と代え、同時にドゥドゥ→近藤へと交代するとともに、ヴィニシウスが1トップの4-2-3-1へシフト。
新井がトップ下・山田がボランチへとシフトし、投入された安藤・近藤がそれぞれ右SH・左SHと、中盤の攻勢を弄ってきました。
そしてそれと同時に、16分にサイドチェンジをミスした人見がどうやら足を痛めてしまったようで(痛めたためわざとタッチに出した風にも映り)担架で運ばれ、琉球も被害による交代措置を採る事に。
今治はそれによる数的優位の間の18分、敵陣でのボール奪取を経て安藤から右からカットイン、ポケットからシュートを放つもGK田口がキャッチ。
そして19分に琉球がカードを切り(野田・人見→阿部・荒木)、ようやく今治が本格的に追う立場となる展開が始まった、といった所でしょうか。
前半のようなギアチェンジからの素早い攻めは、ビハインドのため敢行するのは至難の業である今治。
そのため中盤の人数を増やし、ボールサイドに人を掛けてその圧で前進していくという攻めに入ります。
アタッキングサードでパスを繋ぎ、琉球ディフェンスを揺さぶってフィニッシュに持っていかんとする攻撃を貫き。
21分に安藤がペナルティアークからシュート(GK田口キャッチ)、23分には右ハーフレーンで新井のスイッチを経て近藤がミドルシュート(GK田口キャッチ)と、エリア手前でのシュートは増えていき。
しかし決定機までは持ち込めず。
エリア内に持ち込もうとすると、人数を掛ける分どうしても細かいパスが増えていき敵・味方ともに密集を作ってしまい、強引に切り込むもシュートは撃てずという絵図を繰り返してしまいます。
窮状を打破すべく、31分に再び動く今治。
山田→楠美へと交代し、これによりボランチは攻撃時ほぼ縦関係で、楠美がアンカー・三門は前線に絡むという役割を固定化させます。
その三門が決定機に絡んだのが33分。
右からのスローイン、パスワークに新井のカットインを挟め、逆サイドへ展開ののち冨田がシュート気味にグラウンダーでクロス。
これを走り込んだ三門がファーサイドで合わせ、ネットに突き刺し。
同点弾に沸き立つサポーターでしたが、その刹那オフサイドの判定が下されてぬか喜びに終わってしまいます。
攻め込むも追い付けないという状況に、焦りが加わる今治。
一方琉球も、こうした今治の圧をモロに受けてしまう、つまり攻め込まれ続ける状況へと追い込まれ。
今治の最後の交代(先程の31分)以降、攻撃機会は殆ど無く。
後方でボールを持ってもクリアを選択するばかりになるなど、ビルドアップはままならず。
追い付きたい焦りと、守りきりたい焦りのぶつかり合いは、サッカー的にはクリアボールから始まる跳ね返しの応酬という絵図に露わになる事となりました。
こうなると、組織力云々よりも精神力の勝負、といった状況でしょうか。
琉球が39分に最後の交代(武沢→高安)を敢行しても、今治が敵陣でサッカーを展開し続ける状況は変えられず。
それでも今治は、闇雲にエリア内へ放り込みを続ける手法では無く、ひたすら決定機を探し続けショートパスを繋ぐ戦法を採ります。
簡単に「後はエリア内で何とかしてくれ」というボールを送る事をしたくなる、誘惑との戦い。
これも一種の精神面での勝負か。
そして突入したアディショナルタイム。
CKを得た今治ですが、クロスの跳ね返りを拾った近藤のミドルシュートが枠を大きく外してしまい。
GKセランテスこそ、ヴィニシウスをターゲットとしたフィードを送るものの、あくまでも陣地回復のための手法。
そしてそのフィードから再び繋がり、安藤のカットインからのクロスで再度CKに持ち込む今治。
キッカー三門は中央へクロスを送り、冨田がヘディングシュートを炸裂させましたが、GK田口のセーブに阻まれ。
折角放った枠内フィニッシュも防がれては、最早これまでという空気も流れるのも仕方無く。
それに従うように、その後琉球が敵陣に持ち込み、ボールキープで逃げ切りを図るシーンが描かれ。
市原がボール奪取してそれを切った今治ですが、時間は既にAT4分を経過し、とにかく攻め上がるしかない。
それでも敵陣でショートパス主体での攻めを貫き通します。
そしてそれが報われる時が訪れ、右サイドでの前進から中央→左へとサイドを変え、左から冨田がクロスを入れる体勢に。
これがブロックに阻まれるも、こぼれ球が中央へと転がった所へ、近藤がすかさずシュート。
豪快にゴールネットを揺らし、同点に追い付いたと同時に試合終了の時を迎えるという、まさに最後の最後でモノにした今治。
こぼれ球が、クロスに備えた琉球ディフェンスの虚を突くように転がったのは恐らく偶然でしょうが、それを呼び込んだのは今治の精神力に他ならず。
昇格のためには、こうした精神力を試される戦いが続く事が予想されますが、モノにする事が出来るでしょうか。