3年前に実父が89歳で亡くなったのですが、その父との思い出で、いつも真っ先に思い浮かぶのは一緒に何かを食べている風景です。
具体的に申し上げますと、子供の頃、一番の楽しみといえば、父と兄と自分でゴジラ映画を観に行くこと。実家が代々木だったので、映画館は新宿コマ劇場のとなりのコマ東宝(今は、でっかいゴジラ像が突き出た建物になっています)。ゴジラと若大将を観たあと、決まって行くのが新宿西口の京王百貨店の大食堂でした。当時のデパートの大食堂というのは、大きな丸テーブルに皆ご合席で、食券を買って好きなものを食べるという極めて庶民的な場所でした。
しかし、侮ることなかれ、兄と私が決まって食べていた「カツ玉ライス」は、神田精養軒プロデュースの洋風カツ丼ともいうべき大ヒット商品で、蕎麦屋さんのカツ丼テーストを残しながら、モダンな洋食に仕立てられたもの。それをガムシャラに食べてる私の顔(急いで食べないと兄に取られてしまう焦燥感がありましたので)を、横で父親がニコニコしながら眺めているというのが冒頭の思い出のシーンです。
そういえば、私が大好きな邦画作品、大林宜彦監督の「異人たちとの夏」でも、20年前に亡くなったはずの両親と主人公が浅草の今半で、すき焼きを食べるシーンがありました。主人公の少年時代に交通事故で亡くなったはずの両親が、お盆に昔の姿で現れ、立派に育った息子を自慢し励ますシーンで、父親の片岡鶴太郎さんと母親の秋吉久美子さんが明るくて優しくて切なくて、何度観てもポロポロ泣けるところ。
亡くなった親との思い出の風景は、なぜか一緒に食べているシーンになってしまいます。これは私だけなのでしょうかね。