“あ、イケる……!”──
この感覺は、何の前触れもなく、いきなり湧いてくる。
かうなると、もうゐても立ってもゐられなくなる。
扇、扇……!
ほかの用事の最中だらうが、もふ何も手につかなくなり、私の手はいつもの稽古扇を欲す。
せっかく脳裏に浮かんだ手猿樂の型を、扇を相棒に忠實に再現し、紙に手早く書き留め、何度も浚ふ。
逃げられたら、もういくら追いかけても無駄である。
この感覺が生きてゐることに、私は自分が生きてゐる喜びを知るのである。
目的を達して、安心したら、眠くなってきた。
はやこんな時間。
寝やう。