神奈川縣の相模原市立博物館で、民俗企画展「上溝番田の神代神楽」を觀る。
江戸中期に九州から相州上溝郷番田に移住した斎宮氏を祖とし、以後十七代續いて令和四年(2022年)に「後繼者不足のため」解散した神代神樂「亀山社中」が寄贈した面や衣裳、
(※展示室内フラッシュ無しで撮影可、以下同)
道具類が數多展示された、なかなか興味深い内容。
私はこの亀山社中の神樂を、現代手猿樂を立ち上げて間もない平成二十八年(2016年)九月に、本拠地上溝の亀ケ池八幡宮へ觀に出かけてゐる。
「三番叟」ではモドキ(道化方)が實際に囃子を奏するのが珍しかったこと、「菩比(ほひ)の上使」では解説係の女性の情感豊かな語り口が強く印象的だったことを記憶してゐる。
その後は觀に行く機會もなく過ごしてゐたが、まさか二年前に時勢のため失はれてゐたとは今回まで知らず、あの時に目にしておいてよかった、と思ふと同時に、それがもう存在してゐないことに、暗然たる氣持ちを禁じ得ず。
面はもとより道具類はほとんどが手作りで、
手縫ひの衣裳を人の手で補修した跡が見えるところに、神樂の素朴な味はひはここから醸し出されてゐることを知ると同時に、
自分の手猿樂でも手作り出来るところはさうしていくことが、自分なりの“意志(こころ)”の繼承になるかと思ゆ。
館内のプラネタリウムでは本日限定の関連企画として、亀山社中と親交があった垣澤社中による「神話から見る神々の世界」と云ふ公演が行なはれる。
神樂の實演と収録映像の上映に、プラネタリウムを融合させたいかにも現代的な企画で、夏場での上演が多い神樂の、これからの氣象状況を考へるとかういふ發想(アイディア)も有りだな、と感心しつつ、
(※撮影タイムにて)
おそらく發案者なのであらう垣澤社中“次期家元”の鮮やかな辯舌ぶりに、傳承や繼承には“才覺”も重要であることを見る。