ラジオ放送の喜多流「實盛」を聴く。
老武者と源氏方に侮られんがため、白き髪と髭を墨で染め、赤錦の鎧直垂をまとひ若武者と見せかけて出身地の北國で討死した齋藤別當實盛の、ひとつの人生美學。

室町時代、加賀國で遊行上人が二百年も昔の齋藤實盛の靈に逢ひ、十念──「南無阿彌陀佛」と十回唱える成佛の作法──を授けた云ふ話しが京で評判になったことに世阿彌が触發され、「平家物語」に拠りながら創った曲らしいことを、事前解説を聞いて初めて知る。
年老ひてなほ失はぬ武人の矜持を謳ったこの世阿彌の名作に耳を傾けつつ、身綺麗にして遠く旅立った身内に、私も範を求めん。