昨日の続きです。井上尚弥選手のフルトンへの挑戦が、7月25日に東京の有明アリーナで行われます。
この非常に危険な相手に対して、どう戦うべきなのか?
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1970年代のことではありますが、あのメキシコの英雄カルロス・サラテですら、自分の階級では全くの敵なしの歴史的チャンピオンですら、約2㎏だけ上のタイトルに挑戦したら、フィルフレド・ゴメスにボロボロに倒されるという事態が起こりました。そして、そのフィルフレド・ゴメスですら、サラテと同じくプロ無敗のまま、1階級上のサンチェスに挑戦したら、これまたボロボロにされるという結果になってしまいました。
このように、スーパーバンタム級やフェザー級というクラスは世界的に選手層が厚いため、井上尚弥選手と言えども簡単な圧勝劇を期待するのは危険であります。
ちなみに、井上尚弥選手の相手となるWBC・WBOスーパーバンタム級王者のフルトンは無敗の王者であり、あのカルロス・サラテにとってのフィルフレド・ゴメスと全く同じ状況。安易な楽観を持つには、非常に危険な相手なのです。特に、井上選手の直近のバンタム級での戦い方は、パワーで優る井上選手が相手をパワーと圧力で圧倒して勝つ試合を続けています。この延長線上で、体格とパワーに勝るフルトンへ立ち向かうのは、大変危険な戦い方になるのです。
この戦い方では、サラテと同じように、井上選手ですらフルトンの餌食になってしまうでしょう。
体格とパワーに自信がある選手であっても、階級を上げた場合は、自分よりも体格やパワーに優れた選手を相手にしなければならなくなります。その際は、自らの利点を活かす、すなわちスピードを活かしたボクシングを徹底しなければ勝機はありません。
過去の歴史を振り返っても、シェーン・モズリーやフロイド・メイウエザーが体格で優るオスカー・デラホーヤを破った試合は、パワーを封印してスピードを活かすボクシングに徹した戦い方でした。ロイ・ジョーンズ・ジュニアがヘビー級王者ジョン・ルイスを圧倒したのも、スピードに徹したボクシングでした。マービン・ハグラーに勝ったシュガー・レイ・レナードも然り。
逆に、上位階級を相手にパワーで対抗しようとして惨敗したのが、マービン・ハグラーと対戦したトーマス・ハーンズ。この試合はまるでなぶり殺しのようでありました。同じく、そのトーマス・ハーンズと対戦したロベルト・デュラン。これも凄惨な試合となりました。ロベルト・デュランは本来ファイターではありましたが、シュガー・レイ・レナードを破った試合などに見られるように、スピードに徹したボクシングも出来るテクニシャンでした。しかし、ハーンズとの試合の時は、体調が悪かったのか、無理なファイタースタイルの戦い方を選択して、惨敗に終わりました。
以上のように、過去の歴史的な名ボクサーたちの戦い方から学ぶのであれば、階級の上の強者と戦う際、スピードに徹したボクシングを選択すべきであります。
井上選手の対戦相手のスーパーバンタム級の無敗王者フルトンは、すでに1階級上げる準備をしているくらい、体格はむしろフェザー級に近い選手。体格・パワーでは井上選手よりも遥かに上の相手であります。一方でギリギリの減量で臨んでくる選手ですから、むしろスピードは鈍くなることが予想されます。このような相手に、足を止めての打ち合いなどは愚の骨頂。スピードを活かしたヒット&アウェイ戦法で、相手を翻弄する方が得策です。焦れた相手が無理に打ってくるところをカウンターで仕留めれば良いのです。
また、相手に合わせて、無理に体重を増やすこともありません。スピードで勝負するのですから、1番動きやすい体重で臨むべき。
ジョン・ルイスに対峙したロイ・ジョーンズ・ジュニアのように。
繰り返しになりますが、スーパーバンタム級の無敗の王者スティーブン・フルトンは、井上尚弥選手と言えども、相当に手ごわい相手です。バンタム級のつもりで戦えば、悲惨な負け方をする可能性すらあり得ます。しかし、スピードを活かしたボクシングに徹することが出来れば活路は開けます。
井上尚弥選手の最終ターゲットは、史上最高のPFP=パウンド・フォー・パウンド、すなわちロイ・ジョーンズ・ジュニア。フルトンとの対戦を契機に、ロイ・ジョーンズ・ジュニアのようなボクシングへ昇華していってほしいと考えております。