MT4の自動売買プログラム(EA)のコードを読んでいると時々ステルスモードという表現が出てくる。日常目にするのは、新聞の防衛関連の記事中に出てくるステルス戦闘機という表現であろう。機体に電波を吸収する塗料を塗り込まれているため、敵のレーダーにその存在を知られないという戦闘遂行任務には最重要となる特殊防衛技術に属する。
FXの世界を戦闘に例えるなら、敵は同じFXトレーダーのはずである。ところが、トレーダー間では互いの位置関係は最初からまるで見えていない。トレーダーの位置関係を知るのは唯一その取引をしているFX業者ということになる。各トレーダーの味方であるはずFX業者は、場合によっては恐ろしい敵にもなりうる存在なのである。
筆者にも苦い思い出がある。FXの黎明期にドル円スプレッド1銭という武器を携えて市場を一時席巻したG社というのがあった。ニューヨーク市場が始まり深夜になってもポジションを残している場合に、損切り値と利確値を設定して床に就くのであるが、翌朝目覚めるとほとんどの場合、ストップに掛かって負け取引となっているのが通常であった。他社のチャートを観察するとストップ値には達していないのにも拘わらずそのような現象が続出したのである。ニューヨーク市場クローズ直前直後に長い髭が伸びていて、損切りが実行されているのである。ストップ狩りという言葉を実感した瞬間であった。
MT4のEAを使えば、前述のストップ狩りに遭うこともなくなる可能性が高い。ストップ値を敵(この場合は取引している業者)に知られることなく設定することが可能であるからだ。一般的には、エントリーとほぼ同時に損切り値を設定する人が多い。損切り値を入れた瞬間、その値は敵に筒抜けになっていて、敵が操作(ストップ狩り)をしようとすれば、いつでも実行することが可能な状態である。市場が極端に薄くなるニューヨーク市場のクローズ前後であれば、スプレッドも広がるのが通例であるから、顧客にはなんとでも説明がついてしまうのである。
MT4のEAでは、ストップを入れるタイミングは自由である。例えば。110円の買いのポジションを持っている場合に, 109円にストップを入れたい場合でも、エントリーの段階では、ストップを設置しなくてもよい。簡単な1行をEAに追加しておくだけでよい。その一行は;「もし、Bidが109円になれば、ポジションをクローズせよ」との命令である。これであれば、業者に損切り値の存在を事前に知られることはない。
結論として、FXのステルスモードは損切り値や利確値を、現値がその値に達するまで、取引先であるFX業者に知られることのない発注方法であるということができる。就中、マーチンゲール手法等を採る場合には考慮せざるをえない発注方式でもある。