和泉流三宅右近一家の狂言二番を、ラジオ放送で聴く。
謠ひ物の「鳴子」、語り物の「菊の花」、いづれも定型化された流れでとくに耳に留まるものはなかったが、「鳴子」のシテが長年の口癖なのだらう、臺詞の前によく「ぁ、いや……」と口にするのが耳に付き、そのために以下の臺詞がボヤけて聞こえてしまひ、もったいなく思ふ。
人には誰でもクセがあり、藝能者の場合はそれを特徴(あじ)とする“藝”に轉化できてこそ、本物になれる。
大昔、發音に惡癖のある大看板役者のお弟子が、自身にはその癖がないにも拘ず、師の奇妙な發音そっくりに臺詞を謳ってゐる様に居合はせて、ああもったいないことをやってゐるなァ、と思ったことがある。
癖と云ふやつは耳目に付きやすいぶん、人にもマネされやすいもの。
して、わたしのクセは──
ぁぁイヤ……。