Scientific Boxing

国内、海外のボクシング界の状況や試合の観戦記などを絶対的主観で書き綴るブログ

観戦記~スティーブン・フルトン vs 井上尚弥~

2023年07月29日 | BOXING
WBC・WBOスーパーバンタム級タイトルマッチ

王者:スティーブン・フルトン vs 挑戦者:井上尚弥
試合結果:井上8RTKO勝ち

■分析~フルトンの場合~
早々に実況解説陣がそのスタンスの広さを強調していた。
91年、アズマー・ネルソンvsジェフ・フェネックでもリングサイド入りしたWOWOW解説はネルソンのスタンスの広さに
驚いたコメントをしていた。
日本人の一般体型の認識では長く細い脚によるスタンスの広さは異次元に見えるのだろう。
日本人の体型も変化しているようだが30年経過しても大枠と認識は変わらないと言うことか。
フルトンのスタンスの広さは細く鋼の様な脚で膝をさほど折ってないのでそのフォルムはまるでshapeなコンパスのようだ。
「 まるで~のようだ 」 と言う形容からそれがニックネームになるのはボクシング界では通例である。
例えば
ホセ・ ” マンテキーヤ ” ナポレス
ファン・マルチン・ ” ラティゴ ” コッジ
ガブリエル・ ” フラッシュ ” エロルデ
ドノバン・ ” レーザー ” ラドック
※選択シブイ

コンパスをニックネームにするならばヨリボーイ・カンパスか。
マイケル・バッファーがアクセントをつけて 「 ohhhh, ヨリボーイ・ ” コンパス ” カンパス on the キャンバス 」 とか。
アメリカ人、メキシコ人にウケるかな。日本人にはウケそうだが。いや管理人だけか。
とは言うもののカンパスがコンパスに見えるなどありえないが。
何故なら90年代、ジョーイ・ガマチェと双璧をなす胴長短足ボクサーだから。
ジョー小泉氏は解説でガマチェを 「 メイン州の武田鉄矢 」 とか言ってたな。
しかし管理人は何の話をしているのやら。

フルトンのスタンスは前脚を張り、後脚をやや折り、気持ち後方にバランスを置いているようだ。
利点
・相手の距離感を狂わせる。 ( つま先と頭の位置関係の常識を狂わせる )
・ステップバックに富んでいる。 ( 管理人的にフレーズとして、バックステップは受動的、ステップバックは能動的 )
・相手の攻撃に対する右カウンターを打ちやすい。
 ( 前述のネルソンは逆にやや前方にバランスを置き、これは相手の攻撃に対する左カウンターを打ちやすい。
  実際vsフェネックでは強烈な左フックを存分に打った )

欠点
・連続ジャブが打ちにくい。 ( ダブルまでは行けるがトリプルは足が浮いてしまうだろう )
・腰が入った強い右を打ちにくい。 ( 実際、右を打った後、前足を軸に打ち終わりサウスポースタンスに着地した )
・明らかにペースを握ってないとネガティブの印象となる。

上記、利点を発揮し、欠点を補いながら戦った。
ディフェンスはパーネル・ウィテカのようにボディワークを多用するものでなくステップバックから左右への大きなステップ。
左へのステップから左足で強烈なブレーキをかけて右へステップジャンプする動きは
まるでvsロベルト・デュランⅡのシュガー・レイ・レナードのようだ。
スキルフルな要素においては進化しているのでレナードを超える Level of Completeness と言っても過言でないだろう。
管理人的にはブロッキングが巧みに見えた。
3R以降、自ら距離を詰めて行き相手の右パンチを受けることも多かったが、実況が騒ぐほど食ってない。
左ガードでブロックしていた。
ガードの隙間、ボディを狙われ徐々にダメージ蓄積していったが多大なダメージを受けるパンチはブロックし食ってない。
8Rを除いて...
あの瞬間はそれまでに上下に散らされたジャブで脳内メカニズムは狂い、相手のどのパンチもフェイントになり
最後は左の空パリングで顔面があいた。
崩れおちるところを何とか堪え、上体を起こしたところに追撃の左フック食ったが、その動きも裏目にでた。
右を食い、あのままダウンした方が回復もできたのではなかったか。
96年、辰吉vsサラゴサⅠの1R、辰吉が左ストレートを食い後方に吹っ飛びダウンを堪えたバランスに追撃を食った。
解説の浜田氏も大阪帝拳会長も 「 いっそダウンしてしまった方がよかった 」 とコメントしていた。
しかしボクサーは戦う男、ダウンなどできない。
コンパスのような両脚で立ち、戦い続ける。


■分析~井上の場合~
1R2R相手に対し斜にかまえてトコトコと横歩き。おっとノスタルジー
エドウィン・ ” チャポ ” ロサリオを思い出させる。
ジャブを強く打つ。
94年、葛西がウィルフレド・バスケスに挑戦した際、陣営共に戦法として 「 ジャブを強く打つ 」 と宣言していたが
当時、管理人は 「 ホントかよ 」 と思ったものだ。
ジャブを強く打つと引きが遅くなったり、打ち終わりの位置が低くなったりで利点は少なかった。
案の状、1R開始20秒も経過しないうちに右クロスカウンターを打ち込まれ、その数十秒後、同じパンチでダウン。
連続して打てなかったり、続く右もナチュラルに打てなくなる。
しかし良い例もある。
マイク・タイソンは東京ドーム初見参のvsトニー・タッブスの2R、トリプルの強烈なジャブで相手をコーナーまで追い込んだ。
( それをバックステップ&パリングでかわすタッブスも大したものだったが )
ナナ・コナドゥは強いダブルジャブから強烈な右ストレート。 ( それしかできなかったが。逆にそれだけで十分でもあった )
それにしても井上のは初動が速く、ハンドスピードがあり、強い。 一言で言えばスナッピーだ。
更にはあらゆる有効なフェイントをかけているから相手はそのトラップに嵌る。
そのフェイントは手、肩、肘、胸筋、脚、目、呼気、あるいは唇の動き、眉間のしわなども使っているのかもしれない。
相手が引き気味なのもお構いなしにズドーン、バシーンとまるで効果音がついてるかのようなジャブだ。
脚の動きもスナッピーなのだ。
相手はそのジャブにカウンターを合わせる意図満々だが
踏み込みからの戻り、踏み込みからのボディワーク後のバランス、スタンスの戻し、右へ繋ぐバランスのとり方など
どれも土台 ( 脚腰 ) の俊敏な動きによるものだ。
トレーニングでは車を押し引きでの遅筋力UP、道具を使ったサーキットトレーニングで速筋力UPが効果的に表れているようだ。
村田諒太がyoutube-chで腰を回すと体が開く、でんでん太鼓の動きではパワーが拡散 ( ロス ) する。
とにかくインパクト、パワーを集中させるのが重要とパンチングバッグを前に解説していたが、まあ理にかなっている。
井上のは村田の思想を取り入れている訳ではないだろうが、パンチのインパクトへの持って行き方は天性のものがある。

管理人は当ブログでボディジャブの有効性を何度も言ってきたが、間違いではなかったことをこの試合で改めて実感した。
現在過去未来、ボディジャブは本当に有効なのだ。
80年代を席巻したボクサー、シュガー・レイ・レナードはvsロベルト・デュランⅡでは明らかに戦法を変え、
リング中央ではボディジャブから入り、デュランを混乱させた。
00年代を席巻したボクサー、フロイド・メイウェザーJrはvsディエゴ・コラレスで逸る相手にフェイントからのボディジャブを
多用し、下に意識を与え左フックを打ち込んだ。

そして8Rのコンビネーション。
ボディジャブからの右ストレート。
なんと鮮やかな。そして美しい。
対角、上下、異なる角度のコンビネーションはいつの時もbeautiful
例として
対角ではトニー・ゼイルvsロッキー・グラジアーノⅢでゼイルは右ボディフックから起き上がる勢いで左フックを打ち込み
ラバーマッチにケリをつけた。
上下ではオルズベック・ナザロフのジャブからの左ボディストレート。
ただしこれはコンビネーションの有効性と言うより単に史上最強のボディストレートパンチャーだったと思うが。
角度ではこの試合なぜか解説にいた畑山が得意とした右アッパーから左フックで東洋王者時代には多用していた。
( しかし吞んでるのか? )

更には追撃の左フック。
相手が起き上がったところの顎を正確に打ちぬいた。
80年代、永遠で最高のフェザー級サルバドル・サンチェスは vsウィルフレド・ゴメスの1R、倒れ行く相手の顔面に追撃の
左フックを打ち込んだ。
あれは狙ったものでなく、瞬間の判断でもなく、良質ボクサーとしての勘である。
「 この選手は当て勘、避け勘がいい 」 と称する言葉があるがその通り。
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8 コメント

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Unknown (バタービーン)
2023-07-30 20:32:21
ブログ復活心待ちにしておりました。
また楽しみに読ませて頂きます
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Unknown (管理人)
2023-07-31 12:19:12
>バタービーンさん

長年のサポートを感謝します。
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Unknown (バタービーン)
2023-07-31 14:34:10
記事に出ているカンパス、懐かしく思い検索していたら何と、7月29日にKO勝ちしていました笑
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Unknown (管理人)
2023-08-02 20:19:28
>バタービーンさん

カンパスぽいコンパス? もあるのでしょう。
そのコンパスでキャンバスに立ち続けるのでしょうね。
そんなボクサー人生も素敵と思います。
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Unknown (エリスランディ・リゴンドー)
2023-09-16 07:25:29
お帰りなさい。

個人的にはお金を払ってでも毎週主要な試合の解説を聴きたいです。


TwitterやYouTubeなら投げ銭システムで容易にお金を受け取りやすいと思います。

検討して頂けますと幸いです。
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Unknown (管理人)
2023-09-17 07:51:27
>エリスランディ・リゴンドーさん

あの課金は大きな顰蹙をかいましたが管理人的にビジネスへの挑戦で結果も答もでました。
身銭きって読んでいただいた方々には本当に感謝しています。
youtubeでこのタイトルで起こそうかと考えたことありますが
実践系、解説系と良いのがあるので差別化にはならないかなと。
ボクシングブログは10年くらい前は盛り上がっていた気がしますが、現状は残念ながらオワコンな気がします。
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Unknown (愛知のボクシングお宅)
2023-12-31 22:34:31
久々にサイトを拝見したら更新されていたのですね。うれしいです😄
10年ぐらい前によく見ていた記憶があります。

ブックマークに貼り付けさせて頂いて見させてもらいます。
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Unknown (管理人)
2024-01-03 17:24:24
>愛知のボクシングお宅 さん

この10年でボクシングの情勢は変化したと思います。
変化しないところにマニア的、オタク的にカタルシスがあると思っています。
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